46、生身ではなく
「人間じゃ、ない?」
「うん。人間じゃないよ。俺達、生身じゃないからね」
さらりと言ったハーネスが、へらりと笑うのを見て、サヤは思わずナジェルとアクティスを見る。
「生身でないのに、茶を飲むのか?」
「うん。俺達は、人間に近しく作られているからね。元々、代理としても使うつもりで開発したらしいから、そのためにも、食事をしたり、何か飲み物を飲んだりっていうのは、必要だったみたい」
『ほら、パーティなんかで自然に振る舞うためってことだよ』と言いながら、ハーネスはカップに口を付けた。
「うん、美味しい。この通り、毒なんて入っていないから、サヤちゃんも、それからナジェルとアクティスもどうぞ」
『毒見役だね』などと笑うハーネスを、アクティスがぎろり睨む。
「生身では無い者が飲んだとて、毒入りかどうか定かではないだろう」
「確かに。俺達、毒も何も関係ないから・・・あ!そうか。俺達を開発した人間は、そういう時のためにも、俺達を使おうとしたんだね。納得」
「そんな・・・捨て駒みたいな扱い。生身じゃなくたって、生きているんだから生命体でしょうに」
眉を寄せて言うサヤの肩を、ナジェルがぽんと叩く。
「生身でなくとも生命体というかどうかは、置いておいて。君たちは、本当に人間ではないのか?その、部分的に機械化したとかではなく?」
「うん。違うよ。全部、機械。無機物」
「しかし、先ほど体温も感じた」
一瞬ではあるが、拳で殴り掛かった時にも、人と同じように体温を感じた、というナジェルに、アクティスとサヤも大きく頷いた。
「ああ。皮膚も瞳も、無機物という感じはしないな」
「それに、さっきハーネスは、感情に触れるのが初めてだと言っていたけど、ハーネスの瞳は、興味を持つことに対して輝いたりしているもの。それも、感情でしょう?」
「ですが、自分たちは、恐ろしく頑健です」
キーラムのひと言に、先ほどナジェルとアクティスが攻撃を仕掛けた時の事を思い出し、三人は口を噤む。
「それに俺達、凄く速く走れるし、跳躍力も人間より優れているんだよ」
「・・・そういえばキーラム。学舎の硝子を突き破って飛び込んで、また窓から機体へ飛び移った、わね。それこそ、風のように速く走っていたし」
そう言えばそうだった、と呟くサヤにキーラムが頭を下げた。
「あの折は、驚かせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
「キーラム。あの場には、他の者達もいただろう?何故、サヤを攫ったんだ?」
不思議そうに問うナジェルに、キーラムは先にサヤにも見せた宝玉を見せる。
「これは、インディ王家に代々伝わる宝玉なのですが。特別に強いトルサニアンの力を有す方を判別できます」
「つまり、サヤの能力を差し出せということか」
強い瞳になったナジェルに、ハーネスが瞳を落とした。
「悪意ある言い方をすれば、そうなります」
「でも!俺達は、マジェスティを助けて欲しいだけなんだよ?マジェスティは、今、本当に危険な状態で、だから」
「それもすべて、そちらの都合だろう」
「っ」
アクティスにばっさりと言い切られて、ハーネスは辛そうに眼を伏せる。
「やっぱり・・・感情の動き、あるわよ?」
「え?」
「・・・サヤ。君ってひとは」
「はあ。今、それなのか?」
ハーネスの瞳を覗き込むようにして言ったサヤに、ハーネスは驚きの目を向け、ナジェルとアクティスは、呆れたようにため息を吐いた。
ありがとうございます。