【志島恵視点】人を見た目だけで判断していると痛い目を見るのは世の常よね。
異世界生活六十三日目 場所サイフィドルの町
サイフィドルの町に来てから六十日くらい経った。
私達は個々BLを布教しながら、冒険者として生計を立てている。
私の場合は、ローズクレストという名前で密かに同人誌を発表して主に冒険者ギルドの女性冒険者達の噂になっているってところかな?
最近は女性冒険者の男性を見る目が変わってきた気がする。同志が増えるのは嬉しいことよね?
◆
依頼を終えた私は、いつも通り薫さんと眞由美さんと一緒にギルドの一角で作業を続けた。
なんのかって? 勿論、同人漫画を作る作業よ?
近くにいた筋骨隆々な冒険者と細めの冒険者を脳内で絡ませながら私が原画とペン入れを行って、そこに薫さんと眞由美さんがトーンを貼っていく。
普通、異世界に漫画を描くのに必要なものってないんだけど、サイフィドルの町には昔出版社で編集をしていたって人がいて、その人が漫画用品専門店をやっていて、そこで本当にプロが使うようなものを沢山売っていた。
その人は昔『きゃんぴんぐ部』って漫画の編集をしていたみたい……『きゃんぴんぐ部』ってあれよね? 少し前にアニメ化もされた有名なキャンプ漫画。
『……おい、ここはガキが来るところじゃねえぞ!』
突然、声が聞こえた。振り返るとサイフィドルの町で一番の暴れん坊と言われている冒険者が三人の見かけない冒険者に暴言を吐きかけていた。
豹の獣人の少女と、エルフの少年と、可愛らしい少女……珍しい組み合わせね。
「ねえ、志島さん。助けに入った方がいいかな? みんなあの人と関わりたくないから見て見ぬ振りだし」
「私も助けに入った方がいいと思うわ。ギルドには迷惑を掛けることになるけど、見て見ぬ振りをするのは嫌だし」
薫さんと眞由美さんの小声に私も首肯で応じ、椅子から立ち上がった。
だけど、実際に私達が三人の助けに入ることはなかった。いや、できなかったという方が正しいわね。
突如、暴れん坊の冒険者が倒れたの。とても静かな動きで、波風を立てずに冒険者は鎮圧された。
「お騒がせしてすみません。気絶しているだけですので、特に問題はないと思いますが」
暴れん坊の冒険者を鎮圧した豹の獣人の女の子は、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
……うん、謝る必要はないと思う。止めに動かなかった私達が悪かった訳だし。
「はじめまして、サイフィドルの町の冒険者の皆様。私達はチームトライアードと申します。しばらくこちらでお世話になりますので、よろしくお願いします」
チームの代表らしい豹の獣人の少女は、陽だまりのような笑顔を浮かべた。
◆
「チームトライアード……思い出した、突如彗星の如く現れた新進気鋭の冒険者チームだ! 魔法剣士の豹人族と槍使いのエルフと治癒師の女ドワーフ……間違いない!」
そんな凄い人達なんだ。助ける必要なんて無かったわね。寧ろ私達が下手に助けに入っても邪魔になるだけだ。
「僕達はまだまだですよ。寧ろ、これくらいの成果を挙げられなければ、能因先生に申し訳が立ちませんから」
……ん? 今、能因って言った?
「……ねえ、薫さん眞由美さん。今、あのエルフの子、能因って言わなかったっけ?」
「確かに言ったわね。もしかして、行方不明になっていた草子君?」
「可能性は高いと思うわ。草子君って知識チートだからスキル無しでものし上がれちゃいそうだし」
薫さんと眞由美さんと相談し、代表して私が三人に聞いてみることにした。
「はじめまして、チームトライアードの皆様。私は銀ランク冒険者の志島恵と申します。一つお聞きしたいことがあるのですが、いいでしょうか? 今、能因先生と仰りましたが、もしかして能因草子という人物をご存知でしょうか?」
「……もしかして、能因先生のご友人ですか? まさか、このような場所でお目にかかれるとは」
うん、まさかと思ったけど大当たりだった。
◆
陽だまりのような笑顔が眩しい豹の獣人のイオンちゃん。
可愛らしい顔立ちのエルフのライヤ君。
そして、美少女なドワーフのリーシャさんの金ランク冒険者三人で構成されるチームトライアードは、草子君に救われた元奴隷達らしい。
話を聞いていると随分と懐かしい名前が色々と出てきた。
白崎さん達、無事で良かったわ。柴田さん達ともいい関係を築けているようね。
そして、草子君……彼は予想以上にヤバかった。
最早扱いが厄災のそれ……一体あの残り物からどうやって化け物になったのよ! って言いたくなる。
嫌そうな表情を浮かべながらもなんだかんだで助けてくれる優しさは健在みたいだ。
終始低姿勢だか高圧的なのかよく分からない過剰卑下で、きっちりかっちり戦い方を教えたってのも草子君らしい。
「今はどこにいるか分かりませんが、恐らくこのアルドヴァンデ共和国にもいらっしゃると思いますよ。その時は、私達がどれくらい強くなったか、先生に見せたいと思っています。もう、私達は昔の弱い私達じゃないんだって」
三人は草子君を尊敬していて、ずっと彼のように強くなりたいと思って戦い続けてきたんだと思う。
だからこそ、三人はこんなに手練れなんだと思う。……だって、比較する対象がそもそもおかしいから。
話を聞く限り草子君の強さは次元レベルで違う。きっと、ファンタジーを代表する二大強者――勇者や魔王と比べて一段階くらい強さの次元が高いんだと思う。
そんな草子君達のようになりたいというのなら、私達冒険者の領域なんて簡単に乗り越えなければならない。
白崎さん達は、そんな草子君の側にいる。多分、イオンさん達以上に高すぎる壁を毎日嫌というほど見せられているんだろう。
一緒にいるだけで絶望感に駆られる……そんな中でも白崎さん達は草子君と一緒に居たいと頑張っている。
……私達も負けてられないな。
「薫さん眞由美さん……私、このままじゃいけないと思うの。クラスメイトのみんなが続々と強くなっていくのに、私達だけが弱いままだったらみんなに笑われるわ」
「そうね。……もっと頑張らないといけないわ」
とりあえず、まずはミュラさんに相談してみましょう。
◆
「……今よりも強くなりたい、ねえ。貴女達の昇格速度は異常なのに、これ以上強くなりたいの!」
酒瓶を片手に顔を真っ赤に染めながらミュラさんが絶叫に似た大声をあげた。
現在、ミュラさんは銅ランク……つまり、私達はミュラを追い抜いてしまったのだ。
かく言うミュラさんもかなりの速度で昇格して冒険者からやっかみの視線を向けられているみたいだけど、まあ、上には上がいるものだからね。私達も一緒に酔っ払って忘れたいくらいです。……未成年だから飲めないけど。
「ひっく……それで、新しく来た金ランクの冒険者達に触発されてもっと強くなりたくなったって訳ね。青春しているわね……ひっく」
「落ち着いてください、ミュラさん。水、置いておきますよ」
薫さんが置いた水をミュラさんは一気飲みした……なんだろう。最初のかなりイメージが崩れている。ダメな人になりかけているよ! ミュラさん!!
「いえ、正確に言えば彼女達から聞いた同郷の友人達に負けられないな、と思って、それでもっと強くなりたいなって」
「分かったわ。私も力になる……だから、私にも力を貸してくれないかしら? 後輩に先を越されて先輩の矜持がズタズタになっている魔法使いのお姉さんを救って欲しいの」
……つまり、慰めて欲しいってことか。
◆
ミュラさんのお願いは、私達のチームにミュラさんを入れて欲しいということだった。
私達としては先輩冒険者であるミュラさんをチームが入ってくれると色々と助かるんだけど……ミュラさんはどうなんだろう? 気持ち的に。
ミュラさん曰く「貴女達と一緒にいれば強くなれると思うのよね」ってことだったんだけど。
私達は、今カエルム街道から少し外れたラグランの森を拠点に魔獣討伐を行っている。
これは冒険者ギルドから正式に依頼されたものなんだけど、それよりも多めに魔獣を狩るつもり。
冒険者ギルドは依頼以外でも魔獣部位の買取をしてくれるし、強くなるためには一体でも多くの魔獣を倒さないといけない。
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NAME:蜥蜴人族の精鋭騎士
LEVEL:80
HP:3000/3000
MP:0/0
STR:10000
DEX:2000
INT:20
CON:5000
APP:-23
POW:5000
LUCK:-10
SKILL
【槍理】LEVEL:100
→槍使いの真髄を極めるよ! 【槍術】の上位互換だよ!
【刺突】LEVEL:100
→刺突が上手くなるよ!
【連続突き】LEVEL:100
→連続で突きを放てるようになるよ!
【螺旋槍撃】LEVEL:100
→螺旋突きを放てるようになるよ!
【閃光槍撃】LEVEL:100
→閃光突きを放てるようになるよ!
【貫通】LEVEL:100
→攻撃を貫通させられるようになるよ!
【薙ぎ払い】LEVEL:100
→薙ぎ払いが上手くなるよ!
【無拍子】LEVEL:100
→無拍子が上手くなるよ!
【無念無想】LEVEL:100
→雑念を生じる心を捨てて無我の境地に至るよ!
【爪理】LEVEL:100
→爪使いの真髄を極めるよ! 【爪術】の上位互換だよ!
【尾理】LEVEL:100
→尾使いの真髄を極めるよ! 【尾術】の上位互換だよ!
【怪力】LEVEL:100
→怪力を得るよ!
【疾駆】LEVEL:100
→速く走れるようになるよ!
【豪脚】LEVEL:100
→脚力を上げるよ!
【豪腕】LEVEL:100
→腕力を上げるよ!
【突進】LEVEL:100
→突進が上手くなるよ! 【体当たり】の上位互換だよ!
【捨て身】LEVEL:100
→捨て身攻撃が上手くなるよ!
【組みつき】LEVEL:100
→組みつきが上手くなるよ! 相手の動きを封じるよ!
【マーシャルアーツ】LEVEL:100
→格闘術が上手くなるよ!
【威嚇】LEVEL:100
→威嚇が上手くなるよ!
【噛み砕き】LEVEL:100
→噛み砕きが上手くなるよ! 【咬みつき】の上位互換だよ!
【不意打ち】LEVEL:100
→不意打ちが上手くなるよ!
ITEM
・オスミリジウムランス
→ オスミウムとイリジウムの天然合金を用いた槍だよ! 高温耐酸化、耐摩耗性に優れているよ!
・オスミリジウムチェインメイル
→ オスミウムとイリジウムの天然合金を用いた鎖帷子だよ! 高温耐酸化、耐摩耗性に優れているよ!
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蜥蜴人族の精鋭騎士が三十体……依頼だと確か十体討伐だったわね。
「蜥蜴人族の精鋭騎士の武器や防具は途轍もなく硬いわ! 加工は大変らしいけど、普通に武器屋や防具屋で売っているものよりもいいものだわ。蜥蜴のお下がりは嫌かもしれないけど、手っ取り早く強化できるわ」
確かにオスミリジウムチェインメイルを装備すれば今よりも大幅に耐久力を高められそうね。
「〝森羅万象を分散し、五素を取り出し、顕現せよ。劫火、暴風、冷気、雷撃、水流――五素の力よ、今こそ荒れ狂って破壊をもたらせ〟――〝五素顕現〟」
蜥蜴人族の精鋭騎士達の方に杖を向け、五属性複合上級魔法を発動する。
この魔法を使えるようになるために、地味に魔法のスキルレベルを上げてきた。その努力が遂に実ったわ!
火や風や冷気や雷や水流によって蜥蜴人族の精鋭騎士達は次々と命を落としていく。
しかし、流石はオスミリジウム。武器や防具には全く変化がないわ。
「凄いわね、志島さん。流石は銀ランクね」
「そんな。ミュラさんの教えの賜物ですよ」
「……それに比べて私は」
ミュラさん、またネガテイブモードに入っちゃった。
でも、そんな状況でも魔獣を倒す手は止まらない。量的には私の一撃よりもたくさん倒しているわよ。
三十体のつもりがいつの間にか六十体の蜥蜴人族の精鋭騎士を倒してしまっていた……こんな沢山倒して、武器や防具を持ち帰られるかしら?
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NAME:志島恵 AGE:16歳
LEVEL:60 NEXT:8000EXP
HP:2000/2000
MP:1690/1690
STR:1000
DEX:1400
INT:29
CON:1400
APP:36
POW:1650
LUCK:21
JOB:魔法師、治癒師、鑑定士、冒険者
TITLE:【千の魔術を操る者】
SKILL
【全属性魔法】LEVEL:100
→全属性の魔法を使えるようになるよ!
【回復魔法】LEVEL:100
→回復魔法を使えるようにるよ!
【複数魔法同時発動】LEVEL:100
→複数の魔法を同時に発動できるよ!
【複合魔法】LEVEL:100
→複数の属性の魔法を融合できるよ!
【生活魔法】LEVEL:50
→生活魔法を使えるようになるよ!
【クライヴァルト語】LEVEL:30
→クライヴァルト語を習得するよ!
【ミンティス国】LEVEL:2
→ミンティス語を習得するよ!
【マハーシュバラ語】LEVEL:1
→マハーシュバラ語を習得するよ!
【ジュドヴァ=ノーヴェ語】LEVEL:1
→ジュドヴァ=ノーヴェ語を習得するよ!
【鑑定】LEVEL:20
→対象を鑑定できるよ!
ITEM
・ルビーの白杖
→ルビーが中央に嵌め込まれた白い杖だよ!
・八尺瓊勾玉
→『日本神話』に登場する勾玉だよ!
・魔法師ローブ
→魔術師のローブだよ!
・皮のドレス×3
→皮で作ったドレスだよ!
・白いワンピース
→白いワンピースだよ!
・オスミリジウムランス×3
→ オスミウムとイリジウムの天然合金を用いた槍だよ! 高温耐酸化、耐摩耗性に優れているよ!
・オスミリジウムチェインメイル×3
→ オスミウムとイリジウムの天然合金を用いた鎖帷子だよ! 高温耐酸化、耐摩耗性に優れているよ!
・学生服
→高校指定のブレザーだよ!
・ボストンバッグ
→ボストンバッグだよ!
・金貨×20
→万国共通の金貨だよ! 価値は一枚で一万円だよ!
・銀貨×60
→万国共通の銀貨だよ! 価値は一枚で百円だよ!
・リザードマンの耳×60
→リザードマンの耳だよ!
NOTICE
・通知一件
→未使用のポイントが後1900あります。
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二レベルくらいレベルアップできたかしら?
一気に強くなるのは無理だから、少しずつ強くなっていきたいわね。
白崎さん達と再会する頃には、白崎さん達に負けていないって胸を張れるくらい強くなっていたいわ! 草子君超えは……まあ、諦めましょう。