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剣に纏った分解の銀光には水素爆発が効果抜群のようだ。

 異世界生活六十三日目 場所バラシャクシュ遺跡


【高野聖視点】


 眩い光に視界を奪われ、気づいた時には草子君達の姿は無かった。

 近くにいるのは朝倉さん、北岡さん、常盤さん、アイリスさん、クリプさん、進藤臨君……どうしてこのメンバーなんだろう?


「ここはどこだ!! 久嶋と大門はどこだ!!」


「……進藤君、落ち着いてくれないかなぁ? かなり五月蠅いわぁ」


 今は状況を確認するのが先決だと思う。……口には出していないけどみんな心細いんだよ。だから、できれば静かにしておいて欲しい。


「聖さん。さっき【全マップ探査】を使って確認したら、他のみんなが無事なことが分かった……ただ、四つのグループに分けられている。方向が違うから、他のメンバーを助けにはいけないし、こちらから救援を求めることもできない」


「ありがとう朝倉さん。……あたし達は今のメンバーでこの迷宮を突破しないといけない。朝倉さんは【全マップ探査】を使って逐一マップを確認してくれないかな? 戦闘は……多分今のあたし達だとギリギリだと思う。全員で戦うのが一番だけど」


「あの……一つ提案が。私の固有魔法――【水晶聖女】は補助系なので、戦闘では補助に徹した方がお役に立てると思います」


 そういえば、草子君が「アイリスさんの【水晶聖女】は指に括り付けた髪の毛を媒体に映像を映し出し、その映像を経由して干渉する空間魔法、水晶玉に映した非生物(または水晶玉そのもの)の時間を操作する時間魔法、水晶玉に映した非生物(または水晶玉そのもの)を分裂させる分裂魔法、水晶玉を操る移動や浮遊に関する魔法の複合体だ」って言ってたっけ?


「アイリスさんはあたし達の髪の毛、持ってるの?」


「勿論です! 進藤君の以外は全員分持ってます」


 ……複雑な気分だけど、今回は結果オーライだ。


「アイリスさんは補助をお願い。戦闘のメインメンバーは、あたし、朝倉さん、北岡さん、常盤さんと常盤さんが呼び出せる十二神将さんと十二月将さん。常盤さんには【結界魔法】もお願いしたいから、かなり負担が増えると思うけど」


「大丈夫です! みんなの役に立てるように頑張ります」


 ……ところで、最年少のあたしが仕切って良かったのかな? みんな納得してくれているみたいだからいいけど。


「〝前四勾陳土神家在辰主戦闘諍訟凶将〟――急急如律令!」


「〝開門せよ、獅子宮(レグルス)〟」


 常盤さんは勾陳さんと勝光さんを呼び出したみたいだ。

 二人とも強いから心強いよ。


「聖さん、俺は?」


「どうせ作戦を伝えても意味ないから好きにやらせろ……って前に草子君が言ってたよ」


「……! みんな、敵が来た!! 前方……数は十三っ!!」


 いきなり! しかも数が多過ぎる!!


「……なんかあの敵、聖さんに似てないか?」


「そういえば、そうですね」


 そういえば、進藤君とアイリスさんは前回の機動要塞エレシュキガル戦に参加してなかったっけ? まあ、あたしも参加してはいないんだけど。


「この身体は超古代文明マルドゥークが作ったものよ。だから、あたしとあの天使達は似ているけど、あっちはプログラミングされているだけだから、機械的な攻撃しかできないわ」


 ……武器も少し違うみたい。多分、あたしの身体になっている天使よりもスペックは高いと思う。


「草子君によれば、ゴーレムは額に彫られているemeth(真理)のeをぶっ壊してmeth(死んだ)にすれば一撃で死ぬらしい」


「ゴーレムってなんだ?」


「あの固そうな金属の塊のことよぉ〜」


「よく分からんが、eを破壊すればいいんだな。俺に任せろ」


 ちょっと不安だけど、ゴーレムは全て進藤君が引き受けてくれるらしい。


「それじゃあ、あたし達も行くわよ!!」


『『『『『侵入者ヲ発見。制圧シークエンスヲ開始シマス』』』』』


「「「「「「侵入者発見。可及的速やかに排除します」」」」」」


 【翼理】と【飛行】を発動して天使に迫る。

 【神聖剣 極】を発動して金色の輝きを宿した右の剣で【袈裟斬り】、左の剣で【逆袈裟斬り】――その二撃で確実に使徒天使を仕留める。


 ……ん? 天使の剣に宿っているのは【神聖剣 極】の黄金色だけの筈……でも、あの光には僅かに銀色が混ざっている。


「っ! 天羽々斬(アメノハバキリ)が!!」


 朝倉さんの天羽々斬(アメノハバキリ)の刀身が無くなった!

 そういえば、草子君が「俺の読んだことのあるライトノベルに似たような姿と力を持っている本物の天使がいたんだけどな。ソイツは無限の魔力とか分解能力とかを持ってたんだよ」って言ってた! もしかして、あの光には分解の効果があるの!!


「天使と直接剣を交えちゃダメだわ! あの剣に触れると分解される」


「……すまない、みんな。前衛は頼む」


 剣を交えたら分解される。だから、剣を交えちゃダメだ。

 剣を交えずに、受けずに敵を斬る……かなり戦い方が制限されるな。


「こうなったら草子君に前よりもいい武器を作ってもらわないとな。一度も草子君に武器を作ってもらってないし」


「『日本神話』の神剣に匹敵する武器……草子君なら簡単に作っちゃいそうだわ。あまり自信がなければ武器じゃなくて魔法で攻撃した方がいいわ。……神刀降燕斬雨は温存したいわよね? 一応、天使が持っているのを拾えば武器には困らないけど」


「……かなり重いがこの際仕方ない。あんまり頼りにならないだろうが、やっぱり前衛として戦おう」


 朝倉さんは二本の大剣の内の一本を捨て、一本で戦うみたいだ。

 【二刀流】や【大剣術】のスキルアシストが無い状態で、これだけ重い武器を扱うのには無理があるからね。


「私は無力化に専念するわぁ……重っ、ナニコレ!!」


 北岡さんは【窃盗】で天使の武器を奪う作戦を思いついたみたいだ。

 確かに、相手の身に着けているものを何か一つ奪い取るこのスキルは、遠距離で発動できる。しかも、重さに制限されないから幸運値さえ高ければ敵を無力化することができる……って草子君が言ってた。

 確か「魔力を使わないス●ィールやアポ●ツみたいなスキル」……だったっけ?


 あたしも負けていられないわね。


 天使に肉薄し、【刺突】を放って天使を撃破。すぐさま反転してもう一体に【袈裟斬り】を放つ。

 ……っ! まさか、三体目! ……このままだと躱せない。


 あたしが諦めかけた時、背後から掴まれる感触を味わった。


「大丈夫ですか? 聖さん」


 これがアイリスさんの固有魔法【水晶聖女】の効果なのね。

 びっくりしたわ。……心臓が飛び出るかと思ったわよ。


 一旦戦線を離脱したから、一度戦況を確認してみようかしら?

 敵の数は天使が残り三体とゴーレムが……あれ? 全部倒れてる?


「……ふう。これで全部か? 全く手応えを感じなかったぜ」


 あのゴーレムを全部倒したの! ゴーレムは最低でもレベル500だって草子君が言ってたけど。


「……あともう少しだな。この大剣もコツが掴めてきたし、一気に倒そう」


「そうねぇ。私もぉ、張り切って武器を奪っちゃうわ」


「私も頑張ります」


 朝倉さんも北岡さんも大丈夫そうみたい。

 常盤さんは常盤さんが呼び出した勾陳さんと勝光さんもまだまだ戦えそうだし、なんとかここは切り抜けられそうだ。


 あたしは再び双剣を構え、【神速縮地】を使って天使に肉薄する。


【リーファ視点】


 目を開けると草子さん達の姿は無かった。

 近くにいるのは柴田さん、八房さん、高津さん、久嶋君……なんでこのメンバーなんだろう?

 近くにいたメンバーを一纏まりにして転送した……という訳ではなさそうね。


「……もしかしなくてもバラバラにされたって感じ?」


「どんなルールでかは分かりませんが、私達がバラバラに転送されたのは間違いありません。ですが、みんな強いですから心配は無用だと思います。それよりも、まずは私達がこの迷宮をどう突破するかを考えなければなりませんね」


 白崎さん達は強い。そんな簡単には負けないと思う。草子さんについては心配するだけ無駄だと思う。寧ろ、心配する方が草子さんに失礼だ。


 ……さて、問題は私達のグループにマップ系のスキル持ちがいないことよね。

 旅の計画や地理情報の管理をしていた草子さんがどれだけ偉大だったのか、今ならよく分かる。


「さて、いつ敵が来てもおかしく無いし、私も戦闘準備を整えておかないといけないわね。――来て、“精霊王”達!!」


 “水の精霊王”ファンテーヌ=シュトレームング、“火の精霊王”アオスブルフ=フィアンマ、“風の精霊王”シュタイフェ=ブリーゼ、“土の精霊王”エールデ=スオーロ、そして“光の精霊王”リヒト=ルーチェ――五体の“精霊王”が揃った光景は、壮観ね。


「リーファさん。いつの間に、新しい力を手にしたの?」


 実際に疑問を口にした柴田さん以外も、私が新しい力を手に入れたことに驚いている。


「実は私、ずっと草子さんと“精霊王”の試練巡りをしていたの。それが昨日ようやく終わって、私は全ての“精霊王”との契約に成功した。……ごめんなさい。全ての“精霊王”と契約したら、お披露目をしようと思っていたんだけど」


「別に報告の義務があるという訳ではないから謝る必要はないわ。……しかし、リーファさんも大胆ね。白崎さんと聖さんの目を盗んで抜け駆けするなんて。まあ、あの二人と張り合って戦うならそれくらいの胆力は必要だと思うけど……それに比べて私は駄目ね。草子君に好意を持っていても、あの二人には絶対に勝てないことをどこかで理解してしまっているからね」


 柴田さんも八房さんも高津さんも、草子さんに対して好意を持っている。

 でも、白崎さんや聖さんのように積極的に動かないのは、きっと白崎さんと聖さんという強敵に絶対に勝てないと思っているからなのだと思う。

 朝倉さんと北岡さんは……白崎さんの恋を応援して身を引いているんだろう……だよね? 北岡さんはダークホースだから一発逆転を狙っているかもしれないけど。


 そんな聖さんや白崎さんと戦えるほど、私に力がないことは理解している。

 でも、私は諦めたくないから。草子さんに対する気持ちは二人にだって負けていないって、そう思うから。


 ……まあ、内輪の争いに勝ったとしても鉄壁の草子さんをどう攻略するかという問題が立ちはだかるんだけど。というか、そっちの方が難しい。


「ファンテーヌさん、私に力を貸してください」


『私の力はリーファ様のもの。我が主人に水の祝福があらんことを』


 私の身体を青い光が包み込む。これで私も精霊の力を行使できるようになった。


『ところで、リーファ様。草子様はどちらに?』


「実は迷宮でバラバラに転移させられちゃって。敵も多分強敵揃いだから私達だけじゃキツイと思って呼び出したの」


『なるほど、そういうことか。そちらの皆様はリーファ様と草子様のパーティメンバーだな。お初にお目にかかる、“水の精霊王”のファンテーヌ=シュトレームングだ』


『“火の精霊王”アオスブルフ=フィアンマだ!』


『“風の精霊王”のシュタイフェ=ブリーゼです』


『我は“土の精霊王”エールデ=スオーロだ』


『私は“光の精霊王”リヒト=ルーチェ。一応“精霊王”の纏め役をしている』


「私は柴田八枝です」


「アタシは八房花凛よ」


「高津寧々ですわ」


「久嶋康弘だ!」


「さて、自己紹介も終わったことだし、そろそろ戦闘を開始しようか? 敵も来たみたいだし」


 天使とゴーレム。機動要塞の時と同じ敵……ではなさそうだな。

 細部が若干違ったり、武器が大剣になっていたりする。


「あの天使、なんだか聖さんに似てないか?」


「聖さんの身体は超古代文明マルドゥークが創り出したホムンクルス――つまり、あの天使っぽい奴とほとんど同じものだわ。……多分、機動要塞エレシュキガルに居た奴よりも強化されている。みんな、気をつけて」


 まあ、私も戦うんだけどね。でも、その前にまずは――。


「スキル【カップリング 極】、発動!」


 アオスブルフとエールデを対象に【カップリング 極】を発動する。

 今までの【カップリング】は対象の二人のステータスを足して二で割った平均をお互いのステータスに加算するというものだった。

 だけど、【カップリング 極】はそれだけに留まらない。


 対象の二人のステータスを足した数を一人に上乗せする【総攻め】とステータス加算をもう一人に変更する【逆カップリング】の効果が新たに追加されている。


 私は【総攻め】でエールデにアオスブルフのステータスを加算した。

 アオスブルフは……あんまり信用できないからね。ただ、ステータスだけは高いけど。……やっぱり脳筋だ。


「アタシはベレッタ・モデル92の方で戦うわ。バレット M82のような貫通力はないから、戦力としてはあんまり期待しないでもらえると助かるわ」


「私は【回復魔法】と【障壁魔法】で援護するわ」


 高津さんが援護に回り、八房さんは対物(アンチマテリアル)ライフルではなく、拳銃の方で戦うみたいだ。

 私を含め、前衛は四人か。


「ゴーレムは額に彫られているemeth(真理)のeをぶっ壊してmeth(死んだ)にすれば一撃で死ぬわ」


「ゴーレムって何だ?」


「人型じゃない方の敵よ」


「分かった! ゴーレムだったか? そいつは俺に任せろ!!」


 久嶋君が天之尾羽張(アメノオハバリ)を構えてゴーレムに突撃していく……本当に大丈夫かな?


「……どうなっているの!!」


 柴田さんの驚愕の声を聞き、振り返ると聖剣デュランダルとオレイミスリルの長剣(ロングソード)の刀身がすっかり消えて無くなっていた。


「理屈は分からないけど、天使と直接剣を交えちゃダメだわ!」


 剣を交えるだけでどういう理屈かは知らないけど、剣が溶かされる……ううん、違う、分解される?

 ……確認してみないといけないわね。


「――激流の大砲(ハイドロカノン)


 オレイミスリルの細剣(レイピア)の剣先を天使に向け、そこから大量の水を圧縮して解き放つ。

 が、天使は大剣を縦にかざしてその剣の腹で激流を受けた。


 ……やっぱり、あれは分解。


『水を電気分解すると水素と酸素ができる。その割合は2:1だ。水を化学式で書くとH2Oと表されるんだが、このHは水素をOは酸素を表す。まあ、分解したものと元のものが同じ量であるのは当然の話だよな。この酸素と水素に点火すると水素と酸素は化合して水に戻るんだが、その際に爆発を引き起こす。空気中で水素ガスを燃やした時は2100度になる。異世界モノでは水蒸気爆発よりも使われないけど、まあ覚えておいたら使えるかもしれないな』


 私がアオスブルフとシュタイフェと契約した日に、草子さんが講義室で話していたのを思い出した。

 これなら――。


「アオスブルフさん、小さい火をあの天使に向けて飛ばしてください」


『ん? 小さくていいのか? 大きくなくていいのか?』


「本当に小さい火にしてください! 高津さん、すみませんが【障壁魔法】か【結界魔法】をお願いします!!」


「分かったわ! 〝邪なるモノから護れ〟――〝禊祓の障壁〟」


 アオスブルフの小さい火が天使の付近に近づいた時、大爆発を引き起こして天使を焼き尽くした。

 私達は〝禊祓の障壁〟で守られたから大丈夫だったけど、もし何も対策をしていなかったら爆発に巻き込まれていたと思う。


「……これって火のついたマッチを水素に近づけたのと同じ現象よね?」


 柴田さん達は知っていたみたいだ。

 この世界では解明されていない現象も、草子さん達の住んでいた世界ではきちんと解析されていて、それが周知されている。

 ……本当に凄い世界だ。


 これで勢いづいたからなのか、柴田さん、八房さんが一体ずつ天使を倒し、久嶋君に至っては全てのゴーレムを倒し終えて、天使相手に神剣を振るっている……というか、あれだけの時間で全てのゴーレムを討伐しちゃったの!!

 ファンテーヌ達も確実に一体ずつ天使を倒している。……これなら、案外早く先に進めそうね。

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