表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

146/550

BL好きの腐女子令嬢はBLの話題になるとお淑やかをどこかに置き忘れてしまうようだ。

 異世界生活五十六日目 場所コンラッセン大平原、能因草子の隠れ家(旧古びた洋館)


 洋館の案内が終わったところで、比較的片付けが終わっている部屋に聖とロゼッタを案内し、待ってもらっている間に広めの部屋を一部屋分片付ける。

 当初は二人を宿屋 青い薔薇に送り返そうと思っていたが、二人に拒否されてしまったから無理になってしまった。……なんで留まるんだろう? 白崎達と一緒にいた方が楽しいんじゃないの? 同性同士の方が気が楽だろうし。


 試作したコーヒーメーカーでコーヒーを三杯淹れて持っていく。

 ソファーに座る聖とロゼッタの前に置き、誰も座っていない対面のソファーに座ってコーヒーに口をつけた。


「草子君、一つ相談に乗ってもらいたい話があるのですが、お願いできませんか?」


 そこそこの味に仕上がっているコーヒーに、コーヒーメーカーの出来を心の中で自画自賛していると、ロゼッタがそう切り出した。

 その相談とは、新たな戦法を編み出したいということらしい。本当に向上心の高い令嬢だよな、ロゼッタは。俺も見習わなくちゃいけないな。


 とりあえず【智慧ヲ窮メシ者】でロゼッタのステータスを確認する。……攻撃的なスキルは【四大魔法】、【氷魔法】、【雷魔法】、【木魔法】、【金魔法】、【精神魔法】辺りか。

 【反響定位】は探査系のスキルで、敵の位置を確認することができる。いいスキルではあるが、攻撃に転用は難しそうだな。


 後は【メニュー】か。基本的なところは通常のステータスと同じだが、【反響定位】と連動する【マップ】、現状の行動をゲームのログように確認できる【ログ】、アイテムボックスの役割を果たす【ストレージ】の効果がある。


 【ログ】を使いこなせば策士として戦えそうだけど、こちらも直接的な攻撃に転用は難しそうだな。

 となると、残るは【ストレージ】……これは使い方によっては攻撃に転用できそうだ。


「ロゼッタ様、【ストレージ】の効果は調べ終わっていますか?」


「【ストレージ】……あっ、そうだった! 転生した当初は調べようと思っていましたが、その後は他の調べ物で時間を取られて調べないうちにすっかり忘れていましたわ! 物を入れて持ち運ぶくらいはしてますが、それだけですわ」


 ……なるほど。ということは、それ以外のことは実際に試した方が良さそうだな。


 【紙魔法】で小さな紙切れを作り、その先端に〝火生成(ティンダー)〟で火をつける。


「ロゼッタ様、この紙を【ストレージ】に入れてみてください」


「分かりました。――〝収納(クローズ)〟」


 燃えた紙がポリゴン状になり、ポリゴンが崩れ落ちるように消えた。

 これが【ストレージ】に仕舞う光景なのか。……やっぱり似てるな。


「ロゼッタ様、【ストレージ】の中身を確認して紙を調べてください」


「分かりました……あっ、ありました! 燃える紙という表示がありましたわ」


 ……やはりか。

 予想通り【ストレージ】の中では時間が凍結されるようだ。そして、凍結された時間の中ではエネルギーも保存される。

 故に、燃える紙は燃えたまま【ストレージ】に保存され、取り出すと燃えた紙は再び燃焼を開始する。


 このエネルギー保存を利用すれば、一つの攻撃が完成する筈だ。

 燃える紙を取り出してもらい、〝水生成(クリエイトウォーター)〟で消火する。


「次は、このコップを【ストレージ】に出し入れしてみて下さい。その際、距離を少しずつ遠くしてどこまでの範囲で保存できるかを試してみましょう」


 どこかのラノベに出ていた異世界観光を楽しむ元ゲームプログラマーの実験をなぞるように【ストレージ】を解析していく。

 〝収納(クローズ)〟できる最大距離は五メートル。アイテムを取り出す〝開門(オープン)〟は、倍の十メートル以内であればどこにでも発動できることが分かった。


 よし、これなら俺の考えていた方法が使えそうだな。

 そうと決まれば、善は急げ――早速準備に取り掛かろう。

 無詠唱で〝メタルメイク・ミスリルダイト〟と〝メタルメイク・オレイカルコス〟を発動し、【錬成】スキルで整形し、複数のナイフを完成させる。

 そこに【程式魔法】で攻撃魔法と折角なので自動追尾(フォーミング)機能をプログラミングして、小さな魔剣とでも形容するべき兵器を完成させた。


「草子君、これは?」


「俺の考える新しい戦い方のために必要な武器です。とりあえず、鋭い魔小剣オーセヴォシャブリノース爆熱式(ヴズレフ)鋭い魔小剣オーセヴォシャブリノース凍結式(ザマロンジューリー)鋭い魔小剣オーセヴォシャブリノース電放式エレクトリッシャスティッショックの三種類を用意しました」


 名前からも分かるが、それぞれのナイフには【炎魔法】と【氷魔法】と【雷魔法】が付与されている。


「さっきの【ストレージ】解析で、【ストレージ】内に保存したもののエネルギーが保存されることが分かりました。そこで考えたのが、運動エネルギーの保存を利用するという方法です。事前に投げたナイフ=運動エネルギーを与えたナイフを【ストレージ】に保存して、敵近くで展開することで無音攻撃が可能となります。一応、ナイフには自動追尾(フォーミング)機能をプログラミングしてあります」


 やり方自体はどっかのネット小説で読んだのを流用したものだけど、原型よりもかなり攻撃力は上がっている筈だ。

 ……まあ、魔剣の元ネタにも収納魔法(アイテムボックス)にも自動追尾(フォーミング)機能は無かったからな。正直俺が敵なら「鬼畜か!?」って叫びたくなるほどの充実した仕様だ。……鬼畜メガネ君の持っている武器に似てるしね。


 後は、先端に火を宿すことができる公爵令嬢の鞭クゥーンドゥワンスキュダムと、攻撃を防ぐ障壁を展開するなど複数の効果をプログラミングした万能兵器――飛行十字架(レタユシュクリースト)を作成して、ロゼッタに渡した。

 えっ? ロゼッタだけに良いものあげすぎだって?

 まあ、そう思えるかもしれないけど、実際は俺のやれることが増えて、作れるものが多くなっているから良いものになっているだけなんだけど。


 まあ、合流するタイミングが悪かったということで……別にロゼッタの前世で近い分野を研究していたから、彼女に甘いということは断じてないんだからね!!


「草子君、折角だから今作った武器を試す模擬戦をしてみたらどうかな?」


 聖が面白い提案をしてきた……だが、ロゼッタではなく、聖の提案ってところが引っかかるな。

 今回模擬戦……聖にほとんど旨味がない。


「丁度、あたしも腕試ししたかったし。今の剣技は我流だから、草子君のアドバイスを聞きたいからね」


 なるほど、それが狙いか。……だけど、忘れているかもしれないけど、俺の剣技も我流なんだよ。

 朝倉達からはお礼を言われたけど、あれって朧げな知識を知ったかぶりで女子に提供しただけだから。



【ロゼッタ視点】


「〝開門(オープン)〟」


 鍵の言の葉を紡ぐと、何もない中空から突如として無数のナイフ――鋭い魔小剣オーセヴォシャブリノース凍結式(ザマロンジューリー)が現れ、奇妙な軌跡を描きながら聖さんへと襲い掛かる。


「〝漆黒の影よ、裂き分たれて糸となり、汝を拘束せよ〟――〝影縛之拘束(シャドウ・バインド)〟」


 だけど、そのナイフは全て無数の影によって受け止められた。鋭い魔小剣オーセヴォシャブリノース凍結式(ザマロンジューリー)に込められた魔法は影を凍らせようとするけど、影はそれよりも先に地面に潜りナイフを地面に落としたため、地面が凍っただけだった。


 ……やっぱり、この世界で一番草子君と一緒にいるだけのことはある。

 女子会でたまに、「草子君を除いたメンバーで誰が一番強いのか?」という話題が上がるけど、その時に名前が上がるのは白崎さんだ。

 だけど、私は総合的には聖さんの方が強いと思う。まあ、白崎さんと聖さんは別格だし、単純な攻撃力換算だったら対物(アンチマテリアル)ライフルを持っている八房さんの名前も上がると思うけど。

 ……というか、あれは反則だよね。


「〝漆黒の影に溶け込め〟――〝影潜(シャドウ・ダイブ)〟」


 聖さんの身体が影の中に消える。分類的には初級魔法だけど、正直「初級で本当にいいのか」って言いたくなるくらい厄介な魔法だ。

 ……正直、【影魔法】ってこんなんばっかな気がする。直接的な攻撃よりも絡めてに使えそうなものばっかり……きっと【影魔法】を考えた人は捻くれ者だったに違いない。


飛行十字架(レタユシュクリースト)――〝正方障壁(スクエア・バリア)起動(オン)〟」


 飛行十字架(レタユシュクリースト)四つを使用してバリアを張り、それに乗って空中に移動する。

 地面に接していたら影攻撃が飛んでくるからね……まあ、空中でも影伝いに攻撃を仕掛けてきそうだけど。


 ちなみに、武器名はロシア語で起動の声は英語とちぐはぐしているけど、私がロシア語を理解していないからこうなっているだけだ。

 ……なんで草子君はロシア語にしたんだろう。…………純粋ロシア美少女。

 な、訳ないよね。一瞬脳裏を過ぎった単語のことは忘れよう。


「〝魂を揺らせ、不可視の衝撃〟――〝精神振盪(マインドビート)〟」


 私は影の中に向けて〝精神振盪(マインドビート)〟を撃った。

 〝精神振盪(マインドビート)〟は精神に直接ダメージを与える魔法――相手が影の中に居ても関係なくダメージを通すことができる。


 ……様子がおかしい。中に聖さんがいるなら、〝精神振盪(マインドビート)〟の衝撃で飛び出してくる筈だ。でも、聖さんは出てこないし、影にも変化がない。


 ――チッ、チッ、チッ。


 時計の針が進む音が私の耳朶を打つ……まさか!

 私は足場を猛スピードで動かして影の近くから逃げた。


 ――チッ、チッ、チッ、カチ…………ドォーン!!


 突如、影が爆発し地面の一部を吹き飛ばした。

 間違いない。聖さん手製の時限爆弾だ。……確か、初めて会った時に『もしかして悪役令嬢? 時限爆弾は……使わなくても良さそうだね』って言ってたから、爆弾を作れることはなんとなく知ってたけど、まさかここまでとは。


「――隙ありぃ!!」


 突如、背後に聖さんの気配が現れた。手には神聖双剣アーティキュルスと呼ばれる双剣が握られている。

 多分、【暗躍】、【潜伏】、【隠形】、【忍び歩き】とかその辺りのスキルを使ったんだと思う。こと気配を隠すことに関しては私の知る限り聖さんと草子君に匹敵する人はいないから、気づけなかったのも仕方ない……っていうと言い訳にしか聞こえないけど。


「〝開門(オープン)〟」


 だけど、まだ負けだと決まった訳じゃない。

 私の背後に【ストレージ】を開き、鋭い魔小剣オーセヴォシャブリノース爆熱式(ヴズレフ)を放つ。


 幸い、聖さんからの攻撃を封じることはできた。……ただ、私が聖さんにダメージを与えることもできなかったけど。

 華麗に飛んで躱されるとは思わなかったよ。きっと、【飛行】とかのスキルレベルが高いんだね。


「〝魂を揺らせ、不可視の竜巻〟――〝精神螺旋撃(マインドスラスト)〟」


 【精神魔法】の竜巻を放つも、同じく躱された。

 聖さんの二刀が円軌道を描きながら私の喉笛に迫り――。


「――そこまで!」


 模擬戦の終了を告げる草子君の声が耳朶を打った。



 聖とロゼッタの模擬戦が終わった頃には少し薄暗くなっていたので、早めの夕食を摂ることにした。

 といっても、この屋敷には食料がない。俺だけなら適当に動物を狩ったり、手持ちの魔獣肉で糊口を凌いだりしてもいいんだけど、聖とロゼッタもいる訳だし……仕方ない。エリシェラ学園の食堂に行くか。


 〝移動門(ゲート)〟を発動して食堂に移動。

 おっ、少し学生もいるな。ジルフォンド達が呼び掛けたみたいだし、この食堂を使う人は今後も増えていくかもしれない。


「あれ? 能因君じゃないか。相変わらず、神出鬼没だね」


 聖とロゼッタと一緒に注文しようとしていたら、後ろから声を掛けられた。

 おっ、これはまた妙な組み合わせだな。キャンプ漫画家のKâkêrû先生こと穂高翔琉とエリシェラ学園の魔法薬担当講師のルルード=ヴェルナエッタか。


 ルルードは、聖女(ラ・ピュセル)で薬師というどこかで見たことのあるような経歴の持ち主だ。まあ、この人は転移じゃなくて転生でこの世界に来たんだけど。つまり、ロゼッタと同じ転生者(リンカーネーター)で、更に言えば地球出身者である。


 ということで、Kâkêrûとルルードの間に接点はないことはない。二人とも地球出身者だからね。

 だけど、一緒にいるところを見たことは無かったからな。そもそも二人は漫画家と薬師ってかなりかけ離れた仕事に就いているし。


 ちなみに、なんでKâkêrûがエリシェラ学園にいるかというと、俺が適当に伝えた大学のシステムにまたも好印象を持ったらしいセリスティア学園長がかなり関係している。


 元々は魔法を学ぶ専門教育機関という形だったエリシェラ学園だが、最近は様々なことを学べる教育機関へと変化しつつある。「この時、ここでしか学べないことを数多く学んで人生を彩りあるものにして欲しい」というセリスティア学園長の願いによるものだ。

 その一環として、教養教育科目というのが新たに追加された。Kâkêrûは、漫画家……ではなく、野外活動の専門講師という肩書きでお招きした。


「お久しぶりです、草子さん、ロゼッタさん。……あの、そちらの方は?」


「そういえば、紹介がまだでしたね。彼女は、高野聖さん。俺と一緒に旅をしている、まあ腐れ縁みたいな関係です。こちらの方は、エリシェラ学園魔法薬担当講師のルルード=ヴェルナエッタさん。ちなみに、二人とも地球からの転移者(トラベラー)転生者(リンカーネーター)です」


「はじめまして、ルルードさん。少し紹介に語弊があったから訂正するね。あたしは草子君の守護霊だよ! 同郷出身者同士仲良くしたいな」


「はじめまして、ルルード=ヴェルナエッタです。転生前は闇無(くらなし)明里(あかり)という名前でOLをしていました。得意分野は魔法薬の他にコスメやファッションです」


「オシャレのことならルルードさんに聞け! って感じだね。色々と教えて欲しいな」


「はい、喜んで。私も草子さんと聖さんがどんな旅をしてきたか聞いてみたいです」


 うん、二人ともいい雰囲気だ。なんとなく仲良くできそうだとは思っていたけど、予想通りで良かったよ。


「あの、私も同席させて頂けないでしょうか?」


 と、そこに新たなメンバーが合流した。自己紹介はない。まあ、全員知っているからね。

 やって来たのはイミリアーナ=ノー・マル・シア――かつて、エルフの里で共に戦った戦友だ。

 彼女は、文学研究者として俺がセリスティア学園長に推薦した。


 かなり杜撰な研究をしていたエルフだけど、この世界での研究水準はかなり高いものらしい。

 知り合いに物凄い優秀なエルフの文学者がいることを話したら、興味を持ってもらえたので、直接エルフの里に勧誘しに行ってヘッドハンティングに成功したという感じだ。


「ところで、草子さん。公開講座『紙の研究』の準備はどこまで進んでいますか?」


 聖が疑問符を浮かべている。……そういえば、話してなかったっけ。


「公開講座は、エリシェラ学園の複数の研究者が一つのテーマで講義を行う企画だよ。エリシェラ学園外からも講座料を支払えば参加できるのが特徴だ。勿論、エリシェラ学園の学生は無料で受講できるよ。今回は『紙』というテーマでね。……まあ、俺が提案したんだけど。それで、コーディネーターと一コマの担当を任されたんだ」


 これもセリスティア学園長が俺の適当な説明を間に受けて急遽決定した企画だ。

 エリシェラ学園には学祭以外に外部から人がやって来られる機会はそうそうないから、こういう企画をやるメリットはあると思う。家族と一緒に同じ講義を受けるという機会もなかなか無いからね。……まあ、子供側からしてみたら余計なお世話かもしれないけど。


「えっと、準備でしたね。一応、知っている限りの紙は作ってみました。企画は……そうですね。実際に紙を漉いてみる企画、和装本を作ってみる企画など、参加型のものがいいのではと考えています。ずっと座学ばかりでもつまらないでしょうし、自分の手で作ったものは記念にもなりますからね」


「それは面白い企画だな」


 背後から声がした。……物凄い聞き覚えがあるんだが。

 なんで、いるんだ! セリスティア学園長! というか、どこから湧いてきた!!


「……これはこれは、セリスティア学園長。どうしてこちらに?」


「どうしてって、いつも私はここで夕食を済ませている。いつも通り来てみたら、草子殿が面白そうな話をしているのが聞こえたから来てみたのだ」


 ……マジですか。

 というか、この席色々大丈夫!? エリシェラ学園の学園長に、今をときめくエルフの文学者、超有名漫画家に、元聖女(ラ・ピュセル)の魔法薬担当講師ってゴールデンキャストの中に、こんななんの変哲もないモブがいていいのか? 否、いていい筈がない。

 ……よし、逃げよう。


「どこに行くんだ? 草子殿」


 くそ、逃げ道を封じられた。セリスティア学園長はこの場違いな場所にモブを放り込んで殺そうとしているのか!?


「……エリシェラ学園の学園長に、今をときめくエルフの文学者、超有名漫画家に、元聖女(ラ・ピュセル)の魔法薬担当講師ってゴールデンキャストな皆様の中になんの取り柄もないモブが混じるってあり得ない話だなって思って。それでは、失礼しま――」


「何を言っているんだ、草子殿。ここの中でぶっちぎりのゴールデンキャストは草子殿だ」


 他のみんなも全員で首肯している……WHY ERISHIERAs PEOPLE!! って聖も混じってるけど。


「そういえば、翔琉殿は漫画家だったそうだな。今も続けていらっしゃるのか?」


「えっ、ええ、まあ。最近は常若(とこわか)黄葉(もみじ)という謎のBL作家の影響でブームになっているBL作品の執筆を頼まれたりしていますが、かつていた世界では『きゃんぴんぐ部』というアウトドアと青春をテーマにした作品を書いておりました」


「えっ! まさか、翔琉さんはKâkêrûさんなのですか! お会いできて光栄です! 私、ファンでした」


 なるほど、ルルードの前世には『きゃんぴんぐ部』があったのか。

 一方、ロゼッタの方は無反応。……ということは、ロゼッタの前世の地球とルルードの前世の地球は異なる可能性が高い。まあ、知らなかっただけって説もあるけど。

 ……ちょっと気になってきた。


「ちなみに、ルルードさんの知る『きゃんぴんぐ部』のアニメの最後ってどんな感じでしたか?」


「……草子殿、アニメとは?」


「アニメとは、アニメーションの略語で複数の静止画像により動きを作る技術のことを指します。簡単に言えば、ノートの端に描いた絵をパラパラとすると動きになる――これを応用したものですね」


「それは面白そうだな。今度作り方は教えてくれないか?」


「無理です。俺はただの学生なので。……Kâkêrû先生なら」


「俺も無理だ。絵は描けてもそれ以外は無理だからな。例え機材があっても、作ったことがないから無理だし」


 というか、そもそも異世界にアニメを持ち込むってアリなのかって話だから。

 まあ、元アニメクリエイターの異世界人なら、異世界でアニメ製作会社を立ち上げる可能性も考えられるけど……そんな異世界モノ、聞いたことないわ。


「えっと……確かアニメの最後は……上手く説明できませんでしたが、これからもみんなでキャンプをしていこうって感じの友情エンドだったと思います」


 ッ! ……いや、まさかね。

 これで俺のいた地球とルルードの前世の地球が違う世界線のものであることが確定した。

 そして、Kâkêrûとルルードのいた地球が同一の可能性が益々高まった。


「まさか! ルルードさん。明里さんだった頃に勤めていた会社ってどんな名前ですか?」


「Yamanami Corporationという多国籍企業です。様々なことに事業の手を伸ばしていたので、どんな業種の会社とは言えませんが」


「Yamanami Corporation……聞いたことがあります。……まさか!」


「そうですね。結論から申しますと、Kâkêrû先生の故郷とルルードさんの前世の地球は同一世界線の可能性が高いです」


 まあ、微妙な差異がある可能性は高いけど。そもそも数多ある世界線の中で出身が被るって方がとんでもない偶然だからね。

 その後も暫し雑談してから、食事を終えた俺達は食堂を後にした。


 またも、俺に感化された? セリスティア学園長の発言でサークル活動が始まっていることを聞かされたり、Kâkêrûさんを顧問にして漫画サークルを作ろうという動きが腐女子令嬢の間で活発になっていることを青い顔をしたKâkêrûさんに相談されたり。

 元凶になった常若の黄葉の正体が多分リーファだって伝えたら、周りの令嬢の目つきが鋭くなって、「リーファさんに会わせて欲しい」と猛烈に迫られたり、と。……あんたら本当にBL好きだね。令嬢のお淑やかさが、どっかに置いてきぼりにされてるよ。……というか、何気にリーダー格にマイアーレ様だったんだが…………この人の中身、完全に女子だな。元々素養があったのか、身体に適応して心が女になったのか、元々BL好き……はなさそうだな。白崎達に手を出そうとしてたし。

 まあ、色々あったけど……この後の影響が心配だ。


 あっ言い忘れてたけど、食事の間にルルードさんと魔法薬の共同研究をする約束をしてきたよ……まあ、隣でセリスティア学園長が聞き耳を立てていたから、きっと絡んでくるだろうけど。


 さて、明日からはいよいよ山登りか。……もう面倒な出会いは無しでオネシャス!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ