194・『歴史の一ページ』の一片
翠も、ただ見ているだけではつまらなくなり、破片集めを手伝うことに。
武器はしばらく持っていないものの、ここ最近は毎日体を動かしている翠たち。
だから、体力は落ちていない。むしろあっちこっちに走り回った結果、前より脚力がついた。
『重機』や『車』がないこの世界では、人の力はお金以上の価値になる。
善意で復興に参加してくれるだけ、相当ありがたい。
翠とザクロは、そんな『善意の代表者』
瓦礫が山ほど入った袋を持ち上げ、何回も何回も同じ場所を往復。
そして、新たな家を作る材料や道具も、二人がワッセワッセと運んだ。
二人の働いている姿に、多くの住民が感動して、感謝した。
特に翠たちは、モンスターとの戦いを重ねた事もあり、高い持久力と体力を持ち合わせている。
武器は不必要でも、人手は必要。だから、翠たちも『全くやる事がない』わけではない。
復興作業の最中も、翠たちは住民にとってのヒーローになっている。
常人には考えられない力と体力で、王都の復興は休みなく続けられているから。
また、城の最上階に関しても、近々本格的に手が加えられる。
『エレベーター』も無いため、翠たちの力は必須になるが。
一番大変なのが、重い石材を引っ張る作業。綱引きの何倍も力が必要になる。
城が最初に作られた当時の方がもっと大変だった事を考えると、翠たちは感慨深くなる。
デザインに関しては、前と同じ。内装も、前と同じ。
「グルオフ様が住みやすい部屋に変えてしまってもよろしいのでは?」という声もあったが、グルオフはこう答えた。
「最上階に住むのは私だけではありません、いずれは私の『息子』『孫』が住む場所でもあります。
だからこそ、何の飾り気もない方が、私の『将来の家族』も、住みやすくなります。」
会議中、グルオフのその言葉を聞いて、ラーコは涙を流してしまった。
つい想像してしまったのだ。
今はまだ幼い彼が、何処かの国の王女様、もしくは国民の異性と結ばれる未来。
その頃には、もうラーコも結婚している筈。アメニュ一族の礫を途絶えさせない為。
そして、子供が生まれれば、彼は『お父さん』になる そしていずれ、『おじいさん』にもなる。
一体、彼が何十年、王座に就き続けるか分からない。今はまだ、王座に就いてから間もない。
もし、グルオフの子供や孫に、自分たちの歩んできた歴史を語る日がきたら、その頃の王都は一体
どうなっているのか。
アメニュ一族は、どれほど繁栄するのか。
そんな考えを巡らせていると、つい未来が眩しくて、涙が溢れてしまったラーコ。
だが、そんな彼女にも、しっかり気を使うのがグルオフ。会議が終わった後・・・
「ラーコブが結婚するのが先か、僕が結婚するのが先か、競争・・・とまではいきませんけど、今か
ら楽しみです。」
今現在、ラーコはまだそこまで考えていない。
今は仕事で、頭がいっぱいだから。
だが、いずれ仕事が落ち着けば、『そうゆう事(恋愛 結婚)』にも手を出さなけれないけない。
その時がいつになるのかは分からないが、どうゆう相手が好み・・・とか、絶対条件・・・など
は、まだ何も考えていないラーコ。
しかし、グルオフと同じく、そんな将来が同じく楽しみでもある。
ラーコが楽しみにしているのは、グルオフに限った話ではない。
弟や翠、リータやザクロも、王都でもっと多くの出会いを経験する。
そうなれば、今までの関係性も変わってくる。それが寂しいけれど、楽しみ。
進み続ける自分や時代の流れに、『待った!!』はない。
いずれ翠たちが行った革命も、この国の『歴史の1ページ』として、『記録』になる。
当然、偽・王家が王座に居座り続けた事実も、しっかり後世に残す。それも、グルオフ達の使命。
そして、この国の崩落を寸前で止めたのには、独りきりでも戦い続けたセンタリック王子の存在も
大きい。
翠が王子の『上半身だけ』を持ってきたおかげで、王都の住民も、彼の死をちゃんと自覚できた。
王子を過度なほど盲信していた住民は、翠たちを今でも『殺人者』扱いしている。
だが、翠たちはそれも覚悟の上で、この王都に乗り込んだ。
犠牲者が予想より多かった事もあって、翠たちは毎日、彼らのお墓に行っては手を合わせる。
この国のためとはいえ、彼らの犠牲も無視できない。
『この国の根本を変える』
そんな彼女たちの目的の達成に、払われた犠牲。『必然』なんて、誰も思っていない。
翠たちは、自分を『救世主』や『正義のヒーロー』だとは思っていない。
この国の崩壊は防いだが、国の歴史はまだまだ続く。
その段階で、自分たちが『悪者』として、後世に残ってしまう可能性も捨てきれない。
ゲームなどでも、よくある展開。
『本当は国のために尽したのに、後世の人々によって、勝手に悪者にされてしまう』
だが翠たちが、後世の歴史をどうにかできる事でもない。
後世の歴史を作るのは、後世を生きる者たち。
歴史にこの大惨事が残るだけで、翠たちの努力は報われる。