【榊翠雨視点】勇者vs隠法騎士修道会騎士団長――天衣無縫と勇者翠雨の終焉之炎
異世界生活十日目 場所ウィランテ大山脈、常夜の大樹林、夢幻結界内
戦闘が開始するのと同時に聖濫煌剣アイリシュベルグを正眼で構える。
「〝聖剣封印結界符〟」
ジューリアが札を地面に貼った瞬間、眩い光が円形状に広がり、聖濫煌剣アイリシュベルグから青い輝きが失われた。
「聖剣の力封印せり。最早勇者固有技使用すべからず」
……ちっ、勇者固有技が封じられたか。
僕の持ち得る最強の技が封じられたことに、内心焦りを覚える。
「〝恢復封印結界符〟」
続いて二枚目の札が地面に貼られる。今度も眩い光が円形状に広がった。
今度は目に見える変化はないが、技名から推測すれば回復を封じる結界なのだろう……厄介だな。
だけど、それは相手も同じだ。巫女といえばファンタジーでは回復職――その力が十全に使えないとなれば、向こうにも不自由が出てくる筈だ。
「〝朱天符〟」
呪を唱えると共に札が燃え、灼熱の火球となって飛んでくる。
(〝清き水よ、球となって襲い掛かれ〟――〝水玉球〟)
【無詠唱魔法】を発動し、同程度の大きさの水球を放つ。
火球と水球は衝突し、水蒸気を発生させた。――が、それだけで互いに被害はない。
「〝迅速符〟」
呪を唱えると共に札が消え、ジューリアに青白い光が宿った。
「〝金剛符〟」
さっきと同じように札が消え、黄金の輝きが宿る。
「〝剛力符〟」
二つの札の時と同じように札が消え、今度は赤い輝きが宿った。
剛力、金剛、迅速……攻撃力と防御力と素早さを上昇させるBUFFか。
「〝水装顕符〟」
ジューリアの持つ札が水へと変わり、ジューリアの身体を包むように纏わりつく。
水を纏うことで属性を付与したのか。
ここまでを総合するとジューリアはBUFFERと黒魔導師の性質を併せ持つ存在ということになる。
だが、それだけではない気がする。間違いなくまだ手を隠しているだろう。……全く底が知れない敵だ。
(〝雷よ、槍となって貫け〟――〝雷槍〟)
雷槍を生成して解き放つ。純粋な水であれば非電解質であり、電気を通すことはないが、魔法によって生み出される水は純度は高くても純水ではない。
純水を生み出すためには高いスキルレベルが求められる。そのレベルに猛者であるジューリアも到っているとは思えない。
それに、純水の概念を異世界の者達は知らない筈だ。つまり、【雷属性】の攻撃は水に対して相性がいいということになる。
「〝土装顕符〟」
ジューリアの持つ札が土へと変わり、ジューリアの身体を包むように纏わりつく。……くそ、このタイミングで属性変化か!
雷槍はジューリアに命中したものの、ジューリア自身は土属性に変化していたため無傷――どこのバリ●チェンジだよ!!
一見するとジューリアと僕との一騎打ちに見えるかもしれないが、そうではない。
ジューリアの部下の黒装束達は今まで参戦せずに戦いの行く末を見守っていたが、遂に動き出した。
時にジューリアを援護するように、時に僕の攻撃を妨害するように変幻自在の攻撃を繰り出してくる――くそ、面倒くさい!!
(魔法遅延化――〝真紅の炎よ、槍となって貫け〟――〝火炎槍〟)
現状、僕が【魔法遅延化】で遅らせることができるのは最大で三十秒――それを利用し、更に新たに獲得した【複数魔法同時発動】のスキルを加えることで爆発的大火力を実現させる。
(魔法遅延化――〝凍てつく氷よ、槍となって貫け〟――〝氷槍〟)
(魔法遅延化――〝雷よ、槍となって貫け〟――〝雷槍〟)
二十秒、十秒に設定することで同時に三つの魔法が展開するように調整する。
その対象は黒装束達だ……もう、正直いってウザすぎるから先に一掃したい。
(〝風よ、渦を巻け〟――〝小竜巻〟)
(〝真紅の炎よ、火球となって焼き尽くせ〟――〝劫火球〟)
そして、【魔法遅延化】を発動せずに二つの魔法を発動する。
現状、僕が【複数魔法同時発動】で同時に発動できる魔法の数は合計で五つだ。そのフルに使ったこの攻撃で魔力はごっそり削られることになる。
最初に使われた〝恢復封印結界符〟には、魔法による回復だけでなくスキルによるHPやMP回復も封じる効果があったらしい。
つまり、一度減った魔力はこの戦いに勝たない限りは回復しないことになる。……ここでせめて黒装束達だけでも仕留め切らなければ一気に形勢が悪くなるな。
〝小竜巻〟と〝劫火球〟を融合し、灼熱の竜巻を作り出す。
そして、ジューリアに向けて放った。
「〝水装顕符〟」
ジューリアの持つ札が水へと変わり、ジューリアの身体を包むように纏わりつく。
属性相性を考えれば確かに悪い。だが、風を与えることで威力を増しただけのことはあったようだ。
水の鎧が剥ぎ取られ、水蒸気と化してしまっている。
そして、事前に発動していた〝火炎槍〟、〝氷槍〟、〝雷槍〟が一斉に黒装束達へと襲い掛かる。
流石の彼らもジューリアと戦いながら、同時に黒装束達への攻撃を企てていたとは夢にも思わなかったのだろう――防御行動を取る間も無く槍に貫かれ、その命を散らした。
「……よも、我への攻撃が陽動なりきとは。されど、魔力は有限。かほど一気に使ひなばいつかは尽く。我が優勢なるは今もうつろはず。てづから死に急ぐとはくらし」
「そうか? 最良の手だと思ったがな? こうしてやっと一騎打ちに持ち込めたんだ。……確かに魔力は残り僅か、勇者固有技は使えない、回復もできない……笑いたくなるほど絶望的な状況だ。だが、僕にはまだ戦う手段が残っている。ならばそれに全てを賭けて戦うべきだろう?」
僕はこれまで勇者固有技のみに頼った戦い方はしてこなかった筈だ。
確かに勇者固有技は強力だが、それ故に真っ先に対処されてしまう。
その対策として僕は剣技そのものを磨き、魔法についてもできる限り吸収してきた。
僕は今、勇者固有技を失い、魔法も失おうとしている。
だが、まだ僕には剣技がある。知識を基にして独自に再現したこの世界で僕だけの力がある。
「勇者の時間も大賢者の時間も終わった。今この瞬間からは、剣士榊翠雨の時間だ!」
光を失った聖濫煌剣アイリシュベルグを構え、僕は【縮地】を発動してジューリアに肉薄する。
「非礼を詫ぶ。我は勇者固有技と回復が封ぜられ、魔力も底をつきかけたる汝を甘く見たりき。瞳に宿りしその闘志の炎をむげに消すまで我はおこたられぬ戦ひを強ひらるるにならむ」
そのまま袈裟懸けに一撃を浴びせれば、流石のジューリアもおしまいだと思ったのだが……。
「〝桔梗印護符〟」
ジューリアが呪を唱えるのと同時に札が消え、五芒星――セーマンが出現する。
とても実体があるようには思えないが、光の五芒星は聖濫煌剣アイリシュベルグを決して通すことはなく、完全に防いでいる。
「〝黄天符〟」
「ま、まずい!!」
ジューリアが再び呪を唱えると共に札が消滅し、僕の足元の地面が変化――槍のように鋭くなって伸び始めた。
咄嗟に僕は後ろに飛び退き攻撃を回避する。変化した大地は針のように鋭く、あのまま立っていたら串刺しにされたことが容易に想像できる。
バッグステップで後ろに下がり、緩急のあるステップを素早く行うことにより、残像を発生させて相手を幻惑させる歩調――〈歩技・蜃気楼ノ歩〉を使用する。
体勢を低くして下半身のバネを一気に解放して突進しながら最速の突きを放つ〈剣技・雷霆万鈞〉から、敵を真上に斬り上げる絶剣技・七●型〈咬竜〉を参考にした一撃――〈剣技改・雷霆飛竜〉を放つ――四人同時に。
「〝彼岸と此岸に境あり。魔の者は魔の世界に留まりて決して越えることなかれ。一線を引き、結界を張り、あらゆる魔を通すことなかれ〟――〝護法の結界〟」
ジューリアを守るように強固な立方体の結界が生まれた。
結界は業物である聖濫煌剣アイリシュベルグに〈剣技改・雷霆飛竜〉の威力を掛け合わせた最高速最大威力の突きを結界に僅かにヒビが入るという極々小規模な被害を代償にして防ぎきった。
「……今のは、符術じゃないな」
「然り。今の技は陰陽術に非ず、巫女の使ふ【結界魔法】なり」
さっきまで符術しか使ってこなかったから油断していたが、ジューリアの見た目は陰陽師というよりも巫女だ。ダメージ遮断系や結界といった魔法を使う可能性も大いにある。……僕はそれを完全に失念していた。
和製魔法使いと呼ぶべき陰陽師と巫女――あちらも回復は封じられているが、ジューリアの力の半分を占める巫女の力がそれで完全に封じられる訳ではない。
「そろそろ決着をつけむ。我の全力の前に死に給へ。……〝水装顕符〟、〝木装顕符〝、〝火装顕符〟、〝金装顕符〟、〝土装顕符〟」
ジューリアの持つ五枚の札がそれぞれ水、木、火、金、土へと変わり、ジューリアの身体を包むように纏わりつく。
今までは一枚の札のみを使っていたが、五枚使ったらどうなるんだ。……確か五行の考えだと相生、相剋、比和、相乗、相侮の性質があるが……生み出すのと打ち滅ぼしていくという相容れない現象になるということは。……全く想像がつかない。
五つの力を纏ったジューリアは五色輝きに包まれていた。
打ち滅ぼすこともなく生み出すこともなく共存したということか。
「五行共榮装――まさに天衣無縫の極みなり。五行を超越せし我が纏ふは光――この輝きに汝を討ち亡ぼす」
ジューリアは白衣の掛け襟の後ろに手を突っ込み、中から晴明桔梗に描かれた鉄扇を取り出した。
ジューリアの纏っていた輝きが扇に移り、眩い輝きを放つ。
「〝邪なるモノから護れ〟――〝禊祓の障壁〟」
ジューリアが呪文を唱えると共に無数の障壁が出現する。
だが、僕の攻撃を防御するために障壁を展開した訳ではなさそうだ。障壁を上向きに展開している――これは、まさか〈口伝・天●通〉と同種の移動手段か!
ジューリアは展開した障壁を利用し上へ上へと駆け上がる。
しかし、これはマズイな。高さの優位性を取られてしまうのはかなり危険だ。
こっちからの攻撃は当たりにくくなるが、あちらからの攻撃は当然ながら今までと同様に命中する。
そもそも上まで届かない攻撃をすれば途中で霧散するか天に唾するの諺通り自分に攻撃が降ってくる。……どちらにしてもジューリアにダメージを与えることはできないな。
虎の子の魔力は使えない。魔力を必要とする【魔法剣】も同じ理由で使えない。
魔力を使わずに強化するならば【聖刃】か。……もしかして、【飛斬撃】と組み合わせれば光の刃を飛ばせるんじゃね!?
「〝桔梗印霊符〟」
ジューリアが呪を唱えるのと同時に札が消え、五芒星――セーマンが出現する。
〝桔梗印護符〟と違うのはそれが猛スピードでこちらに向かって飛んできているということだ。
聖濫煌剣アイリシュベルグを袈裟懸け、横一文字、唐竹の要領で動かし、三つの光の斬撃を生み出して飛ばす。
一つ目の斬撃で〝桔梗印霊符〟によって生み出されたセーマンを破壊し、二撃、三撃目でジューリアを斬り裂くのが狙いだ。
「〝邪なるモノから護れ〟――〝禊祓の障壁〟」
目論見通り一度目の斬撃でセーマンを斬ることには成功した。
だが、二撃三撃目は生み出された障壁に阻まれ、ジューリアに攻撃が届くことはなかった。
……しかし、足場を維持しながら新たに障壁を展開することもできるのか。
隠法騎士修道会騎士団長ジューリア=コルゥシカ――尋常ならざる敵だ!!
「――光飛扇嵐」
ジューリアは扇を振り下ろし、五色の光の攻撃を放った。
咄嗟に聖濫煌剣アイリシュベルグで防ごうとするも間に合わず、僕はその身にその攻撃を受けてしまう……思えばこれがこの戦いが始まって初めてのダメージだった。
「――光飛扇嵐」
ジューリアの攻撃はここで終わらない。僕が攻撃を防げなかったことを確認するや否や間髪入れずに同じ攻撃を放ってくる。
勿論、ほとんどの攻撃は【聖刃】を纏わせた聖濫煌剣アイリシュベルグで防ぐことに成功した。
だが、その攻撃を全て捌ききることは僕の今の技倆では不可能だった。
ダメージがどんどん蓄積していく。そしてそれは回復の封じられた今の僕にとって、決して癒されることのない傷なのだ。
(魔法遅延化――〝雷よ、槍となって貫け〟――〝雷槍〟)
残った最後の魔力を全て使い、三十秒後に雷槍を放つ準備を整える。
今の僕にできるのはこの一撃に全てを賭けること――そのために、ジューリアに雷槍の存在を絶対に悟られてはならない。
「〝桔梗印霊符〟+〝朱天符〟――桔梗五芒印・灼天」
ジューリアが呪を唱えるのと同時に二枚の札が消え、五芒星――セーマンが出現する。
だが、〝桔梗印霊符〟を単独で使った時とは異なり、炎によって構成されたセーマンだ。……恐らく攻撃力は〝桔梗印霊符〟を単体で使った時よりも格段に上がっている。
片足を軸にして旋風のような回転切りを放ち、それを【飛斬撃】で飛ばす。
それにより完成したのは無数の斬撃で構成される竜巻を斜め前方――〈桔梗五芒印・灼天〉に丁度ぶつかるように放つ。
〈剣技改・嵐刃ノ輪舞〉と〈桔梗五芒印・灼天〉――優ったのは僕の剣技だったようだ。五芒星を貫通した斬撃はそのままジューリアへと襲い掛かる――が。
「〝彼岸と此岸に境あり。魔の者は魔の世界に留まりて決して越えることなかれ。一線を引き、結界を張り、あらゆる魔を通すことなかれ〟――〝護法の結界〟」
ジューリアを守るように強固な立方体の結界が生まれ、またしても僕の攻撃を防がれた。――硬い、とにかく硬い。女子にこんなことを言うのもアレだけど鉄壁だ……色々な意味で。
放った雷槍も結界に阻まれて霧散した……万事休す。
「――光飛刺扇弾」
ジューリアは扇を横に動かし、五色の光を尖った礫のような形に変化させて放った。
見たことがない技だが、あれが鋭利な弾丸による貫通効果を狙った技であることは容易に想像がついた。
「〝桔梗印霊符〟+〝玄天符〟――桔梗五芒印・怒濤」
ジューリアの攻撃はそこで終わらない。駄目押しとばかりに二枚の札を使い、水によって構成されたセーマンを解き放つ。
僕は聖濫煌剣アイリシュベルグを構え防ごうとしたものの、その全ての攻撃を防ぐことなど到底できる筈もなく――。
何発か攻撃を受けた僕の身体は既にかなりのダメージを受けていた。
傷口から血が滲むのはまだいい方で、場所によっては骨が砕かれているところや肉が裂けてしまっている箇所もある。
対するジューリアは無傷――どちらが優勢かは一目瞭然だ。
「〝衰弱衝符〟」
ジューリアが呪を唱えるのと同時に札が消え、半透明の球となって僕に飛んでくる。
僕は聖濫煌剣アイリシュベルグで斬ろうとするが、何故かすり抜けてしまい、そのまま僕に着弾した。
その途端に猛烈な虚脱感に襲われ、次に身体に力が入らなくなる。
気を抜くと剣を落としそうだ。それどころか、意識も失ってしまうだろう。
……まさか、DEBUFFまで使えるなんて。
「――光飛扇嵐」
「――光飛扇嵐」
「――光飛刺扇弾」
朦朧とした意識の中、それでもジューリアの攻撃を防ごうとするが、その剣の動きは完全に精彩を欠いていた。
不思議と、痛みすら感じない。意識が深淵の底に沈み込んでいくようだ。
「神敵翠雨、最期に何か言ひ残すがあらば言へどよし」
それが、ジューリアなりの気遣いだったのだろう。
朦朧とした意識の中から這い出した僕は、震える口を開いて最期の言の葉を紡ぐ。
「…………これで、終わりだと……思うか?」
予想外の言葉に能面のようなジューリアの表情が、僅かに崩れる。
「汝は死ぬ。そは覆すべからぬうつつなり」
「そうだ、な。ぐっ……だが、これで終わりじゃない。僕が、死んでも、終わりには、ならない。お前ら、ミント正教会の闇は、いつか必ず、誰かが、暴く」
――身体の中でギアが切り替わったような不思議な感覚がした。
火事場の馬鹿力とも違う、得体の知れない力が僕の身体を支配する。
焼けるほどの熱が身体の中から迸る。冷たくなり掛けていた身体に熱が戻る。
きっと、どう転んでも僕は死ぬだろう。死を覚悟したことによって、僕は僕の中にある全てのリミッターを外すことができたのだから。
これは、たった一度だけの力。文字通り命を燃やした【終焉之炎】。
力の戻った手で聖濫煌剣アイリシュベルグを握り、【聖刃】を発動し、魂を燃やしたことで回復した魔力を【魔法剣】へと変換し、スキルと剣技と魔法が渾然一体となった最期の一撃を放つ。
「ッ! 〝彼岸と此岸に境あり。魔の者は魔の世界に留まりて決して越えることなかれ。一線を引き、結界を張り、あらゆる魔を通すことなかれ〟――〝護法の結界〟」
「〝邪なるモノから護れ〟――〝禊祓の障壁〟」
「〝桔梗印護符〟」
対するジューリアは自らの持つあらゆる防御強化を駆使してその攻撃に対抗する。
セーマンが崩壊する、障壁が砕け散る、そして結界にヒビが入る。
だが、そこで攻撃は止まった。僕の最期の力を持ってしてもジューリアに傷を刻むことはできなかったのだ。
身体が冷たくなる、意識が遠くなる。消えゆく意識の中で僕は二人の友人に懺悔した。
――ごめんな、先に逝っちまって。
◆
【三人称視点】
「……やうやう、勝つべかりき」
額の汗を拭いながら、ジューリアは自分以外人のいなくなった戦場でそう呟いた。
一見すればジューリア有利で進んでいた戦いも、実際は綱渡りの連続だった。
最期の一撃に至ってはあと少し行動が遅ければ死んでいたのはジューリアの方であったことは容易に想像がつく。
「……神敵翠雨の最期の言の葉……ミント正教会の闇とは何ぞ」
激戦の末、翠雨はジューリアに傷一つつけることなく敗北したように見える。
しかし実際にはジューリアの心に小さな傷をつけていたのだ。
ジューリアの心に残った傷は、やがてミント正教会に対する疑問という大きな傷へと成長する。
――しかし、それはまだ先に話だ。