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第4章 逆転の法則 4-4. 襲撃前夜


「 そうか、居間の壁にかけられたタペストリーにそんな文言が 」


「 はい。ですが、証拠品として押収するのは容易ではないかと。

無くなれば一目で判る場所ですし、おそらく、居間やタペストリーには多くのトラップが仕掛けられていると思います 」


私は、マリエルからの報告を聞いて、物事がそんなに簡単ではないと再認識していた。

それでも、証拠品の在処が解っただけでも収穫だったと言えよう。


「 オライリー、そっちの方はどうだった? 」


「 こっちも見つけたよ。落ち葉を隠すなら森の中、魚樽を隠すなら魚の住処ってね 」


「 つまり、河の中に沈めてあったと? 」


「 御名答!樽は、武器を詰めた後に密封してあるから、武器以外の中身は空気だ。

樽の浮力と武器の重さがだいたいバランスしているんだけど、武器の方が少し重いのさ。

だから、沈めてあるといっても引き揚げるのは簡単だよ 」


「 調べた樽は、ちゃんと戻しておいたんだろうな? 」


「 言われなくともそうしてますよ 」


「 よし、それじゃあ、武器の方は何時でも押えられるということか? 」


「 押収はできるけど、それがヴィスコンティ公爵の物だって証拠がいるね 」


ということは、いま押収しても誰の武器か解らないから、ヴィスコンティを潰すための証拠足り得ないということか!?

チェックが見えているのに、詰みの一手が足りない。


「 それで、どうするんだ? 」


「 たぶん、樽の所有権を証明する書類なんか無いだろうね 」


「 おいおい、それじゃあ、証拠品にならないじゃないか!? 」


「 でも、事を起こす直前に、ヴィスコンティ公爵の手下が引き揚げに行くだろう 」


「 そこを押えると? 」


「 それしか手はないと思う 」


言わんとしていることは解るが、心許ないことだ。


「 そこで、相談なんだけどさあ 」

ああ、此奴のこの顔、悪だくみする時の顔だ。



*********************************



新緑が薫る頃、王都では夏至祭が行われます。

春に蒔いた小麦が元気に育ってくれるようお祈りする、収穫祭とならんで大切な行事なのです。


タブナード様は、夏至祭が、ヴィスコンティ公爵が事を起こす契機となると仰いました。


お祭りで、兵士たちは街の警備に駆り出されて王宮には最低限の人数しかおらず、そして、王族は祭りの最中に民衆の前に姿を現します。

武装したヴィスコンティ公爵の私兵が王族を取り囲むには、理想的な状況だとタブナード様はお考えでした。


その次の機会となると収穫祭になるのですが、密閉した樽の中だとはいえ、そんなに長く水底に置いておくと武器が錆びてしまうとも限りませんからね。


公爵が王族と対峙している間、もぬけの殻になったヴィスコンティ公爵の屋敷から例のタペストリーを押収するのが私の役目です。

護衛してくれるのは、それを計画なされたタブナード様ご本人。


テルシウス殿下は、エレミエル様とブラウンズウィック侯爵家の兵を率いて、武器が詰まった樽の押収に向かわれることになりました。


この作戦が成功して初めて、ヴィスコンティ公爵を断罪できることになります。


浄化の月20番日、この日、夏至祭が始まります。


****************************


「 「 「 「 エレミエル様に敬礼!! 」 」 」 」


ブラウンズウィック侯爵領の領軍。

この度は、私の下で、共に戦って下さる皆さんです。


とは言っても、私に兵の指揮ができる訳でもなし、指揮は、テルシウス殿下にお任せします。

ただ、ブラウンズウィック侯爵家の私兵なので、私がいないと都合が悪いだけ。

まあ、お父様の代理ですね。お父様自身が動けば、眼だってしまうから。


「 ブラウンズウィック侯爵領軍、将士諸君、王国第二王子、テルシウスである!

この度は、皆の力を貸してもらう。一度はエレミエル嬢を死の淵まで追いやったヴィスコンティ公爵に、眼にもの見せてくれようではないか!! 」


「 「 「 「 「 おおおおおおおおおおっっっっ!!! 」 」 」 」 」


テオドシウス殿下は大丈夫でしょうか?

あまり張り切り過ぎて、怪我などされなければ良いのですが。



********************************



浄化の月20番日、正午過ぎに、夏至祭が始まった。


祭りの間は、各ギルドや政庁、ほとんどの公的機関が休みとなる。

活動しているのは、警護のための王国軍治安維持部隊だけだ。


兵士たちも夏至祭を楽しみたいだろうが、こればかりは叶わないだろうね。

彼らが仕事休んでしまえば、王都の治安を護る者がいなくなってしまう。


かくいう僕も、軍隊に身を置いていたときは、指を咥えて見ているだけだった、というか、辺境守備隊にまわされてしまっていたので、夏至祭を横目で眺めることすら叶わなかったのだけれど。


祭りは、市民が、種蒔きが終わったことを祝う踊りや、風の精霊シルフィールを表現した山車を引いて練り歩き、街全体が祝い気分に包まれていく。


国の重要な催し物としての祭りは、王家が民衆の前に姿を現し、民と共に祝うのが習わしだ。

それに大勢の貴族が随伴して、自分たちが王の周りに侍っていることをアピールする。


だから、王宮と共に、貴族の邸宅も閑散としてしまっているはず。


祭りで、王家のお目見えがあるのは陽が落ちてから。

であれば、ヴィスコンティ公爵の私兵たちは、その半日前までに武器を水底から引き揚げて王都に向かうはず。

余り早いと、人目についてしまうからね。


そして、公爵自身は、王都で武装した兵の到着を待っているだはず。


一方で、ブラウンズウィックの将兵たちは、隠密裏に河川港であるセイレーンに向かっている。

ヴィスコンティ公爵家の私兵たちの出鼻を挫くために。


僕とマリエルは、ヴィスコンティの屋敷に向かっていた。

公爵は、屋敷で兵たちと合流しないと睨んでいる。

何百もの私兵を屋敷に留め置いては、計画が露見してしまうからね。


王家の御目見えの直前に、王宮に近いどこかで合流する手筈になっていると思う。

そして、彼らが屋敷を出て行った後に、僕らは屋敷に侵入してタペストリーを奪うという訳だ。


先ずは、テオが奇襲で成功することを祈ろう。



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