189・時すでに遅し
色々とハプニングが積み重なってしまったが、何とか当初の目的は達成できた。
まだまだ課題が山積みではあるが、これから一気に解決へ向かって、大勢の人間やモンスターが動き出すだろう。
しかし、予想以上に第三者を巻き込んでしまった事もまた事実。
犠牲者や被害者への手当の他に、破壊してしまった家々の修理や再建、ボッキリとなくなってしまった城の最上階も、また建て直さないといけない。
だが、翠たちを一方的に責める人は、誰もいなかった。むしろ大勢の人々が感謝している。
彼女たちが行動に移したおかげで、犠牲もあったものの、続いてきた恐怖政治が、ようやく終わりを迎えるのだから。
だが、皆がこれからの生活や自由に、胸をときめかせているなか、『一部の人間』は、絶望の淵に
立たされている。
彼らは、今まで『偽物の王家』に使え、『偽物の王家』を後ろ盾がないと生きていけないような、翠たちの足元にも及ばない人間。
もはや彼らに、今まで通りの自由奔放な生活はできないだろう。
そして、今まで自分勝手に振る舞っていたツケが、払われようとしている。
「あぁ、私達の城が・・・!!!」 「なんて事なの!!!」
「誰の仕業なんだ?! あの侵入者どもか?!」
自分たちの城(住処)を失ってしまった貴族や王族は、半分以上が崩壊した城を見て、ただただ愕
然としていた。
だが、彼らが失ったのは城だけではない。
今までずっと頼りきりだった偽・王家を失ったことで、もはや自分たちは、『ただの人間』
いや、『真っ当な住民』にもなれない、『永久に囚人』となる事は、ほぼ確実。
その証拠に、膝から崩れ落ち、泣き叫ぶ元・貴族 王族を慰めるどころか、誰もそばに近寄ろうと
はしない。
もうこれ以上、城の使用人も兵士も、彼らの顔色をうかがう必要がなくなったのだ。
そんな使用人たちの態度に、貴族たちはかなりご立腹だったものの、周囲の冷ややかな目に晒され
て、ようやく彼らは自覚した。
もうどんなに弁解したところで、どんなにお金を注ぎ込んでも、どんな同情を誘っても無駄。
もう自分たちを守ってくれる王家(偽物)はいない事を。
そして、今までの贅沢に塗れた生活は、あっけなく終わりを告げた事を。
彼らは、あの王家が『偽物』である事実を知っていたのか、知らなかったのか・・・・・
もし知っていた上で加担していたのなら、到底許されない。
最悪『処刑』か、軽くても『牢屋行き』 当然、全ての権利も財産も没収されるであろう。
今までそれらに頼ってきた元・貴族 王族にとっては、自分の全てを失う事になる。
絶望に打ちしひがれている彼らは、もはやその場から逃亡する気力もない様子。
兵士たちは、迷うことなく彼らを、崩壊を免れた城の地下へと連れて行った。
最上階はもう姿形がなくなってしまったが、地下はまだ無事。
偽・王家に罪を被せられた元・囚人(免罪者)も、久しぶりに浴びる日の光に、涙を流していた。
翠たちは、城から出てくる免罪者の数があまりにも多く、少しびっくりしてしまう。
下手すれば翠たちも、彼らの仲間になっていたかもしれない。
そして、今まで瓦礫のなかに隠れていた偽・王も、もはや終わりである。
『妻』と『息子』を同時に失ったショックからか、自分たちの悪事が全て公になり絶望しているの
か、地下に連れていかれる偽・王は、項垂れたまま顔を上げなかった。
そんな彼の姿は、もう誰の目からも『老いぼれの男』にしか見えない。