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暗い夜中の襲撃

「麓まで近くまで討伐隊が来ていますが、動きが見られません」

「そう」

 エフィと呼ばれた女は困った様に眉を顰める。

すぐに頭を振って話を続けた。

もう真夜中だ。

「斥候は?」

「村人の中から狩の経験があるものや道に詳しいものにやらせたところ、何度か衝突をしました」

 もう戦支度がなされているのか。

「そう。無事だった?」

「怪我人が出ました」

見舞いにいかなくてはならないだろう。

「要塞化の調子はいかが」

「そちらは順調です。水に関しては井戸水を主に使うように指示を出しました。地下水道の供給に関しましては変化は見られません。守兵もおります。おそらく無事かと」

「食料は?」

「暫く。備蓄は麓の街に集合しておりますので。ただ備蓄の一部に関しては」

「税か。困ったね」

「気にしなければ、たまたま収穫にかみ合っているから何とか処せるかと。いや、だからやってきたのかもしれませぬ」

 国の始まりは定期的な略奪だったという。そういう意味ではかわならいのかもしれない。

警戒を優先するだろうけども、外を警戒していた騎士と準騎士を呼び寄せて要塞化が行われている。

「堀は今の所入口方面に形成し、簡易な橋を掛けています。木材は多少切り出しましたが簡易的な壁は可能です。ただ、人手がたりません。本格的なものは厳しいでしょう」

「石切場はあったかしら」

「廃城に使われたものがありますが」

「近いわね。山の中です。矢を、これは私がいますね。人を防げるだけよしとしましょう」

 ぎい。暗い夜中に雨が降る。

側の騎士が剣に手をかける。

「お迎えにあがりました」

「何者だ。名乗れ」

 男達は名乗らなかった。

3つの影だ。2人は男、1人は女性だろう。推測となっているのは誰も彼もが姿がはっきりとしない服装だからだ。恐らくは影に潜む者たち。

2人が扉近くに控え、1人の男が進み出る。

「我々はさる貴人により貴方をお連れするように言われたものです」

 近付こうとする者を騎士は制する。それから差し出された物を受け取った。

 男達が見せたのは手紙のような物だ。正しくは封のされてない紙と内の紙の印字だ。

「これは…まさか」

「ええ、まさしくでございます」

 何も文字はなく。

そこには、一つの印章が押されていた。

禁章。人には使ってはならない紋章がある。

不敬となり、或いは個人識別のためで、これはその最もたる物。

陛下だ。まさか、こんな事に?正式なそれではないが

「つきましては我々に同行していただきたく」

護衛の一人が声を上げる。

「まて、目立つだろう」

それなりに早いうちならばともかく軍人経験のあると目される山賊がいて、斥候まで出ているのに?

「はい。なので『貴方達護衛』は置いていきます」

「なに?」

目尻を吊り上げる。そりゃそうか

「聞き捨てならないな。我らの栄光ある使命にして、それ以上に警備は我々の役目だ。それとも何だ?お前たちが我らのかわりをできるとでも?」

「そこの娘は、魔法兵にございます」

女が会釈する。

「なに?兵などと魔法使いはどう足掻いても個人となるだろうに」

「不服でしょうか?」

判然としない装束を見ながら、内心では眉を顰めた。

 分からない。そういうのは簡単だった。

魔法使いは数が少なく。そして上が空をも超えるなら下は泥の中、1人1人生まれた魔法の技は異なり、魔法を複製する株分けと呼ばれる手法を用いても厳密には同じ技は使えない。

それでいて株分された魔法もまた安定しずらい。安定し辛いだけで実用で使えるならば弱いことはないだろう。

そもそも、人間自体標準化するような物でもないし、できると思うのは傲慢だろう。

 思わずエフィは杖の先、ガラス玉のような石に触れる。

値踏みするような目を向けてしまっているだろうか?魔法兵と呼ばれた人物は居心地の悪そうに棍と思われる武器を動かした。

しかし、魔法兵と言うならば株分けに使われる記録石と呼ばれる道具を持っているはずだが、どうにも見当たらない。

 強いて言うなら棍だろうが、記録石がついているようには見えず、太さは不均一で持ち手の方が太く曲がっている。とても人を殴るために物には見えない。


「そもそも、陛下の言がございます」

人影のような人間はそう囁いた。

護衛の騎士は色めき立つ。

とはいえ

「まあ、仕方がないわ」

「姫様。しかしです」

「何かあっても貴方の責は問わない。それに麓で討伐軍が止まっているのが気になるわ」

 とはいえ、だ。

 音がする。いつしか夜中の暗天には鬱蒼とした雨が降っていた。

 いうまでもなく大罪だが、禁章が偽物であるという可能性はないわけじゃない。むしろ何かしらの策謀が蠢いている以上はそうあってもおかしくは無い。

 把握しきれぬ状態の中、まるで慣れぬままに何かを動かす歯車になったように従う事が義務付けられている。

その動きはいつ破断してもおかしくはなく。

それも誰からか別の何かが挟まっていてもおかしくは無い。

 一体どうすればいいのだろう。

間違えて転げ落ちているのでは無いか。

 憂鬱に思っているのだろう。

きっと、不健康な病魔はいずれ膿む。

ーーーー

ーー

雨音がする。

 嫌に頭巾を打つ。

エフィは杖にしきりに触れていた。暗い夜に移動するなどと言われ恐れているのだ。

 枝葉が潰れる音が途絶える。先導していた男が進むのをやめた。

私が止まったのだ。

「行き先は、どこ?」

「味方のところに御座います」

「『味方』っていうのは、誰の?」

空気が急に緊迫する。

後ろで枝を踏む音がする。移動したのだ。回り込まれている。

 後ろに1人、前に1人。女はどこか

道がおかしい。判別を防ぐためか酷く複雑な道順をしていたが、エフィはそもそもがこの地域に詳しいのだ。

 逆に知らないならば、彼等には情報を得ていないと言うことになる。

「ここでいいでしょう」

その言葉を聞くと抜杖する。

 振り向きざまに杖をつきだす。すると、波濤となった魔法が押し返すだろう。見てはいない。次に剣を抜いた。

 杖を盾とする。

すると、硬質な音を立て何かしらの暗器が『空間の壁』にぶつかり落ちる。

「矢払いか…!」

 暗器を放ったのは正面の男であった。

杖から放たれた魔法が盾となったのだ。よく知られた魔術なのだが

抜き放った剣をそのまま突き込んだが、抜けられる。

 弱くは無い。


さっと目を向けると後ろの男が揺れながらも復活してしまった。

 禁章が盗用されるなんて死体が出ますね。

声にならない声でボヤいた。

 確実に敵、ならば

パッと道を外れる。

鬱蒼とした低木の茂み。だが、“薄い”

弾力を持って茂みが抑え込みながらも、突進の勢いで圧し折る。

 崖だ。しかし、上下の位置の差は小さい物だ

崖のようになりながらも直下にも似た低木

身体を斬り裂かれるままに捻じ込み、着地する。

 一人、暗部の男が乗り込んだ。

おそらく、回り込まれる。女は?分からない。

太い枝に手をかける。

力を込めて飛び出し、更に逃走を


 光が、腕を撃った。

「ッツ、なに」

落下する中、身体を抑えられた。

枝が口に入り込む。バリバリと皮膚を削る。

 鉄くさい。いや匂いがする。

いた。女だ。さっきの小さな崖の上、いいや崖より上

 浮いているのだ。山の木々より上、空中にいた。

鉄の筒、棍ならざる魔術の杖を私に向け、4枚の羽を持つ足場に乗っている。

だから気付けなかった。人は空を飛べない。

ーーーー

 いつのまにか降っていた雨が川を増水する中のことだ。

川を沿って進んで行けば廃城からほど近い沢に出る。

丁度いい目印である事は勿論、暗いのだ。

前世と比べては勿論、知っている道もまた日が落ちただけで見通しは酷く悪い。


 …失敗したかな。

そう思いながら見上げると雨粒が目を打った。

 近くの獣道を上がればすぐそこに目的地が見える。はずだ。

ぶるりと震える。

雨が酷く視界の悪い。

厄日だった。


 だから、直ぐに動けたのは偶然だ。

近くの岩が動いているのだ。

ドアのように、ただしいつの間にか隙間のゴミでも詰まっていたかのようにつっかえて


 剣の柄を握る。

吐息が白い煙となる中、岩は、扉は完全に開いた。

誰も、出てこない。

「…雨が降ってるんのか。まあいい行け、飲み水と沢の確認は優先だ。ほら行け」

「わ、わかりやしたよ」

 誰だ?確認しなくては

3人組の男だ。

 二人は、そう。山賊だ。

細部は違うがどうにも給水施設で戦った輩と似た風体をしている。

 一人は、曲刀使い。

目をあげるとすらりと足を運び、鞘と刃が触れる音を立てて振り下ろされた。

剣を振りかざし、防ぐ。

 敵だろう。恐らくは

少なくとも隠し通路の先に待ちかまえていたらそう判断される。


 火花が散る。

明るく。瞬間的に顔を照らし出し、男が片目である事を視認した。

隻眼。或いはイェク・チャシム。

曲刀、シャムシールを使う軍人上がりの山賊だ。


 剣を振るい。いなすと再度、前に出て骨盤と足の間。関節を狙う。

イェクはがっつりと下がる。

 3人か。まずい。

焦りを抑えたリエントは空の手も剣に当てて構え直す。

「いやあ、すみません。実は旅のものでして飲み水を補充できる場所を確認したくてこの沢までやってきておりました」

 イェクは白々しいと吐き捨てる。

「この雨の中をか?より体温が下がるだろ。それに…」

 ゆっくりと剣を背け、手首のスナップで振るう。すると、生き物のように“しなり”刃の先端が首筋に伸びた。

 曲刀で何処と無く丁寧にいなされた。

だが、刃先が跳ねると取り巻きを一人突き刺し跳ね飛ばす。

 一瞬でも躊躇してくれればとれただろう。或いは、弾こうとしたら先端が“振れ”て一撃入った。

「その玩具、妙な形をしているな?知っている。祖国の戦場で見たが、使い手は代替わりしたってか。運がいいなそりゃ」

 ペロリと舌が唇を舐める。

「勇者は闘う者だが、雑兵は刈る者ってわけだ」

地面を蹴飛ばし後退する。長くなった剣の内側に男が入った。

 曲刀と言う奴は肉を切ることに向いた武器だ。まともに受けるわけにはいかず、武器を合わせたいところだが、今のこれは長すぎる。

長くなったままの剣を振り回す。

 二重三重にハチャメチャに波打たせる。

するりと抜けた男は傷一つなく刃を向けた。

 チクリと、皮膚が痛む。

突如、刃の根元が膨れ上がりイェクを押し流す。いいや、引かせた。

 チクチクと、掌が痛む。

見ると皮膚を食い破り赤い血が覗いていた。

剣が言っているのだ。もっとだ。もっと危険を冒せと

 痛みが、手をしびれさせる。

仕方ない。敵を正面にとらえた。

男だ。民族衣装、ではないだろう。どこか簡素な服だ。戦闘用ではない。あるいは外されているのか。だが、髪の束ね方に耳のリングの後、なんというか〝ラフ”だ

「軍人だと聞いていたんだけどな」

「へぇ、軍人だと聞いていた。ねぇ。それならなぜ来た?」

イェクは殊更、おちょくるように剣の先端を振るってみせる。

「腕に自信があったのか。それともお馬鹿なのかな?ああ、オレを知らなかった?なるほど確かに地味だ。ただの人間だとも」

「どっちがお好みだ?」

「実は瀕死ってのがいい。そっちの方が楽だ」

「それは悪いね。お馬鹿さんなんだ」

暗い中に雨が降っている。身体が重く。冷えていく。

いつの間にか残っていた一人は消えて行ったらしい。

 痛みに、慣れた。

掌を抉る感覚を感じ始める。

剣が蠢きイェクを退けた突起が即席の剣のように姿を変える。

 前傾になり、武器の刃を向け敵に突っ込む。

「好戦的な言葉の割りには随分と殺意が薄い」

 一歩、イェクは退いた。

そして振り返ると、後ろから後頭部に伸びた元からあった剣の先が、貫く事なく流される。


 通じなかった。でも別にいい。

正面から打ち込む。受け止められた。

 イェクもまた直ぐに気付いた。

風切り音、一度しのがれた本来の刃先がもう一度襲いかかってているのだ。

今度は躱される。動きを止めて更に追撃させ、逃げ道を潰すべく回り込む。

 まだ振れない。

イェクもまた。剣を振らない。


 気付かれたならそれでいい。

奇怪でこそあるものの変形武器の強みは人の想像外である事だ。

その殺意は奇襲、だが受け辛く負荷になるのもまた正しい。

 やがて、数合。打ち合う事、イェクの血が飛ぶ。

リエントは未だに安全圏だ。

「…まったくだな。魔法相手に魔法が無いのは厳しいか」

 イェクは飛び退いた。

追撃の刃がぬるりと追いかけるだが、止まってしまった。

「うん…」

 とっさに数秒だけリエント本人も動きを止めてしまった。

その数秒で、イェクは足音を立てて完全に姿を消してしまった。大きな音を立てる。

 触れると分かる。入り口だ。

先にはバリケード、木だろうか。何かを倒して行ったようだ。

「岩の扉か。戻って行ったのか」


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