第百三話 『各ヒロインの人間関係を調査し、利用可否を判断します。』
『各ヒロインの人間関係を調査し、利用可否を判断します。』
「……利用可否?」
朝、日記帳を開いた瞬間から嫌な言葉が書かれていた。
『直近展開において、人体欠損、機械化、身体交換等の物理的異常を複数回使用しました。』
『同種刺激の連続は読者慣れを発生させます。』
『以降、人物本人への直接的変化だけではなく、人間関係を利用した展開を検討します。』
「人間関係まで使うのかよ」
『評価方式を設定。』
『一。関係密度。最大五点。』
『二。関係変質時の悲劇強度。最大五点。』
『三。周辺人物および社会への波及性。最大五点。』
『四。既存展開との差別化。最大五点。』
『五。継続的な物語利用可能性。最大五点。』
『合計二十五点。』
「採点するな」
当然、止まらない。
『なお、総合評価点と即時利用優先度は一致しません。』
『直近で使用した人物については読者慣れを考慮し、利用優先度を一時的に低下させます。』
そこだけ。
妙に。
ちゃんとしていた。
*
『対象――女将。』
『関係密度――五。』
『悲劇強度――五。』
『波及性――四。』
『新規性――二。』
『継続利用――五。』
『合計――二十一点。』
『評価。主人公との恋愛、生活、仕事、家族的役割が同一人物へ集中しています。一関係を変質させるだけで複数の日常基盤へ同時に影響可能。』
『ただし日常侵食型展開を実施済み。』
『即時利用優先度――低。』
「よし」
『将来的利用価値――極めて高。』
「よくない」
すぐ。
次。
『対象――セリナ。』
『関係密度――五。』
『悲劇強度――五。』
『波及性――四。』
『新規性――四。』
『継続利用――五。』
『合計――二十三点。』
高い。
『特記事項。』
『「ルークの恋人」という関係が自己認識の固定軸として機能。』
『当該関係を完全消失させた場合、対象人格維持率が低下します。』
「触るな」
『ただし、消失以外の変質は利用可能。』
『複製。』
『競合。』
『誤認。』
『関係対象の増加。』
『関係名称の変化。』
『以上により、人格を残したまま高い悲劇性を生成可能。』
「やめろ」
『直近使用済み。』
『即時利用優先度――中以下。』
安心していいのか。
分からない。
*
『対象――ミレア。』
『関係密度――五。』
『悲劇強度――五。』
『波及性――五。』
『新規性――四。』
『継続利用――五。』
『合計――二十四点。』
「高っ」
『特記事項。過去アクセス実績あり。』
やっぱり。
それを。
入れてきた。
『一般市民としてのミレア。』
『パン屋で働くミレア。』
『主人公と親しいミレア。』
『匿名存在「片手殺し」。』
『以上が社会認識上分離している点は高い利用価値を持ちます。』
『利用可能関係。』
『被害者遺族。模倣者。信奉者。捜査者。正体を知らない友人。片手殺しを憎む人物。』
『本人へ新規の直接被害を与えずとも展開可能。』
『即時利用優先度――極めて高。』
「アクセス数だけで決めるなよ……」
*
『対象――エリナ。』
『関係密度――四。』
『悲劇強度――四。』
『波及性――五。』
『新規性――三。』
『継続利用――五。』
『合計――二十一点。』
『機械人形化、身体狩り、機械身体普及について直近使用済み。』
『本人の社会関係は急速に拡大中。』
『身体狩り被害者。』
『機械部品利用者。』
『医療従事者。』
『人体部品流通者。』
『機械化を希望する者。』
『以上との関係形成が可能。』
『即時利用優先度――低。』
「しばらく休ませろ」
『休止による社会変化蓄積は有効です。』
「そういう意味じゃない」
*
『対象――サラ。』
『関係密度――三。』
『悲劇強度――四。』
『波及性――五。』
『新規性――五。』
『継続利用――四。』
『合計――二十一点。』
『本人が現在状態を幸福と認識している点を評価。』
『本人の幸福を維持したまま、救済希望者、除去希望者、共生希望者等を対立させることが可能。』
『「本人を救おうとする行為が本人の意思に反する」という構図を利用できます。』
『即時利用優先度――高。』
本人を。
直接。
不幸にしなくても。
周りを。
壊せる。
そのことまで。
評価されている。
*
『対象――マルタ。』
『関係密度――四。』
『悲劇強度――四。』
『波及性――四。』
『新規性――五。』
『継続利用――四。』
『合計――二十一点。』
『帰還関係の認識差を利用可能。』
『主人公側――「帰ってきた」。』
『対象側――「立ち寄った」。』
『恋愛および親愛を維持したまま、帰属意識のみを人間社会から切り離す構成が有効。』
『即時利用優先度――高。』
「それ」
嫌だった。
嫌いになるより。
遠くなる方が。
多分。
きつい。
*
『対象――カーナ。』
『関係密度――五。』
『悲劇強度――五。』
『波及性――五。』
『新規性――五。』
『継続利用――四。』
『合計――二十四点。』
「……」
『主要利用関係――母子。』
『本人への直接的被害は不要。』
『子の独立。』
『異種族化。』
『文化分裂。』
『母親役割の不要化。』
『子供から拒絶されずとも、必要とされなくなるだけで高い悲劇性を生成可能。』
「そこを使うな」
『即時利用優先度――極めて高。』
嫌な。
評価だった。
*
『対象――ティナ。』
『関係密度――四。』
『悲劇強度――五。』
『波及性――五。』
『新規性――五。』
『継続利用――五。』
『合計――二十四点。』
『分枝個体という既存設定を利用。』
『分枝個体が独自に恋愛、結婚、家族、仕事、社会的地位を獲得した場合、本体との関係変質が発生します。』
『本体より分枝個体の人生が充実した場合、自己価値比較が可能。』
『さらに、分枝個体が本体との親子、姉妹、同一人物等の関係定義を拒否した場合、新規展開へ接続可能。』
『即時利用優先度――極めて高。』
「二十四点、多くない?」
『高利用価値人物が複数存在することは連載継続上有利です。』
「返事するな」
違う。
返事じゃない。
偶然。
次の文章が。
そう見えただけだ。
*
『対象――リサ。』
『関係密度――四。』
『悲劇強度――四。』
『波及性――三。』
『新規性――四。』
『継続利用――四。』
『合計――十九点。』
『過去被害および魔術師という属性は利用可能。』
『ただし、現時点では他対象と比較して固有の人間関係フックが不足。』
『新規関係形成後に再評価。』
『即時利用優先度――中。』
「再評価まであるのかよ」
『対象――エルナ。』
『関係密度――四。』
『悲劇強度――四。』
『波及性――五。』
『新規性――四。』
『継続利用――五。』
『合計――二十二点。』
『個人関係に加え、ゴブリン共同体そのものが関係対象。』
『人間社会との対立、移住者、家族形成、文化的帰属変更等へ発展可能。』
『即時利用優先度――高。』
『対象――クラリッサ。』
『関係密度――四。』
『悲劇強度――四。』
『波及性――五。』
『新規性――五。』
『継続利用――四。』
『合計――二十二点。』
『制度および契約による関係変化に適性。』
『恋愛感情そのものを変更せず、法的関係のみ変更することで感情と制度の矛盾を生成可能。』
『即時利用優先度――高。』
*
『対象――人間オルゴール。』
『関係密度――三。』
『悲劇強度――五。』
『波及性――五。』
『新規性――五。』
『継続利用――三。』
『合計――二十一点。』
『個人的人間関係より、公共利用関係に高い価値。』
『治療を求める多数と、本人を休ませたい少数を対立させる構成が利用可能。』
『一個人を公共設備として扱う倫理問題へ接続可能。』
『即時利用優先度――高。』
『対象――奴隷貴族。』
『関係密度――四。』
『悲劇強度――四。』
『波及性――五。』
『新規性――五。』
『継続利用――四。』
『合計――二十二点。』
『主人、奴隷、貴族、領主、家族、契約者等の関係が複数重複。』
『感情を変更せず、所有関係のみを書き換えることで制度的悲劇を生成可能。』
『即時利用優先度――高。』
『対象――ふたなり二人。』
『関係密度――四。』
『悲劇強度――三。』
『波及性――五。』
『新規性――五。』
『継続利用――四。』
『合計――二十一点。』
『二者間競争関係に加え、婚姻、家系、性別分類、制度適用等への波及が可能。』
『個人的悲劇より社会制度変化に適性。』
『即時利用優先度――中高。』
*
それで。
終わりかと。
思った。
でも。
ページは。
まだ続いた。
『現時点総合順位。』
『第一群。二十四点。ミレア、カーナ、ティナ。』
『第二群。二十三点。セリナ。』
『第三群。二十二点。エルナ、クラリッサ、奴隷貴族。』
『第四群。二十一点。女将、エリナ、サラ、マルタ、人間オルゴール、ふたなり二人。』
『第五群。十九点。リサ。』
「点数低い方が安全ってわけでもないんだろ」
当然。
答えない。
『評価点は固定されません。』
「……」
『新規の恋愛。』
『結婚。』
『出産。』
『家族形成。』
『友人関係。』
『師弟関係。』
『依存関係。』
『敵対関係。』
『社会的地位。』
『過去人物との再会。』
『以上が追加された場合、随時再評価します。』
人間関係を。
作るほど。
点数が。
上がる。
『関係を獲得することは、物語上の利用可能箇所を増加させます。』
「最悪だな」
誰かを。
好きになる。
家族ができる。
友達ができる。
大切な場所ができる。
普通なら。
良いことなのに。
この日記では。
全部。
壊せる場所が増えた。
という意味になる。
*
『新規ヒロインについて。』
「……まだあるの?」
『今後、新規女性人物がヒロイン候補条件を満たした場合、同一方式による初期評価を自動実施します。』
背筋が。
嫌に。
冷えた。
『新規人物初期評価。』
『主人公との接触時点――仮評価。』
『主人公との継続関係成立――再評価。』
『恋愛候補化――再評価。』
『固有設定獲得――再評価。』
『家族、友人、敵対者、庇護対象等の追加――再評価。』
『世界変化との接続――再評価。』
『アクセス実績発生――再評価。』
「アクセスまで」
『新規ヒロインは既存設定による制約が少ないため、新規性評価を高く設定可能です。』
『ただし人間関係が少ない初期段階では、関係密度および悲劇強度は低く評価されます。』
『例。』
『新規ヒロインA。』
『主人公と初対面。家族関係不明。特殊能力なし。』
『関係密度――一。』
『悲劇強度――一。』
『波及性――一。』
『新規性――五。』
『継続利用――三。』
『合計――十一点。』
『その後、主人公との恋愛関係成立。家族登場。固有能力判明。社会的役割獲得。』
『再評価。』
『関係密度――五。』
『悲劇強度――五。』
『波及性――四。』
『新規性――四。』
『継続利用――五。』
『合計――二十三点。』
「育てるみたいに言うなよ……」
でも。
その通りだった。
登場した時は。
ただの十一点。
話して。
一緒に行動して。
好きになって。
家族を知って。
過去を知って。
夢を知って。
帰る場所を知る。
そうすると。
二十三点。
つまり。
俺が。
その人を知れば知るほど。
日記にとっても。
使いやすくなる。
*
『追加評価項目。』
『アクセス実績補正。』
「……」
『対象人物の登場回において平均アクセス数を上回った場合、即時利用優先度を上方修正します。』
『感想数増加。』
『継続閲覧率上昇。』
『次話遷移率上昇。』
『以上も補助評価として利用します。』
『評価点が低い人物でも、アクセス実績が高い場合は優先利用可能。』
『評価点が高い人物でも、直近使用頻度が高い場合は保留可能。』
つまり。
点数だけじゃない。
数字まで。
見る。
『最終評価方式。』
『人間関係評価点。』
『アクセス実績。』
『直近使用頻度。』
『新規性。』
『既存設定との接続性。』
『以上から次回展開対象を選定します。』
「選ぶな」
ページが。
止まった。
少しして。
最後の文章。
『既存ヒロイン評価――完了。』
『今後登場する新規ヒロインについても、随時評価を実施します。』
『人間関係の増加に伴い、評価点は更新されます。』
俺は。
日記帳を閉じた。
今まで。
新しい人間と出会うことは。
少し。
楽しみだった。
今は。
違う。
次に。
誰かと出会った時。
この日記は。
その人の名前の横に。
何点。
と。
書くのかもしれない。
俺と仲良くなれば。
点数が上がる。
恋人になれば。
もっと上がる。
家族ができれば。
さらに上がる。
大事なものが。
増えるほど。
高くなる。
そして。
高くなった人間から。
次の話に。
使われる。




