第百五話 『次工程。既存ヒロインについて、過去に算出した世界崩壊評価を基礎データとして使用します。』
『次工程。既存ヒロインについて、過去に算出した世界崩壊評価を基礎データとして使用します。』
朝。日記帳を開いた瞬間、昨日の続きが始まった。
「……過去の?」
『評価済み項目。主人公関係維持度。日常生活維持度。異常隠蔽性。自己拡張性。社会波及性。世界崩壊潜在値。長期ストーリー適性。既存評価は破棄しません。』
『追加評価。苦境適合率。アクセス実績。直近使用頻度。主人公介入可能性。不可逆的変化の残存価値。救出後成長余地。』
「増やすなよ」
『基本方針。死亡、人格完全消失、既存関係完全消失は原則非推奨。苦境発生後、主人公が完全破滅のみを阻止。不可逆的変化の一部を残し、対象本人の成長および社会波及へ接続します。』
「……またそれか」
ミレアもエリナも助かった。でも全部は戻らなかった。日記は、それを成功例として扱っている。
*
『対象――女将。既存総合評価――A。世界崩壊形式――日常侵食型。世界崩壊潜在値――61。長期ストーリー適性――97。』
『推奨苦境――生活基盤喪失型。苦境適合率――82。店や生活拠点の一部を失わせ、主人公との共同生活そのものは残す構成が有効。直近使用済み。利用優先度――低。』
「低いならいい」
『対象――リサ。既存総合評価――A。世界崩壊形式――技術転換型。世界崩壊潜在値――70。長期ストーリー適性――94。』
『推奨苦境――能力依存崩壊型。苦境適合率――79。従来魔術への依存を失わせ、新しい魔術または役割へ移行可能。利用優先度――低。』
『対象――セリナ。過去評価時名称――セリア。既存総合評価――A。世界崩壊形式――自己認識収斂型。世界崩壊潜在値――65。長期ストーリー適性――93。』
『推奨苦境――自己定義競合型。苦境適合率――94。「ルークの恋人」の唯一性を揺らすことで自己認識を再び不安定化可能。直近使用済み。利用優先度――低。』
「そこは当分触るな」
*
『対象――ミレア(片手殺し)。既存総合評価――S。世界崩壊形式――正常生活併存型。世界崩壊潜在値――79。長期ストーリー適性――96。』
『片手殺し関連エピソード――アクセス実績良好。』
「また数字か」
『推奨苦境――関係衝突型。苦境適合率――97。ミレアを信頼する人物を、片手殺し被害者の遺族とする構成が有効。本人への追加身体被害不要。利用優先度――極めて高。』
ミレア自身を変えなくても、関係だけで壊せる。
『対象――クラリッサ。既存総合評価――A。世界崩壊形式――制度浸食型。世界崩壊潜在値――68。長期ストーリー適性――86。』
『推奨苦境――信用崩壊型。苦境適合率――90。正しい帳簿と社会が認識する事実を食い違わせ、信用を失わせる構成が有効。利用優先度――高。』
「身体を壊さなくても充分なのか……」
*
『対象――マルタ(死体漁り)。既存総合評価――S。世界崩壊形式――二重生活増殖型。世界崩壊潜在値――94。長期ストーリー適性――99。』
『推奨苦境――帰属喪失型。苦境適合率――95。主人公への好意は残したまま、人間社会を故郷と思えなくする構成が有効。利用優先度――極めて高。』
「……嫌だな、それ」
『対象――サラ(幸せの花)。既存総合評価――SS。世界崩壊形式――生態系置換型。世界崩壊潜在値――100。長期ストーリー適性――100。』
『推奨苦境――救済拒否型。苦境適合率――93。周囲が元へ戻そうとする一方、本人は現在の状態を幸福として守ろうとする構成が有効。利用優先度――極めて高。』
『対象――エリナ(機械人形)。既存総合評価――S。世界崩壊形式――人機境界消失型。世界崩壊潜在値――91。長期ストーリー適性――100。』
『苦境適合率――88。現在の機械人形化、身体狩り、人工部品普及を継続可能。ただし直近使用頻度が高いため利用優先度――最低。』
「しばらく休ませろ」
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『対象――エルナ・ヴェイス(ゴブリンの女王)。既存総合評価――S。世界崩壊形式――異種社会形成型。世界崩壊潜在値――93。長期ストーリー適性――99。』
『推奨苦境――共同体選択型。苦境適合率――91。人間側が誘拐と見る移住を、本人たちは新しい共同体への加入と認識する構成が有効。利用優先度――高。』
『対象――カーナ(キメラの母)。既存総合評価――SS。世界崩壊形式――種族生成型。世界崩壊潜在値――100。長期ストーリー適性――100。』
『推奨苦境――母親役割喪失型。苦境適合率――98。子供たちは生存し、愛情も維持。ただし成長と独立により、母親を必要としなくなります。利用優先度――最優先。』
「……死なないのに嫌だな」
『対象――ティナ・ローヴェル(触手姫)。既存総合評価――SS。世界崩壊形式――分枝増殖型。世界崩壊潜在値――100。長期ストーリー適性――100。』
『推奨苦境――自己派生独立型。苦境適合率――96。分枝個体が独自の仕事、恋愛、家族を持ち、本体とは別人であると主張する構成が有効。利用優先度――最優先。』
*
『対象――人間オルゴール。既存総合評価――SS。世界崩壊形式――人間資源化型。世界崩壊潜在値――95。長期ストーリー適性――99。』
『推奨苦境――公共財化型。苦境適合率――94。治療能力への需要を増加させ、本人の私生活と社会的利用を衝突させます。利用優先度――極めて高。』
『対象――ふたなり二人。既存総合評価――S。世界崩壊形式――身体分類崩壊型。世界崩壊潜在値――90。長期ストーリー適性――96。』
「二人まとめて?」
『二名間のライバル関係を主要評価対象とします。』
『推奨苦境――ライバル関係制度衝突型。苦境適合率――93。二人の関係は維持したまま、競技、婚姻、身体分類等の制度側のみが二人を別区分として扱います。利用優先度――高。』
二人は変わらず競える。でも世界の方が、二人を同じ場所へ置けなくなる。
『対象――奴隷貴族。既存総合評価――SS。世界崩壊形式――身分制度自己矛盾型。世界崩壊潜在値――97。長期ストーリー適性――100。』
『推奨苦境――関係制度矛盾型。苦境適合率――92。感情関係は維持したまま、所有、爵位、婚姻、相続等の法的関係を衝突させます。利用優先度――高。』
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『総合補正。世界崩壊評価と苦境適合率は別指標です。アクセス実績、直近使用頻度、救出可能性、救出後成長余地を加えて利用優先度を算出します。』
『苦境適合率順位。第一位――カーナ(キメラの母)98。第二位――ミレア(片手殺し)97。第三位――ティナ・ローヴェル(触手姫)96。第四位――マルタ(死体漁り)95。第五位――セリナ、人間オルゴール94。第七位――サラ(幸せの花)、ふたなり二人93。第九位――奴隷貴族92。第十位――エルナ・ヴェイス(ゴブリンの女王)91。第十一位――クラリッサ90。第十二位――エリナ(機械人形)88。第十三位――女将82。第十四位――リサ79。』
「十四人……」
『現時点主要候補。カーナ(キメラの母)。ミレア(片手殺し)。ティナ・ローヴェル(触手姫)。マルタ(死体漁り)。人間オルゴール。ふたなり二人。クラリッサは制度型候補として別枠保存。』
「保存するな」
*
『新規ヒロインについても同一評価を実施します。』
「……」
『第一段階――世界崩壊適性。第二段階――苦境適合率。第三段階――アクセス実績補正。』
『恋愛関係、家族、友人、過去、固有能力、社会的役割等が追加されるたび再評価します。』
「人間を育てて点数つけるみたいに書くなよ」
『人物が幸福になること。大切な人物を得ること。帰る場所を得ること。夢を得ること。以上は同時に、失った場合の物語価値を増加させます。』
「……最低だ」
幸せになればなるほど。
壊した時の。
価値が上がる。
*
『次工程。現時点主要候補について、具体的苦境を事前設計します。』
「もういい」
『設計項目。苦境開始条件。最初に失うもの。主人公が異常を認識する時点。主人公到着までに確定させる不可逆的変化。主人公介入により阻止する完全破滅。救出後に残す異常。対象本人の成長。社会への波及。』
ミレアの時は手を残した。エリナの時は人格だけには間に合った。
今度は。
最初から。
全部。
決める。
『候補。カーナ(キメラの母)。ミレア(片手殺し)。ティナ・ローヴェル(触手姫)。マルタ(死体漁り)。人間オルゴール。ふたなり二人。以上について事前設計を開始します。』
「やめろ!」
日記帳を閉じた。
でも。
知っている。
次に開いた時には。
誰かの次の悲劇が。
もう決まっている。




