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196・『残した者』と『後悔しか残されていない者』

「___そろそろ、リータを起こしに行ったほうがいいかも。」


「え? 何で??」


「昨日の夜、俺の部屋に来て


「兄が王都に来るのが楽しみで寝られない」


 とか言って、しばらく部屋に居座っていたんだ。

 ___で、やっと眠ったリータを、俺が部屋まで運んでおいた。」


「成程ねー、確かにこのままだと、『寝起きの弟』と再会する事になっちゃって・・・

 そうなったら私たちの責任だからね。」


 城には、この国の正確な地形が明記されている地図があった為、グルオフが兵士数名を、馬と馬車

 で里へと向かわせた。

勘違いされないように、リータからの手紙も持たせて。


 グルオフの予想では、もうすぐリータの兄がこっちに来てくれる。

荷物は全部馬車に詰めこんでしまえば、そこまで時間もかからない。

 リータの兄は一日でも早く、弟の顔を見たはず。

だから、準備にはそこまで時間はかからない・・・と、グルオフは考えたのだ。 


 王都の住民も、まだ見ぬ『友好的なモンスター』との出会いを楽しみにしている様子。

ザクロやアメニュ一族の功績や頑張りもあり、王都に住んでいたモンスター達も、少しずつ人間との

距離を縮めている。



クレンと初めて出会った時の翠と同様、王都の住民たちも口を揃えて


「なぜあんなおかしな意識があったの・・・?」


 と言いながら、首を傾げている。


 人間とモンスターでは、確かに姿形や体質が違う。だが、そんなの人間だって同じことが言える。

皆がそれぞれ、違う体型で生まれ、違う環境で育っていけば、色んなところがどんどん変わる。

 同じ環境で育っても、容姿が似ているとしても、全員が同じになる事はない。


 『運動が得意』『勉強が得意』『力仕事が得意』『頭を使う仕事が得意』

人にもそれぞれ『得意』と『不得意』があり、それらと上手く付き合いながら生きている。


 動物や植物と違って、しっかり『意思疎通』ができるなら、良好な関係をつくるのも、そこまで苦

 労しない筈。

なのに、そんな苦労より偽・王家からの重圧を受けることを選んでしまった王都の住民。


 一体どちらが辛く、どちらが自分たちのためになるのか、結論が出たのは全てが終わった後。

結論を出すのが少し遅くはあるが、王都の住むモンスター達は、人間を『死ぬほど』恨んでいるわけではない。


 当然、それなりの恨みや妬みもある。

だが、抱えていた苦しみを爆発させた王子の成れの果てを見てしまっては、もうそれらも全て吹っ飛んでしまう。



 自分の思いを募らせて、爆発して、何もかもがダメになってしまうくらいなら

 いっその事 これからも踏まえ


 全てを許し 全てを認め 共に歩む


 そうすれば、今までよりもっと豊かな生活が送れるのではないか



 亡き王子は、そんな教訓を、王都の住民に残したのかもしれない。


 モンスターもモンスターで、言葉が全く通じない『野良モンスター』を恐れ、社会を形成して、そ

 れぞれの役割に合った仕事をしている。

王都の住民が里の話を聞いた時は驚いていたが、里のリーダーであるザクロの様子からでも、里が実在する事を物語っていた。


 つまり、互いに歩み寄ろうとする意志さえあれば、この2つの種族は、互いに協力して生きられる

 筈なのだ。

今までの意識を捨て、新しい意識へ切り替えることで、得られる事だって沢山あるから。


 逆に偽・王家の人間は、自分たちの意識が、間違っていることを認めようとはしなかった。

その結果、誰もが悲しむ結果を招いてしまった。

 ある意味偽・王家は、王都の住民にとって、いい『反面教師』になったのかもしれない。


 しかし当の本人は、完全に廃人と化してしまった。

妻も息子も失い、助けてくれる人も、気にかけてくれる人もいない。

 その孤独は、彼のこれまでの悪行を振り返るのに、十分な環境である。


 グルオフも、彼にこれ以上の刑罰は与えず、残りの生涯を、薄暗い牢のなかで過ごしてもらう事に

 決めた。

正気を失い、瞳から完全に光を失った偽・王の姿は、まさに『打ち捨てられた人形』


 その孤独と、自分の一生では償いきれない大罪と共に、残りの生涯を生きなければいけない。

現実逃避もできない、言い逃れもできない。

 労働を与える刑罰より、元・王にはそちらの方が、より一層苦しむ。

変化を続ける国を、その目に焼きつける事も許されず、これからの彼の人生は、ずっと薄暗いまま。


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