187・せめてもの慰め
翠は、(せめてもの慰めに・・・・・)と、今まで全然使ってこなかった『回復魔法』を、久しぶ
りに使ってみる。
火葬の炎に包まれるその瞬間まで、クラスメイト達が苦い顔をしたままでは、さすがに不憫に感じた翠の、『本当に最後のお節介』
もう事切れている為、回復魔法を使っても、生き返ることはない。
だが、回復魔法をかけてあげたクラスメイトの顔は、だんだん緩やかになっていく。
まるで熟睡する子供のような表情に、翠の目からは無意識に涙が溢れる。
彼らも翠と同様、この国の悪意に巻き込まれ、その命を奪われてしまった。
だが被害に遭ったのは翠たちに限った話ではない。
この国の悪意は、大勢の覚醒者の命を安易に奪えるほど、深く重かった。
そしてまだ、その悪意はこの国に残っている。まだまだ翠達の仕事は、終わったわけではない。
グルオフが言いたかったのは、まさにそれだった。
まだ翠達は、この国の立て直しの『スタートライン』にいる。
だが、スタートラインに立つまで、かなり長い時間を費やした。
もう戻ってこない命もある、グルオフ達の逃亡を重ねた過去が変わるわけでもない。
その罪は、彼の両親だけでは、決して払うことのできない、重すぎる代償であった。
しかもその後始末は、全然関係のない『第三者(翠)』がやらなくちゃいけないのも、『大迷惑な
話』である。
結局翠たち39名は、『とばっちり』を受けたのだ。
しかし、そんなとばっちりを受けた翠が、停滞していた状況を大きく覆した。
クレン・リータ・グルオフ・ラーコと出会い、この国の事情を知り、ザクロと出会い・・・・・
翠の旅の大半は、『出会い』によって紡がれた。
この出会いがなければ、クラスメイトと同じく、彼女もこの国の闇に飲み込まれていたかも。
「___ふふふっ」
「ミドリ?」
クラスメイトの亡骸を抱えながら笑みを溢す翠を見て、王子の亡骸に手を合わせ終わったグルオフ
が、様子を伺いに来た。
「私、本当に『仲間』に恵まれていたんだなー・・・って思って。」
「__________ミドリさん、改めて言わせてください。
ありがとう。」
「え??
いやいや、まだ私達の仕事は終わってないでしょ?」
「それでも、ここまで歩めたのは、ミドリさんあってこそなんです。
ミドリさんが、僕達を導いてくれたんです。」
「『導く』って、大袈裟な・・・・・」
「ううん、大袈裟なんかじゃないわ。」
「ラーコまで・・・・・」
「私もお礼を言わせて。
ここまで到達できたのもあるけど、何より、『弟との再会』に、一役も二役も買ってくれた。
貴女が色々と頑張ってくれたから、実現不可能だと思っていた事が、次々と現実になった。
私達だけの力では、ここまで『幸せな再出発』は成し得なかった。
本当に、ありがとう。」
ラーコは、翠を強く抱きしめた。彼女の目から滴る温かい涙は、翠の肩に落ちる。
彼女も彼女で、今まで相当な努力や苦労があった。
それを大いに活躍できる機会を作ったのは、他ならない翠。
それに、報われたのはラーコやクレン、2人だけではない。
長年正当なる王家に仕え、守り続けてきたアメニュ一族も、この件をきっかけに、改めてその歴史が動き出す。
それはラーコ達の願いでもあり、彼女の祖先の願いであったのかもしれない。
それが、彼女にとって一番嬉しかったのだ。
「ミドリ、自分と出会ってくれてありがとう、自分を導いてくれてありがとう。」
「覚醒者になってからは、ほぼ『自分の力』で頑張ってたじゃん。」
「でも、そこまで行き着くのに、ミドリの力は必要不可欠だった。
今の自分があるのは、ミドリあってこそなんだ。」
「___じゃあその気持ちを、ラーコとの未来に生かして。
今の貴方なら、どんな困難も乗り越えられる、お姉さんであるラーコを守る事も容易いでしょ?」
「自分より姉さんの方が強いですけど・・・・・
まぁ、自分なりに頑張りますよ、あははっ!」
照れ隠しをしながら笑うクレンの顔からは、まだちょっとだけ幼さがある。
そう、翠と初めて出会った時の、ちょっと生意気そうだけど、真面目さが滲む顔。
彼のそんな顔を見ると、翠も安心する。
このメンバーのなかで、一番大きな成長をしたのはクレンではあるが、翠にとっては、あまり変わ
っていない。
だが、それでいい、それが一番いい。
「僕も、ミドリさんには、感謝してもしきれません。
僕だけじゃなくて、ドロップ町の住民や、兄さんも助けてくれたんですから・・・」
「じゃあこれからは、私じゃなくて、住民やお兄さんのそばに居てあげて。」
「それは嫌です。」
「バッサリだな。」
リータは、大口を開けて笑っていた。出会った当初とは、まるで別人である。
彼も彼で、先の未来が楽しみなのだ。
ドロップ町や兄たちは、散々な目に遭ってしまったが、彼らなら何度でも立ち上がれる。
何故なら、動ける足もある、手もある、家々も建て直せばいい。
そして、リータの祖先であるドロップも、この件をきっかけに、またその名が轟くだろう。
リータの活躍は、町に大きく貢献して、前以上に町が大きくなるかもしれない。
「兄さんの事だから、壊された屋敷を見たら
「解体する手間が省けた」
とか言いそうで。」
「あははははっ!! それは言えてる!!」
今までは距離を置いていた兄と、今度は二人三脚で頑張るのだ。
彼の兄も、まだまだ色んな未来の可能性がある。『町長』としても、『医師』としても。