201・共生社会の始まりを告げる
平穏な日常を取り戻しつつ、以前とは少しだけ違った生活は、この国の新たなる時代の幕開けを感
じられる。
ただモンスターとの付き合い方が変化しただけ・・・というよりも、『我慢しなくてもよくなった』
偽・王家時代は、『モンスターは人間よりも下にあるべき』という習慣が定着していた。
実際、元・貴族 王族は、多くのモンスターを従え、彼らに下働きをさせていた。
だが彼らが、率先してその役目を務めていたのか、きちんと生活できるほどのお金を貰っていたの
かは不明。
そんな元・貴族 王族の振る舞いを真似して、下働きするモンスターを扱き使う市民の雇い主も、少なくなかった。
しかし、その習慣の理由が、『ほぼほぼ下心』である事を知った住民の多くは、一気に恥ずかしく
なってしまう。
自分たちも、あれほど憎んでいた『元・貴族 王族の一方的な価値観』に同調していたのだから。
『何故モンスターは自分達より下なの?』 『そうゆうものだから』
のやりとりだけで納得してしまった事に、改めて疑念を抱いていた王都の住民。
同じ環境で生き、同じ仕事をしていたのなら、互いにそこまで違いはない事は、上層部よりも早く
気づいていた筈。
それでも彼らが差別意識を持っていたのは、やはり上層部の影響である。
そこまで大した理由もないくせに、元・貴族 王族は、何かと『上下関係』に執着していた。
グルオフもそれに関して、元・貴族 王族にきつく問い詰めた。
だが、帰ってくる言葉は決まって
「従えているモンスターの数は、自分の地位や格式のアピールになっていた」
という、ありきたりではあるが、傍迷惑な答えばかり。
元・貴族 王族はモンスターだけではなく、貧しい人間も、自分たちの下働きをさせていた。
彼らの雇用先や住居についても、グルオフが全部工面してあげた。
下働きのなかには、路頭に迷っていたなか、強引に働かされていた人間やモンスターもいた。
だが彼らにとって、最低限の衣食住を賄ってくれるだけで、まだ良心はあった。
グルオフは、彼らの『心のケア』も欠かさない。
実際、グルオフ自身も、かなりショッキングな光景を目にしていた。
だからこそ、心に傷を負った王都の住民を、放っておけなかった。
彼は王都のあちこちを歩き回り、人やモンスターの話をしっかり聞いた。
「○○という活動を行なっております」と宣伝されるより、頭自ら動き回っている姿の
方が、よっぽど説得力がある。
心の傷を治すのには、やはり長い時間をかけるしかないものの、それでも前に進むためには、時間は惜しんでいられない。
そして、グルオフは王都の行く先々で、自分が翠たちと歩んできた道中記や、里での思い出を語っ
ていた。
『嘘』や『誇張』なんて一つもない、里の『良いところ』も『不満なところ』も、何もかも洗いざらい話した。
モンスター達も、社会性が身につけられる事。
モンスター達も、それぞれの役割を担い、しっかり毎日仕事をしていた事。
モンスター達が、人間と同じ生活をしていても、何の問題もない事。
もちろん、人間もモンスターも生きている。
だから互いに争うような事があっても、ちゃんと和解することができる。
そんな話をしてくれたのがグルオフだからこそ、王都の住民は彼の言葉を信じて、里の住民を快く
出迎えているのだ。
だが里を語ったグルオフ自身も、まさかこんなに多くの人々が、里から来たモンスターを出迎えてくれるとは思っていなかった。
あまりにも壮大な歓迎ムードに、馬車から降りた里の住民は驚きを隠せなかった。
まさかここまで壮大な出迎えまであるとは思わなかった為、馬車から降りた里の住民はオロオロするばかり。
スライムっ子は、お姉さんの後ろに隠れながら、ジロジロと周囲を見渡す。
見知らぬ世界に胸を躍らせながらも、まだ警戒心が解けていない様子。
鬼族は自分たちの頭に生えているツノを隠すためか、布を被って馬車から降りてきた。
王都の住民には里のことを色々と伝えていたが、里に住んでいたモンスター達が、これほど大勢の
人間を見るのは、やはり 初めてだった。
翠だけでも大騒ぎだったのだが、今回は色々と状況が違う。
そんな彼らをエスコートしたのは、一番最初にこの王都に来ていたザクロ。
彼は里の住民と王都の住民を引き合わせ、少しずつでもいいから距離を縮めるようにしていた。
本人は至って無意識、むしろ、自分を受け入れてくれた王都の住民を信じての行動である。
そんなザクロのエスコートもあって、その日のうちに里の住民と王都の住民、モンスターと人間の
距離は、あっという間に縮まる。
夜には王都の住民が用意したご馳走を嗜みながら、お祭り騒ぎで盛り上がった。