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【一ノ瀬梓視点】仮面の悪魔の正体は〇〇〇〇だったようだ。

※2019/04/22

 物語の進行の都合上、描写を大きく変更しました。

 ミンティス歴2030年 5月20日 場所ウィランテ大山脈、シャドウレイの森


【ネメシス視点】


 トロルの軍勢を倒しながら私達神聖騎士修道会は行軍を続け、遂にシャドウレイの森に到達した。

 目の前には、トロルよりもふた回りほど大きい魔獣――オログ=ハイの姿がある。


『ニンゲン、カ。矮小ニシテ、貧弱ナ存在……マア、苗床クライニハナルカ』


 オログ=ハイは完全に私達を舐めきっているようだ。

 全員を倒し、私を陵辱して苗床にするつもりらしい。……コイツは理性ではなく本能に従って生きているようだな。

 やはり、いくら強くても所詮は魔獣か。


『男ニ興味ハナイ。サッサト消エテモラオウ。〝森羅万象ヲ分散シ、五素ヲ取リ出シ、顕現セヨ。劫火、暴風、冷気、雷撃、水流――五素ノ力ヨ、今コソ荒レ狂ッテ破壊ヲモタラセ〟――〝五素顕現(アポカリプス・ペンタ)〟』


 ――ッ! まさか五属性複合上級魔法――禁呪だと!


「――全員撤退しろ!!」


 あんなものに巻き込まれたら絶対に死ぬ。

 この魔獣――脳味噌は性欲一色だが、実力は確かだ!


 残念ながら、私の部下の何人がこの一撃で命を失った。

 開始早々、最悪の結果だ。……ミント様、必ずや命を捧げたミント様の子らに祝福を――。


「――お前らはトロルを倒せ。私がオログ=ハイを受け持つ!!」


「……しかしッ」


「問題ない。それより、お前らは一刻も早くトロルを全滅させろ! それと、オログ=ハイの法術への警戒を怠るな!」


「――畏まりました!!」


 これで、神聖騎士修道会の騎士達は問題ないだろう。


『フフフ、我ヲ前ニシテ逃ゲヌトハ……気ニ入ッタゾ! オマエヲ我ガ側室ニ迎エテヤロウ。タップリ可愛ガッテヤル。ソノ熟シキッタ身体ヲナ』


「……生憎と私はミント様にこの身の全てを捧げた女だ。プロポーズは断らせてもらおう」


『……フフフ、勇マシイ女ダ。ソンナ風ニ言ッテラレルノハイツマデダロウカ? スグニ俺ノコトシカ考エラレナイヨウニシテヤロウ。……大丈夫、時間ハアル。ユックリト、ナ。〝不可視ノ地雷ヲ〟――〝不可視地雷(インビジブル・マイン)〟』


 随分とトリッキーな魔法を使ってくるな。が、私には【魔力察知】のスキルがある。間違って踏むことがない限り、ダメージを受けることはない。


『〝真紅ノ炎ヨ。紅ノ爆発トトモニ、灼熱ノ焔ニ包ミ込メ〟――〝灼熱爆焔(フレア・バースト)〟』


 【炎魔法】に分類されない唯一の爆発を引き起こす魔法――火属性上級魔法〝灼熱爆焔(フレア・バースト)〟か!

 【炸裂魔法】〝炸裂魔法(バースト)〟、【爆発魔法】〝爆発魔法(エクスプロージョン)〟、【爆裂魔法】〝爆裂魔法ハイパーエクスプロージョン〟とは違い、呪文詠唱を必要とする。

 が、【火魔法】のためかなり手軽に会得できるということで、使用できる者も多い魔法だった筈だ。


 しかし、この威力。そのままでも耐えられるとはいえ、防具にダメージが残りそうだな。


「――【最強之盾(ツラヌケルモノハナシ)】」


 私のユニークスキル――【絶対矛盾】の効果を発動して、不可視の力場であらゆる攻撃を無効化する。

 【最強之盾(ツラヌケルモノハナシ)】は、勇者の聖剣技すらも防ぐ究極の防御技だ。この守りも粉砕できる者はこの世界にはいない。


『……ム、無傷ダト!』


「その程度の攻撃では私を落とせんぞ」


 といっても、【最強之盾(ツラヌケルモノハナシ)】を発動している間は自らの武器を強化するもう一つの効果――【最強之矛(ツラヌケヌモノハナシ)】が使えなくなる。


「……あまり舐めてもらっては困る。女神ミント様の剣たる神聖騎士修道会の騎士団長はひ弱では務まらん。――【生贄ノ突サクリファイス・チャージ】」


 自らのHPを消費して攻撃力と突破力に変えるスキルを発動する。

 馬に騎乗していないので【ヴァルキューレの騎行】の恩恵には預かれないが、【血ノ喝采】と【生贄ノ突】の効果でその穴を埋めて有り余るほどの攻撃力を得られている。

 この状態で【最強之矛(ツラヌケヌモノハナシ)】を使えば、オログ=ハイに大打撃を与えられる筈だ。


『〝瞬間的ニ凍テツケ〟――〝瞬間零度(フリージア)〟』


 氷属性上級魔法――敵周囲を瞬間凍結させる魔法か!

 威力だけ見れば〝極寒世界(ニヴルヘイム)〟よりも強い……厄介だな。


「――【最強之盾(ツラヌケルモノハナシ)】」


 ちっ、攻撃はお預けか。折角消費したHPが無駄になってしまったな。


 物を収納できる指輪型のアーティファクトから良水薬(ハイ・ポーション)を取り出し一気飲みする。

 これで失った分のHPは回復できた筈だ。


『硬イ女ダ。ナカナカ落トセネエ。〝踊レ踊レ、影ノ人形。踊リ踊リテ、絶望ヲ撒キ散ラセ〟――〝影分身(ドッペルゲンガー)〟』


 自分の影から、影の分身達を呼び出す魔法。……まさか、【影魔法】まで使えるのか!


 ……だが、残念だったな。私の武器は槍だけじゃない。

 あまりMPには自信がないが、私には【神聖魔法】の適正がある。【影魔法】に対処は得意だ。


「〝神聖にして大いなる光よ! 眩い光と共に世界を照らせ! その光で全ての諸悪を消し飛ばせ〟――〝極聖光爆(ホーリー・ノヴァ)〟」


 神聖属性極大法術――〝極聖光爆(ホーリー・ノヴァ)〟。

 【聖魔法】〝白聖光爆(ホワイト・ノヴァ)〟の上位版というべきこの法術は、MPの消費が段違いに多い代わりに威力も規模も桁違いに広い。


 ……上手くいったようだな。影の分身達は全て消し飛ばされ、オログ=ハイにも僅かだがダメージを……ッ! 僅かだと! そんな馬鹿な! あれだけの大法術を受けてほとんど無傷などあり得るのか!!


「……まさか、【魔法耐性】」


『ソノ通リダ。……絶望シタカ? 絶望シタカ? ソロソロ降参シテ潔ク吾輩ノモノニナレバ、何モカモ忘レテ気持チヨクナレルゾ?』


「巫山戯たことを。私がお前の愛玩物になどなるか! 〝神聖なる輝きよ! 邪悪を貫く槍となれ〟――〝聖光収束極槍セイクリッド・ジャベリン〟」


 神聖属性法術――〝聖光収束極槍セイクリッド・ジャベリン〟。

 不死者(アンデッド)だろうとなんだろうと、あらゆるものを貫通し浄化する光の槍。


 それを、オログ=ハイに放つが……結果は芳しいとは言えない。一点に収束されている分、〝極聖光爆(ホーリー・ノヴァ)〟よりはダメージを与えることができたが……。


『〝吹キ荒ム風ヨ、閃ク稲妻ヨ! 混ザリテ、稲妻宿ス鎌鼬トナレ〟――〝雷纏風刃サンダー・エア・ブレイド〟』


 ――まさか、こいつ【複合魔法】まで使えるのか!!


「――【最強之盾(ツラヌケルモノハナシ)】」


 【最強之盾(ツラヌケルモノハナシ)】の効果で攻撃を防げてこそいるが、無かったらとうの昔に負けていただろうな。


「〝神聖にして大いなる光よ! 眩い光と共に世界を照らせ! その光で全ての諸悪を消し飛ばせ〟――〝極聖光爆(ホーリー・ノヴァ)〟」


『――ッ! 〝煮エ滾ル溶岩(マグマ)ヨ。噴火ノ如キ勢イヲ宿シ、壁トナッテ我ニ迫ル脅威ヲ焼キ尽クセ〟――〝噴火溶岩壁ヴォルカニックウォール〟』


 火柱を発生させる火属性上級魔法か!

 ……〝極聖光爆(ホーリー・ノヴァ)〟の存在を覚えていて、咄嗟に防御にに回ったということか。


「〝神聖なる輝きよ! 邪悪を貫く槍となれ〟――〝聖光収束極槍セイクリッド・ジャベリン〟」


『無駄ダ、吾輩ニハ効カ……』


 ふっ、成功したようだな。前面にのみ張られている〝噴火溶岩壁ヴォルカニックウォール〟の中に打ち込む訳が無かろう。

 オログ=ハイの左右から〝聖光収束極槍セイクリッド・ジャベリン〟を大量に打ち込んだ。分散するから一撃一撃の威力は落ちるが、それでも神聖属性法術――上級法術に匹敵する一撃を受けて無事で済む筈がない。


「終わりだ! ――【最強之矛(ツラヌケヌモノハナシ)】。――【生贄ノ突サクリファイス・チャージ】ッ!!」


『馬鹿メ、真ッ正面カラ仕掛ケテクルトハ! ヨウヤク吾輩ノ女ニナルコトヲ決意シタトイウコトカ!!』


「違うわ!! 〝光よ、迸れ〟――〝閃光(フラッシュ)〟」


『――ンナッ!!』


 オログ=ハイの目の前で猛烈な光を爆発させた。

 光属性法術――なんの威力もない、ただ光を発するだけの技。その効果でオログ=ハイの視界を白く塗り潰せるのは一瞬。


 ――その一瞬があれば十分だ。


 【神速縮地】と【重縮地】を使用しながら近づき【螺旋槍撃】、【閃光槍撃】、【聖刃】。そして、【最強之矛(ツラヌケヌモノハナシ)】と【生贄ノ突サクリファイス・チャージ】を組み合わせた渾身全力の一突きを放つ。


「――戦乙女の神突きヴァルキューレ・チャージ


 【血ノ喝采】の効力も相まって、その威力は絶大なものだった。

 オログ=ハイの腹には槍の穂先の大きさを優に超える大きな風穴が開いている。


 オログ=ハイの目から完全に光が消えていた。……これで、終わった。


素晴らしい(marvelous)! 流石は神聖騎士修道会の騎士団長様だァ」


 私がオログ=ハイを倒し終え、一息ついた時、目の前に突如奇妙な仮面をつけた存在が現れた。


「……何者だ、貴様は?」


「不佞? 不佞はアノニマス、仮面の悪魔にございます」


「……何、悪魔だと!!」


 悪魔とは、魔族の一種だ。山羊のような角と蝙蝠のような翼、尻尾を持つ姿が一般的だとされているが、それ自体は他の魔族の模倣であり、実際は別の姿を持っているという学説もある。

 確か、淫魔(サキュバス)吸血鬼(ヴァンパイア)の模倣だったか? いずれにしても、不浄なるものであることに変わりはない。


素晴らしい(marvelous)! これほどのオログ=ハイが自然発生したとは。そして、それを従えた下級魔族サウロン=ゴルサウアのスキル――【猛獣使い】も。しかし、しかしィ! 負けてしまったのは、事実。サウロンは……処分デスネ」


 仮面の悪魔はハイテンションから一転、背筋が凍るほど冷たい口調になり、仮面を被った顔を傾けた。


「さて、このオログ=ハイは回収しておきましょう。我々の技術ならば、これを量産することもできるでしょうし。しかも、しかもォ! 【猛獣使い】も必要ない。ただ、主人のために戦うカードォ! それこそが、それこそが……まあ、ぶっちゃけ暇つぶしなんですけどね。この程度の魔獣、いくらでも量産できますし。ただ、自然発生に見せかけるのなら、やっぱりカオス産の魔獣の方が都合がいい?」


 この仮面の悪魔の言葉の意味は分からないが、このまま逃すのはまずい。


「――敵対するのです? 貴女如きが? 所詮はミンティス教国に囚われているだけの、ただの小娘がぁ? ……身の程を弁えろ」


 仮面の悪魔から殺気が放たれた。それも、濃厚過ぎる――今まで感じたことがないほどのものだった。

 悪魔が仮面を外す……なんだと、そんな、まさか。


「……人間、なのか?」


 赤みがかった金髪と透き通るような碧眼。

 ……明らかに、人間だ。魔族などでは断じてない。


「心外だね。人間? 魔族? 君達は、そんな大雑把な括り(Category)で分けたがる。超越者(デスペラード)はすぐ間近。そんな僕を、まさか人間などという大きな括り(Category)に入れられると思っているのかい? 僕は僕さ。僕という一つの、名状し難い存在なのさ。……まあ、いっか。どうせ君は忘れるんだから。――Wonder change! Magical girl!!」


 青年の姿が光に包まれ、一瞬で巨大なハサミを持ったフリルを大量にあしらい、中央の大粒の青い宝が印象的なトップスとミニスカートを纏った少女が現れた。

 ……どうなっている! あれは、一体何者なんだ!!


「どうせ忘れるだろうけど、一つだけ教えてあげるよ。僕は魔法少女さ。少女達の心を弄び、莫大なエネルギーを獲得する機構を利用し、ただ猛者に至る――そのための力を手にした、魔法少女嫌いのあの始まりの魔法少女様も認めた、この世で唯一公認の魔法少女。魔法少女ブルーメモリアとでも名乗っておこうか?」


 魔法少女……そんな存在が。この世界には、我々の知らない概念が存在するというのか。


「じゃあ、始めようか? ――上映(Screening)開始(started)


 ――その玲瓏な声を聞いた瞬間、私の意識は途絶えた。



【三人称視点】


「まさか……オログ=ハイが破れる、だと!」


 オログ=ハイに掛けられた【猛獣使い】が解けたことに気づいたサウロンは、普段の冷静さが嘘のように露骨に驚愕の表情を浮かべた。

 サウロンが冷静さを失ったことなど、一度として無かった。


「お久しぶりでございます」


 そして、ベストタイミングで現れるアノニマス。

 神出鬼没な彼から逃れられるなどと甘い考えは抱いていなかったサウロンだが、せめて心の準備をしたかったと思った。


「……残念でございましたね。オログ=ハイはミント正教会の小娘に惨殺されました。いや、本当に残念でした。魔王軍の幹部に取り立てる話ですが、あれは無かったことに」


「……勿論だ」


 そう言うサウロンの内心は恐怖一色に染まっていた。心臓が早鐘を打つ。

 魔王軍の幹部に取り立ての話が無かったことになるだけならまだいい。フリーランスという立場には不満があるが、それも今はマシに思えてくる。


 問題は、彼らによってサウロンの命が奪われることだ。

 アノニマスという存在を知ってしまったサウロンが口封じのために殺されるという可能性も十分にあり得る。


「さて、貴方の処遇についてですが……我らが主人に決めて頂きましょう」


 アノニマスがそう言い放った瞬間、唐突にアノニマスと同じ仮面をつけた存在が複数姿を現した。


(……アノニマス……一人では無かったのか!)


 仮面の悪魔(・・・・・)を名乗るアノニマス――その正体は複数の存在であるという可能性をサウロンは検討すらしていなかった。

 そして、森の奥から二人の存在がやってくる。


 一人は巨大なハサミを持ったフリルを大量にあしらい、中央の大粒の青い宝が印象的なトップスとミニスカートを纏った少女――魔法少女ブルーメモリア。

 そして、もう一人は……。


「貴方様は!」


 サウロン自身、この話には違和感を抱いていた。

 魔王軍幹部に取り立てるほどの力を持つ存在――それほどの影響力を持つ存在が何者なのか。


(……つまり、俺が任務を成功させていたら、本当に魔王軍幹部になれた……ということか)


 その存在は、数多くいる魔王軍幹部よりも上位に位置する存在――魔王軍四天王の一人。

 本来、サウロン如きが謁見できるような相手ではない。


「……いやぁ、本当に残念だったよ。ちゃんと人間に大打撃を与えられたら幹部に取り立ててあげるつもりだったのに。まさか、こういう結果になっちゃうなんてね」


「……本当に幹部にするつもりだったんですか? てっきりいつもの気まぐれだと」


「ボクはちゃんと約束は守るよ? 嘘を吐く訳ない。まあ、単なる暇潰しであったのは間違いないけどね。(なまじ)っか長命だと本当に暇になるんだよ? しかも、時間止まっちゃってるし。だから、たまには新しい趣向を試してみたくなるんだよ。君もすぐそうなるから早めにやること考えておくといいよ。不老不死(イモータル)って意外と辛いから」


 魔王軍四天王と、魔法少女ブルーメモリアはクスクスと笑い合った。

 魔族と人間が笑いあっている――その奇妙な状況に、サウロンは驚愕する。


「……貴方様は、一体何者なのですか?」


「ボク? 表の顔(・・・)は魔王軍四天王の一人。裏の顔(・・・)はヴァパリア黎明結社開発部門の部門長。まあ、簡単に言えば開発部門(アノニマス)のトップかな?」


 サウロンは、その組織の名を伝説のものとして記憶していた。

 世界を裏から牛耳る組織が存在すると――サウロンは陰謀論の一種だとそこまで真剣に考えたことが無かったのだが。


 今、その組織のメンバーを名乗る存在達と相対して確信した。――彼らは、この世界を裏から支配する組織の一角なのだと。


 魔王など足元にも及ばない――そんな強さを魔王軍四天王や魔法少女ブルーメモリアから感じた。


「じゃあ、君の処遇なんだけど……ボク達の実験の被験体になってくれないかな? 大丈夫、殺したりはしないよ。死体を支配する死霊使い(ネクロマンサー)は他部門だからね。……後は頼むよ、ブルーメモリア」


「――上映(Screening)開始(started)


 その瞬間、サウロンの中から偶然掴んだ魔王軍の中で暗躍する者達の記憶が失われた。



【ネメシス視点】


「……大丈夫か? ネメシス?」


 ――声が聞こえた。

 目を開けると、よく見知った同僚の顔がある。


「ピエール……お前は確か」


「おう。トロル共を駆逐し終えたところで、こっちに来てみたらお前が一人で倒れていたのを発見したってとこだ。……で、どうした? オログ=ハイはどうなった?」


「オログ=ハイ……私はアイツと(・・・・・・)相打ちになって(・・・・・・・)気絶したのか(・・・・・・・)


 私はオログ=ハイと戦い、後一歩まで(・・・・・)追い詰めた(・・・・・)

 その時に(・・・・)オログ=ハイ(・・・・・・)の【精神魔法】(・・・・・・・)によって意識を奪われ(・・・・・・・・・・)たんだ(・・・)

 だが(・・)私の槍は確かに(・・・・・・・)オログ=ハイ(・・・・・・)を突いていた(・・・・・・)


「そうか。まあ、何にしてもお前が無事だったのなら良かったよ。ミント様の加護のおかげだな」


「そうだな。こうして、私達が勝てたのもミント様のおかげだ」


「それじゃあ、んじゃ、帰るか」


 私はピエールと共にこの場を去ろうとした時、ふと違和感を抱いた。

 本来ある筈だったものが消えているような、そんな違和感を。



 異世界生活十九日目 場所ウィランテ=ミルの街、冒険者ギルド


「「「「「乾杯〜♪」」」」」


 グラスとグラスが当たる小気味良い音が冒険者ギルドの各所で響く。


「さあ、皆さん。今日は楽しんでいってください。トロル達を見事撃退した皆さんへのギルドからの細やかなお祝いです」


 今日、ギルドではトロルの群れ討伐緊急クエストの達成を祝う会が開かれていた。

 美人受付嬢さんが幹事を務め、各所で飲めや歌えやの宴会が開かれている。


 チームの垣根を超え、酒を飲み交わしている人達も多い。

 中には、セクハラを働こうとする男(若干名女)もいるが、流石は歴戦の冒険者。上手くあしらっているな。


「今回のMVPはお前達だ。そんなところで小さくなってないで、こっちに来い。お酌をしてやろう」


「……いえ、ボクは未成年なんで」


「私も遠慮しておくわ」


「……梓様と同じですわ」


「私、あんまり得意じゃないので」


「……ノリが悪いな。こっちは一人で寂しいんだよ」


 一人孤立しているコンスタンスさんが、顔を赤らめながら、ワインを一気飲みした……なんだろう。……威厳が無くなっている。

 コンスタンスさんは、普段の態度が祟ってぼっちになっていた。


「分かりました。お酒は飲めませんが、ジュースで付き合います」


「――そうか!!」


 コンスタンスさんが顔を輝かせた……うん、こんなに笑顔を見せる人だとは思わなかったよ。



「……って感じで私は同じ村出身の勇者達に捨てられた。それで、もう二度と他人のために【付与魔法】は使うまいと心に決めたんだ。それから、一人で戦える方法を模索して、気づいたら“貪欲の魔術師(ミス・グリーディー)”なんて大層な異名で呼ばれるようになったのさ」


 コンスタンスさんは、勇者パーティに裏切られた。

 その大きな原因はメイヴィスだけど、勇者達にも非がない訳ではない。


 寧ろ、彼女を本当に傷つけたのは信頼していた仲間にあっさりとクビ宣告をされたことだろう。


 口が緩んでいるのは酒のせいか。普段なら決してこんなことを口にしたりしないだろう。

 コンスタンスさんにとって、彼らとの関係は黒歴史なんだから。


「……私はもう裏切られたくないの。だから、もう誰も頼らないと決めた。でも、今回の件で私一人じゃどうにもできないことがあることを知った。――私は、どうすればいいの! どうしろというの!」


 コンスタンスさんを見つけた時、満身創痍だった。

 あのまま戦いが続いていたら、きっと最悪の最期を遂げていたと思う。


「……これはボクからの提案です。乗るかどうかはコンスタンスさんが決めてください。……ボク達と一緒にパーティを組みませんか?」


 ゼラさんからも、汐見君からも、ジュリアナさんからも異論の言葉は上がらなかった。

 ただ、呆れているのが一目で分かる表情を浮かべている。


「……コンスタンスさんの話を聞いて、こんな提案をするのはおかしいのは分かっています。裏切られたコンスタンスさんは、もう仲間というものを信じたくないと思いますから。……だから、ボクは信じてくれ、としか言いようがありません。一人で強くなることはできます……が、それでは限界があります。誰かを頼らなければどうにもならない時もあります。……ボク達のことを信用できないのは承知の上です。……ボクは貴女を決して見捨てません」


「…………分かった。そこまで言うなら、一度だけ信じてみる」


 こうして、コンスタンスさんが仲間に加わった。

 まずは頑張って打ち解けて、信用を勝ち取らないとね。

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