一年の歳月が流れ・・・(4)
「えぇー? そんなの変だよー!」
公園の方から、子供たちが話し合いをしている声が聞こえ、二人は思わず振り向いてみる。
子供たちは同じゲーム機を持って、互いのゲーム画面を見せ合っていた。
「いいじゃん! かっこいいよ!」
「でもこのキャラクターのジョブって『剣士』じゃん?
なんで『回復魔法』なんて覚えさせたの?」
「お前だって、『召喚士』に『遠距離攻撃の道具』を持たせてんじゃん!」
子供たちは、互いに育てたゲームキャラを見せ合っている様子。
翠の父は遠目から、話し合っている子供たちのゲーム画面を見て、ハッとした様子。
「___あ、あれ俺も今やってるゲームだ。」
「へぇ、そうなの?」
翠の父は、つい嬉しくなって、子供たちのいる公園へと駆け寄る。
発売してから『約一年』が経過したゲームなのだが、今更になった急に人気が出たゲームなのだ。
「ねぇ、あなた。あのゲームって、随分前に発売された物じゃなかったかしら?」
「あぁ、でもつい最近、あのゲームが『最終更新』されてな、ようやく『完結』まで漕ぎ着けたみた
いだぞ。」
「え? じゃあ一年前に発売された当初は、まだ『未完』のままだったの?」
「今はそうゆうゲームが割と多いぞ。
途中でバグが起きても修正できるし、最後の最後までゲームを綿密に作り込むには、話を途中まで
作り上げてから発売して、プレイヤーたちの反応や今後を検討して完結させるんだ。
昔は、『一度売り出したゲームのバグは修正できない』のが当たり前だったけど、インターネット
やオンラインの普及が、こうゆう流れを生んだのかもな。
あ、あと『追加コンテンツ(DLC)』とかを購入すれば、本編とは関係ないけど、『余談』や『制
作エピソード』が見られるものもある。」
「へぇー、ゲーム業界も進歩するのね。
少し前にも『VR』のゲームも新作が発表されていたみたいだし、翠もやりたかったでしょうね。」
「そうだなぁ・・・・・
だからこれからは、俺がゲームを購入した時には、『一旦仏壇に備えて』、その後から開封しよう
と思ってな。」
「あの世でゲームができるのかどうか、怪しいけれどね。」
「それはそうだけど、せめてもの気持ちだよ。」
「ねぇ、おばさんたちー、何の話してるのー?」
「え?! あぁ、ごめんなさい。ちょっと・・・ね。」
気づけば二人の前に、ゲームであれこれ議論していた子供たちが集まっていた。
二人の話があまりにも弾んでいた為、子供たちも気になったのだ。
話は割と重いのだが、子供だからそんなの分からない。
子供達が気になっているのは二人の話ではなく、二人が仲睦まじくしている姿。
子供たちから見ても、『羨ましさ』すら感じるのだ。
自分たちの親が仲良くしている光景というのは、子供だからこそ、なかなか見られない。
「___実はね、おじさんとおばさんの娘も、ゲームが大好きだったんだ。
でもね、娘は一年前に亡くなっちゃって。」
「病気?」
「ううん、事故だよ。
___でもね、おじさんもゲームが好きなんだ。
だから娘が残したゲームを、おじさんが代わりにやってるんだけど・・・・・
君たちは、どんなプレイヤーを育ててるのかな? 見せてくれる?」
「うん! いいよー!」
子供たちは、自慢げにゲームの画面を二人に見せる。
数々の画面には、子供たちそれぞれの個性が映し出されていた。
様々なパーティーを編成して、多種多様な武器や防具を揃え、スキルも頑張って育成中。
そんな子供たちの頑張りの数々に、思わず二人は食い入るように画面を見る。
「へぇー、みんな凄いねぇー」
「えへへ! 凄いでしょ!」
翠の父に褒められた男の子は、歯を見せながら笑う。
「でもさー、やっぱりおじさんも、変だと思わない?」
「何が?」
「だってこのキャラクター、『剣士』なんだよ。
最前線でバシバシ戦う回復魔法なんて覚えさせても意味ないじゃん!」
「ふーん、どうして回復魔法を覚えさせたの?」
「だって万が一、ヒーラーが回復魔法を使えなくなった時、少しでもいいから回復魔法を覚えている
キャラがいるだけで、勝てる見込みがあるでしょ?
それに、覚えられるなら、覚えさせないと損だよ。
『後』から「覚えさせておけばよかったー」なんて言っても、遅い事だってあるよ。」
「__________
___言われてみれば、そうだね。せっかく覚えられるなら、覚えさせた方がいいよね。
___そうだよね、どんなジョブのキャラクターが、どんな技や魔法を覚えていてもいいよね!
さっきはごめんね!」
「うん、おじさんもそう思うよ。」
「そうね、おばさんもゲームの事はよく分からないけど、『後』から後悔するくらいなら、まずやっ
てみる事が一番だと思うわ!
今のうちから、どんどんどんどん色んなことをやっておけば、「やっておいてよかったー!」って
思えるもんね!
___翠も・・・・・ね」
翠の母は、ボソッと呟いた。
だがそれは、翠に対しての言葉ではない、『自分自身』に対しての言葉である。
両親の二人も、翠自身も、家族一緒にやりたかった事が沢山あった。
また家族一緒に旅行がしたかった 海外にも挑戦したかった
大学に行くのか、専門学校に行くのか、それとも就職するのか、みっちり話し合いたかった
成人式に着る振袖を、一緒に選びたかった 彼氏を見てみたかった
そんな『もう潰えてしまった未来』を想像すると、二人は涙が堪えきれなくなってしまう。
だからこそ、二人にとって、子供たちの『可能性に溢れた未来』が、少し羨ましく感じてしまう。