お礼
アークがふぅと、息を吐き口を開く。
「ノア・アルベルト。あなたを婚約者として我が屋敷に向かい入れることだ。」
サッと頭から血が引いていく。背中から変な汗が吹き出し、自分が混乱するほど驚いているのがわかった。
(嘘でしょう。…まって、、まって!?)
「…すこし、席を外させて頂きますわ。…お菓子を持ってこさせます。お、お二人で、ごゆるりと…。」
その言葉を聞いた、アークがまた文庫本を手に取り読み出す。アリアエルは少し気まずそうにソファに静かに座った。
バタンと重苦しいドアを締める。くるりと体の向きを変えると赤い絨毯の上を素足で全速力で駆け出した。
「お父様、!!!」
自室のドアをバタン!と勢いよく、開ける。
お父様がビクリと体を跳ねさせ、そろりとこちらを向いた。
「ノア、ドアを乱暴に開けるな。はしたないぞ、?」
体をプルプル震わせながら私を見る。これから問われることが分かっているかのようだった。
「…婚約とはどうゆうことですの?」
「…ノア、落ち着くんだ…。」
ずんずんとお父様に近づく。お父様はゴクリと唾を飲み、覚悟を決めたように私を見た。
お母様と、ルマが顔にハテナを浮かべている。
「わたくし聞いてしておりませんよ、アーク・シルベアス様との婚約!!何故、他のことにお礼を取りつけなかったのですか!」
ずいいっとお父様に近づく。お母様が驚き、ルマはその言葉に目を見開いた。
周りの使用人達もざわめく。
「他のにしようと思ったんだが、あちら側がそれしか許さないと仰ってな…、」
「…許しましょう、婚約はまだ許しますわ。」
ぎゅっと拳を握りながら言葉を出す。まだ婚約はいい。あとからどうにか解消すればいいのだ。この屋敷にも残れるから、あちらと関わることは少ない。
「…ですが、何故わたくしはあちらのお屋敷に行くことになってるのですか…!」
ルマがばっと、顔を上げる。お母様がガタリと座っていた椅子から勢いよく立ち上がり、ほかの使用人がもっとざわめいた。
みんなの視線がお父様に集まる。変な汗をかいたお父様がしゅんと、小さくなったように見えた。
「…私だって、嫌だったんだ。大事な娘を行かせるのは…、でもノア、今の君の歳では普通は婚約者がいるはずなんだ。…今まで出来なかったのは私が全てはねつけてたからなんだが…、どうしても、娘がいなくなるって思うとなかなか了承できなくて…」
お父様がギリッと握りこぶしを作る。悔しそうに歪む顔は娘を溺愛する父親そのものだ。
そんなお父様をお母様が、すんとした顔で見つめる。呆れているようだ。
(…薄々おかしいと思っていたの。この年で居ないのは何故だろうって…、…まって、お父様が婚約をはねつけなかったらわたくし、バットエンド回避出来たんじゃなくて!?)
ほかの婚約者と結婚してゲームには関わらず幸せ円満、最高ハッピーエンド。それが出来たんじゃなくって?
「でも今回は違う、相手は大公家だ。公爵家は反論出来なかったんだ…。」
くぅ、と悔しそうに目を絞るお父様。それを聞くなりほかの使用人から確かに…という雰囲気が出てくる。
お母様がそっとお父様の肩に手をおき、私を見た。
「…ノア…、大公家のお嫁になれるなんて公爵家としても鼻が高くなるわ。大丈夫、頑張っておいでなさい…。」
優しいお母様の声が響く。その顔はお父様への呆れと、私への申し訳なさがにじみでていた。ルマが私の隣に立ち、お嬢様、と声をかけられる。
「お嬢様、私はお嬢様がどこに行こうとついて行きます。」
ルマが凛として答える。頼もしいのやらたくましいのやら、分からない。
(もう、行く前提になってる…、)
周りをきょろきょろと見る。ここにいる人は皆この婚約に賛同のようだ。
「…嘘でしょう。どうしましょう。」
関わらないようにしていたのに上手くいかない。彼女を助けたからだと思うがそれは後悔していないし、きっとこの婚約はお父様の交渉次第で変わったはずだ。
(しかも、アークが何故婚約を望んだのか分からないわ…。)
「…ごめんよ、ノア、頑張っておいで…。」
お父様が意を決したように私には詰め寄る。娘を手放す覚悟ができたとでも言うように私を見つめる。
(これもう、行くしかなさそうじゃなくって…?)
まってそんな。自分からバットエンドに向かうなんて。彼の婚約者になれるのは嬉しいが、状況が違う。危ない。彼の屋敷に入り浸るなんぞ危ない行為はない。ここにいたい。出来れば婚約は今すぐ解消したい。というかそもそも婚約してはいけない!
「…では、準備をしなくてはいけませんね。お嬢様。体調が優れるようになったら出発しましょう。」
ルマがニッコリと笑って私に言う。
(こ、これは…逃げられなさそう…?)




