186・憎い相手の遺言
「_____ねぇ、恨んでる? 私を
貴方達よりも先に行ってしまった、私を。まだ生きている、私を。」
「__________アンタは、タマハシは・・・・・」
「___その苗字、懐かしい。もうこの世界では、『ミドリ』で通ってるから。
貴女はずいぶん変わってしまったのね、昔はメガネをかけて、三つ編み姿だったのに。
一瞬、誰だか分からなかったけど、何となく・・・・・分かるよ、『学級委員長』」
学級委員長の力を持ってしても、クラスの問題はなかなか解決しない。
同じ学生同士だからこそ、学生同士の問題には口を入れづらい。
自分も標的にされる恐怖と、第三者としての安心感は、天秤の皿に乗る翠よりも重かったのだ。
それでも、翠は気づいていた、彼女なりに、翠を助ける方法を。
しかし、結局は解決しなかった。それが一番、『現実的』だ。
漫画や映画では、いじめ問題をクラスや学校全体で解決して、円満にハッピーエンド・・・という
流れが大堂。
しかし、現実問題、そんなうまい話があるわけでもない。
人はすぐに変われない、それこそ、お年寄りになるまで、ずっとその性格や価値観のままかも。
そう、王子の両親のように。
王子が苦しんでいたのは、そんな一族のなかで、唯一『普通の価値観』を持っていたから。
もし両親の影響を受けて、少しずつ彼も曲がっていけば、彼こんな姿にならずに済んだかも。
どの道、王子の一族が崩壊してしまったのは、ほぼ『自業自得』
唯一同情できるのは、王子のみ。
そんな彼が辿った末路がこんな形なのは、皮肉以上のなにものでもない。
これが、今までずっと甘い汁を啜ってきた者たちに対しての報復なのか。
だとしたら、彼の立場がない。
普通の価値観を持ち、偽・王家(両親)をどうにかしようとしていた彼だけでも、どうにかできなかったのか。
だが、仮にどうにかできたとしても、彼の『歪んだ憧れ』は、どうにもならなかったかも。
『クラスメイト38名』という名の『優秀なモルモットたち』を手に入れたことで、歯止めが効かなく
なったのだろう。
ある意味、偽・王家の崩壊を加担したのは、この国のことを何も知らなかったクラスメイト達かも
しれない。
だがそれは、決して誉められたものではない。
誰か1人でもいいから、自分達の置かれている状況に違和感を抱き、行動していれば、王子が化け
物になる未来を回避できたのかもしれない。
「___アンタは私・・・・・私たちを・・・恨んでるの?」
「まぁ、多少はね。でも今は、もうそんなに気にしてないよ。
私はこの世界で、やっと自分が自分らしく生きれる方法も、支えてくれる仲間も見つけた。
でも、あの過去がなかったら、私だって必死にこの世界で生き延びようとはしなかったよ。」
「_____じゃあ生きなさい、この世界で。
私は、もうこんな世界で生きられないから。」
「当然、ヨボヨボのおばあちゃんになるまで、この世界で生きてみせるわよ。」
翠の力のこもった言葉に、委員長は「フッ」と乾いた声で笑った。
それは、今の彼女にできる、精一杯の『皮肉』
勇敢に、凛々しくなった彼女に対して、何の意味もない皮肉の笑み。
それは、吐き捨てる本人も分かっていた。
彼女がもう、『かわいそうな人間』ではない事くらい、誰がどう見ても分かる。
でも、やはりまだ納得できない節がある。
何故自分たちが、こんな『哀れな最後』を迎えるのか。
薄々、自分たちに原因があるのは気づいている。でも認めたくない。
この世界に来て、何もかもが変わってしまい、その変化はあっという間に38名をのみ込んだ。
本人たちも知らない間に、大騒動に巻き込まれてしまった。
翠に関しては、『自分から巻き込まれた』
だがそれは、クラスメイトの為ではない、この国の為。
翠は、転生しても変わらなかった彼女たちの顔を見て、何故か少し安心した。
彼女にとってのクラスメイトは、今も変わらないまま。何故かそれが、妙に安心する。
その理由は分からない、もしかしたら、『優越感』なのかもしれない。
翠のはっきりした意志を聞いた委員長は、そのままスーッと、静かに息を引きとる。
まるで、霜が冬の朝日に溶けるように、静かに。
38名が積み重なり、微動だにしない光景を見て、翠は呟いた。
言い忘れた、彼女がクラスメイトに送りたかった言葉。
「___もし、『私だけ』が転生したとしても、きっとこんな結末にはならなかった。
もしかしたら、そっちの方が良い結末だったのかもしれないし、逆だったかもしれない。
そんなの、調べる方法なんてないんだけどさ。
でも、ちゃんと『全員分のお墓』は建ててあげる。『38人分 一人一人全員』
ちゃんと手も合わせるからさ、だから・・・・・
生まれ変わったら、『どんな事も受け止められるような人』になってね。
それだけでも、十分違うんだよ、世界も、周りも。」