188・ウロコの生えた肌の彼を・・・
「ねぇねぇお兄ちゃん、その『キラキラした手』、触らせて。」
「え? えぇ・・・・・と・・・・・」
「あんたかっこいいな! 男前だ!」
「モンスターの『かっこいい』とか『可愛い』って、人間とは違った良さがあるよな!」
「いやいや、人間の私たちから見ても、あなたすっごいかっこいいわ!
目が紅くてキラキラしてるのがまた良い!」
「み、ミドリ・・・・・
助けて・・・・・」
「いいじゃないの、皆から褒められてるわよ。」
いつの間にか、王都の住民に囲まれているザクロ。
王都の外側に避難していた住民が、騒ぎが治ったのを見て、駆けつけて来たのだ。
そして、人とは少し違う容姿をしているザクロを見て、彼らは興味津々だった。
王都で働いているモンスターは多いが、そのなかでも『リザードマン』は珍しいのだ。
鱗の生えている頬を見て、少し距離を置く人もいるが、大半の人は興味津々で見ている。
彼らも、この一夜で、この恐怖政治が終わった事を確信しているのだ。
だからこそ、今まで『何となく』という考えだけで守ってきた『差別意識』も、馬鹿らしくなる。
もう怯える存在はいない、怯える必要もない、気を使う必要もない。
兵士も、モンスターも、もう『怖いだけの存在』ではない。
彼がハエの羽を業火で燃やした光景は、住民たちの目に焼きついている。
彼の放った炎は、住民たちの心の闇に、光を灯したのだ。
そして、今までの差別意識も価値観も、全てをその業火で燃やした。
炎に照らされる、彼の勇ましい姿に、人々は感動したのだ。
同時に人々は、これから、新しい時代の幕開けになる事を、炎の光を見ながら実感していた。
もう今までの、怯えて苦労するだけの生活は消し去り、全てが新しく変わる。
ザクロの炎は、そんな『未来を照らす炎』でもあったのだ。
「お兄さん、お魚さん?」
「い、いや、と・・・かげ・・・・・トカゲ???」
タジタジになるザクロに、翠達は笑いが堪えられなかった。
ザクロも根は優しい。
だから興味を持って近寄ってくる人々を避ける事もしなければ、自分から逃げる事もしない。
その光景が、普段鋭くキリッとしたザクロとはかけ離れている為、つい緑も笑ってしまうのだ。
「うっふふふっ!! あのね、お兄ちゃんは『トカゲ』さん、『トカゲお兄ちゃん』だよ!」
「ねぇねぇ、口から火が出るやつ、あれ私もやりたい!」 「俺も俺も!」
「いや、色々とダメだ!! 色々と!!」
緊張しながらも、頑張って言葉を交わすザクロには、兵士たちも心を許してしまう。
彼の様子だけで、人を襲ったり、傷つけたりしないのは明白だった。
むしろ彼よりも、住民を税や圧力で苦しめていた偽・王家の方がよっぽど恐ろしかった。
彼のように戦えるわけではないものの、今まで『奪った地位』を振り翳し、何人もの貴族や王族を味方につけていた。
アレとザクロを天秤で測れば、当然ザクロは軽い。
ザクロはあの巨大なハエを撃退する力を持っているにも関わらず、人間に触れる際の力加減は、ありえないくらい優しい。
気づけば翠たちは、傷だらけ・ハエの体液だらけの、汚い姿になっている。
だが、戦っていた時間は、かなり短く感じていた。
もう夜が明け、空がだんだん明るくなっている。遠くで、朝を知らせる鳥も、楽しげに歌う。
ようやく、この国の闇が晴れ、新たな時代な幕開けを知らせる朝日が、キラキラと光り輝いている。
だが翠たちの仕事は、まだ終わったわけではない。
元凶を退治できて喜ぶよりも先に、翠たちは被害に遭った場所へ駆けつけ、住民の救助に励む。
直接ではないが、翠たちは『間接的』に、人々や家屋をメチャクチャにしてしまった。
瓦礫を撤去している間にも、翠たちに罵声を浴びせる住民もいたが、全員がその罵倒を心から受け
止めていた。
不本意ではあるが、この騒動を起こしてしまったのは自分たちである事を自覚していたから。
グルオフは、ショックを受けて錯乱している住民たちの元へむかい、ただひたすら、話を聞いてあ
げていた。
彼は知っている、ショックを受けている時、話を聞いてくれる人がいるだけでも、心が落ち着く。
かつてラーコが、グルオフにしてあげた事だった。
彼はその時の思い出を、ずっと大切にしていた。
何故ならラーコのその行動が、何度もグルオフを救ってくれたから。
それをグルオフは、王都の住民にも教えてあげているのだ。
グルオフが王家としての自覚を持てたのも、ラーコの献身的な護衛と愛によるもの。
ラーコは、彼の献身的な行動に、思わず涙が出てしまう。
今の彼が、こうして『人を思いやれる行動』をとれるのも、たった1人で正当な王家
を守り続けてきた、努力と苦労の成果である。
まるで『両親と息子 娘』のような関係だが、2人の関係は、それくらい濃い。
ラーコの弟であるクレンも、姉の背中を見ながら、アメニュ一族の一員としての勉強を、この件の
終幕をきっかけにスタートさせている。
この国の歴史や、王家としての歴史もだが、アメニュ一族の歴史も、これから再スタートを迎える。
アメニュ一族の一員としての自覚を持ち、頑張って行動するクレンの姿に、翠やリータの目から涙
が溢れる。
リータに関しては、ちょっぴり『寂しさ』もあったが。