181・『劣勢』と『優勢』を繰り返す
翠のその叫びは王都全域に広がり、翠が『ブンッ!!!』と振った杖から出す風が、周囲の小石や
塵を吹き飛ばす。
その様子を見たハエは、ようやく直った体勢で、もう一度羽ばたこうとする。
彼女はその風圧に耐えるため、地面にしっかり足をつけて構えるが・・・
バァン!!!
「っ?!!」
突然翠の真後ろから、『水色の矢』が飛んできて、ハエの眉間に突き刺さる。
「ギィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」
眉間に矢が刺さったのがそんなに痛いのか、ハエは再び後ろに倒れこむ。
慌てて翠が後ろを振り向くと、矢を射たのが誰なのか、はっきり見えた。
翠が、『先程からずっと心配していた2人』
「ミドリ!!! 大丈夫か?!!」
「クレンこそ大丈夫だったの?!!」
「最上階と一緒に吹っ飛ばされたけど、屋根の上に落ちて軽傷で済んだ!!!
リータも無事だ!!!」
クレンが手にしているのは、地面に設置する型の『大型ボウガン』
たった一本だけの『必殺』なのか、矢を射たボウガンは徐々に溶け始めている。
瓦礫に隠れていたリータは、隙を見て翠のいる屋根の上へ登り、すかさず回復魔法をかける。
彼女も彼女で、ぶっ飛ばされたものの背中を強く打っただけ。
無意識に『受け身』をとっていたのだ。
リータの回復魔法で、体の痛みがほぼ引けた翠。
ハエはというと、目から涙を流しながら、恨めしい目で翠達を見ていた。
「そう言えばリータ。王様は?」
「グルオフが合流してくれたので、彼に任せました。
彼が王都の住民に、『外側の壁』まで避難するように、頑張って誘導しているみたいです。」
「いつの間に・・・・・」
「だからミドリさん、全力で行きましょう。
もう『王子様』は、助けられそうもありませんから。」
「_______________えぇぇぇ?!!
あれっれ・・・・・王子ぃ?!!」
ナチュラルにサラッとカミングアウトしたリータに、翠はこんな緊迫した状況にも関わらず、目を
点にして驚いている。
そんな彼女の反応を見て、クスクスと笑うリータ。
「王様が直々に言ってくれましたから。アレは、『覚醒者になるための実験』を行って・・・」
リータが説明に入ろうとするが、ハエは既に、2人に向かって大口を開けている。
ニョキニョキと伸びる、ストローの様な口からは、明らかに『毒々しい息』が発せられていた。
その息が落ちた地面に生えていた草花は、一瞬にして萎れ、腐ってしまった。
人間やモンスターが触れてしまっては、ただでは済まないのはほぼ確実。
「おいっ!!! 今はアイツに集中しろ!!!」
クレンはすかさず、スライムを召喚。
そしてスライムは、ハエの顔にへばりつき、がっちりホールドする。
だが、スライムがハエを抑えられたのは、ほんの一分程度。
スライムが顔面を覆ったことで、息ができずに地面をのたうち回るハエ。
その衝撃で、へばりついていたスライムはあっという間に剥がされ、スライムはそこで完全にダウ
ンしてしまう。
ダウンしたスライムは、『固形』ですらなくなってしまった。
翠は、ハエが仰向けになっているタイミングを見計らって、夜空に飛びあがった。
そして、杖の先端を向け、飛び降りる場所は、ハエの胸部。
リアルで生々しく、大きな虫の上に乗るのは、少し躊躇した翠。
だが、早く仕留めないと、どんどん王都がメチャクチャになってしまう。
ハエの胸部に着地した翠、杖の先端は、見事にハエの胸部に突き刺さり、そこから『緑色の体液』
が噴き出る。
翠の着ている真っ白な服が緑色に染まり、結んでいた髪が衝撃でほどけてしまう。
翠を目の前にしたハエは、その毒々しい息を、翠に吹きかけようとする。
慌ててその場から離れた彼女だったが、ちょっと手のひらに息が触れてしまい、その部分がジンジンと痛み始める。
その痛みに気をとられていた翠は、足を滑らせてハエの上から落下。
眉間の痛みに耐えながらも、もう一度起きあがろうとするハエ。
しかし、次にハエに対して攻撃を仕掛けたのは、翠と同じく頭上から攻撃を仕掛けたラーコ。
ラーコは空に浮いた状態で矢を放ち、左翼を突き刺す。
それと同時に、矢は地面へ突き刺さり、ハエの左翼に、ちょっとではあるがヒビが入る。
狙いを定めたラーコの弓矢でも、羽を破損させることは無理だった。
だが、羽の片方が破損したため、ハエは地面の上で羽ばたく事はできても、なかなか体が宙に浮か
ない様子。
あれだけ大きな腹を宙に浮かせるのは、相当難しいのだろう。
しかしその羽ばたきだけでも、周囲を強風に巻きこむ為、また状況が停滞してしまう。
翠が、瓦礫の山に身を隠していると・・・・・
「ミドリ!!!」
「ザクロ?! いつの間に?!」
「なんとかこっちまで歩いてきた。
グルオフは、他の遠征組に任せてある。
皆が声をかけ合って、兵士の指揮はグルオフがとっているんだ。」
「で・・・でもこの風をどうするべきか・・・・・」