またあの人
「あれ、小麦粉が無い…また買いに行かなきゃ」
街へ行ってから7日が経った日だった。
「もう…街まで遠いし面倒なのに…」
前に行った時についでに買っておけば良かった。と、後悔しながら街へ行く仕度をする。
何時ものように籠を片手に持ち今日は銅貨を数枚持ち街へと歩みを進めた。
今日も街は活気だっており、人混みの波をすり抜け古臭い店へと足を動かす。だが、それは何者かの手によって妨げられた。
その何者かが私の腕を掴んでいるのだ。急に掴まれ身体が飛び跳ねそうになったが理性を保ち、どう対処をしようか冷静に考えているとテノール声が聞こえた。
「良かった…来てくれたんだ。」
亜麻色の髪をした見覚えのある男性が私の腕を掴んでいた。
「いえ、たまたまです。」
私はこの男の存在を忘れていた。そういえば、何か言われた事を朧げに覚えている。
とにかく、面倒なことはお断りだ。
「そうなんですか?でも、会えて良かった。俺、貴方のこと気になるんですよね。」
「大変忙しいです。それと、気にでも何でもして下さい。離して下さい。」
「せっかく運命的な出会いだったのに…」
「運命も糞もありません。では、御機嫌よう…」
私はそそくさとその場を立ち去る。
すると、何だか柄の悪い連中に囲まれた。
「お嬢ちゃん可愛いね。俺たちと遊ばない?」
私は続いてきた面倒な事にとことん嫌な顔をするが、柄の悪い連中は気にも留めない。
ぐいっと肩を掴まれビクーッと身体が反応する。
「ごめんね~お兄さん達。この子は俺の連れなの」
私を優しく包み込む温かい腕に身体を絡め取られた。顔を後ろから近付けられ、亜麻色の髪が靡く。この時、胸の辺が早鐘を打っているような感覚に陥った。
「なんだと!?」
亜麻色の髪の男性が気に入らなかったのか柄の悪い男は亜麻色の髪の男性の胸ぐらを掴む。
胸ぐらを掴まれた際に亜麻色の髪の男性の口が密かに動いたように見えた。
すると、柄の悪い男が亜麻色の髪の男性の胸ぐらを掴むのを止め地面に崩れ落ちる。
微かに…震えている?
だが、パッと見ただけでは分からなかった。
「………………………?」
私は何が起きたのか分からないでいた。
「じゃあ、行こっか」
亜麻色の髪の男性は…あぁ面倒臭い。亜麻男は、くるりとその場を回り私の手を絡め取ってあの人混みの中に行こうとする。
「は?いや、あの、私…買い物に来たんですけど!おい、聞け亜麻男!」
言った瞬間にハッとした。
ヤバイ…あだ名で呼んでしまった。咄嗟に口を手で塞ぐが、時既に遅し。
スーッとした冷気が漂ってきて亜麻男に、にーっこりと微笑まれた。
はっきり言って怖い。
「ユアン。さぁ言おうか」
ガシッと両肩を掴まれ逃げる術はなかった。
「ユ、ユアンさん…」
ぎこちなく言う。何故私はこの人の名前を知らなければならないのだろう。…私が亜麻男と言ったからか。
その密かな疑問は直ぐに脳内で解決した。
だがしかし、私が行こうとしている目的の場所から遠のかれズルズルと引き摺られる覚えは無いのだが。
第一に何故私が同行しなければ…一言も行くと言っていないのに。
ブツブツと脳内で不満を漏らす。
ふと、これまで私を引き摺っていたユアンが立ち止まる。
「そう言えば、貴方のお名前は?」
私の方を見てくるユアン。そういえば教えていなかったな…と納得をする。だがしかし。
「教える意味、ありますか?」
私はわざと首を傾げて言う。ユアンは少々驚いたようだが直ぐにクッと喉を鳴らす笑いを零した。
「酷いなぁ…俺教えたんだから、教えてくれてもいいのに」
「教えて欲しいと言った覚えはありません」
スッパリと言い切り、不機嫌オーラを出す。
「私、用事があるので、これで失礼します。」
ユアンの手を振り払い、もと来た道を歩く。
「全く…余計な目にあった」
ユアン…か、変な奴…
私は密かに笑みを零しながら賑やかな街を歩いた。
あの胸が早鐘を打つような感覚は私が初めて体験した…恋…だと気付くのはまた、先のお話。
「何用だ?」
「小麦粉下さい」
何時ものやり取り。ただ違うのは、今日は普通の買い物をしに来ただけだった。
「珍しいな…今日は面白い情報が入ったんだがな。」
主人が私を見てニヤリと笑う。
「気にならないか?」
私はフッと息を逃す。
「また来ます。貨幣は如何程持ってくれば良いのかしら?」
主人は片方の口端を吊り上げる。
「金貨一枚で良いよ」
「それほどの価値なのですか?」
「あぁ…絶対にあの組織と近付ける“情報”だ」
欲しいだろ?と此方を見てくる主人。
「では、宜しくお願いします。」
お目当ての小麦粉を貰い銅貨を手渡す。
私は、その情報というものがどのようなものなのかワクワクしながら家へと帰宅した。