↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/38

サートの話、そして川へ


  少しの沈黙の後、今度はサートが話し始めた。


「私は、旅の楽団の中にいたの。……楽器を演奏する人と歌を唄う人がいて、私は踊り子の1人だったの。全員で20人くらいで、気のいい人達ばかりだった」


 サートの目に、うっすらと涙が溜まってきたのが見えたけど、彼女は数回まばたきをしてそれをこらえた。きっと、今は泣くときじゃないと思ったのだろうな。小さいのに偉いなぁと思った。


「踊り子たちは私の他に6人いて、私はその中で一番小さかったから、皆が可愛がってくれたの……」


 サートは地図の上に腕を伸ばし、シオーの村の南の方の、海の近くの一点を指さした。その指が、少し震えてるように見えた。


「ここでキャンプをしていたの。すぐ側に温泉があって、漁村の人達を相手に見せ物をしながら暫く滞在していたわ。いよいよ明日この地を立つ、という日の夜、紫の月が半月になっているのを見たの。とても大きな半月だった。何だかじっと見られてる様な気がして恐かったの……」


 そのときのことを思い出したのか、サートの顔は青ざめ、両手の指を組み合わせるようにして握った。


「でも、気を取り直してすぐに寝袋に入ったの。……それから朝になって起きると、いつも同じテントで寝ていた踊り子の皆がいなくなってて……、おかしいなと思ってテントの外に出てみても誰もいなくて……。いつも騒がしいくらいだったのに、何の音もしないの。他のテントもまわって、……食事のときに使うテントにも、楽器の手入れの為の大きなテントにも、誰もいないの。荷物はそのままに、本当に誰もいなくなってたの。最初は訳が分からなくて呆然としてた。皆を探して探して、探して。……村の方に行ったら、村の人たちも1人もいなくて……。どうしたら良いのか分からなくて、海に戻ってきて泣いたの。……そしたら、暫くしてシオーが来たの……」


「……僕は、僕の村で起こったことを話したんだ。それから二人で、皆の荷物から使えそうな物だけを借りて、ギルドへ行こうということになったんだ」


 シオーが話の続きを引き取りつつ、さらりと説明した。サートはそのときの不安な気持ちを思い出したのか、顔を手で隠して俯いてしまった。小さな肩が小刻みに震えている。


 突然1人ぼっちになってしまう恐怖……。私は聞きながら、今まで本当に1人になったことなんて無かったなと思った。もちろん留守番くらいならしてる。けどそれは、家族の皆が必ず帰って来ることを信じてるからだし、だから精神的には1人とは言えないと思う。それに、もしも何かあればすぐに美桜に電話したり、例え何時であろうとも、美桜の家に行くだろうなと思う。美桜の家のおばさんもおじさんも、多分私を受け入れてくれると思う。……そういう相手のいなかったシオーとサートには、どれほどの恐ろしさだったことだろう……。


 シオーもサートも凄い。本当に凄い。不安そうな顔をしながらも、次なる1歩を踏み出して。

 

『……そういうことなら、一緒に行かない?』


 突然、セレナが明るく言った。皆の沈んだ気分を明るくするような、鈴の音のような声だった。


「そうね、そうしましょう! 私達もギルドへ向かってるところなの。ねっ、ユリーナ」


 ルナも明るい声で私に話を振ってきた。……ちょっとわざとらしさがある思ったけど……黙っていよう。


「う、うん、一緒に来てほしい!!」


 急に意見を振られたから声が上ずる。恥ずかしい! 顔が熱を帯びてくる。


 けれど、シオーたちは嬉しそうに笑ってくれた。


「うん! その方が僕たちも心強いよ。ありがとう!!」


 そんなこんなで、皆でギルドを目指すことになったのだった。




『結構、日が出てきたね~』


 セレナが髪を風に泳がせながら言った。今は歩いて南下中。鳥たちはこの先の川向こうの牧草地で、餌をついばみながら私たちを待っているらしい。


「うん、ちょっと汗ばんできちゃった。サートの服は空気を通しやすそうでいいねー」


「あ、はい。炎の民は基本的に体温が高いので、薄着なんです」


 ヒラヒラした服だと思ったら、ちゃんと理由があったんだ。踊り子だからだと思ってた。


 ……こういうことって大事だな。物が生まれてくるのには理由があるんだ。私は何となく、そんなことを考えた。


「あ、敬語じゃなくて良いよー、普通に話して」


「あ、はい! ありがとうございます。……あ」


『良いよ良いよ、そのうちに慣れて。気を使ってたらもたないよ?』


 私の言いたかったことを、セレナが補足してくれた。


 旅はサートが一番なれてるだろうけど、知ってる人と過ごすのと、出合ったばかりの人と急に長時間過ごすのでは、全然違う旅になることだろう。経験値が役に立たないと思う。この小さな体で、これ以上無理をして欲しくは無いと思った。



 暫く歩いて川に着いた。


 …………これ、川か?


「結構あるいたなーー。汗かいちゃったよ!」


 そう言ってシオーが、荷物を足元に置いて川に走る。そのまま両手を川に突っ込み、はしゃぎ出す。


「うおーっ、つっめてぇ! 気持ちいいーーっ」


 やっと子供らしい表情を見れたな、と思った。


 ……だから、そこへいく前に、これ、川か?


「私たちも少し涼みましょう」


 ルナがいつの間にか編み上げ靴を脱いで、裸足で駆け出す。 


 おお! さすが美女は絵になる!!


 セレナとサートも手を繋ぎ、駆け出す。


 風に髪がなびいて、二人の服も風をはらみふくらんで、細い脚が台地をスローモーションの様に駆けていく……。ああ! 何かのCMの様に美しい!!


 …………だーかーらーっ、そこじゃなくってっ!!


「ねえー! これが川なのーーっ!?」


 いや、暑いしねぇ。炎天下歩いて来たし、汗かいてるし、気持ちは分かるよ。冷たい水を浴びたいってのは。


『そうだよー、川だよーー』


 そうか、川なのか。ならば試すべし。…………マジで? 川と言われても納得してないのに?


 何をうだうだ考えてるのかというと、目の前に広がる光景が私の理解の範疇(はんちゅう)を越えていたからなのだ。そこにあったのは、……説明、激ムズッ!!


 ……えっと、パウンドケーキってあるよね? あれを作るには長方形の型を用意します。上部だけ開いている形の箱です。そこにケーキ種を型の半分まで入れて、平にして焼きます。焼けたら型より上にまでスポンジが盛り上がるんですね。で、型にそって包丁で切れ目を入れて型から出すんだけど、……何が言いたいかって? だから型から出した形なの、川が。


 地面より上に川が流れてる。透明なガラスとかで仕切られてるんじゃ無いんだよ、これ。その証拠にさっきからシオー達が川に手足を突っ込んで、バシャバシャ水遊びしてるんだもの。


 ついさっき、物が生まれてくるのには理由がある、そう思ったばかりだったのに、どういうことなんだ? この川は……。


 ああ、いかん。込み上げてきたぞ? ウズウズする……。


「やっぱ、この世界、意味ワカンネーーーーッ!!!!」


 私は力一杯、叫んだのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。