第13話 調査2日目③ 邂逅
ペア調査の時間が来たので私達は会議場所に移動した。珍しく他の3人とも最初から姿を現した状態であった。
「ネリネちゃん来てくれてありがとうね。もう来てくれないかと思ったよ。私の方から2人には強く注意したから」
「気を遣って頂きありがとうございます。ですが、気にしていないので大丈夫です。早くペア調査を始めましょうか」
エリカの、せーのという号令に合わせて指名する。
私はローズを指名した。
エリカとローズはドラセナ。
ドラセナはローズであった。
「指名しあっているからとりあえず先にドラセナとローズに2倍で行って来てもらおっか。何か意見ある人はいる?」
いなかったので、エリカと一緒にドラセナとローズを見送った。
「はぁー、ネリネちゃんと2人っきりは久しぶりだね」
「はい、最初のペア調査以来ですね。もう随分昔のことの様です」
「ほんとだよねー」
エリカはただの世間話をするために私に話しかけたわけではないだろう。この待機時間を使って私が持っている情報を引き出そうとしているはずだ。
「エリカさん。ドラセナは天井について何か言ってましたか?」
「そうそう、探りを入れたんだけどやっぱり何かを隠してそうなんだよね。だって私が見た時は天井なんてなかったからね」
私はドラセナと関われていないので彼側の意見は分からないが私から見ると彼の方が怪しく思える。しかし天井があると嘘をつくことによって生まれる利益とは一体何なのか私にはわからない。
「ネリネちゃんの方はローズの領域で何か見つけられたの?」
「この世界のことと直接関係があることは見つけられませんでしたが、何やら研究をしているようなので魔力の残滓については真実であると思います」
「そうなんだ。ネリネちゃんって私に見せてくれた盾以外に何か戦闘で使えそうな能力ってあるの?」
「無いのでもし誰かに襲われるとなると困りますね。防御は出来ますがそれだとジリ貧になってしまいますから」
「それじゃあ、もし危なかったらすぐ私のこと呼んでくれて構わないからね。私足速いし」
「はい。助けが必要な場合は遠慮なく頼りますね」
それから私達はお互いの住処に戻っていった。
ドラセナとローズが帰ってきた。2回分だと意外と時間があることがわかった。1日目の私とエリカの調査中にドラセナとローズは何かアクションを起こしたのだろうか。この待機時間も充分警戒しなければいけない。
「よし、次は同時に行ってこよっか。帰ってきたら情報共有ね」
私とローズ、エリカとドラセナはそれぞれ調査場所に向かい始めた。
「ローズさん、予定に変わりはありませんよね?」
「ええ、私が魔力の残滓を取り込んでこの世界の本当の姿をネリネちゃんに教えるのよね」
私はローズの後についていく。
「ドラセナさんと何を調査したかは教えてはくれませんか」
道すがら手持ち無沙汰だったのでローズに何気なくドラセナについて話を振ってみた。
「まぁネリネちゃんにならいいか。空の調査をやって来たわ」
「ローズさんは空も飛べるのですか!」
「まぁできるわよ。私だって魔法使いだからね。もう着いたわよ」
もちろん目の前には何もなかった。すぐ近くだった。話を打ち切られてしまった感がある。念のためルガティにも確認をしたが、彼も見えないらしい。
ローズは懐から小瓶を取り出し、蓋を外して中のヘドロを口径摂取した。すると途端に彼女は倒れ込み苦しみ出した。本当に大丈夫なのだろうか。私は心配しつつも少し彼女から距離を取る。
ローズはぬるりと立ち上がりこちらへ顔を見せる。
「じゃあ! 行ってくるわ!」
肩を震わせるながら一歩ずつ前へ進んでいる。少々瞳孔が開きすぎているので心配だ。30歩ほど歩くと突然彼女の姿が消えた。
「ローズさん!?」
もちろん返事は来ない。
「大丈夫でしょうか?」
不安になったので隣にいる狼の体に触れる。
「まぁそんなに弱くも無いだろうから信じて待つしかないな。ただどんな状態でこっちに戻ってくるか分からねぇから心の準備はしとおけよォ」
私は彼の背中に飛び乗ってローズの帰りを待つことにした。
しばらくすると、人影がこちらへ向かってくるのが見えた。よろよろとふらつきながら歩いている気がする。私はすぐさまルガティを走らせて彼女に近づいた。
近づいてやっと見えた。ローズの後ろには黒い外套に身を包み、手斧を振り翳した大柄な誰かがいた。
「Sentinel!」
私は右手をローズの方へ向けて叫んだ。彼女の後ろに金色の盾が展開され、斧を受け止める。その瞬間に彼女の腕を掴んで引き寄せる。自分より体の大きい彼女を力いっぱい引っ張ったので彼女と一緒にルガティから転げ落ちた。
硬い地面の感触を背中いっぱいに受ける。
「ローズさん大丈夫ですか!」
横腹に酷い損傷を受けており、血が止まっていない。
「──ネリネちゃん逃げて」
ローズが生きているのを確認するとすぐさま大柄の敵を確認する。ルガティが戦ってくれていた。
「ローズさん一人で帰れますか? 私とルガーで食い止めます!」
彼女は頷き、逃げてと口を動かして霧散した。私はすぐにルガティの元へと駆けつける。彼は振り下ろされる斧を余裕持って躱しながら、後ろ足で蹴りを繰り出す。
それを気にする素振りもなく、男は周囲を薙ぎ払うように二撃目を振るう。狼はその攻撃も姿勢を低くすることで躱し腕に噛み付いた。だが、大したダメージにはなっていないようで腕を振り回されてルガティは宙を舞う。無防備な彼の胴体に左手のパンチが襲いかかる。私はルガティの体の前に盾を展開し拳を受け止める。
男は私の存在を視界に入れると始末しなければいけない優先順位に気がついたようだ。こちらへ跳躍する。人とは思えないほどの身体能力で気がついた時にはもう目の前には拳が飛んでくる。横目で確認出来たのは着地を済ませたルガティがこちらへ走ってくる様子であった。
私は男の拳に対してはオート防御で対抗する。受け止めた後は後ろへ下がり男と距離を取り、走ってくる狼の背中に飛び乗る。負ける要素はないが勝てる要素もない。ただ、時間を稼げばエリカかドラセナが助けに来てくれるはずなのでこちらが圧倒的に有利である。
「貴方は何者ですか?」
ジリジリとこちらへ距離を詰める黒い外套の男へ問いかけるが返事はない。外套を剥いで確かめるしか方法はないのか。私は男のことをじっと見据えながら深呼吸をする。その瞬間、男が視界から消えかかる。簡単に男の気配が消えてしまった。
やばいこのままでは男がどこからくるかわからない。
「ルガー、相手が見えなくなってしまいました。全力で逃げましょう」
「了解」
ルガティの足元が青く光る。
私は盾のモードを切り替える。
「Sentinel!ver.2.0!Dual Shield Active」
私の声に応じてルガティの周りを2枚の金色の盾が回り始めた。それを確認するとルガティは走り出した。振り落とされないように死ぬ気で彼の体に抱きつく。盾に斧がぶつかる音が何度も繰り返される。男はルガティの全力疾走に並走しながら斧を振るっているとでもいうのか。とんでもない化け物である。
盾のモードを変更しておいて正解であった。
「Dual Shield Active」は対象に2枚の盾を付与して私のオート防御のように相手の攻撃を自動で防御するものだ。盾が常に2枚展開し続けるので、より多方面の攻撃に対応しやすくなる。激しい動きの中でもしっかりと攻撃を受け止めることができるのだ。
前方から突風が吹き寄せる。
「ここにいるんだろ!」
羽を生やしたエリカがハルバードを横薙ぎに振るう。感覚だけで男の位置を把握しているようだ。
「ダメだ。切れた感触がしない。ネリネ! 敵が見えてないのは私だけじゃないよね!」
「はい!」
エリカの横について相手がいる方角に気配を集中させていると、上空から大きな緑色の飛竜がやって来た。飛竜は凄まじい轟音と共に着地すると炎のブレスを吐き出し、辺り一面を燃やして尽くした。
「なんですかこれは。味方ですか?」
「そうよ! ドラセナくんの魔法よ」
燃やし終わった飛竜は光と共に消えた。飛竜がいた場所には小さな男の子が立っていた。彼は私のことを一目見るとすぐに姿を消してしまった。
「あれでもローズから報告を受けた時、私より取り乱してたんだよ。悪い子じゃないからさ」
「そうだったのですか。助けに来て頂けて助かりました」
私たちは急いで拠点に戻った。
ローズは工房で安静にしているらしい。工房内であれば回復も早いだろうから一安心である。
「さぁ、今回ばっかりは何が起こったか正確に教えてもらうわよ!」
会議場所で私はエリカに問いつめられていた。私は正直に自分が見たことをエリカに報告した。
「魔力の残滓を取り込むと本当の世界の姿が見えるですって! 嘘はついていないわね」
私は首を縦に素早く振る。エリカの掌の火球が恐い。これでは脅されているようなものである。
「これに関してはローズの体調が回復したらしっかり聞かないとね」
「私もまさかこんなことになるとは思いませんでした。隠していてすみません」
「まぁ多分、魔力の残滓がネリネちゃんとローズに共通の利益をもたらすってことだもんね。そうわかっただけでもだいぶ有益だね」
「ごめんなさい」
謝罪の言葉しか見つからなかった。
「ネリネちゃんも疲れたでしょ。今日は早めに休もうね」
今日の調査はこれで止めることとなった。
私もこの日はすぐにテントに戻って早めに就寝することにした。




