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190・唯一踏み込みづらい場所

 城の瓦礫に潰されてしまった人・翠のクラスメイト、合わせて50名以上が犠牲になってしまった、

 今回の一件。

それだけではない、潰れた家々や、避難している間に怪我をしてしまった人も考えると、かなりの騒動になってしまった。


 そして、この国を破滅へ追い込んでいた真の黒幕、センタリック王子の死に関しては、『半分の

 民』が涙を流していた。

だが、『もう半分の民』は、複雑な表情を隠せずにいる。


 王子が命を落としたことで、王都の住民は彼の『洗脳』から次々と解放されていく。

やはり王都の住民も、心のどこかで彼を疑っていたのだ。

 しかし、彼は人の心を読み、誘導するのが上手い。

だから、住民は無意識のうちに、王子の『家畜』となっていたのだ。


 その資料や証拠、今までの悪行の数々が残っているであろう、王子や王の部屋があった城の最上階

 は、もう形すら残っていない。

だが、まだ諦めるのは早い。瓦礫の撤去していけば、偽・王家の黒歴史もボロボロ見つかる。


 それに、例え資料が無くなっていたとしても、もう彼らに従おうとする住民はいない。

何故なら、『本物の王家』を前に、偽物の王家の威厳なんて、枯れ葉のように簡単に飛んでいく。


 その証拠に、グルオフと兵士はついさっき知り合ったばかりにも関わらず、兵士はグルオフの命令

 に従っている。

それはグルオフが、本物の王家だから・・・という理由だけではない。


 彼の冷静な判断力と、人々を即座に行動へと向かわせる説得力は、まさに王そのもの。

グルオフの指揮あってこそ、被害者を最小限に抑えられたのだ。


 彼の『王たる最低限の行動 民衆を守るための行動』が、偽物たちに何もかもを縛られていた住民

 の思考を、一気に解き放った。

そして、偽物に怯える必要もなくなった住民たちは、自ら進んで、救助活動に参加している。




 城の地下にあるのは地下牢だけではない。

王子が密かに研究を重ねていた、『禁じられた地下部屋(実験部屋)』も無事に残っていた。

 復興活動が本格的になった頃、翠とザクロが最初に足を踏み入れてみたが、そこもまた凄惨。


 二人の後ろには他にも複数人の兵士がお供したのだが、部屋から発せられる危険なオーラに、部屋

 に入る前から体調を崩す兵士もいた。

もはや、人間の常識や倫理から逸脱した、異様すぎる空間。


 そこで王子は、長い時間を費やして、覚醒者になる為の研究を重ねていた。

だが、本当に研究のための部屋なのか・・・は、誰もが首を傾げた。

 数々の資料や実験道具の他に、使用された形跡もある『拷問道具』まであった。

一体それらが、何に使われていたのか、想像できるが、したくない。


 王子の覚醒者に対する『狂気じみた憧れ』が、その部屋に詰め込まれていた。


「_____うぇっっぐ・・・・・」


「ザクロ、無理だったらクレン達と交代しなよ。」


「ミドリはどうしてそんな・・・・・普通に見られるの???」


「___何となく、覚悟していたから・・・かな。でも、私も全く辛くないわけじゃない。

 此処はもう、埋め立てたほうがいいのかもね。」


「そう・・・だね。」


 翠は、鼻の機能を止めながら、油断すれば溢れ出そうな口を必死に食いしばり、淡々と作業する。

使われた形跡のある拷問器具から発せられる生臭い悪臭は、もはや『悪臭』なんてレベルではない。

 臭うが手入れはしっかりされている様子で、それがまた恐怖を加速させていた。

実験道具に関しても、『メス』や『注射』も大量に保管されている。


 そして、棚に並べられている無数の薬品は、『南京錠』で施錠された棚のなかに、しっかり保管さ

 れている。

お金がある分、危険な薬品を揃えるのにも苦労しなかったのだ。


 だが、その棚のなかに保管されている薬の数々が『本物』なのかも、正直怪しい。

だからこれに関しては、リータの知恵を借りることに。


 だが、リータもこの部屋の狂気には耐えられなかった様子で、2回ほど足を踏み入れたものの、耐

 えきれず外に戻る。

それから3回目の踏み入れで、なんとか薬の分別に取りかかれた。


 結局、その地下部屋の調査には一ヶ月以上費やした。

様々な人が交代交代に調査したものの、手に入れられた情報を並べても、全く達成感が得られない、おかしな調査になった。


 むしろ、調査にあたった人の精神を削るだけの、これこそ『拷問のような時間』だった。

嫌々ながらの調査が終わった時には、ようやく苦しい時間から解放された喜びで、翠たちは異様に歓喜した。


 辛い時間が積み重なると、感覚も時間感覚もおかしくなってしまう。

長年続いたかのように思えた地下部屋の操作は、たったの約一週間程度で終わった。

 そして、調査が終わると早々に埋め立て作業が開始され、その作業も約一週間で終わりを告げた。


 地下部屋の調査の結果、得られた情報は、まさに『王子の狂気の片鱗』

『王子は覚醒者に憧れて、化け物になった』という事実だけでも、受け入れるのが難しい。

 常識や倫理が欠如してしまった人の末路は、『動物以下』であった。


 だが、それでも彼は、王家の一員としての自覚を持っていた。

それが『嘘と偽だらけの歴史』だったとしても、彼は懸命に王子としての顔を演じ続けてたのだ。

 その点に関しては、グルオフも一目置いている。

だからこそ、彼の墓もしっかり用意したのだ。せめてもの『労い』として。


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