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191・悪い事もあれば 良い事もある

 彼は民に対しては、『善良な王子』であった。だから余計に、民のショックは大きい。

一部の民は、この事実を受け入れられず、他国へと行ってしまった。

 グルオフは、国を出ていく彼らを、止めるわけでもなく、優しく見送った。

この大事件を受け止められない人がいるのは、当然だからだ。


 その上、瓦礫の中から、湧水のように次々と出てくる、偽・王家たちの悪行の情報や証拠。

それらを見て、呆れる民や翠たち。


 一体自分たちが、どれだけ長い間、偽・王家に搾取され続けてきたのか、調べれば調べるほど、従

 っていた自分たちがアホくさく感じる。

圧力に屈していたとはいえ、証拠の山は探せば探すほど大量に見つかる。


 それらの証拠があるのにも関わらず、全く動けなかった王都の住民。

『推理小説』で例えるなら、『証拠がほぼ出揃っているのに、一向に推理ショーを始めない探偵』


 だが、今彼らの脳を支配しているのは、『恥ずかしさ』や『葛藤』ではない、『怒り』である。

それも、『生きている人間』だけが抱えているのではない。

 偽・王家のせいで亡くなってしまった故人も多い。


 何故自分たちが、こんなどうしようもなく、愚かな人間に支えていたのか。

 何故こんな人間たちが、この国の上層部に居たのか。

 何故こんな人間たちを、ほんの少しでも信じようとしていたのか。

 何故こんな人間たちに、愛する人・大切なひとを奪われ、捨てられたのか。


 民が絶望に苦しんでいる間、牢のなかの貴族たちは、ただただ絶望していた。

もう何も弁解できない、情状酌量もできない、それほど酷いことを積み重ねていたのは、彼らも薄々自覚していた。


 地位を失い、財産の大半が『瓦礫の一部』と化してしまった貴族や偽・王族は、牢屋のなかで嘆く

 しかなかった。

どうやっても、彼らの罪は償えない、一生分で償いきれない。


 彼らの尋問は、ザクロと翠が率先して担った。

他の4人を復興に専念させる為、2人は自ら汚れ仕事を引き受けたのだ。

 あの巨大なハエを生身で戦った2人に、牢のなかにいる人間は、誰も反抗なんてしない。

力の差は歴然だから。むしろ今歯向かえば、さらに墓穴を掘る。


 おかげで尋問は早く済み、尋問がほぼ完了した頃には、貴族たちの心も少し晴れていた。

自分たちが今後受ける処遇を、改めて受け止める覚悟ができたのだ。

 もう自分たちには何も残っていない。くだらない歴史しか残せなかった。

そんな自分たちができる事は、罪を償うため、頑張るしかない。


 一生かかっても償いきれない大罪ではあるが、もうそれ以外に選択肢がない。

もう見て見ぬフリもできない、言い逃れもできない。


 自分たちの地位がなくなった事で、一致団結する民の姿を目の当たりにしてしまうと、もう自分た

 ちにできる事は限られる。

自分たちに残っているのは、『大罪』のみ。その為に生きる。それしか『生きる目的』がない。


 今まで多くの民を、窮地に追い込んできた元・貴族 王族。

だが、今度は自分たちが窮地に追い込まれている。これ以上の皮肉はないだろう。

 グルオフも、尋問だけ済まして、その後の処遇については後回しにした。

何故なら彼らにとって、重すぎる罪を背負いながら生きる事こそ、『最大の罰』




 尋問が終了したのは、『国命の乱』が起きてから、約一ヶ月後。

一ヶ月も過ぎれば、この騒動は国外にも知れ渡り、同時に翠たちも、国内外で有名人に。

 わざわざ他国から翠たちを観に来る他国の重鎮もいれば、一種の『ファンレター』を貰うことも。


 「まさか俺にも、手紙が貰える日が来るなんて・・・」と、ファンレターの束を、満面の笑みで抱

 えているザクロを見たグルオフは、彼に『手紙の書き方』を教えている。

尋問続きで、精神が疲弊していた彼にとって、ザクロの純粋な心は、そんな擦り切れた心を補うのに最適だった。


 王都に住んでいるモンスターのなかにも、ザクロと同じく、字もまともに書けない、教育が行き届

 いていないモンスターも多かった。

その為、グルオフはこの国の『教育制度』を見直し、人間もモンスターも、一緒に勉強ができる制度へと変えた。


 今まで偽・王家からの圧力に怯え、手を差し伸べる事すらままならなかった人間たちも、グルオフ

 の改革に協力的。

おかげで復興も、予定よりも早く進み、城が元通りになるのも、そう遠くは無くなった。


 ようやく彼は、城で安心と安全に囲まれて生活することができるのだ。

本来はそれが当たり前なのだが、彼にとってそんな生活は、夢のまた夢であった時代があった。

 だからこそ、翠たちも含め、グルオフも城で生活に馴染むまで、時間がかかった。

そのせいで、城の使用人たちに追いかけられる日々が続き、それも含めて楽しい毎日が過ぎていく。


 そして、かつて貴族たちが使っていた部屋は、自然と翠たちの部屋に。

だが、それに異議を唱えたのが、リータ・翠・ザクロの3人。


 クレンとラーコは、グルオフを守るアメニュ一族として、最上階に近い場所が自分達の部屋に。

それは3人も何となく理解している、だからこそ、3人は違和感を感じずにはいられなかった。

 しかし、3人が城住まいになるのは、兵士や城の使用人も大賛成だった。

その圧力に負け、3人も『慣れない大きな部屋』で生活することに。

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