表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
233/237

婚礼にて一幕閉め また一幕開ける(3) 

 そんな二人の恋路を、ずっと静かに見守っていた存在がいた。

これから先、ヘレンを守る役目も担う、『二人の護衛』

 二人は分かっていた、グルオフが選んだ相手なら、きっと間違いはない事を。

だから何も口出しはせず、二人の邪魔だけはしないようにしていた。


 二人が互いの時間を楽しむのを、面白がってちょっかいをかけようとする国の住民もいた。

だが、そんな時は二人が、茶化す存在を遠ざけていた。

 二人の『圧力を含んだ笑み』は、モンスターでも冷や汗をかく程。

直々に国王を守る護衛なだけあり、その実力は圧力にも表れていた。


 二人の恋路が無事に『結婚』まで行き着いたのは、二人のおかげ。

もちろん、今日の婚礼の儀にも二人は両隣に立ち、長年見守ってきたグルオフを祝福する。

 そして、これから待っているであろう、賑やかな未来に、静かに心を弾ませていた。


 グルオフは二人を見ながら、涙を流していた。

今すぐにでも、今までの感謝を言葉にして送りたいグルオフだが、まだ婚礼の儀は終わっていない。

 せめて一連の儀式が終わるまでは、しっかりと国王でなければいけない。

お世話になった二人に感謝の気持ちを伝えたいのは、ヘレンも同じであった。


 グルオフにとって、二人の護衛にこの幸せを祝ってもらえる事が、何よりも嬉しかった。

何故なら彼にとって、二人は『自分の両親』と同じくらい、大切な存在だった。


 国名の乱の後、グルオフは自分の両親のお墓も建ててあげた。

そのお墓には、式が始まる少し前に、二人で手を合わせながら、結婚を報告。

 お墓は「おめでとう」とは言ってくれない、しかし、何故かグルオフには分かる。

今は亡き両親が、喜んでくれている事が。


 そして、騒動の最中に亡くなってしまった、アメニュ一族のお墓にも、あわせて報告。

ヘレンはアメニュ一族のお墓に手を合わせた後、お墓に向かって「これからもよろしくお願いします」と言いながら、深く一礼した。


 城に来たばかりのヘレンに寄り添い、時には『兄』や『姉』のように手助けをしていた二人。

ヘレンが城で暮らし始めてから、一番最初に仲良くなったのは、この二人である。

 二人はヘレンの知らない、グルオフの良いところも悪いところも知っている。

彼女は、二人にとても感謝している。そして、これからもずっと一緒にいたい気持ちでいっぱいだ。


 慣れない城での生活で、気苦労が絶えなかったヘレンに対し、二人はよく言っていた言葉がある。


「陛下も、グルオフも、普通の人間。

 ヘレン様と同じく。」


「お二人は『覚醒者』でもなければ 『真・覚者』でもない。

 同じところは、探せば探すほど、簡単に見つかるんですよ。」


 そして、ヘレンが城での生活に慣れ始めた頃、二人の会話にも変化があった。 

この国の女王となるからには、この国の『歴史』も、当然知っておく必要がある。


 もちろん彼自身からも聞いていたが、その話は、ヘレンの想像を遥かに超える。

特に、彼が王座を奪還する話は、信じられないようで、信じられる話。

 遠いようで、そこまで遠くなかった話。ちょっと物悲しいけど、優しい話。


 そんな話を聞いたヘレンの、グルオフに対する『心の壁』は、少しずつ低くなっていた。

人間でも、モンスターでも、一人きりでは何もできない。

 だからこそグルオフは、一緒に行動する仲間を大切にしていた。

そして、自分にできる事には一生懸命になり、掴み取った勝利を大切にする。


 犠牲もあった、しかし止まってもいられない。生きている者が進まなければいけない。

その証拠に、グルオフが国王になってからというもの、この国の情勢や法は大きく変わった。

 グルオフだけではなく、変化についていくのに、国民は精一杯。

それでも、グルオフは歩みを止めない。自分にできる事は、何でもする。


 彼の政策で、一番大きかったのは、『種族の壁』を根本から打ちこわした事。

人間とモンスターが隔てていた壁に、そこまで歴史があるわけでも、理由があるわけでもない。  

 もしそれで問題が発生しても、互いに話し合えば理解できる。

話し合いが難しいとしても、互いに歩み寄る意志さえあれば良い。


 誰もが手を取り合える国を実現させる為、人間も、モンスターも、種族を隔てる壁を少しずつでも

 低くする。

反対の意見も少なからずあったものの、彼は決して諦めなかった。


 彼の経験した冒険が、彼から『諦める』という選択肢を消したのだ。

どんなに辛くても、守ってくれる存在、支えてくれる存在が、いつも一緒にいてくれる。

 それが決して、『生きている者』でなくても。




 スケールは少し大きいものの、ヘレンにも、グルオフの考えが理解できた。


『掴み取った勝利を大切にする』 『一人きりでは何もできない』 『仲間を大切に』


『誰もが手を取り合える世界』 『いつも一緒にいてくれる』   


 その話を聞き終わったと同時に、ようやくヘレンは、本当のグルオフを知った実感が湧いた。

不安はあるが、ヘレン自身も前に進みたい。ヘレンにも、グルオフにも、支えてくれる存在がいる。

 それを教えてくれたのが 『クレン』と『ラーコ』だった。



「ねぇ、姉さん。」


「何?」


「自分たち、先を越されちゃいましたね。」


「いいじゃないの。

 あえて国王様に『越してもらう為』に、『私の結婚式』は後回しにしたんだから。」


「ほんの少し前まで、


「どっちが早く結婚できるか 相手ができるか勝負」


 ___なんて言っていたけど、もうそんな日々が遠く感じるほど、自分たちも老いてしまった。」


「クレン、まだ私たちは老いたわけではないわ、『成長』よ。」


「___姉さん、まだ成長する気?」


「体はもう成長しないけど、『私たちの部隊』は、まだまだ成長するでしょ?」



 グルオフとヘレンが誓いのキスを終え、外で待つ王都の住民への挨拶へ向かう際、二人はコソコソ

 と、そんな話をしていた。


 実は二人にも、もう『相手』はいる


 そのきっかけは、『二人の作った部隊』


 二人は、グルオフが国王としてその座に就いたことをきっかけに、多忙になっていった。

時には一緒に国外へ赴き、そこで命を狙われたグルオフを守った事が、国内でも大きな話題になった事も、二人にとっては遠い過去のように感じられる。


 最近やっと落ち着きを取り戻したのだが、この婚約をきっかけに、『アメニュ一族』の仕事もまた

 増えてしまった。

それは良いことなのだが、さすがにこの重大な責務を二人だけにやらせるのは荷が重い。


 そこで二人はグルオフに相談して、兵士の部隊に『護衛育成部隊 アメニュ』を結成。

兵士のなかから、素行や功績を正確に調べあげ、合格点に達している兵士を抜擢。

 やはり、国王を直々に守るためには、様々な条件を突破した者でないと務まらない。

そして、選び抜かれた兵士を、正式な護衛として育成する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ