184・『綺麗なEND』なんて存在しない
「___まぁ、所詮はこんなものかな。
私達が救えた命や国は大きいけど・・・・・」
彼の祖先が犯した罪が、結局は後世の人々やモンスターを苦しめていた。
その罪を、彼の親に償わせる事も、難しいのかもしれない。
息子の苦しみの根底に自分たちがいる事に、全然気づいていないようだったからね、アレ。」
「_____彼にもし、手を差し伸べてくれる人がいたら・・・
翠が、僕を救ってくれたように。」
「クレン、『もしも』を考えるのは別にいいけど、私たちに歩める未来はたった一個しかないの。
自分を責めていたら、王子様も浮かばれないよ。」
「そうですね、ここで『全てが終わり』というわけではありませんから。」
「グルオフ?! いつの間に・・・・・」
5人でしんみりしていると、グルオフが瓦礫の奥から出てきた。
だが、彼は近くの遠征組に寄りかかりながら歩いている。
よく見ると、グルオフは右足に木の枝を結んでいる。
出血はしていない様子だが、右足はほとんど動かなかった。
「グルオフ?!! その・・・足!!!」
「すみません、気をつけて住民の皆さんに避難させていたんですけど、飛んできた瓦礫で・・・」
彼の変化に、一番早く反応したのは、やはりラーコだった。
ラーコは慌てて、彼の右足を確認する。
だが、彼女が少し触れただけで、グルオフは痛みを顔に滲ませていた。
混乱してオロオロしているいるラーコの肩に、クレンが手を置いて落ち着かせる。
だが、彼の肩にも血が滲んでいる。
「クレン?!! あんたまで・・・!!」
「あぁ、これ?
いや、瓦礫の下敷きになった時、リータを庇って、それで・・・・・」
クレンはうまく自分の傷を誤魔化していた為、ずっと彼の側にいたリータですら気づかなかった。
だから、クレンの怪我に一番びっくりしたのは、彼に守られていたリータ。
リータは、焦って回復魔法をクレンにかけてあげようとしたが、技を連発しようとすると、彼の体
にも支障が出てしまう。
それを知っていたクレンは、リータの手を止めてあげる。
怪我をしたのは2人だけだったが、必死になって戦った反動は、全員に響いていた。
ザクロも、勢いよく口から炎を出しすぎたのか、少し咳き込んでいる。
翠は精神的ダメージが誰よりも大きい様子で、ずっと浮かない顔をしている。
リータやラーコは、そこまで目立った外傷はないものの、だいぶヘトヘトな様子。
だが、グルオフの言うとおり、これで終わりではない。
まだまだ翠たちには、やりたい事も、やらなければいけない事もたくさんある。
『後味』を今決めるのは、まだ早すぎる。
そう、偽・王家から解放された喜びや実感は、これから感じることができるのだから。
「___ミドリさん、ちゃんと持ってきてくれたんですね。」
「まぁ・・・・・
駄目だった?」
「いいえ、むしろありがとうございます。
私としても、彼のその『冷たい笑み』を見ると、色々と考えさせられるものがあって・・・
まだ、偽・王家に関しての調査は始まっていませんけど、彼の亡骸から、色々と察せるんです。」
「そうね、それは私もよ。」
「だからこそ、『今後への意気込み』も踏まえて、彼のお墓は、しっかり建ててあげたいんです。」
「きっと、彼も喜んでくれるよ。」
冷たくなった王子の頬を、グルオフは優しく撫でてあげる。
因縁の相手でもあるが、彼の内情を知ってしまった翠たちは、『許せない気持ち』と『かわいそうな気持ち』を抱えた。
彼にとって、この結末が王子にとっての『解放』となってくれる事を祈るばかりである。
だが、こうでもしないと、彼は解放されなかった。だから翠たちも同情してしまうのだ。
もし彼が、もっと『自由の身』だったなら、こんな一大事件を起こさなくても、別の方法で偽・王
家を戒めることができたかもしれない。
もしかしたら、『翠たちと協力する未来』も、あったのかもしれない。
(『私たちに歩める道はたった一個しかないの』
って、自分で言ったけど・・・・・
私たちの歩んだ道って、『幸運』に見えて、『残酷』なのかもね。
道は同じだったのに、目指す未来も同じだったのに、それでも一緒に手を取りあえなかった。
彼と一緒に頑張る道も、歩んでみたかったな・・・・・
でも『彼ら』とは、どっちみち決別するしかなかったよね。)
翠は、一旦王子の亡骸をザクロに渡し、後ろに振り返る。
そこには・・・・・