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ルミナス魔法学園物語 ~『私はお姉さまとゆるゆる学園生活したいだけです!』~  作者: 月羽


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第70話 試練の始まり

 

「まさに迷宮《ラビリンス》ですわね……」

 ライラは小さく呟くと、私の手を強く握りしめた。

 痛い。でも、今はこの痛さが嬉しく、そして心地よく…ありがたい。

「うん……」

 だから、私も頷きながら彼女の手を強く握り返す。

 

「…ん」、ライラの口から、小さく呻きの様な声が零れる

 でも、彼女は私の手を離さない。私と同じに……

 痛みは証。私の隣に彼女が、彼女の隣に私がいる証。

 そして、私達が孤独では無い証。

 

 ここは訓練用の迷宮、魔法の実践訓練を行うための場所……

 それが、生徒会会議室にて立体投影された構造物の正体。

 しかし、訓練用の迷宮と侮るなかれ。

 ここには古き冒険譚や娯楽物語で出てくる迷宮のそれがあります。

 

 指弾きの灯り(クリックライト)の灯があってなお薄暗く

 湿った埃の匂いは、口を布で覆いたくなる。

 闇に目が慣れてくれば、複雑に積まれた石造りの壁が見えてくる

 石壁には湿気で所々に苔がむし

 苔の向こうには擦り減った文字の様な物が刻まれている

 岩盤剥き出しの天井からは、時折水滴が滴りピチャンっと音を立てる

 さらに、通路の彼方からは時折、唸る様な風音が聞こえて来る……

 

 

 文字として、絵として楽しむには良いけど

 いざ自分がこの場に立つとワクワク感よりも恐怖の方が強い

 シロノさんとクロノさんの店のある、あの秘密の通りも怖かったけど

 ここはその比じゃありません。

 

 もし、私一人きりだったら踵を返し逃げ帰っていたかも?

 ううん、足が竦み、その場から動けなくなっていたかも?

 普段、私を突き動かす好奇心も今は味方をしてくれない……

 それほどに、ここは、あまりに寂しく怖い。

 

 でも、私は一人じゃない。隣には彼女が…ライラがいる。

 彼女の凜とした瞳がそこにあるだけで安心する事が出来る。

 だから、私は…私達は恐れを乗り越え一歩一歩と進んで行く。

 この暗い迷宮の先にある、女神像の元へと……

 ………

 ……

 …

 さて、なぜ私達がこんな奇妙な場所にいるかと言うと

 これこそが、婚礼祭のメインイベントである『巡礼の儀』だからなのです!

 …とは言っても、こうなったのは本年度から。

 

 昨年までは本校舎から女神像まで一本道。

『聖なる街道』と呼ばれる参道を通って女神像の元へ向かったそうです。

 祭り中の参道は花々で飾られ、有志達の色彩の魔法で祝福され

 それこそ、祭りに相応しく華やかに艶やかに……

 

 それが今年はこんな迷宮を巡り、女神像の元へ行く事になったのは

 生徒会長であるフィールさんの所為!

 つまり、これが『私達の作る新たな伝統』なのでした。

 かつての魔法使い達が、巡礼の旅路で多くの試練と困難を乗り越えた様に

 私達もそれを体験し、知ろう!…と言うのがフィールさんのお話。

 

 フィールさんの言いたい事もわかります。わかりますが……

 …迷惑です!困ります!私はセレーネお姉様やコロネ達と一緒に

 平穏で静かな学園生活を送りたいのです、なのに…なのに……

 

 はぁっ……、愚痴っても仕方がありませんね。

 今はとにかく、この迷宮を一歩一歩確実に進んで行きましょう。

 訓練用の迷宮とは言っても、危険な事は確かなのですから。

 ………

 ……

 …

「…ルファさん?シルファさん!」

「は、はい!?」

 苛立ち混じりの声に振り向けば、釣り目気味に怒ったライラの顔。

「まったく…何をぼんやりしてますの?魔晶球《マナクリスタル》が見えてきましたわよ」

「え?魔晶球《マナクリスタル》…?」

 ライラの顎と視線に促され進む先を見れば

 通路の中央に渦を巻く様な不可思議な形の台座があり

 その上に、両手で抱える程の大きさの水晶球が浮かんでいます。

 

 球は闇の中にボォっと浮かび上がり、なんだか火の玉(ウィスプ)の様に見える。

 

「あれか…あの玉にタッチすればいいんだよね?」

「ええ、そのはずですわ?」

 言葉を交わしながら私達はゆっくりと水晶球…魔晶球《マナクリスタル》に近づいて行く。

 そして、この迷宮に入る前に聞いた先輩お姉様の説明を思い出す。

 

 訓練用の管理された迷宮ではあるが、今回は婚礼祭と言う事で

 特別にこの様な場所が設置されたらしい。

 魔晶球《マナクリスタル》に触れる事で、私達がこの場所に到達した事が迷宮の外へ伝わる。

 そして、それを知った皆は、私達が四ペアの中で何位なのかがわかり

 盛り上がると言う寸法なのです。まったく……

 

 溜め息しながらも、さらに歩を進め魔晶球《マナクリスタル》の側へ。

 魔晶球《マナクリスタル》の放つ淡く青白い光が私達の顔を幽鬼の様に照らし出す。

 冷たさは感じない、むしろ暖かい。これは魔雫《マナ》の輝き?

 光を身に浴びているだけで、身体の内から疲労が消えて行く様な気がする

 

 暖かな光に身を任せながら、魔晶球《マナクリスタル》を観察してみる。

 球の中には青白い炎の様な揺らめきがある

 絶えず蠢き続けるそれは、まるで生きている様にさえ見え

 色も青だけでなく、仄かな青や紫、時に朱も混じり……

 

「シルファさん!魅入られては危険ですわ!」

 響くライラの怒声。

 

「あ?ああ!?う、うん」

 ライラの呼びかけで我に返る、どうやらまたぼぉっとしていた様です。

 いえ、もしかして魔晶球《マナクリスタル》の放つ力の影響?

 ここは迷宮。そして、巡礼の儀の試練や困難を再現した物とするなら

 この揺らめきすら、ある種の罠《トラップ》なのかもしれません。

 やはりここは一人で来るには危険な場所です。

 

 一呼吸すると意識を整え、心から澱みを追い払う。

 これは、魔法の訓練で何度もやった事。

 よし!もう大丈夫。

 

「じゃあ、せーの…で触れるよ?」

「ええ、よろしくてよ?」

 視線を交わし頷き合うと、私達は握っていない方の手を魔晶球《マナクリスタル》へと近付ける。

 

「「せーの!」」

 ピタッ

 ライラと私の手が魔晶球《マナクリスタル》が触れた瞬間

 魔晶球《マナクリスタル》を中心とし眩い光が溢れ出し、一瞬目が眩む。

 光の次に来たのは音。何か、ざわめきの様な音が聞こえます。

 

『なに?なに?誰?』『見せて見せて』

『押さないで!見えなくても聞こえるでしょう?』

『どこのペア?もしかしてシルファ達?』

『サリナ達?違う?』

『うちの教室の子達じゃないのー?』

 声です。大勢の声が聞こえて来ました。

 知らない声に混じり、知っている声も聞こます…コロネ?

 

「あら?これは…外と会話が出来るのかしら?」

「私達の声が届いてるのかな…?おーい……」

 ライラの疑問に、試しにと魔晶球《マナクリスタル》に話しかけてみる

 すると……

 

『あ、やっぱりシルファの声だ!』

『おーいおーい、シルファー?ライラもいるんだよねー』

『ライラさん?ちゃんとやってますか!?』

『声届… 聞こ 私も やっほー j…?lp…!……?』

 反応がありました!コロネの声が聞こえ、続けてメリッサとネオンの声です。

 さらに友人達の声は続き。もう、声が混じり混じってもう誰が誰だか……

 

「皆さん?落ち着いてくださいませ。ちゃんと聞こえていますわ!」

「うん、えっと…私達は元気にやってるよ?そっちは変わりない?」

「…シルファさん、近況報告の手紙ではありませんのよ?」

「そ、そうだね?」

 私達のやりとりに魔晶球《マナクリスタル》からどっと笑い声が聞こえて来ました。

 そんなにおかしかったかな?

 

『シルファが元気そうでよかったよー』

『ライラさんも元気そうでなによりです』

 心配する様なコロネの声と落ち着いたネオンの声。

 向こうは向こうで上手くやってるみたいですね。

 

 皆の声を聞いたら、何か心の奥が暖かくなってきた。

 声には『力』がある。

 それは遠く離れていても伝わるのかもしれない……

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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