婚礼にて一幕閉め また一幕開ける(5)
「___じゃあ、次は『二人の結婚式』だね。」
「姉さんが先にやるとして、自分はいつやるべきか・・・」
「頼めば休みもらえるでしょ?
___というか、あんた定期的に休み取りなさいよ。彼女さんが不憫でならないわよ。」
「もう同棲してるから、一緒に居る時間が全く無いわけではないよ。
それより姉さんだよ、まだドレスとか用意してないんでしょ?」
「まぁまぁ、それくらいなら私がいくらでも用意できるよ。『結婚祝い』も兼ねて。
___二人は私にとってもヘレンにとっても、特別だから。」
三人の緩い会話を聞き、ヘレンはクスクス笑っている。
これから二人は、グルオフだけではなく、妃であるヘレンも守るのだ。
それは以前と変わらないが、数年後には、『グルオフの家族』が増えるかもしれない。
二人はそれを、今から楽しみにしている。
一時期護衛部隊では、「結婚したら二人が辞めてしまうのでは・・・?!」という噂が立っていた
が、互いのパートナー同士も含め、二人は部隊を退くつもりはない。
それは、働かないと生活が厳しくなるからではない、結婚しても、アメニュ一族の務めはまだまだ続くから。
互いに自分たちの事情を把握しているから、文句や愚痴の一つもない。
仕事の都合上、デートが無くなってしまった事もしばしば。
しかし、それを互いに恨んだりはしない。自分たちの立場を理解しているから。
立場をわきまえてくれるクレンとラーコのパートナーは、揃ってとても良い人。
二人と結婚する事は、護衛の歴史が長いアメニュ一族の仲間入りをする・・・という事。
今現在アメニュ一族は、この国を代表する一族として、誇り高い存在として称えられている。
そんな一族の仲間入りができる事に、パートナー同士も誇りを感じている。
よく四人で暇さえあれば王都で遊んで、一緒に食事を共にする事も。
『家族』に憧れていたクレンやラーコにとって、今が一番幸せなのだ。
例え結婚式が開けなかったとしても、毎日一緒に楽しい生活が満喫できる。
二人も一応家族なのだが、やはり家族は多いに越したことはない。
それに、結婚すればまた将来、家族がまた増えるかもしれない。
「国王陛下、ご結婚おめでとうございます。」
「あ、リータ! 久しぶりだねー!」
「すいません、ちょくちょくこっちに来たかったんですけど、町での仕事が色々と・・・
ヘレンさんも、随分見ない間に、純白のドレスが似合うようになりましたね。」
「リータさんが、『肌を綺麗にするアロマオイル』を送ってくれたおかげです。
あのオイル、また作ってくれませんか?
私、毎日毎日欠かさず塗ってたんですけど、もう無くなっちゃって・・・」
「え?! あれそんなに使ってくれてたんですか?!」
「当たり前ですよ!
もう既にあの『スライムオイル』は、この国を代表する『お土産』としても大人気なんです!」
すっかり兄に似たリータは、笑う顔ですらも兄にそっくり。
実は、ヘレンとリータには、前々から『美容関係』の付き合いがある。
まだヘレンが城に来て間もない頃、ヘレンは「自分はそこまで綺麗ではない」と、口癖のように言
っていた。
そこでグルオフは、ドロップ町に手紙を送り、身長などはどうにもならないが、せめて『髪』や『肌』が綺麗になるような薬が作れないか相談していた。
グルオフはリータの兄にも相談したのだが、生憎リータは、王都の住民の健康管理で忙しく、なか
なか『薬の開発』には至れなかった。
それに、王都とは違い、様々な薬草に恵まれているドロップ町なら、薬の開発に適していた。
そこでリータが目をつけたのは、リータと一緒にドロップ町に住んでいる『スライム一族』
王都と里の初交流から数年で、もう国全体にモンスターとの暮らしが浸透して、スライム一族がドロップ町で『マッサージ店』を始めると、すぐさま大盛況。
リータがまだ王都に残っていた時、里から王都に来たスライム一族は、グルオフやザクロを信じ
て、王都に住み続ける事にした。
そこからリータと信頼を深め、王都から離れてドロップ町に移り住んだ。
モンスター達との生活が始まってから、ドロップ町で販売される薬の効能はうなぎ昇り。
人間では難しい事や、できない事ををモンスター達と協力したおかげで、ドロップ町の再建もそう時間はかからなかった。
リータは、そんなドロップ町に住むスライムにも、グルオフからの手紙を見せて相談した。
それはただ単に、薬の製法の相談をする為だけではない、『スライムの容姿』に着想を得た。
スライムの見た目は、言ってしまえばツヤツヤでキラキラ。
スライムの体の成分を人間にも投与すれば、その人間の肌や髪も綺麗になるのではないか・・・
と、グルオフは思ったのだ。
そして、そんなリータの『少し逸脱した考え』は、見事に的中。
試しにスライムの体液から、肌につける薬を開発。
リータがそれを毎日肌に塗り続けた結果、彼の肌はプルプルの艶々に。
さらに、その薬を今度は髪につけてみると、髪は艶々のサラサラに。
すぐさまリータは、その薬を王都に届けるた。
だが、反響はそれだけではない。
王都に暮らす人や、ドロップ町に暮らす人、モンスターまでもが、その薬を求めるようになった。
そして、主成分が人間に危害を与える『野良スライム』からも採取できる事が判明。
そこからドロップ町では、『野良スライム飼育牧場』が建築されている。