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婚約破棄されましたが、辺境伯様と魔石爆弾で幸せになります!  作者: にのまえ


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1話

「ふふ、お姉様は誰からも愛されないの」


 そんなこと妹のあなたに言われるまでもなく、私はよくわかっている。


 だから私は、せめて自分の好きなように生きることにした。だから、あなたたちも私に構わないでください。


 ⭐︎


 王都にあるストール学園を卒業した後、私は婚約者に呼び出され、王城へと赴いた。


 それは「話がある」と婚約者の彼に告げられたからだ。


 けれど、応接室へ通された彼は私を呼びつけておきながら、何も話そうとしない。殿下はソファに腰掛け、静かに紅茶を口に運んでいるだけ。


 しばらく沈黙が続いたあと、ようやく話す気になったのか、彼が口を開いた。


「ローリス嬢、君との婚約を破棄する。この件はすでに国王陛下と王妃殿下、そして君のご両親にも伝えてある。よって、これは決定事項であとは任せておけ」


「あとを任せる? 殿下は私との婚約を、破棄するのですか?」


 そう問い返しながらも、胸の内に広がったのは悲しみではない。やっと終わったと、私はずっとこの日を待っていた。


 ⭐︎


 ミサロ殿下と初めてお会いしたのは、互いに十歳の頃。

 王城の庭園、咲き誇る薔薇に囲まれたその場所で、私たちは初めて言葉を交わした。


 だが、挨拶を終えた直後だった。

 不意に、鋭い痛みが頭を貫く。


「っ……!」


 思わず額を押さえた瞬間、濁流のような記憶が脳内へ流れ込んできた。次々と押し寄せる記憶に息を呑みながら、私はゆっくりと顔を上げる。


 そして、目の前に広がる庭園を見渡して息を止めた。


 まさか、ここ……私はこの場所に見覚えがあった。それは最近まで読んでいた小説『可愛い彼女』その挿絵に描かれていた、薔薇咲く庭園に酷似していた。


(嘘でしょう。私、転生したの……? なら、誰になったの?)

 

 庭園にふわりと吹いた風に揺られ、ハニーブロンドの髪が見えた。この温かみのある金色の髪はもしや、公爵令嬢ローリス・シャロレート? じゃあ目の前にいる緑髪の男の子は私の婚約者になる、第一王子ミサロ・ドルタラスの幼少期。


(小説の挿絵でしかミサロ殿下の顔は知らないけど、子供の頃は可愛い顔をしていたんだ……ちょっとタイプかも)


 だが、ここは小説の世界で私の妹ルルアが幸せになる世界で、私は彼女の姉で脇役のモブ。殿下に恋しても彼とは結ばれない。いつの日にか別れが待っている。


 ⭐︎


 婚約破棄されることは、小説の内容でわかっているけど。幼い頃から始まった慣れない王妃教育で落ち込んだ私に「ゆっくりでいい、自分の出来る範囲で頑張ればいい」と励ましてくれた。


 殿下と長年過ごして彼の新しい一面を知るたびに、私は惹かれていった。だけど、学園で妹のルルアと出会い恋仲になったのを見て叶わない恋だと知り、この恋をあきらめることにした。


 そして今日、この日を迎えた。

 この気持ちも、落ち着いている。


「わかりました、殿下との婚約破棄を受け入れます。今まで、ありがとうございました」


 そう返して、私は静かに微笑んだ。

 その瞬間、ミサロ殿下の眉がわずかに跳ねる。


「……なんだ? 俺との婚約がなくなるのがそんなに嬉しいのか?」


「えぇ、そうですね」


 私は迷いなく頷く。


「これからは、殿下の執務を支える必要も厳しい王妃教育に追われることもありません。ようやく、心置きなく魔法研究に没頭できますわ」


 そこで一度言葉を切り、彼をまっすぐ見つめた。


「殿下だって、想う方と結ばれるのでしょう? でしたら、どうか喜んでください」


 彼は皮肉げに口元を歪める。


「そうだな、せいぜい喜ばせてもらうよ」


 これは最後の強がりのようなもので、嘘でもはない。

 けして結ばれない恋を知ったいたけど、それともう一つ、自分に膨大な魔力が宿っていることも知っている。


 本来なら、この力を使って妹を虐げる悪女になるはずだった。だけど、私はそんな未来が嫌で自分の為だけに使い、気づけば魔法研究にのめり込んでいた。


(……そうね。最初は寂しさを紛らわせるためだったけど)


 苦笑を胸の内だけに留め、私は淑女の笑みを浮かべた。


「殿下、話は終わりましたわよね? あとのことは、すべてお任せしてもよろしいのですよね?」


 婚約の破棄を告げられ、それを受け入れた。

 ならば、もうこの場に留まる理由はない。


 早く立ち去りたい。そんな私の意図を察したのか、殿下は短く「ああ」とうなずいた。


「この後、父上と母上への話が済み次第、君の口座に慰謝料を振り込ませる」


「慰謝料……まあ、いただけるのですね。ありがとうございます。では、もうご用がないのでしたら私はこれで失礼いたしますわ」


 ソファから静かに立ち上がり、淑女として完璧な礼を一つ。それを最後に私は応接間を後にした。


(ここに来るのもこれが最後)


 ⭐︎


 馬車の窓から流れる景色を眺め、少しくらい泣くのかと思っていた。けれど、涙はとうの昔に枯れてしまっていたらしく、一粒たりともながれなかった。


(涙吐かれたみたい。それと、話の流れがかなり変わったわ)


 小説のとおりだったら、私は殿下の最愛である妹のルルアを虐げた罪を着せられて、国外追放。あるいは魔物の巣食う、スカーロンの森へ置き去りにされる運命だったのだ。


 妹を虐めなかったのもあるのかもしれないけど、この場にルルアが現れなかったのも良かったのかも。今朝「好きなものでも買ってあげてください」と、両親へお金を渡しておいて正解だった。


 今頃、買い物に夢中なルルアは私に構っている暇などない。

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