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192・また新たな生活が始まる

「__________


 _____んぅぅぅ。」


 瞼を開けると、頭上に高い天井がある光景。

広くて大きなベッドも、高すぎる天井も、翠にとっては『また別の世界』

 まだ翠が小さい頃は、そんな『お姫様のような生活・部屋』に憧れていた。


 しかし、成長するにつれて、そんな夢がだんだん『痛々しく』なってしまった。

成長するにつれて趣向が変わった事もあるが、やはり、大きな家具を部屋に置くには、大きな部屋を用意しなければいけない。


 成長すると、学校の授業などの影響で、『お金の大切さ』も自然に理解できるようになる。

大きな家具や部屋を準備するのに必要なお金がどれくらいなのか、知ってしまうとますます『夢』や『憧れ』は遠くなってしまう。


 『遠足のおやつ代』や『お小遣い』なんて、笑えるくらいである。

一軒家と建てるだけでも大変なのを知った当時の翠は、改めて親に感謝した。


 だからこそ、この状況が、誰よりも受け入れ難い翠。

大きくて立派な部屋を、『只』で寝泊まりさせてくれる上に、掃除や食事まで出してもらえる。

 旧世界にも、こんなメルヘンな部屋で、豪勢な生活を用意してくれる『旅行プラン』がある。

しかし、そのプランにかかる値段を目にした時、翠は『ゲームがいくつ買えるか』で計算した。


(こんな生活、ゲームを何本買っても、足りないんだろうな。

 ゲームの主人公たちは、こんな部屋で普通に寝泊まりしてるんだから、やっぱり凄い。


 ___というか、私まだ、前の世界とあれこれ比べちゃってる。

 クラスメイトも全員いなくなっちゃった今、昔の記憶なんて、思い出す意味あるのかな・・・?)


 騒動の後始末がもう少しで終わりそうな現状だが、翠の頭の中には、まだ旧世界の記憶が居座り続

 けている。

世界を比べてしまう癖は、これからも彼女の心に残り続けるのだろう。


 結局、翠も含め、39名が『転生者』である事実は、クレン達5人しか知らないまま。

だが、もう今更、そんな事を打ち明けるべきではないのは、翠も分かっている。

 何故なら話したところで、生活に何の支障も出ない。


 疑わしい目で見られるかもしれないが、彼女の功績を目の当たりにした王都の住民が、そんな『前

 の王家』のような、恩知らずな事はしない。

それは、翠もよく分かっている。だからこそ、打ち明ける必要性を感じないのだ。


(_____なんだかんだ、私はどっちの世界も好きだったんだろうな。贅沢な話だけど。)


 翠は、そう頭の中で唱え、自分を納得させ、ベッドから起き上がる。

やはり面積が大きいと、暖かいベッド(楽園)から抜け出すのも一苦労。


 前はベッドのシーツががクシャクシャになるくらい、翠は寝相が若干悪かったが、大きなベッドで

 寝るようになってからは、静かに眠っている。

大きなベッドなら、寝返りなんていくらでもできる筈なのに、何故か体は定位置のまま動かない。 


 彼女は眠っている間も、大きなベッドや高そうな寝具を意識しているのだ。

ある意味これも『貧乏性』なのかもしれない。




 ガチャッ


「うわぁ! 

 ミドリさん、もう起きられたのですか?!」


「え? 今何時??」


「まだ5時です!」


「あぁ、ずっと『時計無しの生活』が続いていたから、日が出てたらとりあえず週間が・・・」


「_____同じ理由で、ザクロさんも、もう庭で散歩しています。」


「あ、やっぱり?」


(___いや、『時計見る習慣』が、全く無い訳ではないんだよ。

 ただ、時計がない生活の方が楽だった・・・というか。

 もう時間に追われる生活が嫌だった・・・というか。)


 部屋には、ちゃんと時計が時刻を刻んでいる。

にも関わらず、彼女は時計を一日に数回しか見ない。

 彼女にとって、『時間に追われない生活』が、とても心地良かったのだ。

学生時代は、時計を何度も確認して、授業が終わる時間を何度もチェックしていた。


 何度確認しても、時間が早くなるわけでも遅くなるわけでも無いのに、時計に対して『過度な期

 待』を寄せていた人、は少なからずいるだろう。

そんな生活を続けていた翠にとって、時計が身近にない生活は、不便でもあるが過ごしやすくもあったのだ。


 旧世界では、何もかもが時間に縛られていた。

『時給』『時間割』『時間厳守』『時間指定』『制限時間』『休憩時間』『勤務時間』


 そして、時間に関する道具やアプリの多さが、人間がいかに時間に縛られているかを、遠回しに表

 している。

『アラーム機能』『時計型デバイス』『腕時計』『ゲームの時間厳守機能』『家電の時間予約』


 それら全てが無い、もしくはそこまで重要ではないこの世界。

大変だが、旧世界では気づけなかった事が色々と知れた翠。

 時間を忘れるほど綺麗な景色、時間なんて気にする余裕もないくらい白熱する戦い。

そんな生活に慣れてしまった翠は、もう時計を見る習慣が無いに等しいのだ。




 だが、これからまた、『時間に縛られる生活』に戻ってしまう。

少し嫌な気持ちもあるが、安心する気持ちもある。

 縛られていた存在がなくなるのは嬉しいが、無いとどこか不便で不安になる。

そんなジレンマを抱える翠は、静かに笑った。


(_____そっか、この生活が、私にとっての『日常』だったんだな。

 でも、野良モンスターの脅威に怯えていた、あの『非日常』も好きだったんだけど。


 ___どちらにしても、私、この世界が好きなんだろうな。

 どっちにしろ、楽しく過ごせているんだから。ある意味『才能』なのかも。)

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