婚礼にて一幕閉め また一幕開ける(2)
彼は女性の『位』や『容姿』を気にしない。
『相手を見る目』があるグルオフが、決して軽はずみで、女性に歩み寄る事はしない。
周囲の人間は、それを分かっているからこそ、グルオフが彼女とお付き合いする事を、渋々ながら
も見守ることに。
そして、グルオフの人を見る目が、まだ衰えていなかった事は、ヘレンとの出会いで証明された。
ヘレンは、は相手が国王であろうと、自分を隠すことはなかった。
相手の地位が高ければ、色々と自分を偽ってしまうもの。
自分の気持ちや自分の意志よりも、相手の意思や考えを優先する。
相手に緊張している事もあるが、やはり位が高い人物を目の前にすると、どうしてもペコペコして
しまうものである。
それはある意味、『集団生活を営む者達の本能』なのかもしれない。
しかし、ヘレンは違った。
彼女はグルオフが国王である事は重々承知した上で付き合っている。
それでも、彼に媚びる事もしなければ、気分をうかがうような事もしない。
嫌なものは嫌、自分の意見はしっかり主張する。
人によっては嫌われてしまうかもしれないが、『地位と共に生きる』グルオフにとって、ヘレンの
自然な態度が、非常に心地良かったのだ。
それが『一般的なお付き合い』ではあるが、グルオフは立場上、それが縁遠く、なかなかそんな相
手が見つからなかった。
だからこそ、素直で真っ直ぐな彼女との関係を維持しようと、彼も彼なりに奮闘した。
グルオフはこれまで、他国とのお付き合いで、数々の女性と顔を合わせてきた。
だがヘレンと出会うまで、自分の心を掴むような出会いは起きなかった。
他国のパーティーに参加した事もあったが、綺麗なドレスやアクセサリーを身に纏った美女を見か
けても、彼の心が惹かれる事はない。
彼はずっとずっと、『気飾らない人間やモンスター』と接していたから。
だからこそ、本音や自分自身を着飾り、誤魔化すような相手を、どうしても信用できないのだ。
着飾らない相手と接した方が、彼にとっては安心できる。
相手が着飾らなければ、自分が着飾る必要もない。
そんな相手とは、どんなに長い月日が経っても、良い関係を続けられる事を、彼は知っていた。
最初は少しぎこちなかった二人だったが、互いの努力の甲斐あって、徐々に距離が縮まり、一緒に
笑い合う事も増えていく。
ヘレンは一気に自分の置かれる環境が変わっても、しっかり対応できる。
農家としての仕事の代わりに、王家としての知識やマナーを勉強する事が仕事になっても。
時には事情を知らない他国の重鎮から冷やかされても。
彼女はグルオフの良いところも悪いところも認めた上で、変化に対応していった。
グルオフもその勉強会に参加しては、互いに悪い部分や良い部分を教えあう。
時には意見を言い合って、ヒートアップする事もあったが、それでも互いの違いを理解していく。
ヘレンは彼と付き合っているうちに、グルオフがそこまで高飛車な性格ではなく、『庶民の心』を
誰よりも理解している事に気づいた。
むしろ、高級な食事や衣服や提供されると、「勿体ない!!」という理由で、着慣れている服の方を愛用する。
一緒に王都でデートをした際には、しっかり民に手を振る一方で、お店の『半額商品』に目が向い
たり、新しく開店したお店を興味津々で覗いていたり。
この国の王様でありながら、ヘレンとの違いは『血筋』や『地位』くらいで、性格や価値観にそこまで違いがない。
だから、ヘレンとの交際は順調に進んでいき、ヘレンは無事、王家の人間としての知識とマナーを
しっかり身につける事ができた。
彼女が王家の人間として合格した際は、二人きりでお祝いをしながら、結婚式の話を、余が明けるまで楽しんだ。
ヘレンの頑張りも大きいが、やはり一緒に頑張ってくれたグルオフの存在も大きかった。
やはり、一緒に頑張ってくれる仲間がいれば、辛くても苦しくても頑張れる。
勉強の合間にも、互いの事をしっかり理解して、絆を紡いでいった。
グルオフの周囲にいる人間だけではなく、王都の住民も、この恋路は若干心配だった。
その理由は、誰に聞いても明確。あまりにも突然すぎる交際に、『よからぬ噂』が広がった事も。
しかし、そんな周囲の不安や噂は、いつの間にか消える。
少しずつ王家の人間としての自覚を持つようになったヘレンは、民からの信頼を少しずつ集めた。
そして、彼女をここまで支え、成長させたのは、夫になるグルオフの力添え。
これには周囲も、納得するしかなかった。
二人が本気で愛し合っている事は、もう十分すぎるくらい伝わったのだ。
「グルオフ・K・コンゴゥ
あなたは彼女を、永遠に愛し、永遠に守り、永遠に支える事を誓いますか?」
「はい、誓います。」
「ヘレン
あなたは ヘレン・K・コンゴゥ として
愛する者に寄り添い、添い遂げ、共に生きる事を誓いますか?」
「___はい!」
少し照れながらも、大きな声で愛を誓うヘレン。
そんな彼女の満面の笑みを横目で見ながら、彼女の美しいドレス姿に見惚れるグルオフ。
彼は知っている、ヘレンが美しいドレスや装飾品を身につけていなかったとしても、その輝きは内
側にある。
彼女はグルオフとの月日を経て、本当に魅力的な女性へと成長した。