講義パート、【古典・中古】入門五限目。担当教員、日本文化研究学部国文学科浅野天福教授
◆登場人物
担当教諭: 浅野天福教授
日本文化研究学部国文学科の教授。
以下は浅野と表記する。
ディスカッサント:能因草子
浅野ゼミ非公式ゼミ生。文学に対して多くの知識を有する公立高校一年生。
以下は能因と表記する。
ディスカッサント:白崎華代
草子と同じ公立高校に通う一年生。成績は草子に次ぐ二位だが、文学に対する知識は人並み。
以下は白崎と表記する。
ディスカッサント:ロゼッタ・フューリタン
乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』の悪役令嬢に転生した転生者リンカーネーター。前世は草子達の地球とは異なるパラレルワールドの県立大学に通う歴史文化学科に所属の学生、薗部美華。
以下はロゼッタと表記する。
ディスカッサント: 湊屋千佳
草子達の地球とは異なるパラレルワールドの県立大学に通う国語国文学科所属の学生。薗部美華の親友。
以下は湊屋と表記する。
ディスカッサント: レーゲン=イーザー
ミント正教会によって【勇者召喚】された一人。ミント正教会の真実を知ったことで秘密裏に暗殺される。女神オレガノによって蘇生され、以後彼女が作成した魔獣として行動する。唯一無二の魔獣に転生したため固有能力を有する。転生先のジェルバルト山で草子達と出会い、以後草子達と行動を共にする。
以下はレーゲンと表記する。
※講義パートは本編とは直接関係はありませんので、読み飛ばして頂いても構いません。本編では絡まない登場人物の絡みと、本作の肝となっている文学に対して理解を深めて頂けたら幸いです。
ちなみに、本講義――【古典・中古】入門を履修した皆様には二単位を差し上げます……冗談ですよ。レポートの提出も期末試験に向けた勉強も必要ありませんから、気軽にお読み頂けたら幸いです。
浅野「約一章ぶりだな。草子君、白崎さん、元気にしていたか?」
白崎「正直少し疲れています。ずっと山登りでしたから……草子君とリーファさんはそれに加えて夜に“精霊王”の試練巡りをしていたから、あんまり私達が疲れたとは言えませんが」
能因「みんな疲れているってことでいいんじゃないか? リーファさんも自主的にやり始めた訳だし、白崎さん達が気を使う必要はないと思うけどな」
浅野「さて、今回は新しくレーゲン君にお越し頂いた。草子君から話は聞いているぞ」
レーゲン「こちらこそ、お噂はかねがね。文学の知識は齧った程度ですのでどこまでできるかは分かりません。お手柔らかにお願いします」
浅野「かなりメンバーも充実して賑やかになってきたな。……では、そろそろ講義に入ろうか? 【古典・中古】入門の最後となる第五回で扱うのは『堤中納言物語』だ」
白崎「遂に来ましたね。確か草子君が研究している作品でしたっけ?」
能因「俺は『堤中納言物語』の中でも、その一篇『逢坂越えぬ権中納言』の作者小式部の正体についてだけどな」
浅野「今回は小式部についても触れるから楽しみにしておいて欲しい。では、まず『堤中納言物語』という物語を一度でも読んだことがないって方はいるか?」
ロゼッタ「すみません、読んだことありません」
浅野「謝る必要はない。ロゼッタさんは歴史専攻だからな。……では、まず千佳さん。『堤中納言物語』という作品について簡単に説明してくれ」
湊屋「えっと……日本の平安時代後期以降に成立した短編物語集。編者は不詳ですが、藤原定家であるという説があります。『逢坂越えぬ権中納言』、『花桜折る少将』、『蟲愛づる姫君』、『このついで』、『よしなしごと』、『はなだの女ご』、『はいずみ』、『ほどほどの懸想』、『貝合はせ』、『思はぬ方にとまりする少将』、未完の断章『冬ごもる』があります」
浅野「完璧だな。さて、藤原定家というキーワードが出たな。ロゼッタさん、藤原定家について簡単に説明してくれ」
ロゼッタ「はい。鎌倉時代初期の公家・歌人で小倉百人一首の撰者で権中納言定家と称していました。藤原北家御子左流で、『新古今和歌集』、『新勅撰和歌集』を撰進しています」
浅野「ありがとう。草子君、何か補足したいことはあるか?」
能因「そうですね。彼一人で講義が一つできてしまうので、ざっくり補足しましょうか? まず、定家の功績の一つは多くの古典の書写校訂ですね。『土佐日記』、『更級日記』、『源氏物語』など、今日残っている多くの作品は定家が書写していなければ数多く消失していたと言われるほどです。『新古今和歌集』では、撰者の一人に『新勅撰和歌集』は定家一人で撰出しています。和歌の特色は父俊成譲りの本歌取りの手法を駆使して、「新儀非拠の達磨歌」と揶揄されたと言われています。定家の日記である『明月記』は鎌倉時代前半の貴重な記録として重宝されています。……後は、歌論書も有名ですね」
浅野「流石は草子君、完璧だ。……もう定家について説明は不要だろう。では、話を戻そう。『堤中納言物語』はほとんど作者不明だ。だが、一作品だけ作者が分かっている作品がある。レーゲン君、それは何という作品だ?」
レーゲン「『逢坂越えぬ権中納言』です」
浅野「正解だ。では、その作品はどの歌合に提出されたものか……これは少し難しいかな?」
レーゲン「平安時代中期の六条斎院物語合ですよね? 後朱雀天皇の皇女禖子内親王が賀茂斎院で催した歌合のうち、天喜3(1055)年5月3日に行われた物語題歌合です」
浅野「正解だ。……なかなか勉強をしているな。では、最後に草子君。『逢坂越えぬ権中納言』の作者、小式部の正体として言われている四人について簡単に説明してくれ」
能因「はい。一人目は下野守義忠女説。ただ、この説は根拠となる『編纂本朝尊卑文明図』に混乱が見られるので他の四つの説に比べて可能性が低いと思われます。二人目は従三位源隆子説です。道長の女嬉子の乳母として『御堂関白記』などに登場する人物ですね。三人目は後冷泉院式部命婦を疑う説、大和守藤原義忠女説がありますが、どれも確実な証拠がないため、現在は不明としか言いようがありません」
浅野「ちなみに、草子君はどの説が最も可能性が高いと思っているのか?」
能因「四つ目の大和守藤原義忠女説ですね。これが一番穴が少ないからですが、確たる証拠が見つかっていないので、やはり不明としか言いようがありません」
浅野「ありがとう。今後、小式部に関する新資料が出てくることを祈るしかないな。……さて、本日の講義はこれで終了だ。次回の講義の内容については未定だ。それでは、草子君、白崎さん、ロゼッタさん、レーゲン君、みんなの旅が素晴らしいものになることを祈っているぞ!」