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シオーの村で起こったこと


 鳥達のところに戻ってくると、ルナが「ついでだから、取りあえず食事にしましょう」と言った。そうして先程のシーツ状の布を地面に敷き、その中央に篭の中から折りたたみ式のテーブルを出して乗せた。


 もう片方の篭の側に行ったセレナに、『ユリーナ、手伝ってー』と呼ばれて近くに行くと、篭の中からセレナが、次々に大きな瓶や麻っぽい袋をいくつかと鍋を手渡して来た。


「わわっ。ちょっと待って、持ちきれないっ」


「貸して」


 騒いでいたら脇から手が伸びてきて、振り返るとサートが瓶を受け取ってくれた。ほっ。助かった。落としたら割れちゃうもんね。


 そこからは連係作業で、バケツリレー的にサートからシオー、シオーからルナに手渡ししてシートに置いていく。


 最後にルナが、布から少し離れたところに大きな平たい石を2つ置くと、セレナにあの魔法の元の入った小瓶を渡した。セレナはしゃがんで石に中身を振りかけ、それからサートを呼んだ。


『サートは炎の民なんだよね? お願い出来る? 私、ちょっと苦手なの』


 サートはびっくりした様な顔をしたあと、嬉しそうに笑って頷いた。それから、大きな石の側でしゃがむと両手の指を組み、お祈りをしてるかの様に目を閉じた。


 サートの頭の上に、何て言うのかな? 小さいネックレスみたいなのが乗せてあって、そこに小さな紅い石のペンダントヘッドがついている。その石が丁度額に当たっていて、それがゆっくりと紅く光り出した。


 サートの長くて赤みがかった茶色の癖毛が、ふわふわと風に揺れる。……ルナとセレナが正統派美人だとすると、サートはエキゾチックな美少女だ。今は目を閉じてるけど、ちょっと子猫のようなつり上がり気味の大きな目をしていて、睫毛(まつげ)も濃くて長い。


 さっきの笑顔を思い出す。知り合ったばかりの頃って、相手との距離感を掴むのに遠慮したりするじゃない? だからきっと、頼られて嬉しかったんだろうな。それが彼女にとっての得意分野だったのなら尚更だろう。


 ……何がサートとシオーにあって旅をしているのかは分からないけど、きっと心細かっただろうな。私は目の前のまだ幼さの残る少女を、『私より小さい子が子供だけで旅をしてるなんて!』という驚きの気持ちと、『万が一のときは私の方がお姉さんなんだから、守ってあげなくちゃ!』という気持ちで、ぼうっと眺めた。


 そのとき突然、後ろから突風が吹いた。


「わっ!!」


 強い力で前に押され、サートにぶつかっちゃうと思い避けようとして、よろけたらセレナを巻き込んで転んでしまった。


『痛ーーいっ』


「ああっ、ごめん、ごめんっ」


 寝転んだまま風の吹いてきた方を見ると、鳥たちが大空へと飛び上がっていくところだった。ルナとシオーがソリから水を入れた瓶を持って、こちらに向かって来る。


「鳥たちにも食事をしに行って貰ったわ。……サートがやってくれたの? ありがとう」


 言われてさっきの石を見ると、石は2つとも赤々(あかあか)と光っていた。思わず口から感嘆符が飛び出る。


「わっ、すっご~い!!」


 サートが恥ずかしそうに笑う。セレナも『ありがとう。流石だね』と言ってニッコリした。私は『そうかー、これが炎の民ってことかー』と思いながら頷いた。


 ルナが石の上に鍋を置く。するとシオーが「あ、僕、干し肉持ってます」と言って、鞄から包みを取り出した。


「ありがとう。一緒に調理させて貰うわね」


 セレナが受け取って、大きめのお皿に干し肉を並べ、瓶からコップ一杯分の水をかけた。その間にルナは、紅い石の上に鍋を乗せて、麻っぽい袋から何かの葉をパラパラと散らしていた。葉は熱で溶かされると油に変わり、同時に胡椒の香りを辺りに漂わせた。


 ルナはもう片方の石にも深めの鍋を置いて、サートに熱の調整を頼んだ。セレナはさっきの干し肉を持ってくると、最初の鍋にそっと入れる。その瞬間肉の焼けるジュッという音がした。胡椒の香りに肉の匂いが加わる。


 セレナは別の袋から茶色の塊を出してきて、深い方の鍋にその塊をそっと乗せた。こちらには水を軽く振り撒いて、すぐに蓋をかぶせた。


 ルナが干し肉をひっくり返し、その上にさっき運んだ大きな瓶の中身をたっぷりとかけて蓋をした。


 だんだんと、香ばしい香りが漂ってくる。


「さ、出来たかな?」


 暫くしてルナとセレナが蓋を開けると、キノコらしき物と干し肉のソテーと、柔らかそうなパンが顔を出した。


「うわぁ、いい匂い!」


 ちょっと感動して叫ぶと、後ろからシオーの声がした。


「お茶用のお湯も沸かしといたよ」


 ルナとセレナの調理に気を取られていたけど、シオーとサートも別の石の上で、お湯を沸かしていたらしい。


 テーブルの上には皮がむかれ、カットされた果物らしき物が置かれたお皿があった。


 ーーしまった! どんな果物か見逃した!! 


 なんで悔しがってるかと言うと、それが半透明で、鮮やかな青い色と赤い色をしていたから。


「さすが、土の民の旅人ね。こんな綺麗なプルリは見たことがないわ」


 ルナがぼそりと呟いた。


 


 食事はどれも珍しくて美味しかった。干し肉も最初に水で戻していたからか、柔らかくてジューシーだったし、キノコらしき物も旨みが強かった。


 プルリと呼ばれた果物はゼリーみたいな感触で、青い方は酸味が強くてちょっと「うっ!」って感じだったけど、「これは青いのと赤いのを一緒に食べるんだよ。赤い方は甘味が強いんだ」と、シオーから教わって言われた通りにしたら、口の中で酸味と甘味が混じり合って美味しかった。


「さてと、……」


 食器を片付け終わってテーブルの上に地図を広げる。以前みたいにルナがピアスをのせると、またもピアスがスーッと動いて現在位地を示した。


「で、どういうことなのか教えて貰ってもいい?」


 ルナがシオーに訊ねると、シオーの顔が引き締まる。


「うん。僕たち土の民の住むのはここ……」


 シオーは話ながら、北西のはずれの森の中の平地を指さした。


「ルナさんは知ってるけど、ここで穀類や野菜や果物を育て、少ないけど家畜を飼って暮らしてた。ときどき行商人や吟遊詩人の人が来るくらいで、のんびりとした生活を送っていたんだ」


 私はなんとなくゲームにあるような、田舎の村を思い浮かべた。


「ところがある日、村長でもあるお祖父ちゃんが言ったんだ。『雨が降らん』って。でも僕らの村は川からも近いし、大きな井戸もあるからね、それほど気にして無かったんだ」


 シオーはお茶を少し(すす)り、口を湿らせると、また続きを話し出した。


「ある日、吟遊詩人のおじさんが来た。それで雨が降ってないのは、僕らの村だけじゃないってことが分かったんだ」


 何となく話を聞いていると、神妙な気分になって両手に力が入ってしまう。


「それから暫くして、黄色の月が三日月で、他の月が半月だった夜に何かが起こった。……僕は寝てたから、詳しくは分からない。ただ朝になって起きたら、僕とお祖父ちゃん以外、村から誰もいなくなっていたんだ」


「……それって、……」


 発っした声が普段より上ずった物になっていて、自分でもびっくりする。


「うん。さっき見ただろ? お祖父ちゃんが、家畜を逃がして旅に出ろって。それを言いながらお祖父ちゃんも、あの影の様な姿に段々と変わっていったんだ。そして、そのまま何処かへ行ってしまった……。だから僕は少しでも、この世界で何が起きてるのかが分かればと、旅に出たんだ」


 


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