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【リーファ視点】見た目からして騎士だから騎士らしい忠誠の誓い方をするのは別段不思議なことじゃないんだけど不意打ちで実際にやられたら思考が一瞬止まるくらい驚くのは当然だよね?

 異世界生活五十七日目 場所精霊の森(クウァエダム・ネムス)


【リーファ視点】


『“精霊王”の試練に挑む者よ! 私と契約を交わしたければ、私との戦いに勝利し、武勇を立てよ!!』


 ファンテーヌの剣に青白い輝きが宿り、激流の如き斬撃が私へと放たれた。

 私は瞬時に【魔法剣】のスキルを発動し、斬撃に向かって突きを放つ。

 赤熱化させた(・・・・・・)刀身に触れた斬撃を構成する水は、全て水蒸気に変化した。


 〈魔法剣・赤熱化する刃(ヒートソニック)〉――灼熱を纏った刃で斬撃を喰らわせる【火魔法】と【温度魔法】の複合【魔法剣】。

 草子さんの【魔法剣】から見れば児戯に等しいと思うけど、これが今の私にできる最高の一手なのだから、大目に見て欲しい。


『ほほう。今まで私の初撃――激流の斬撃(カレント・ストリーム)を避ける者は居たが、止めるものは初めてだ。では、次のはどうだ? 洌流の鞭刎(ストリーム・ウィップ)


 剣に収束した水が鋭い鞭のように変化し、不規則な軌道を描きながら私に向かって襲い掛かってくる。


「――私だって、何もしていなかった訳じゃないんです!!」


 今の【魔法剣】を解除し、新たな【魔法剣】を発動する。

 その刀身に宿るのは青白い焔――蒼焔。

 その蒼焔を斬撃に乗せて飛ばす――〈魔法剣・蒼焔纏(ブルーフレイム)飛爆斬スラッシュプロージョン〉。


 カオスには無かった蒼焔という概念をロゼッタさんから教えてもらい編み出した、私の新たな力。


 【飛斬撃】で飛ばした蒼焔の斬撃は、水の鞭の一部に命中すると同時に爆発して周囲の水を巻き込む。

 大部分を失ったことで鞭の形を維持できなくなった水の鞭はただの水となって精霊の森(クウァエダム・ネムス)の地面に降り注いだ。


「今度はこっちから行くわ! 魔法剣・蒼焔纏(ブルーフレイム)飛爆斬スラッシュプロージョン


 蒼焔の斬撃を今度はファンテーヌに向かって放つ。


『――篠突く雨(ディーペスト・レイン)


 ファンテーヌが剣を掲げると同時に猛烈な雨が降り始めた。

 ……天候を変化させるなんてとんでもない技なのは間違いないけど、このタイミングで使用する意味が分からない。

 高が(・・)雨くらいで、私の蒼焔は消せやしない。寧ろ、蒼焔に触れた雨が蒸発するわ。


『――無音の長雨(サイレント・レイン)


 …………えっ、どういうこと。


 私の思考が停止した一瞬の隙を突き、前方に現れた(・・・・・・)ファンテーヌが激流の如き斬撃を放つ。

 多分、動きからして〈激流の斬撃(カレント・ストリーム)〉だと思うけど……問題はなんで距離を取っていた筈のファンテーヌがすぐ目の前にいるかってこと。


 ――くっ、間に合わない。


 ファンテーヌの一太刀は私の胸元を横一文字に切り裂いた。

 傷口が焼けるように熱い。……止血しないと。でも、その前にファンテーヌから……距離を取らなくちゃ。


『――雨天の水鏡(ウォーター・ゲンガー)


 ……嘘、でしょ。ファンテーヌが……八体。

 全てオリジナルのファンテーヌと同等じゃないと思うけど、今の私にとっては強さはそれほど関係ない。

 八方から取り囲まれて逃げられなくなった……【回復魔法】の使えない私に傷を癒すことはできない。ルービック・ボックスの中には草子さんから貰った霊薬(エリクシル)があるけど、ファンテーヌは回復する遑を与えないだろうな。


 ああ、私はここで死ぬのか。覚悟して来たけど、やっぱり……嫌だな。

 まだ、私は死にたくない。草子さんに、聖さんに白崎さんに、みんなにもう一度逢いたい。


 ……でも、もう無理そうだ。自分で覚悟を決めてきたんだから、私が死ぬのは誰の責任でもない。

 みんな……ごめんね。私、もうダメみたい。


「〝嗚呼、惨き戦場よ! 戦に身を投じ、生命を散らした殉教者達よ! 戦火に焼かれ焦土とかした大地よ! せめて、せめてこの私が祈りましょう! いつまでも、いつまでも、祈り続けましょう〟――〝極光之治癒(オーロラ・ヒール)〟」


 消えゆく意識の中で、私は私の大好きなあの人の声と陽だまりのような暖かさを感じた気がした。



「おーい、聞こえてる? 意識ある? というか活きてる?」


「……生きてますよ。活きてるってなんですか? 私は魚じゃなくてエルフです」


 飄々としていて人を小馬鹿にしたような言葉。

 でも、そんな言葉だからこそ安心できる。


 私が好きなあの人が余裕を無くしていたら、それはもはや世界の危機だ。


「うん、良かった。死んでたら白崎達が悲しむだろうからね。女子の絆って固いんだろ? 後でちゃんと謝っておけよ」


 私の好きな人は、自分が好意を持たれていることに気づいていない。いや、もしかしたら気づいていてあえて見逃しているのかもしれない。

 あれほど聡明な彼が、周囲で分かりやすい好意を向けている女子達に気づけない訳がないから。


 強力な自己催眠並みの思い込みで、自らの置かれている現実すら歪ませる……草子さんがそれほどの思い込みを持つほど過小評価をするようになった過去について私はよく知らない。

 彼がどんな気持ちで地球という世界で半生を送って来たか、この世界で草子さんに出会った私は知らない。


 だけど、そんなことを知らなくたって関係ない。

 私が草子さんが好きだというただ一つ確実な事実があればそれでいい。


 聖さんと白崎さん、ロゼッタさんを筆頭に恋のライバルは多いし、強敵ばかりだ。

 だから、私は今まで表立って好意をアピールすることは無かった。


 まずは共通の趣味を持って、少しでも距離を縮める。

 例え、BL好きの趣味が受け入れられなくても、それは私という存在に俗っぽいイメージを付与するのに役立つ。


 白崎さんのような高嶺の花という存在は、価値があるが故にそれが壁になる。


 私には聖さんのようなスキンシップやロゼッタさんのような共通の趣味といった武器はない。

 でも、それだからといって負ける訳にはいかない。

 だから形振り構わない。例え自分がただの変態として扱われることになっても関係ない。

 ……私は、あの森で初めて助けられていた時に、無意識のうちに草子さんに恋をしてしまっていたらしいから。


 ……それに、今の私と草子さんとの距離を気に入っているし、ね。


「いや、邪魔してすみません。でも、コイツが居なくなると悲しむ奴らがいるんで」


『……貴方が彼女の大切な人なのか? 確かに人知というか、色々なものを超越しているが』


「そんなご大層なものじゃありませんよ。俺はただのバグったモブ――それ以上でもそれ以下でもございません」


 かつて受けた扱いが、草子さんが自らに過少すぎる評価をさせる。

 本当は、勇者(ブレイヴ)や魔王より強い筈なのに。そんなものとは比べられないような者達が犇めく世界で生きているのに、草子さんはそれを決して認めようとしない。

 だから、認めようとさせるだけ無駄だ。


「試練を邪魔したのは謝罪します」


『……いや、別に“精霊王”の試練を一人で受けろなどというルールはないのだが……貴方の参加は勘弁して欲しい……確実に私が死ぬ……というか、存在そのものを抹消されそうだ』


「HAHAHA! 面白いことを言いますね。こんなモブキャラに“精霊王”を消し飛ばすなんてことできる訳がないですよ」


 ファンテーヌが女騎士の気高さを捨てて露骨にビビっている。

 ……ですよね。草子さんって規格外な存在だし。


 聖女(ラ・ピュセル)を含め最高位の回復職しか使えない筈の【回復魔法】、伝説の勇者(ブレイヴ)が使ったとされる聖剣すら耐えられないほどの圧倒的勇者(ブレイヴ)適正、それに、エルフである私すら優に超える規格外の精霊親和性。


 あれだけの力をたった一人の人間が有するというだけで意味の分からない話だ。

 ……まあ、ファンテーヌは草子さんが過去に類を見ないくらい精霊に囲まれているのを見て、驚異的な存在だと判断したのだろうけど……最早囲まれ過ぎてて全身眩い毛ダルマに包まれている感じだよ。


「……あっ、それとお前らさ。もう少し離れてくれない。眩しくって目が疲れる? いや、まあ不必要な視覚情報は【智慧ヲ窮メシ者】にカットさせているから問題ないんだけど、なんか感覚的にうざいんだわ」


 草子さんを取り囲んでいた精霊達が一斉に離れた。

 どういうこと! 低級とはいえ精霊は自然を変動させるほどの力を持つ存在だよね!?

 ……まあ、やったのが草子さんだから当然のことのような気がしてくるけど。


『……今まで数多の者達が精霊との契約を求めてきました。……貴方も契約をするためにここを訪れた訳ではないのですか?』


「いや? そういうのって選ばれし者とかがすることでしょう? 俺ただのモブだから、元檜の棒切れ振りながら隕石落としてるくらいがお似合いだよ」


『……今、聞き捨てならない言葉があったのですが。隕石を落とすのはモブ? 普通の人間がすることではありませんよ。超人的な者達が引き起こす天変地異です』


 ファンテーヌが頭を抱えている……まあ、草子さんと旅をしていない人からしたら非常識な話だからね。

 慣れたら普通に思えてくるよ? その代わり常識が吹き飛ぶけど。


「……まあ、冗談はここまでにして。“精霊王”の試練? だっけ? 俺は手を出さないけどアドバイスくらいはしてもいい? それから、もう一度リーファの身が危険になったら止めに入ることをご理解頂きたい。勿論、二度とリーファには“精霊王”の試練に挑戦しないことを約束してもらう。……【契約魔法】を利用したものだから、抑止力にはなるだろう?」


『構いません。アドバイスくらいで何かが変わる訳がありませんから』


 ファンテーヌは余裕の表情だ。……まあ、アドバイスをしてもらったからといってステータスが変化する訳ではないからね。

 でもね、世の中にはたった一人の人間がアドバイスをしたことで本当に見違えるように強くなることもあるんだよ。


 今、ファンテーヌ――貴女の前にいるのは、チートである以前に、教師の素質に恵まれた本物の天才なのだから。


「……草子さん、ごめんなさい。身勝手なことなのは承知の上です。お力、お貸しください」


「当然だろ? こんなバグったモブ、有効活用してなんぼだ」


 ……いつか草子さんに分かってもらいたいな。

 草子さんの力を頼りたくないのは、草子さんに頼ってもらえるような――そんな存在になりたいからなんだって。


「……俺が“精霊王”を――ファンテーヌを掌握する(・・・・)。俺が教えられるのは、ファンテーヌの動きや攻撃の情報だけだ。後は、リーファ――お前がなんとかしろ。これは、お前が大切な者達に追いつくために、自分で選んだ試練なんだからな。お前一人の力でファンテーヌを倒してみろ」


 ……その大切な人が草子さんだってこと、分かってくれているのかな?


 草子さん、私は一人じゃない。草子さんのサポートがあるから、一人で戦っている訳じゃないんだよ。

 そして、草子さんのサポートがある以上絶対に負けない――そう強く信じることができる。


『――それでは、試練を再開しましょう』


 ファンテーヌの剣に青白い輝きが宿り、激流の如き斬撃が私へと放たれた。


「この攻撃は知っているよな?」


「大丈夫です。――魔法剣・赤熱化する刃(ヒートソニック)!!」


 灼熱を纏った刃で斬撃に向かって突きを放つ。

 赤熱化させた刀身に触れた斬撃を構成する水は、全て水蒸気に変化した。


「次、雨を降らせてくる。天候が雨になるとダメージを喰らうのと同時に無音移動と分身が可能になる」


『……ッ! なんで私の行動が読まれて――ならば!』


「という俺の予測を聞いたファンテーヌは、攻撃パターンを切り替え、大量の水の針を飛ばして範囲攻撃と巨大な水の回転錐(ドリル)を生み出す技を順に使用してくる」


『……またしても! まさか、私の動きを完全に見切っているとでも言うのか!』


 草子さんは多分私とファンテーヌの戦いを最初から見ていたんだと思う。

 だから私との戦闘で使った技は見切られていても仕方ない。でも、次にファンテーヌが使おうとした技は、私も見たことがない技だった。


 これが、白崎さんの【完全掌握】を凌駕する【智慧ヲ窮メシ者】――その片鱗なのね。


「水使いってのは便利だよな。どんな形にも変えられる。それ故に戦略は無限大……だから、その全てを伝えるのは無理だ、諦めてくれ。俺ができるのは掌握した情報の一部を伝えることだけだ」


「それだけで十分だわ、というか、十分過ぎるわよ」


『……確かに全ての動きが読まれているのは辛い。でも、読めているからといって、それが必ず躱せる訳じゃない!』


「来るぞ、雨コンボが!」


『――篠突く雨(ディーペスト・レイン)


「〝凍てつく女王よ! ――」


『無駄よ! ――雨天の水鏡(ウォーター・ゲンガー)


「――戯れに吹くその息吹であらゆるものを凍らせておくれ! ――」


『――無音の長雨(サイレント・レイン)


「この世界を凍てつかせておくれ〟――」


『これでトドメよ! 激流の斬撃(カレント・ストリーム)


 鋭い雨が降り頻り、八体のファンテーヌが私を狙う瞬間を、私は待っていた!!


「――〝凍てつく女王の吐息ウェントゥス・ニワーリス〟」


 吹雪を伴ったダウンバーストが私を中心として全方向に放たれる。

 八体のファンテーヌも降り頻る雨も全てそのダウンバーストによって吹き飛ばされた。


「……最初は知らなかったから対処できないわ。でも、二度目に対処できないって誰が言ったかしら? ……まあ、あの時草子さんが私の命を助けてくれなかったら、二度目は無かったのだけど」


『……そう、ですね。ですが、約束は約束です』


 分身が消失し、一体だけとなったファンテーヌが身体についた霜を払い終え、改めて正対した。


『改めて、“水の精霊王”ファンテーヌ=シュトレームングだ。“精霊王”の試練に打ち勝った勇敢なる者よ! 我は汝に従属することを誓う』


「よろしくお願いします、ファンテーヌさん。私はリーファ=ティル・ナ・ノーグです」


 ファンテーヌは、剣を置き跪くと私の手の甲にキスをする。

 予想外の状況に私の思考は一瞬止まった……いや、だって予想外じゃん。まあ、ファンテーヌって見た目からして騎士だから、騎士らしい忠誠の誓い方をするのは別段不思議なことじゃないんだけどね。


「……ところで、“精霊王”との契約ってどんなメリットがあるんだ?」


『そうですね。……一つは戦力の向上です。“精霊王”の力はさっきお見せした通り……まあ、結果は散々なものでしたが。とにかく、単純計算で戦力が向上します。そして、もう一つが【水の精霊王の加護】と呼ばれる後天的な加護の獲得です。この加護を持っていると水関係のスキルや魔法の威力が向上します』


「なるほど……街一つを沈める禁呪を発動した時に、水深が上がるって感じか?」


『……そこまでいくと【水の精霊王の加護】があっても無くても関係ない気が……そして、この加護は契約者となったリーファ様と、今回は特例で草子さんにも……』


「ん? いや、いらねえよ。あんまり水系の魔法って使わないんだよね。全部光と闇と時空と分解と重力と即死で済ませちゃうから」


『……草子さんは面白い方ですね。普通はこの加護が欲しくて契約に来るんですよ。……でも、折角貰えるなら貰っといた方がお得な気がしますが』


「まあ、貰えるものは貰うべきだよな。普通なら残り物詰め合わせを押し付けられたとしか考えられないスキルの詰め合わせの中にも有用なものっていっぱいあったし。ありがたく受け取っておくよ」



 ファンテーヌと別れ、私と草子さんは精霊の森(クウァエダム・ネムス)を歩いていた。


「……それで? 後“精霊王”は何体いるんだ?」


「――ッ!! ……草子さん、本当にいいんですか?」


「強くなりたいって気持ちを持つのは当然だろ? 誰かのために力になりたいって気持ちを悪いとは言わないさ。……だが、テンプレだとお前みたいに一人で突っ走ったら、気づかないうちにNTRれたり悪堕ちしたりする。そうなったら元も子もないだろう? まあ、それでも命があるだけマシか。今回はもっと酷い……俺が間に入らなかったら、あの時お前は死んでたんだからな」


 私が今生きていられるのは、草子さんが助けてくれたおかげだ。


「後で白崎さんにお礼を言っておけよ。白崎さんが教えてくれなかったら尾行をしようとは思わなかったからな。しかし、白崎さんは凄いな。流石はパーティーのリーダーで選ばれし者だ。慕われているな、リーファさんは」


 白崎さんは恋敵である筈の私のことも心配してくれる優しい人だ。

 でも、それは同時に草子君に全幅の信頼を寄せていることを意味しているんだよ。

 だって、私の捜索を自分でやるのではなく草子さんに託した――それは、草子さんなら絶対に見つけてくれるだろうという気持ちの表れだと思う。


「……草子さんはいつになったら自分がみんなから慕われているってことを理解してくれるのかな?」


「……仮に今慕われていたとしても、それがいつまで続くか分からない。優しさに触れるってのは弱くなることと同じなんだよ。だから、俺は距離を置く。いつか来る、再び孤独に戻るその日のために」


 草子さんは飄々としていて、賢くて、どんな時でも不敵に笑っていて――。

 ……でも、本当はとても傷つきやすいんだ。


 それは、草子さんがずっと孤独だったから。沢山の人からの拒絶を経験してきたから。

 草子さんは、教授さんに出会って救われたんだと思う。でも、それは拒絶されることがあり得ない人達――文学という共通の趣味で集まった同志。


 ロゼッタさんと親しくしているのも、自分の趣味のジャンルに近いから――きっとそれだけなんだと思う。

 それが、悪いとは言わない。でも、それだと私達が望んでいるような関係には到底なり得ないんだよ。


 本当に草子さんと向き合うためには、文学好きの少年じゃない――ありのままの草子さんと向き合わないといけない。

 そして、そのためには覚悟を決めないといけない。


 草子さんは、戻れなくなることを恐れずに一歩を踏み出す覚悟を、そして私達は決して草子さんを一人にしないという覚悟を。


「まあ、なんだ。俺もお前らとの旅の雰囲気は嫌いじゃない。もう少しだけは一緒にいることになると思う。それが、お前の生まれ故郷で交わした約束だからな。……あの時はただ漠然としていて、現状を理解できていなかった。あの時交わした約束はただ漠然と『ついて来るか、ついて来ないか決めて欲しい』ということだった。……多分、近いうちに俺はもう一度問うことになると思う。それがどういう形になるか分からないけどな。だから、その時までに決めておいてくれ。――それでも俺と一緒に行動するのか、別々の道を歩むのか」


 その時の草子さんの双眸は今までにないほどの覚悟を湛えながら鋭く見開かれていた。

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