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『普通になれなかった僕は、社会の中で静かに壊れていった』  作者: こうた
第一章 「みんなと同じ世界なのに、少しだけ違った」幼少期編

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第3話 「みんなは自然に笑っていた」

小学校の昼休みは、直人にとって少しだけ長すぎた。


授業が終わると、教室の空気が一気にゆるむ。


椅子を引く音。 机を叩く音。 笑い声。


それぞれが勝手に動き出す時間。



---


みんなはすぐに集まる。


「サッカーやろうぜ」 「鬼ごっこしよう」 「一緒に行こう」


その言葉が、自然に飛び交っていた。


直人はその流れを、少し離れた場所から見ていた。



---


どうしてあんなに簡単に声をかけられるのだろう。


どうして断られることを怖がらないのだろう。


どうして迷わず動けるのだろう。



---


考えているうちに、時間だけが進んでいく。


気づけば、輪はできあがっていた。


そこに入る隙間はもうない。



---


「直人くん、行かないの?」


後ろから声がした。


振り向くと、同じクラスの子がいた。



---


「うん……いい」


本当は“いい”ではない。


でも、“行く”と言うタイミングが分からなかった。



---


その子はすぐに別のグループへ戻っていった。



---


直人は、その背中を見送る。


少しだけ胸が重くなる。


でも、それが何なのかは分からない。



---


校庭では、ボールが跳ねていた。


笑い声が続いている。


誰かが転んで、また笑っている。


その全部が遠く感じる。



---


自分だけが、同じ場所にいない気がした。



---


教室に戻ると、数人の男子が机でカードを広げていた。


流行っている遊びらしい。



---


「これ持ってる?」


「交換しようぜ」


楽しそうに話している。


直人は少し近づく。


でも、声をかける前に手が止まる。



---


何を言えばいいのか分からない。


入れてほしいと言えばいいのか。


でも断られたらどうするのか。


その後どう振る舞えばいいのか。



---


考えている間に、会話は別の話題へ進んでいた。



---


直人はその場に立ったまま、何も言えなかった。



---


「みんなは自然に笑っている」


その言葉が、頭の中に浮かぶ。



---


さっき廊下で聞こえた笑い声も、 校庭の声も、 今ここでの会話も、


全部が自然だった。



---


でも自分だけが、その“自然”の中にいない。



---


午後の授業。


直人は窓際の席に座っていた。


外では風が木を揺らしている。



---


先生の声は聞こえている。


でも、途中で意識が飛ぶ。


気づけば黒板は変わっている。



---


「直人くん、またぼーっとしてる」


先生の声。


周囲の視線。



---


まただ。



---


直人は慌ててノートを見る。


でも、どこから書けばいいのか分からない。



---


その瞬間だけ、世界から一段ずれたような感覚になる。



---


授業が終わる。


チャイムが鳴る。



---


みんなが立ち上がる。


笑う。


伸びをする。



---


直人だけが、少し遅れて立つ。



---


放課後。


誰かが「また明日な」と言って帰っていく。


その言葉は軽い。


でも直人にとっては重い。



---


“また明日”と言える関係が、まだ自分にはない気がした。



---


帰り道。


夕日が長く影を伸ばしている。


ランドセルが少し重い。



---


母が言っていた言葉を思い出す。


「友達できた?」



---


答えられなかった理由が、今なら少しだけ分かる。



---


“できていない”からではない。


“入り方が分からない”からだ。



---


でも、その違いを説明する方法はない。



---


家に着く。


玄関の音。


母の声。


いつもの流れ。



---


「今日どうだった?」



---


直人は少し考える。



---


楽しかったかと言われると違う。


つらかったとも少し違う。



---


ただ、


“ずっと外側にいた”



---


その感覚だけが残っている。



---


「……ふつう」


また同じ言葉を使う。



---


母はそれ以上聞かなかった。



---


夜。


布団に入る。


目を閉じても、昼間の光景が浮かぶ。



---


笑っている声。 走っている音。 呼ばれている名前。



---


自分だけがそこに混ざれなかった。



---


でも、まだこの頃の直人は知らない。


この“混ざれなさ”が、 小学生の問題ではなく、 人生の形そのものになっていくことを。



---


ただ一つだけ思う。



---


「みんなは、どうしてあんなに簡単なんだろう」



---


答えはまだ、どこにもないまま。

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