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どこかで聞いたことのあるような名前の薬草はどこかの超文明が異世界から持ち込んだもののようだ。

 異世界生活六十二日目 場所ジェルバルト山、十一合目、雪の山頂


「――キャァァァァァァァァァ!」


 叫び声を聞き、振り返ると白崎達の顔が真っ青になっていた。


 柴田が血の気を失ったように真っ青になり、のけぞりながら浮遊している……これは、取り憑かれたな。


『……ふふふ、ははは! 身体だ! 身体を取り戻した!! しかも、生娘の身体! これを運がいいと言わずに何と形容すべきか!!』


 柴田に取り憑いたファントム・オブ・ザ・フリーズロードの正体はおっさんだったらしい……うん、今すぐにでも卑猥なことを始めそうだ。


「〝嗚呼、大いなる主よ! 今こそ汝の慈悲でこの世を彷徨える者達をお救いくださいませ〟――〝光聖霊退散セイクリッド・ターンアンデッド〟」


 柴田に向けて浄化魔法を発動し、ファントム・オブ・ザ・フリーズロードを消し飛ばした。

 ファントム・オブ・ザ・フリーズロードから解放された柴田は、そのまま自由落下する。


 【神速縮地】で柴田の落下地点に移動し、そのままキャッチした。……リアル「親方! 空から女の子が!」だな。ただキャストが元ビッチとキングオブモブキャラなのが残念だが。


「……おーい、大丈夫? 魂まで一緒に浄化された?」


「だ、大丈夫! ……下ろして、くれないかな? は、恥ずかしいわ」


 確かに恥ずかしいよね。こんなモブキャラにお姫様抱っこされているって知られたら世間の笑い物だよ。


「「「「…………いいなぁ」」」」


 ……なんか幻聴が聞こえた気がするが、多分気のせいだろう。


「……白崎さん。貴女は伝説の聖女(ラ・ピュセル)なんだから、この程度の霊、浄化できるよね?」


「伝説の聖女(ラ・ピュセル)ではないけど……そうよね。確かに今の私なら浄化できる。……動揺してて、本来私がするべきことができなくなっていたわ。ごめんなさい、迷惑をかけてしまって」


「白崎さんほどの完璧超人さんにも動揺することってあるんだな。……危機的状況に陥った時こそ、冷静にならなければならない。落ち着いてみれば突破口が見えることもある。……今の白崎さんなら大丈夫だ。ささっと悪霊どもを天に還すぞ!」


「草子君は過大評価し過ぎだよ……。うん、もう大丈夫。――私が、この幽霊さん達を浄化する」


「「〝嗚呼、大いなる主よ! 今こそ汝の慈悲でこの世を彷徨える者達をお救いくださいませ〟――〝光聖霊退散セイクリッド・ターンアンデッド〟」」


 辺り一帯のファントム・オブ・ザ・フリーズロードが全て浄化された。

 流石は勇者(ブレイヴ)にして聖女(ラ・ピュセル)という主人公属性をこれでもと詰め込んだ白崎だ。どこかの酒と宴会が大好きな女神様並みの浄化の技量だ。


 そこからは面倒なファントム・オブ・ザ・フリーズロードを片っ端から浄化しつつ、他の魔獣を片っ端から倒すという戦法で山を登る……うん、いつもと変わらないな。


 そうこうしているうちに十二合目に入った。

 スマートフォンを起動し、エレシに道案内を頼む。


 指示に従いながら歩くこと十五分、薄い膜を破ったような奇妙な感覚を味わった。

 急に風景が変化する。……そこに広がっていたのは雪山には似つかわしくない草原だった。


「……凄い、こんな標高の高いところに草原があるなんて」


 白崎達はその光景に見惚れていた……えっ、俺? いや、山男さんから伝説の薬草の話を聞いていたから、なんとなくどこかにはあると思っていたよ。

 まあ、今回は珍しく俺も驚いているけど。


「……薬草の存在が伝説になるってことは単純に考えて発見が難しいということだ。何かしらの仕掛けがあるとは思っていたが、まさか超古代文明マルドゥークが絡んでいるとは思わなかった」


 この結界は恐らく超古代文明マルドゥークの重要な遺跡――バラシャクシュ遺跡を隠すためのもの。

 その結界の内部にあるということは、ここにある薬草は超古代文明マルドゥークに関係があるということになる。


【……もしかして、その薬草ってマウラ草とかエジリオ草とかヒポクテ草のこと?】


 ……エレシさん。何か知っているようですね。


「何か知っているのか?」


【知っているも何も、その薬草は超古代文明マルドゥークが異世界から持ち込んだものだよ? まあ、その薬草の使い方までは分からないけど】


 ……はっ? いや、さらりと言うことじゃないよね!! 「今明かされる衝撃の真実ゥ」って奴だよ!!

 とりあえず、近くの草に【智慧ヲ窮メシ者】を発動してみよう。これで全て明らかになる筈だ。


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・ヒポクテ草

→魔力溜まりでのみ育成可能な異世界の薬草だよ! 水芭蕉に似ているよ! 超古代文明マルドゥークがカオスに持ち込んだよ!

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 ……本当だ。超古代文明マルドゥークが持ち込んだって書いてある。


「もしかして、バラシャクシュ遺跡の中に魔法薬の作成方法の資料があったりするのか?」


【断言はできないけど、可能性は高いと思うよ♪】


 とりあえず何個かサンプル用に摘んで、専門家(ルルード)に届けつつ、こっちはこっちで超古代文明マルドゥークの魔法薬レシピを探すとするか。


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・マウラ草

→魔力溜まりでのみ育成可能な異世界の薬草だよ! 赤い茎に黒い葉が特徴的だよ! 超古代文明マルドゥークがカオスに持ち込んだよ!

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・エジリオ草

→魔力溜まりでのみ育成可能な異世界の薬草だよ! アルビノのように全体的に白いのが特徴だよ! 超古代文明マルドゥークがカオスに持ち込んだよ!

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・ヴェルディ草

→魔力溜まりでのみ育成可能な異世界の薬草だよ! 赤紫色の花が特徴だよ! 超古代文明マルドゥークがカオスに持ち込んだよ!

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 ……聞いたことあるものばかりだ。全て同じ作品で。

 というか、まんまじゃない? 効果は多分違うと思うけど。


 とりあえず、バラシャクシュ遺跡を発見できたので今日の探索はここまでということになった。

 白崎達を屋敷に送り届け、俺はエリシェラ学園に〝移動門(ゲート)〟を開いた。



「こちらが以前お話しした薬草です。いくつかサンプル用に摘んで参りました」


「ありがとうございます。草子さんの好意を無駄にしないためにも、一刻も早く良い報告ができるように頑張らなければなりませんね」


「あまり根を詰めすぎて体調が悪くなったら元も子もありません。ルルードさんが楽しんで研究できるのが一番だと思いますよ」


「草子さんは本当に優しいですよね。……分かりました。楽しむことを忘れずに魔法薬作りにチャレンジしてみます」


 ルルードって本当に真面目だからな。謎の義務感に駆られて自分の体調を考えずに魔法薬研究を始めてしまいそうだ。

 こうやって釘を刺しておかないと、巡り巡ってルルードに迷惑を掛けてしまうからな。


「ところで、草子さんの目的の方は進展ありましたか?」


「丁度明日から目的の遺跡の探索を開始するところです。上手くいけば、今回お渡しした薬草を使った魔法薬の作成方法が分かるかもしれません」


「……重ね重ねお願いして申し訳ございませんが、もしその魔法薬の作成方法が分かったら教えて下さらないでしょうか? 魔法薬の作り方はそれだけで莫大な富を生むもの。それを無償で提供していただくというのがどれほど傲慢なお願いなのかは承知しております。勿論、対価はお支払い致しますので」


「常日頃からご迷惑をお掛けしていますので、その埋め合わせという形で魔法薬の作り方が見つかりましたらご提供させていただきたいと思います……ただ、本当に見つかればの話ですが」


「確かに取らぬ狸の皮算用でしたね。……いつもありがとうございます。草子さん」


 お礼を言うのはこちらの方ですよ、ルルードさん。

 薬草のサンプルを渡した俺は、ルルードの研究室を後にし、屋敷への〝移動門(ゲート)〟を開いた。



【リーファ視点】


 今夜も草子さんと一緒に〝移動門(ゲート)〟で精霊の森(クウァエダム・ネムス)に来た。

 二人で一緒にいるとデートみたいに見えるかもしれないけど……近くにいてもなかなか心の距離が縮まらないんだよね。


 柴田さんをお姫様抱っこした場面は本当に格好良かったけど、多分草子君としては行為として行っただけだから、トキメキ損をしているような気持ちになってくる。

 ロゼッタさんは「草子君は、乙女ゲームの攻略方法が一切存在しないバグな攻略対象みたいな人ですから、一筋縄では攻略できませんね」って言ってたけど、まさにその通りなんだ。……贔屓目に見ても白崎さん達は美少女だし、これだけ長くいたら手を出したくなるものだと思うけど……もしかして、草子さんって枯れてたりする?


「で? 今日は誰と契約しに行くんだ?」


「今日“土の精霊王”にチャレンジしてみようと思います」


「となると、最後は“光の精霊王”ってことになるのか。まあ、属性的にはそれが順当だな」


 属性で考えると“水の精霊王”ファンテーヌとは戦い方次第、“風の精霊王”シュタイフェだと有利になる。

 この二人の力を借りるのが一番いいと思うけど、試練の種類によっては前みたいに一人で戦わないといけないけど。

 でも、そっちの方がいいのかもしれないな。結局のところ、私が強くならなければ意味がない訳だし。


 しばらく歩くと木が消え、岩が剥き出しの風景になった。

 “土の精霊王”のテリトリーに入ったことを感じながら歩いていくと、褐色の肌に黒髪の男が座禅を組んでいる姿が見えた。


『……汝が“精霊王の試練”に挑戦するリーファ=ティル・ナ・ノーグだな。話はファンテーヌ達から聞いている。試練の内容は忍耐(・・)――つまりは耐え忍ぶ力を見せてもらう』


「なんかどっかで聞いたことがある試練だな。もしかして試練を突破したらパラディンにでもなれるのか?」


『……残念ながらパラディンにはなれぬ。我と契約できるだけだ。……能因草子だったな。リーファが試練を突破した場合、【土の精霊王の加護】を授ける。まあ、ここまで来た手間賃とでも思ってくれ』


「ファンテーヌさんが言ってたけど、普通は“精霊王”の加護が欲しくて契約に来るんだろ? それをたかがモブキャラに手間賃代わりに渡していいの? いや、もらえるなら貰うけど。……【土魔法】ってあんまり使わないからな。地震を起こすとか?」


 普通の魔法使いなら岩を飛ばす〝岩石砲(ロックブラスト)〟ですら候補に挙がらないけど、草子さんに掛かれば地震を起こす魔法も候補の一つになるんだ。

 草子さん。そんな天災級の魔法は使えないのが普通なんですよ?


「具体的に私は何をすればいいのですか?」


『反撃せず、我の攻撃を受け続ければいい。方法は問わない。躱すなり、防ぐなり、好きなものを選ぶがいい』


 なるほど。反撃しないというルールさえ守れば後は自由なのか。


『では、参ろう。――砂塵大嵐ウナ・テンペスタ・ディ・サッビア


 砂嵐ッ!! まさか、視界が遮断されている中で避け続けろというの!?

 だけど、私には【気配察知】と【魔力察知】がある。例え視界が奪われても、この二つの力で補うことはできる筈……やったことはないけど。


『――放たれる岩弾パロットラ・ディ・ロッチャ


 ――ッ! 岩石砲! 砂嵐を利用して攻撃方法を悟らせないつもりなのね!!


「魔法剣・水纏(アクア)斬撃(スラッシュ)


 水を纏わせた剣で前方から飛んでくる岩石を斬る。


『……視界が塞がれた中で攻撃の方向を確実に認識できず、試練に敗れていった者達は数知れぬ。流石は三人の“精霊王”が認めただけのことはある。……だが、次はどうだ? 砂の斬刃(ラメ・ディ・サッビア)


 ……ッ! 痛いッ!

 まさか、砂を刃に変化させて敵を攻撃できるなんて!!


「……〝吹き荒む風よ、鎧となりて我が身を守れ〟――〝纏嵐甲冑(ストーム・メイル)〟」


 風属性中級魔法を発動し、風の鎧を生み出す。

 これで砂の刃と砂嵐は防げるようになった……最初から無理せずこの魔法使っておけば良かったな。


「――〝纏嵐甲冑(ストーム・メイル)解放(リリース)〟」


 風の鎧を解除して、鎧を構成していた風で砂嵐を吹き飛ばす。


「〝吹き荒む風よ、鎧となりて我が身を守れ〟――〝纏嵐甲冑(ストーム・メイル)〟」


 砂嵐対策にもう一度風の鎧を纏う。


『……なかなか戦い慣れているようだな』


「これくらい普通ですよ。できなかったら置いていかれてしまいますから」


『確かに、その通りだな。――これで最後だ、全て受け切ってみろ!! 放たれる岩弾パロットラ・ディ・ロッチャ(アタッコ)(コンセクティオ)


 ――ッ! 前の岩石砲よりも多い!! それに早い!!

 ……でも、そんな単調な攻撃では私を倒せないわ!!


「魔法剣・水纏(アクア)刺突(ピアシング)


 八連突きで飛んでくる岩石を砕く。


『リーファ=ティル・ナ・ノーグ、汝は我が攻撃を全て凌いで見せた。文句なしの合格だ。――それでは、契約を結ぼう。改めて、“土の精霊王”エールデ=スオーロだ。“精霊王”の試練に打ち勝った勇敢なる者よ! 我は汝に従属することを誓う』


 これで四体……残すは“光の精霊王”ただ一人。


 ――パチパチパチパチ。


 試練を終えて一息吐こうとした時、拍手の音が耳朶を打ち――そして、私の視界が白一色に塗り潰された。



『はじめまして、私は“光の精霊王”リヒト=ルーチェ。一応“精霊王”の纏め役をしている。まずは、賞賛の言葉を掛けさせてもらいたい。君は四属性の“精霊王”を使役した最初の存在になった。今更私が戦ったところで勝ち目はないだろうけど、勿論試練は受けてもらうよ』


 絵に描いたような王子様がいた。

 ジルフォンド様のような正統派王子様タイプだけど、なんというか、ジルフォンド様よりも神々しい雰囲気がある。


 うん、私の趣味のドストライク! カップリングさせるなら誰だろう? エールデがいいかな?


『私の試練は、精霊武装エレメンタル・テールムを使った戦闘だ』


「……精霊武装エレメンタル・テールムってなんですか?」


「名前的に精●(エ●メンタル)魔装(ヴァッフェ)のようなものだろう? 効果は精霊を武器の形に変化させるとか?」


『いや、精霊を武器に変化させるのではない。精霊の力をその身に宿すことで、戦闘力を著しく上昇させるというものだ。エレメンタル・テールムを発動した場合のみ使える【精霊鬭術】が使えるようになる。ああ、【精霊魔法】で呼び出した精霊は【精霊武装】を使用しても消えないから安心してくれ』


 精霊を顕現して使役するのが【精霊魔法】で、精霊の力をその身に宿すのが精霊武装エレメンタル・テールム、そして精霊武装エレメンタル・テールムを使った戦闘方法が【精霊鬭術】……名前がややこしい。


「……それだと武器(テールム)より防具(アルムム)の方が正しい気がするけど。ほら、どちらかというと装備っぽいし。というか、話を聞く限り魔法少女と被ってない? それとも星●衣(ス●ードレス)?」


『私が決めた訳ではないのでなんとも』


 今回も草子さんは元ネタ? を理解しているみたいだね。

 私にはさっぱりだよ。


『使用方法は【精霊魔法】で精霊を顕現し、力を貸してもらうという感じだ。それでは、早速精霊武装エレメンタル・テールムを発動してくれ』


 光に対して相性のいい属性はない。……どうしよう?

 迷った末に、私が最初に契約して気心も知れているファンテーヌを呼び出すことにした。


「来て! ファンテーヌ!!」


 水が集まっていき、青薔薇を彷彿とさせるミニドレスに鎧を合わせたような凛々しい騎士風の少女が姿を現わす。


「ファンテーヌさん、私に力を貸してください」


『私の力はリーファ様のもの。我が主人に水の祝福があらんことを』


 私の身体を青い光が包み込む。

 その光が消えると、私の衣装が青いドレスに変わっていた……なんだろう。布地面積は広いのになんだか扇情的。


「……似合ってる? 草子さん」


 折角だから上目遣いで草子さんに感想を聞いてみた。


「うん、似合っていると思うよ。……こういう台詞はモブキャラじゃなくてチーレム主人公に対して言うべきものだから、以後気をつけてね」


 だから草子さんに聞いたんだけどな。……勿論、冗談だよ。


『リーファ様、ご武運を』


「うん。行ってくるよ、ファンテーヌさん」


 流水を纏ったオレイミスリルの細剣(愛剣)を握り締め、私は最後の試練に挑む。

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