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第4章 逆転の法則 4-5. 襲撃


未だ夜が明けやらぬ内に、ブラウンズウィック伯爵領を出発した我々は、河川港セイレーンの手前まで来て兵を埋伏させている。


セイレーンの河港に、例の樽が沈められているというのはオラエリーからの情報だが、ローレル河最大の河港なので目立たぬようにするにはそれが妥当だろう。


セイレーンから王都までは、馬を走らせて3時間程度の距離だから、彼らは正午過ぎには王都に向けて出発すると見るべきだ。

つまり、目下、ヴィスコンティの配下は、樽の引き揚げの真っ最中のはず。


同港には、斥候を送り込んでいる。

彼らには、樽の引き揚げが終わったら、それを伝えに戻ってくるよう指示している。

だから、戻ってき次第、武器を押えるために突入する積りだ。


「 テルシウス殿下、大丈夫でしょうか? 」


「 何がだ?エレミエル嬢 」


「 今、気づいたのですが、武器の入った樽というのは重いのでしょう? 」


「 そのはずだが 」


何を当たり前のことを、とも思ったが、このお嬢さんが、それだけを訊いているはずはあるまい。


「 セイレーンから王都までは馬で3時間程度ですが、武器を積んだ荷馬車では、その倍は掛かるのではないでしょうか? 」


なかなかに鋭い指摘だ。

確かにその通りだろう。


そんなに時間がかかる様なら、オライリーが言っていた王都襲撃のタイミングのギリギリになってしまう。

あの慎重なクリストフやヴィスコンティ公爵が、一つ間違えば何もかも瓦解してしまうような計画を立てるとは思えない。


「 では、貴女ならどうするかな? 」


私は、咄嗟に16歳の少女に、ヴィスコンティの企みに就いて訊いてしまっている。

いや、恥と思うな。この娘の思考は鋭い。

いまは、エレミエル嬢の言葉を信用するんだ。


「 セイレーンから10キロメールほど遡ったところに、廃港があったと思います。

そこからだと路が平坦なので、王都までの時間は荷馬車でも3時間は掛からないのではないでしょうか? 」


「 良くご存知ですね? 」


「 オルセーからの旅路で通った場所ですから 」


そうか、彼女は、オライリーとこの辺りを旅して王都まで戻ってきたのだった。

確かに、私などより良く知っていて当然だ。


ちょうど、斥候も帰ってきた。


「 どうだった? 」


「 大変です陛下!ヴィスコンティの兵が見当たりません! 」


「 狼狽えずとも良い。

これより、ローレル河を遡った先にある廃港に向う。

敵は、そこで樽を陸揚げしているはずだ!皆、遅れるな! 」


そこから我々は、ローレル河沿いの道に馬を駆けさ、セイレーンから遡上しているはずのヴスコンティの船を追いかける。


途中で森を迂回し、河から離れて田園地帯を走り抜け、そして、山中を駆けていく。

峠を越えたところで、前方にローレル河のゆったりとした流れと、河に沿って石で築かれた波止場が眼に入った。

あれが廃港だろう。


河の下流から川船の船団が向かって来るのが見える。


「 よし、ヴスコンティの船を捉えたぞ!速度を落とせ! 」


全速で駆けさせていた馬に速度を落とさせ、街道から離れて森の中に馬を歩ませる。


街道のずっと向こうの方から、荷馬車の群が現れて廃港に近寄っていくのが見えた。

あれが、どうやら武器を王都に運んでいく輸送手段のようだ。


船団の船は次々と防波堤に接岸しいていき、樽を壊して中身を取り出しているようだ。


荷馬車から降りてきた男たちが、船から布切れで包んだ荷を受け取り、荷馬車に積んでいくのが木々の間から見える。


決まりだ、ヴィスコンティの兵以外には考えられない。

しかも、絶妙なタイミング!


徒歩の兵たちも、荷馬車に乗って次々と追いついてきた。


荷馬車を降りた歩兵たちが隊列を整え次第、突撃を敢行する。


「 抜刀! 」


私の掛け声と共に、騎馬に跨る兵士たちが剣を構えた。


「 突撃!続け! 」


森から飛び出したブラウンズウィックの騎兵たちは、私に続いて草原を駆け、防波堤の男たちに襲いかかる。

その後を、槍を持った徒歩の兵士が続いて駈けていく。


突然の奇襲に驚きながらも、防波堤に立つ男たちは、積み荷を放りだして迎撃の構えをとり始めた。


「 逃がさないように、船から潰していけ! 」


もっとも願い下げなのは船で河に逃げられることだ、

一旦、係留してしまった船は直ぐには出航させられないから、叩くならいまの内だ。


ブラウンズウィックの兵は敵の前線を騎馬で蹂躙すると、今度は馬を降りて次々と船に乗り移っていく。


武器を運ぶ役割の男たちは、誰もが手練れという訳ではないのだろう。

次々とこちら側の刃にかかって斃されていった。



太陽が中天にさしかかる頃、我々は、ヴィスコンティの兵たちを制圧していた。

捕らえた敵に尋問をおこなったところ、最初の2人までぐらいは口を割らなかったものの、一人、二人と話す奴が出はじめる。


「 俺は、ヴィスコンティ公爵家に金で雇われただけだ。

樽の中身を王都まで運べば、3千タラントくれるっていうから 」


「 荷の運び賃だけで3千は大きいな。王都で暴れろとは言われなかったか? 」


「 それは、別働部隊の役どころだ。

俺たちは、荷物を別働隊に渡すまでが仕事だ 」


「 それじゃあ、その別働部隊というのは王都の何処にいるんだ? 」


「 そりゃあ、勿論、ヴィスコンティ公爵のとこだよ 」


当たり前と云えば当たり前、だが、武器の密輸が発覚するリスクが高いと思わないのだろうか?!


いずれにせよ、このことを直ぐにオラエリーの奴に教えてやらんと。



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