199・成長に成長を重ねて
「陛下! 監視塔からのご報告です!
只今王都に接近する馬車が4台来ております。」
「よし、開けてくれ。」
翠たちはワクワクしながら、門がゆっくりと開く様子を見ていた。
何十人もの兵士の力を全力で注がないと開かないその扉は、王都を守ってくれる大切な存在。
だからこそグルオフは、門をもっと強固にして、扉の開閉を一般人にもできるようにしたいのだ。
この門は、王都にとっては『盾』であるが、同時に『窓』でもある。
新しい空気を取り入れ、常に部屋の中を新鮮にしてくれる。
王都の人間にとって、シキオリノ里は『幻の存在』と言っても遜色ない。
それこそ、『UMA』や『ミステリー』のような存在。
しかし、ザクロ達の証言により、そんな『幻』が『現実』であった事に、歓喜する人々も多かった。
そして、そんな里に住む住民が、わざわざ王都まで出向いてくれる。
この『とんでもない歴史的日』を見逃すわけにはいかない・・・と、早朝から門の前でスタンバイしていた人々もいる。
皆でワクワクしながら待っていると、開いた門の先から、『屋根の上』にまで荷物を縛りつけた馬
車と、その馬車を頑張って引く馬の姿が見える。
そして、窓を開けて王都の様子を見るリータの兄の姿も、遠目からでもしっかり確認できた。
リータの兄は、弟の姿を確認すると、顔が『満開の花』のように明るくなる。
兄は里に残っている間、ずっとずっとリータを心配していたのだ。
しかし、リータが『前と変わらない様子』だったのが、兄にとってはこの上なく嬉しかった。
この国の改革に関わった一人であるリータだが、兄からすれば、彼は『英雄』ではない。
彼は、『唯一無二の弟』以外の何者でもない。
だがリータの兄は、王都の住民の歓迎ぶりに、思わず手を一瞬引っ込める。
リータも一応、『現時点』では里の住民なのだが、『人間』だ。
しかし、もう王都の住民にとって、人間であろうとモンスターであろうと関係ない。
何故なら、かつて王都にあった『種族の壁』が、消えかかっているのだから。
そして、いよいよ先頭の馬車が王都に入ると、住民たちは馬車に向かって大きく手を振る。
まるで、『大人気のミュージシャンが来日した瞬間』のような雰囲気に、翠たちもつられてテンションが上がる。
最初の馬車から颯爽と出てきたリータの兄は、馬車から降りるや否や、速攻で弟に飛びつく。
その勢いに負けて、リータは後ろに倒れ込む。
あの巨大なハエと戦っている間は、ずっと気を張り詰めていた為、人一人の力なら、簡単に受け止
められたリータ。
しかし、今は張り詰めていた気がほぼ抜け、翠たちの知る、いつも通りのリータになっていた。
弟に抱きついたリータの兄は、とにかく喜んでいた。
偉業を成したことも勿論嬉しいが、何より無事でいてくれた事が嬉しかった。
今まで住んでいたドロップ町が破壊され、彼に残されているのは、唯一の家族であるリータのみ。
そんな弟は、今では『国の英雄』として讃えられるほど、立派になった。
涙を流しながら喜んでいる兄の様子を見て、彼は静かに兄の頭を撫でる。
色々と大変だった出来事を語りたいリータだったが、まず言いたい事があった。
「兄さん、ありがとう。
___それと、ごめんなさい。色々と、本当に・・・・・」
「いいんだ、リータ。お前が無事だっただけで・・・・・
あははっ、また大きくなったな、お前。もう肩幅が俺と同じくらいになっちまった。」
「へへへっ、頑張って鍛えたからね。でもまだ、頑張らなくちゃいけないのはこれからだよ。」
そこまで久しぶりではないが、リータの兄も、弟の遠征中は心配でしょうがなかったのだ。
リータも、まさか偽・王家の終幕が、あまりにも壮大な展開になった為、彼自身も無事に生き残れるか心配だった。
だが、瓦礫の山から彼を守ってくれたクレンや、翠たちの活躍によって、彼も無事に生き残ること
ができたのだ。
そして、彼は兄が来るまでの間も、様々な場所で大活躍していた。
彼は被害に遭った住民たちの治療にあたり、『回復魔法』と『薬』を併用することで、短時間に多
くの住民を助けた。
被害者のなかには、傷が深くてだいぶ重症だった人もいたが、リータの回復魔法と薬を併用したおかげで、その人の命は助かった。
彼の作った薬の効能もあるが、回復魔法と薬を併用する魔術師は、国の歴史からしても、前代未聞
であった。
普通、回復魔法さえ持ち合わせていれば、薬を作る知識も必要ないはず。
だが、リータは知っていた。
『薬』だけではどうにもならない事も、『回復魔法』だけではどうにもならない事もある。
旅路を経て得たリータの知識は、『傷や病の対処法』だけではなく、『効率的に傷を癒す方法』
や、『魔法・薬のどちらが一番治りが 早い・綺麗に治るか』
それらの知識を集約しつつも勉強を重ね、リータは王都復興の最中にも、王都の住民の健康管理を続けている。