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浄化の魔力

 




 聖女の浄化の旅は各地で民衆達からは熱狂的に歓迎された。


「 皇宮に魔獣が現れたそうじゃないか 」

「 聖女様の浄化で魔獣が一瞬にして消えたらしいぞ 」

「 我が国を浄化して下さるんなんて、有難い事だ 」


 先日の聖女誕生のパレードの日に、皇宮でガーゴイルを消し去った様子は、多くの皇都民から目撃されていた事もあり、皆が聖女に熱狂した。


 翌日の皇都広場に貼り出された新聞には……

 ガーゴイルを前に、皇子様と聖女が白馬に乗っている姿絵が掲載された。


 2人が駆け付ける前に、ガーゴイルを街に行かせない様にと、命懸けで誘導していた公爵令嬢がいた事を誰もが忘れた。



 何よりも、聖女様が平民だと言う事が帝国民達を熱狂的にさせていたのだった。


 皇太子殿下と公爵令嬢のご成婚の日までは、後3ヶ月余りだと言うのに。

 普通ならば……

 ご成婚に向けての盛り上がりを見せる時期なのだが、帝国民の話題は聖女一色だった。



 そんな人々からの熱烈な声援を受けながら、ご一行様は一つ目の目的地の森に到着した。


「 この森全体を浄化する事は出来るか? 」

 狩場よりは遥かに広い森だとアルベルトはサリーナに言う。


「 やってみなければ分かりません 」

「 違いない 」

 アルベルトはそう言って笑った。



 笑顔も素敵。


 サリーナがアルベルトを見上げて、頬を赤く染めながら見つめていると……


「 私が広範囲の魔力の放出の仕方を教えよう 」

 ルーピンがやって来た。


「 それは……アルベルト様には出来ませんか? 」

「 いや、出来るが…… 」

「 だったらアルベルト様に……… 」


 その時……

 サリーナの言葉を遮るかの様に、ゾロゾロと爺軍団が湧き出てきた。


「 小娘ごときが殿下に話し掛けるでない 」

「 他国の平民風情が、我が国の殿下に色目を使うでないわ! 」

「 殿下は妃様にしか猛らんのが分からんのか!? 」


「 爺! 黙らぬか! 」

 爺達を叱るアルベルトは、爺軍団に連れて行かれた。


 爺達はシルフィード帝国100、他国0。

 王子や王女であってもボロクソなので……

 平民の聖女なんか糞でしか無いのである。



 ルーピンは魔力研究の第一人者。

 二百年振りに現れた浄化の魔力使いと遭遇出来た事で、研究に熱が入っている。


「 聖女の魔力のパワーは桁違いですね 」

 殿下のパワーも凄いですがと嬉しそうに言って。


「 ああ、あの小さな身体の何処からあんなパワーが出るのか…… 」

 森全体に、浄化の魔力を放出出来る程の魔力に驚きを隠せない。


「 でも……ポーションは必要でしょうね 」

「 ああ、魔力切れには注意しないとな 」

 サリーナはまだ魔力の調整が上手く出来ないから心配だと言って。



 魔力使いにしか分からない魔力の事。

 レティは2人の横で静かに話を聞いていた。




 ***




 聖女が森を浄化する。


 森の前に立ち両手を空に掲げると掌が銀色に輝いた。

 銀髪は更にキラキラと輝きを増して身体全体が銀色に包まれた。


 サリーナが着ているシスターの着る様な白の衣装は、ミレニアム公国側が考えた聖女としての演出らしい。

 背格好が小さく痩せっぽっちなだけに、余計に庇護欲を掻き立てるのだった。



 そして……

 凄い熱量の魔力が森全体を銀色に染める。


 人類は……

 永きに渡り魔獣と戦い、突如現れるその存在に苦しめられて来た。


 そんな人類に、魔獣に対抗する為だけに与えられた浄化の魔力。

 その圧倒的なパワーは目にした者を魅了する。


 森を浄化すれば100年は魔獣が出現する事は無いと言われている。

 そして……

 浄化の魔力を直接魔獣に放出すれば、一瞬にして消し去る事の出来る圧倒的なパワー。



 魅了されない訳が無い。


 今……

 アルは聖女を熱い眼差しで見ている。


 欲しく無いわけが無い。



 国を守る事を最優先にして政略結婚を受け入れ、他国へ嫁いで行ったシルフィード帝国の皇女達。

 己1人を犠牲にする事で、帝国民が安寧に暮らせるのならばと、皇女達は笑って国を後にした。


 そして……

 そんな政略結婚でシルフィード帝国に嫁いで来た、マケドリア王国の王女だったシルビア皇后。



 国の為ならば己を犠牲にする覚悟。



 私は……

 彼女達になれるだろうか。



 信じて欲しいと言ったアルを信じてる。


 だけど……

 アルは皇太子。

 アルがそれを決めたのなら。



 その時私は……



 

 レティはそっと目を伏せた。




 ***




 旅は順調に進み、一行はあの時のガーゴイルが出現した地にやって来た。


 爺軍団は先に温泉施設に行ってしまっていて。

 どうやらこの温泉に来るのが目的だったと言うのが正解だ。



 ここで……

 私の3度目の人生の続きの死闘を繰り広げたのだ。

 死人が出なかったのは前もって準備をして来たから。


 サリーナに魔力があると判明したのは昨年の秋だそう。

 直ぐに発表しなかったのは、彼女が平民だった事から、大公邸でマナーの勉強をしていたからだと言う。


 そんな事をシャアシャアと言うあの6人の公子達が何だか憎らしい。



 秋に聖女が誕生したと言って我が国に来てくれたのなら、12月のガーゴイル討伐に間に合った筈なのに。

 聖なる矢で戦えたのにと、つい思ってしまう。



 でも……

 これから矢を浄化して貰えば矢は聖なる矢になるのだ。

 聖剣と()()()が無くても、聖なる矢があればどんな魔獣も浄化させる事が出来るのだ。


 そしてレティは……

 魔獣で苦労をしている他国の王太子達の事を思うのだった。



 その時……

 レティはヒョイとアルベルトに抱き上げられた。


「 君は2度もこの森で足を挫いているからね 」

 危ないからと言って。


 確かにそうなのだけど。

 楽チンだから良いのだけれども。

 サリーナの視線が突き刺さる。

 私を睨み付けている視線が。



 その時……

「 聖女様は私がご一緒します 」

 グレイが……

 サリーナに向けてエスコートの手を差し出した。

 サリーナはオズオズとその手をグレイの掌に乗せた。



 3ヶ月程前のガーゴイル討伐の直ぐ後に森に調査に入ったので、まだ人の通った道は残ってはいるが。

 この森は他のどの森よりも広くて鬱蒼としている事から、森の中から浄化をする事になった。



 その時……


「 グレイ班長は先頭を行かなきゃ駄目!!聖女様は別の人がエスコートして! 」

 レティが怒った様に言う。


 大体、自分で歩きなさいよこの位の道。

 まだ明るいんだから。


 レティは……

 何故だか分からないけれども無性にムカついた。

 自分はアルベルトに抱っこされているのを棚に上げて。



 レティがこんな事を言うのは珍しい事。


 嫉妬だ。

 グレイがサリーナの手を握ったから嫉妬をしてるんだ。

 ユーリの時と同じ。


 アルベルトの首に手を回したレティは、肩越しにサリーナを睨み付けている。

 サリーナよりも激しい嫉妬心がそこにあった。

 毒でも盛りそうだ。



 おいおい。

 俺に抱っこされながら、グレイがエスコートするサリーナに嫉妬するとは。


 グレイは……

 サリーナの手をサンデーに委ねて、レティを抱っこしているアルベルトの前に歩いて行く。

 通り過ぎる際にチラッとレティを見やった。


 何だか嬉しそうな顔をして。



 レティの3度目の人生でのグレイとの関係は濃密だ。

 レティの剣術はグレイの剣術。

 それ程に2人は毎日毎日剣を交えたのだ。


 ガーゴイルの襲撃など無く、あのまま3度目の人生が続いていたとしたら……

 きっと2人は結婚をしていたのだろう。


 ルーカスが2人の婚姻話を進めていた事は、今生でも同じだったのだから。

 今生は俺が現れただけで。



 アルベルトは……

 レティの過去のグレイに嫉妬をするのであった。




 ***




 この森の浄化が終わった。

 取りあえずは皇都周辺の沼地のある森の浄化は完了した。


 後は聖杯と聖剣にある魔石に、浄化の魔力を融合すればシルフィード帝国は安泰だ。


 サリーナがこれだけの魔力が出せる様になったのだから、容易な事だろう。



 森から出た一行は馬車に乗り込み、爺軍団のいる温泉施設に向かった。


 エスコートしてレティを乗せたアルベルトが、その手を繋いだままにレティを見つめて来た。


「 ……僕の事……好き? 」

「 ? ……好きよ 」

 レティの手の甲を触りながら、アルベルトはその答えに少し満足そうな顔をする。



「 何時から? 」

「 ん? 何? 」

「 何時からか教えて? 」

「 ずっとよ。ずーっと……20年も前から…… 」

 何度も言ってるでしょと言って、レティはアルベルトのスラリと高い鼻先を人差し指でチョンとした。



 レティの話では……

 彼女の3度の人生の3度とも、俺がイニエスタ王国のアリアドネ王女と婚約をしたらしいが……

 それは俺の知らない俺で。

 今の自分とは全く関係の無い話だ。


 だけどレティは違う。

 ループしてもずーっとその時を生きて来た。

 彼女にとっては過去の記憶がそこにあって。

 ユーリやグレイと生きた過去が存在するのだ。

 今でも嫉妬をする程に。



 それでも……

 ずっとレティは俺を好きだったと言う。

 長い長い片想いをして来たのだと。


「 僕は……君よりは君を好きでいる期間は短いけれども……これからはずっと、ずーっと君を好きで居続けるよ 」

 アルベルトはそう言ってレティを抱き寄せた。


 甘い甘い顔の綺麗なアイスブルーの瞳の中にレティの顔があった。


 美しい瞳が揺れると……

 顔を傾けながらその形のよい唇を、レティの赤い小さな唇に重ねた。












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