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部活とダンス練習の日


「河井さん、音に力が入ってないわよ。音色(ねいろ)もざらついてる。いくら夏休みだからって、それじゃ困るわ」


「はいっ、すみませーん」


 先輩に注意を受けてしまった。確かに最近、アンブシュアという、楽器を吹くための基本の口の形をする練習を、おざなりにしていた。ロングトーンの自主練習もしていなかった。


 トロンボーンには他の管楽器のように、指で押すところは無い。スライドで音程を変えるのだ。この為、オーケストラの、例えばCDでも良いからよく音を聞いて覚え込み、練習に練習を重ね、音の出し方を覚えていかなければならないのだ。


 このところ、自主練のリップスラー(楽器から取り外せる、口で吹く部分。この部品だけで息の吐き方を練習する)とロングトーン(言葉のまま、息を長く吐く練習)をサボっていた結果が出てしまったようである……。



「ちょっ! 友里奈! それじゃあ酔っぱらいみたい、笑っちゃうよ~。足は(かかと)をこう! 手はしっかりとパーに開いて!!」


「はいいっ。ごめん、ごめん」


 へろへろだ……。


 クラスの女子の中で今日午前中に部活があり、急ぎの用事の無い子達だけでダンスの練習をしている。渡り廊下の1階とでも言えばいいのかな。屋外だけど日陰だし、他の部活の人達に迷惑もかけなくてすむので、そこで簡単な振り付け部分を練習しているのだ。


「友里奈、大丈夫?」


 美桜から心配された。


「何とか。後で説明するよ」


「分かった」


 美桜の目が『やっぱり』と言った。


「じゃ、もう一回いくよー! はいっ、……」


 ウチのクラスのダンス好きな皆様、私や美桜+α(アルファ)の為に、簡単なダンスを考えてくれた。

 

 曲の山になる部分でメンバーが分かれ、得意な子達が前面で複雑な踊りをし、私達は後方で単調なダンスをするのだ。


 今はその部分を教わっているのだが、体が動きませ~ん。寝ながら相当力んでいたみたいで、体がダル重~い(って、CMみたいだなあ)。……でも、やらなきゃね!


 その後は慣れない体の動きに、周りの子たちから遅れないように頑張った。




「おっ邪魔っしま~すっ」


「はいはい、上がって、上がって」


 美桜の家である。


「お? いらっしゃーい」


 私と美桜の会話が聞こえた様で、美咲ねーちゃんがリビングから顔を覗かせた。


「ちょうど良かった、焼きそばを作ったところなんだよね。麺は2人分なんだけど、具を入れすぎちゃって三人前になっちゃって。食べてって」


「わぁー、助かりますぅー!」


 ウチの留守番ご飯とは全然違う。成長期の兄達がつくってたのは、……まぁ、男メシってやつだ。油×肉的な……。




「……と、まぁこんな事があってさ」


「へー、面白い! 世界中の神話や伝説を調べると、けっこう出てくるんだよね、日食」


「へ? そーなの?」


 焼きそばを頂きながら、夢の内容を話したところである。美咲ねーちゃんの情報に驚きである。

 

「大抵どの神話でも、太陽と月が悪い物に追いかけられて飲み込まれた、とか、飲み込まれそうになって、とか、そんな感じで書かれてるよ。あっ、日本のはちょっと違うね。天照大神が天の岩戸に隠れた、っていうのが日食だったのでは? って言われてるんだよ」


「そうなんだ」


 美咲ねーちゃんが、ホクホク顔で教えてくれた。神話に詳しいのは流石(さすが)だなあ。


 ……日食って、そう考えるとロマンと歴史を感じるなぁ。今まで日食のことなんて考えたこと無かったな。歴史の授業で、日本神話や古事記のことは習うけど、どこか遠いところの話に思ってた。けれど古代の人達も、同じ様に日食を眺めていたことがあったんだと考えると、その時代がぐんっと近づいてくる感じがする。


 それに改めて、太陽や地球や月などの天体は、人間よりも長い長い歴史を持っているんだな、とも思った。宇宙の広さと、その歴史ーー。


 ひょっとしたら、ルナ達の星の歴史というか神話にも、日食や月食がかかわっているのかも。


「……友里奈ってば、もう!」


 あ、思考の海に沈んでる場合じゃ無かった……。


「ごめん、聞いて無かった」


「まぁ、いいんだけど」


 美桜が肩をすぼめる。長い付き合いだから、相手の話を聞いて無かったくらいでは、ケンカにはならない。


「で、何?」


「改めて聞き返されると、大した話じゃないから……」


 美桜が顔を赤くした。美咲ねーちゃんが、言葉を継ぎ足してくれる。


「ミーハーなことを話してたから、恥ずかしくなっちゃったんだよね」


「ミーハーなこと?」


「うん、空をとぶのは気持ち良かったか、って」


 美桜が頬を赤くし、コクリと頷いた。


「そりゃあ、もう!!」


 私はにんまりして親指を立てた。


 その後は三人でまた夢の話をしつつ、あのノート(最近は持ち歩いている)に書き込むのを手伝って貰ったのだった。



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