第67話 時告げる…
歩きながらぐるりと視界を巡らせる。
煌めきと、そしてリズムがある。
宝石の如く七色に煌めく輝きが私を包み
賑やかで身体が弾むリズムが耳の奥を踊らせる。
光と音の饗宴、それは祭。
私は今、祭の中に居る。
『婚礼祭』はまだ続いていた。
祭の輝きとリズムの中を私は…私達は駆けて行く。
私をエスコートするのは二人の少女達。
少女達は私の友人、だから身を任せる事が出来る。
二人に身を任せ手を引かれながら、私は駆けて行く。
人と人の間を潜り抜け
光から光へ、音から音へと駆けて行く。
食べて飲んで楽しんで……
私の宝石箱が宝物で満たされて行く。
でも、楽しい時間と言うのはあっという間です。
魔法の様に時間が早く流れるのを感じる。
時間を操る魔法は最高難易度の魔法の一つとされている
でも、そんな魔法を使わなくても、私達は時間を操る術を知っている。
楽しい時間は早く過ぎるし、辛い時間はゆっくりと流れて行く。
祭りの中を駆ける私は時間の流れを早く感じている。
それはつまり、私が祭を楽しんだ証。
この時間がもっと続けばいい、…なんて思うけど。
それは無理。
流れ行く時間を止める事は出来ない
でも、だけど、思い出として心に残る。
今日のこの日を楽しんだ証として心に残る。
証は私の心に宝物として残る。
この宝物、この思い出をくれたのは二人の友人。
私の手を引き、前へ前へと引っ張る二人の友人。
二人を見るうち、自然と口が開き言葉が出てしまった。
「…二人共ありがとう」
………、我ながら恥ずかしい事を言ってしまいました。
ううん、言葉自体に恥ずかしい所は一切ありません
恥ずかしいのはタイミングです。
何気の無いこの瞬間、心のまま止める事をせずに出てしまった言葉。
これほど恥ずかしい物があるでしょうか?
しかし、出てしまった言葉は止められません。
時間と同じに止められません。でも……
止められないけど、返って来る物はありました。
「シルフぁ、急にどうしたの?」
「なんだか別れの言葉みたいですわよ?」
私の手を引いていた友人達が、振り返りながら足を止めました。
そして、二人は私の顔をじっと見ると首を傾げる。
友人の一人…コロネはさらに二度三度と左右に首を傾げ
もう一人…ライラは空いている手を口に当てクスクスと小さく微笑む。
そんな二人の顔を見ると、私はますます恥ずかしくなってしまう。
だからと、このままの状況が続くのはもっと恥ずかしい。
ここは何か言わないと。
言わないと、この空気がずっと続く事になってしまうから……
考える。考えるよりも心に閃く言葉を……
「えっと…二人と一緒に素敵な時間を過ごせて嬉しいな…って」
結局、出たのはこんなありふれた言葉。
もっと気の利いた言葉が出れば良いのにと思うも、今の私にはこれが限界。
はぁ、自分が情けなくなります。
感謝を伝えるつもりが、さらに恥ずかしくなるし。
恥ずかさで自然と伏目になる私の耳に、二人が溜め息する音が聞こえた。
「まったく……、本当にお別れの言葉みたいですわよ?」
「うんうん、ライラの言う通りだよ?」
二人の弾んだ声、そっと目を上げればそこには二人の笑顔。
良かった、私の言葉は伝わったみたいです。
でもやっぱり、どこか呆れている様にも見えて。
呆れ?そうでは無かったみたいです。
「むしろ、ここからが始まりですわ、ほら……」
言ってライラは天を仰ぎ見ました。
金の髪がふわりと揺れる、思わずそちらに見惚れそうになるけど
視線を追いかけ、その先にある物を見る。
私に追随する様に、コロネも同じ先を見上げる。
ライラが見たのは青空…ではなく学園の校舎。
三人が同じ方向を見るのと同時、それは始まりました。
ゴーン………
ゴーン……
ゴーン…
時を告げる鐘の音が天に響く。
学園敷地内だけでなく、街の隅々にまで轟く音を打ち鳴らし、響く。
多分、もっと遠くにまで届いている。
ルミナスへやって来る者達の耳にも……
ルミナスを離れる者達の耳にも……
この鐘は聞く者全てに時を伝えるための物。
そしてゴーンっと最後の鐘の音を鳴らし沈黙。
鐘が鳴った回数は十二回。
つまり正午、午前と午後の境目。
今日の私とライラにとっては特別な時間。
その事を告げる声が空に響きました。
『時は来た!』
この凛々しくも澄んだ声は学園生徒会会長フィールさんの声。
学園内と校庭全てに届く声を聞き、皆が空を見上げるが、そこに姿は無い。
声のみが皆の耳に聞こえ届いている様です。
そして、『た!』の後の残響音が消えるのを待ち、フィールさんの言葉が続く。
『さぁ!一年生代表の諸君は生徒会会議室へ集まってくれたまえ!』
相も変わらず芝居がかったフィールさんの声。
派手な手振り身振りが見える様です。それはさておき……
一年生代表とは『婚礼祭』のメインイベントでもある『巡礼の儀』に参加する者達。つまり私とライラを含む八人の生徒達のこと。
私の左手からコロネの手が離れました。
そして、ぴょんっと一歩前出ると反転し小さな笑みながら言う。
「二人共がんばってね?応援してるからさ?」
寂しさの混じって見える笑み。
そうか……
鐘の音は私とライラにとっては始まりを告げる音だけど。
コロネにとってはこの時間の終わりを告げる音。
それに気付くと、申し訳ない気持ちにもなってしまう。
でも、こればかりはどうしようもない。
仕方が無い……
「コロネさん!」
全てを消し飛ばす様にライラの声が響く。
「はぅいっ!?」
「!?」
その声にコロネは小さく跳ね、私の目は丸くなる。
驚きのままライラを見れば、瞳が凜とした物から不敵な物へと変わり。
宣言する様に言葉を告げる。
「貴女との時間、なかなか素敵な物でしたわ!
だから!またいずれ!三人で楽しみましょう!…ね?」
言い終えると微笑んで見せる。
ライラは凄いな。
彼女の一言で場にあった空気が吹き飛びました。
コロネの笑みからは寂しさが消え、私の曇りも消えた。
これがお嬢様力?ううん、彼女の気質。
またライラの事が見えた気がします。
「あはっ、ライラありがとうね?それとコロネでいいよー」
「では…コロネ、いずれまた!」
「…だね、じゃあコロネ頑張って来るよ」
約束の言葉を交わし合うと
私とライラはコロネに見送られ、生徒会会議室へと向かうのでした。
いよいよ始まりの時が迫って来ました……
ここまで読んでいただきありがとうございます。




