197・城内の変化
「リータのお兄さん、里でちゃんとやっていけたのかな・・・?」
「___まぁ、俺たちが出発してすぐは、あんまり落ち着かなかったと思うぞ。
『勝利の知らせ』を聞いた時、どんなだっただろうな。」
ザクロや翠も、想像できるようでできない感覚に、むず痒さを感じる。
大はしゃぎして喜んだが、歓喜のあまり大号泣しかた、それとも感極まって気絶したか・・・・・
里で待っていた住民たちにとっても、勝利の知らせは大きかっただろう。
やっと、里で窮屈な生活をしていたモンスター達が、堂々と人が住む街中を歩くことができる。
この勝利を喜んでいるのは、生きている人間やモンスターだけではない。
かつてこの国の為に戦った存在にとっても、ようやく自分たちの努力が報われたのだ。
報われた実感は、生きている間に味わう事ができなかったとしても、後世に生きる者が、自分たち
の意志を継いでくれる。
そんな時代を経た、多くの『意志の引き継ぎ』は、今に直結している。
「そういえば、ミドリ。
地下の人間、これからどうするの?」
「もう聞き出すこともなくなったからね、『復興の下働き』をさせるらしいけど、役に立てるかどう
かは分からない。」
「___アイツらが、自分たちの罪をちゃんと考えてくれる日が来るかな?」
「私はあんまり期待してないよ。
それに、彼らなんかに期待するより、別のことを期待したいじゃない。」
「それもそうだな。」
土だらけになった全身で、城のなかへと戻りながら談笑するザクロと翠。
さすがに使用人に止められ、お風呂に連行される。
翠たちは尊敬されているものの、『ある意味放っておけない人たち』の為、使用人たちも手を焼い
ている。
野宿生活や、常に危険と隣り合わせの生活は、平和で安全な王都の住民にとってなかなか受け入れられない世界。
そんな生活が日常だった翠たちに、王都の住民が色々と手を貸してあげる。
その努力の甲斐もあって、里生まれ里育ちのザクロも、少しずつ王都の生活に慣れ始めている。
ほんの少し前まで、王都で市販されている服を着るのにも苦戦していたザクロ。
『ボタン』が、里にはなかったのだ。
ボタンがはめられるようになった今でも、ザクロは『意図的』に服のボタンを外している。
ちょっとマナー違反ではあるが、城の主人であるグルオフは、あまり気にしない。
翠もボタンのある服を着るのが『旧世界ぶり』なこともあり、最初は穴を掛け違えたり、強引に引
っ張ってボタンを外してしまう事もあった。
学生時代は毎日来ていた『Yシャツ』や『前開きセーター』が、今の翠には『大昔の遺産』に思えてしまうのだ。
コンッ コンッ コンッ
ガチャッ
「ミドリさん、おはようございます。」
「あれ? リータ、起きたの?」
体を綺麗にした翠が、リータの部屋へ向かうと、既に彼はザクロと一緒に、髪を濡らしていた。
里では、大きなお風呂で『混浴』していたのだが、王都では城に幾つも設置されている。
そして、やはり翠の知っているお風呂のマナーと同様、王都では『男女別』
里の温泉も心地良かったが、場内のお風呂でのみ使われる、香りのいい『石鹸』や『アロマオイ
ル』も、体と心の疲れを癒す。
そうゆう『美容アイテム』を、この世界に来て初めて使用した翠は、その良さを身に染みて実感している。
自然と髪の質も良くなり、前より髪がボサボサする事がなくなった。
ちょっと前まで、髪が荒れ放題だったザクロでさえ、まるで『雨水が染み込んだ若葉』のように、髪が綺麗な緑色になっている。
「リータの様子を見に行ったら、もうリータが風呂に入ってたからさ。
一緒に入れさせてもらった。」
「土だらけのザクロさんが、突然部屋に来た時は驚きましたよ。」
「二人で頑張ったけど、まだまだ中庭の掃除は続きそうなんだよねー」
「お二人とも、怪我だけは十分気をつけてくださいね。土は雑菌まみれなんですから。」
リータが念の為、二人の両手を確認する。
かなりの量の破片を回収したのだが、二人の両手には傷一つない。
「そこまで心配しなくていいんだぞ。」
「いいえ、もう薬を節約する必要もなくなったんですから。怪我は見つけ次第対処しないと・・・
それに、二人が怪我をすれば、心配する人やモンスターは沢山いるんですから。」
リータがいつの間にか、二人に説教をするようになったのは、復興が始まった頃だった。
二人は、誰かの為となれば無茶をしてしまう。怪我をしても、『気づかないフリ』をするのが得意。
しかし、要である二人がいなければ、復興も捗らない。
二人の体調をチェックする事に、リータは使命感を抱いている。
「もう前みたいに、無茶ばっかりしないでくださいね。」
というリータの言葉に、重圧を感じた二人。リータもなかなか言うようになった。
だが、その言葉はごもっとも。もう二人は、王都の住民にとって欠かせない存在。
だからこそ、リータも責任を感じているのだ。
間接的にではあるが、リータも王都の復興に一役買っている。
彼の知恵と経験が、大いに発揮されているのだ。
「リータは、この後どうするつもり?」
「___それは、どうゆう意味?」
「私もまだ考えていないんだけどさ、復興がある程度落ち着いたら、今度は何しようかなーって。」
「うーん・・・・・
まだいまが忙しすぎて、全然想像もできません。ザクロさんは?」
「俺もまだ全然。
___というか、王都での暮らしが、楽しくて・・・・・」
「それはよかったです、ね、ミドリさん。」
3人が談笑していると、使用人が部屋に朝食を運んでくる。
毎日色々な食事を用意してくれる使用人には、頭が上がらない3人。
彼らのおかげで、城での生活にどうにか順応できているのだから。
そして、使用人にとっても、彼らの面倒を見るのがが楽しい様子で・・・
「いやぁー、最近はあれこれと料理を作るのが楽しくてねー」
初老の使用人が、料理を運びながら、翠にそんな言葉を呟いた。
「あの『名ばかりの貴族や王族』は、あれやこれやと好き嫌いが多くてね・・・
いつもメニューが『肉』とか『魚』に偏って、『酒類』の管理が大変だったんですよ。」
「彼らのあの体つきは、不摂生の表れですよね。」
「君達の体が頑丈なのは、頑張ってきた努力の表れかもね。
それに君達、揃いも揃って好き嫌いがないもんだから、色々と食べさせたくなっちゃうよ。」
「『料理職人』が作る物なら、何でも美味しくなるからですよ。」