第7話 「周りを見るクセ」
直人には、いつの間にか身についていた“クセ”があった。
それは、人より周りをよく見ることだった。
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誰かが動く前に、まず見る。
誰かが笑う前に、まず見る。
誰かが怒られる前に、まず見る。
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気づけばそれが当たり前になっていた。
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教室に入ると、まず空気を見る。
今日は静かか、騒がしいか。
先生の機嫌はどうか。
誰と誰が一緒にいるか。
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その情報を全部頭に入れてからでないと、自分がどう動けばいいか分からなかった。
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だから、いつも少し遅れる。
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休み時間。
誰かが机を寄せて集まっている。
カードを見ている。
笑っている。
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直人はその少し外側から見る。
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「入ってくる?」
誰かが言う。
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その瞬間、頭の中が一気に動き出す。
今入るべきか。 邪魔にならないか。 何を言えばいいか。 失敗したらどうなるか。
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考えているうちに、会話は進む。
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「じゃあまたあとで!」
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終わってしまう。
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直人はその場に残る。
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“また今度”は来ないことが多い。
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廊下でも同じだった。
先生が歩いている。
誰かが呼ばれている。
誰かが注意されている。
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直人はいつも少し離れた場所から見る。
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“今話しかけていいのか”
その判断が難しい。
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話しかけるタイミングを考えているうちに、先生はどこかへ行ってしまう。
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結局、何もできない。
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その繰り返しだった。
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ある日、体育のあと。
教室で着替えているとき。
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「直人ってさ、いつも見てるよな」
誰かが言った。
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悪い意味ではなさそうだった。
でも、直人は少しだけ固まる。
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“見てるだけ”
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そう言われると、何もできていないように感じた。
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でも本当にそうだった。
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自分はいつも、周りを見ているだけだった。
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その日の帰り道。
直人はずっと考えていた。
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どうして自分は、すぐに動けないのか。
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みんなは迷わず動く。
でも自分は一度止まる。
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その違いが、どこから来ているのか分からない。
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夜。
布団の中。
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今日の教室の光景が浮かぶ。
笑っている声。
動いている体。
自然な流れ。
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その中に入れなかった自分。
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“見ているだけの人”
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その言葉が、頭の中で少しずつ重くなる。
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まだこの時の直人は知らない。
この“周りを見るクセ”が、
自分を守るためのものでもあり、
同時に世界から遅れる原因でもあることを。
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ただ静かに、また一日が終わっていく。




