うたたね
今生の父は子供のような人だった。
無邪気ではない。腕を失った人だった。
小屋から出た樹林のような墓の近く少し小高い場所がある。
父はそこでいつも花を摘み、へらへら笑っていた。
今生の母は剣が扱える人だった。
明言はしなかったが強烈な自負を持ち、子供心にうんざりした。
いいや、何よりそうではないかと問えば否と帰ってくる。
自分を何にしたいのかと問うと決まってお前が決めろという。
しかし、次の日には武功を立て貴族になれと言った。
母はなぜか一部の術に明るかった。
当然、殺し合いの術である。
ーーー
うららかなひだまりの声がする。
蜂だろうか?。危険を示す配色で威嚇する虫だ。
ふと思うに同じ蜂なのだろうか。
リエントは少し考えようとしたがどうだっていいかと思い直した。
ああ、そろそろ花が咲く。
墓木といってもこの墓は樹木をまんま埋めているのだ。そりゃ花の一つや二つ咲くものだろう。
そうそう、別に季節で分かれているわけではないが今年は賊も取れる。
つい先日の山賊が、ほらなんとかいう奴の残党がこの辺りまで来ていたのだ。
おかげで生臭い水にありつくことになったからよく覚えている。
「ぺっ」
唾を吐く声がする。
リエントは文句を言おうとして、やめた。
そりゃ気に食わなければ紛らわせたくもなる。
ここ、お墓なんだけどなあ。
巨大な樹木葬の産物であるドデカい墓木に縛り付けられた男達を見た。
連絡はしたから誰かしら受け取りに来るだろうけど、きっとマシな暮らしができるんだよ?
確か賊を狩っているのは国のお姫様とその騎士団らしい。
近場の古い城塞を回収して賊狩りのために住み着いているのだとか。
最近は放置されている傾向にあったもののあの城は民衆の避難できる距離にあることが重要な拠点だったらしくしっかりと直されたらしい。
勿論、というべきなのか山中の村では一度挨拶に出向いたのだとか、まあ行ってないけど
風を切る音を聞いた。
翼でだ。両翼を広げたトンビか鳩の仲間と思われる鳥が飛んできて賊を拘束していた木の枝に止まる。
リエントをじいっと見つめるのでカバンから虫を取り出してやる。
すると、ふわりと飛び込み腕に止まった。
報酬に厳しいなあ。
最近、エフィが連れてきたのだ。なんでも連絡用に調教してあるのだとか。
どこに送るように言うのかとかよくわからないけどまあ、いい。
賊の処分くらいならやってくれる。迷惑かけてごめんね?
さて、戻ってきたと言う事は、誰かしら集団を連れてきたと言う事だろうけど
草木を踏み分ける音がする。
予想に反して、現れたのは一人だった。
女性か?
きっちりとした服を着込んだ人物だ。
ちらりと腰のあたりをみると帯剣している。迷い込んだと言うわけではなさそうだ。
女性は木に縛られた賊を視界に収めると眉を顰める。
「卿は、ここに眠れる死者がどなたかを理解しているのか?」
「さあ?」
女性はため息をつく。
やけに省かれた言葉だったが、顔を知らない。
一体誰だ?
「いずれにせよ。不謹慎だ」
「そうだね。ごめんなさい」
ぴくり、と女性は眉を動かした。
面食らったのだろうか?
だって失敗したなと思ってたし
「ふん。まあいい。手伝え。それと、貴様の不敬は姫様に伝えさせてもらう。貴様の行いは目に余る」
「そう?」
姫様って?
しかし、すぐに疑問は消えた。知ってどうと言うわけでもないだろうし
かぶりを振って賊を大木から引き離し出した。
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