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未知の大陸へ  作者: かなめ
8/8

反撃

よろしくお願いします

森の奥で、乾いた銃声と金属音が交錯していた。


 リオラは双剣を振るいながら一歩引き、炎を纏う“それ”の動きを睨んでいた。

 風を帯びた刃で弾くたび、火の粉が散り、焼けた土の匂いが立ち上る。


 ――まずいな。


 見える。

 攻撃の“起こり”は確かに感じ取れる。

 だが、さきほどのような確信はない。光る石は、もう沈黙している。


「リオラッ!」


 カイエの声が飛ぶ。


巨大なライフルが火を噴き、弾丸が炎の化け物の肩口をかすめた。効いている様子は薄い。


それでも、注意を引くには十分だった。


 その瞬間だった。


「――リオラ! カイエ!」


 少し離れた場所から、若い男の声が響いた。


 二人が思わず振り返る。


 ダリウスが、駆けてくる。


 片手には血に濡れた布。中に包まれているものが、かすかに光を放っていた。


「持ってきた! 例の“光る器官”だ!」


走りながら叫ぶその声は、いつもの軽口混じりではない。


 知的な眼差しが、確信に満ちていた。


「……本当に切り出したのか」


 リオラが短く言う。


「セリナのおかげだよ。」


 そう言って、ダリウスは布を放る。


 リオラが受け取った瞬間、掌の奥が微かに熱を持った。


 ――反応している。


 カイエにも、もう一つが投げ渡される。


「一人一つずつだ。」


 ダリウスは息を整えながら続けた。


「脊髄の一部だ。あの風の化け物と同じ場所が、まだ生きてるみたいに光ってた。触れた瞬間……分かった。これ、道具じゃない。“器官”だ」


 リオラは無言でそれを握りしめる。


 次の瞬間。


 双剣の周囲で、空気が震えた。


 ごう、と低い音が鳴る。

 風が、集まっている。


 リオラの目が細くなる。


「……来たな」


 同時に、炎の化け物が吼え、火の塊を吐き出した。


「下がれ!」


 リオラは一歩踏み込み、双剣を交差させる。


 ――切れる。


 確信とともに振るわれた刃が、炎を裂いた。

 風が刃となり、火を押し返す。


「おい……」


 カイエが、にやりと口角を上げる。


炎の化け物が大きく身を捻り、再び火を噴き上げた。


「来るぞ!」


 カイエの声より早く、リオラは前に出ていた。


「下がれ、リオラ!」


巨大なライフルを肩に食い込ませ、迷いなく引き金を絞る。


狙いは――頭。


 四肢も胴も異様に発達している。


 だが、生き物である以上、核はそこにあるはずだ。


轟音と共に放たれた弾丸は、化け物の頭部へ一直線に飛ぶ。


だが、直撃の瞬間、見えない何かに弾かれ、火花を散らした。


 ――来い。


 布越しに触れる、光る器官。

 だが。


 沈黙。


 光らない。

 ダリウスの時のような脈動もない。


「……まぁいい」


 小さく呟き、すぐに意識を切り替える。


 頼らない。


 いや、頼る必要がない。


 引き金を引く。


 轟音と共に弾丸が飛び、化け物の頭部へ突き進む。


 また弾かれるが、障壁がわずかに歪む。


「弱点であろう頭を守るってことは――そこが要だ」


 炎が弾ける。


 カイエは地面を転がり、木陰に滑り込む。

 それでも照準は頭から外さない。


 胸元の器官は、依然として沈黙したまま。


 だが、カイエの呼吸は乱れていなかった。


「光らなくても、撃つ場所は変わらねぇ」


 次弾装填。


 狙いは一点。


 頭。


 ――そして、裂け目が生まれる。


 その瞬間を逃さず、カイエは叫ぶ。


「今だ、リオラ!」


 風が唸りを上げ、

 戦況が一気に傾いた。


炎の化け物が崩れ落ち、黒く焦げた地面に沈黙が訪れた。


 最後の一太刀を振り抜いたリオラは、ゆっくりと双剣を下ろす。



 立ち上る熱と煙の向こうで、敵はもう動かない。


 カイエは銃口を下げ、しばらくその光景を見つめていた。


 ――終わった。


 胸の奥で、ようやく緊張がほどける。


 だが、次の瞬間。


 彼の意識は、別のところへ向いていた。


 胸元。


 布越しに感じる、あの器官。


 光らない。


 リオラが拾った石は、戦いの最中に確かに応えた。


 ダリウスの手に渡った器官も、触れた瞬間に発光し、

 銃弾に風を宿らせた。


 なのに。


 「……なんでだ?」


 思わず、声が漏れる。


 力が足りないとは思わない。


 覚悟も、判断も、戦い方も――間違ってはいなかったはずだ。


 カイエは無意識に、リオラの背中を見る。


 あの男は、剣を振るい、前に出て、

 迷わず命を賭けた。


 次に、ダリウスを見る。


 恐怖に震えながらも、理屈を信じ、自分にも使えると踏み込んだ。


 ――じゃあ、俺は?


 引き金は引いた。

 弱点も見抜いた。

 仲間を信じて、道を作った。


 それでも、応えはない。


 カイエは拳を握りしめ、そっと胸元を押さえた。


「……選ばれなかった、ってわけでもなさそうだな」


 自嘲気味に呟き、銃を担ぎ直す。


 風が収まり、森は再び静けさを取り戻した。


 ダリウスは、手の中の器官を見つめていた。


 先ほどまで淡く輝いていたそれは、今や――


 沈黙している。


「……光、消えたね」


 確かめるように呟く。


 リオラもまた、ポケットから拾った石を取り出した。


 あれほど強く応えた光は、すでに失われている。


「一度きり、か」


 静かな声だった。


 視線が、カイエへ向く。


 カイエは胸元から、布に包んだ器官を取り出す。

 それは――


 まだ光を宿していた。


 弱く、だが確かに。


「俺のは……使ってねぇから、か」


 カイエの声に、驚きはない。

 むしろ、納得しているようですらあった。


 ダリウスが眉を上げる。


「…使用が条件か?」


「可能性は高い」


 リオラは短く答え、三つを見比べる。


 光を失った石。

 沈黙した器官。

 そして、まだ輝く一つ。


 その価値を、即座に理解していた。


「……これは、ただの未知なる力じゃない」


 低く、しかし断言するように言う。


「使い方によっては戦争になるだろう」


 仲間たちが息を呑む。


 リオラは続けた。


「これをリンネルに持ち帰る。独断で深入りする段階じゃない」


 森の奥を一度だけ見据え、言葉を切る。


「報告するため一旦帰国する。国を挙げて調査するべきだ」


 カイエが、わずかに口角を上げる。


「総出、か。大事になりそうだな」


「なるな確実に」


 風が収まり、森は再び静けさを取り戻した。


「この力が制御できれば、

 国の在り方そのものが変わる」


 ダリウスは、沈黙した器官を握りしめながら、

 目を輝かせる。


「……歴史が動く、ってやつだね」


 セリナは不安そうに森を振り返った。


「でも……この大陸、まだ何かいそうです」


リオラは頷く。


「だからこそだ」


 一歩、前へ。


「無理に踏み込まない。次は、準備を整えて来る」


 光る器官をしまい、双剣を収める。


「生きて帰るぞ。報告は、俺がやる」


 その言葉に、誰も異を唱えなかった。


 彼らは知らない。


 この判断が、

 やがて世界を巻き込む戦いの

 最初の分岐点になることを

読んでいただき、ありがとうございました!

もし良ければブクマや評価をつけていただけると、とても励みになります。


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