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厨二病臭漂うイタい台詞も美少女が言えば絵になるようだ。

 異世界生活五十六日目 場所ガイウの町、宿屋 鶯の止まり木


 やはりというべきか。イセルガの話を総合すると、俺の予想通りの状況になっていることが明らかになった。


 まず、フルゴル・エクエスという存在をイセルガは忘れていた。ロゼッタの話ではイセルガにもフルゴル・エクエスの話が伝わっている筈なので、現状でフルゴル・エクエスの存在を忘れていることは【永劫回帰】によって修正された部分だという証拠になる。


 次に、フィードとロンド=スコールトがヴァパリア黎明結社のメンバーであることと、ヴァパリア黎明結社の存在を忘れていた。

 そして、ロンド=スコールトの死因が急病により死亡したと記憶が改変されていた。


 ……さて、とりあえずはこんなところか。白崎達からも聞き取りを行わなければならないが、この状況がどうなっているのか、仮説的なものを立てることはできる。

 ユェンと対峙し彼の逃走を許した際、【永劫回帰】は発動しなかった。つまり、ヴァパリア黎明結社の存在を知られたから【永劫回帰】を発動したという可能性は低い。

 となると、やはりフルゴル・エクエスの存在を知られたから【永劫回帰】を発動したとなる。その際に事件そのものを【永劫回帰】によって無かったことにしたため、フィードとロンドがヴァパリア黎明結社のメンバーであることを忘れたことになる。


 ……白崎達がヴァパリア黎明結社の存在を覚えていたとすれば、この説が正しいことが証明される。

 そして、それはつまり白崎達を旅に同行させていることが彼女達を関わる必要のない危険に巻き込ませていることだ。


 ……いずれは覚悟を決めなければならないと思う。インフィニットの言葉を借りれば表側の住人である彼女達を、裏側――ヴァパリア黎明結社との戦いから遠ざける決意を。

 白崎達が遠い世界の住人だからと距離を置こうと思う一方で、あの居場所が居心地いいと思っていた俺も居たようだ。


 これは冬場に布団の中からなかなか出られない時の感情に似ているのかもしれない。後五分、後五分と既に定まった物事を後回しにしているだけなことは理解している。

 だが、いつかは必ず白崎達のパーティを離脱しなければならない。


 俺と彼女達ではやはり住む世界(・・・・)が違うのだから。



【リーファ視点】


 私、リーファ=ティル・ナ・ノーグはかつてないほど焦っていた。

 その理由は、旅を続ける中で次から次へと草子さんへの恋心の芽を芽吹かせる女子達が現れているから……などでは決してない。

 確かに彼女達は強敵だし、特に聖さんや白崎さん、北岡さん、ロゼッタさん辺りがが油断ならない存在であることを身を以て知っている。

 BLの同志という理由をこじつけながら、旅に同行し、その中で草子さんに対して恋心を抱くようになったことを否定するつもりはない。


 だが、今回焦っているのは草子さんを巡る恋レースで負け掛けているから……などでは断じていない。そもそもこの件に関しては全員がスタートラインから動けてすらいないのではと錯覚するほど全く進展していないのだから。

 話題的にはロゼッタさんが圧倒的に有利そうに見えるけど、その先に待っているのは学友としての友情であり、愛などでは全く違う絆。


 私が焦っているのは、私がパーティに居る理由が無くなりつつあるからだ。

 聖さんが新たな身体を手に入れたことで大幅にレベルアップし、白崎さんは【完全掌握】のスキルを愛の力で限界突破して新たな領域に到達した。

 しかし、その間の私といえば、底上げの意味でのレベルアップでしかない。このままでは後続で合流した柴田さん達にすら負けてしまうだろう……いえ、既に負けているわね。特に八房さん辺りには。


 みんなが寝たことを確認して、私は部屋を出る。

 草子さんが用意してくれたゲートミラーのダイヤルを調整して、目的の場所に繋げる。

 私はもっと強くなりたい。今まで以上に草子さんの力になれるようになりたい。

 そのために私は、人知れずもう一つの旅(・・・・・・)を開始した。



 いつものように全員揃って朝食を食べる。

 美味しい食事……の筈なのだが、今までほど美味しくは感じない。


 首都ファルオンドに居る間に舌が肥えてしまったのかもしれない。

 一度美味しいものを食べてしまえば、後は際限なく美味しいものを求めてしまう。


 だがそれが無くとも、ヨーグルトは欲しい。

 それ以外にも発酵食品は必須だろう……主に腸内環境を整える意味で。


 その辺りは、また今度かな? とりあえず、異世界の食生活を向上させるための施設を建てるために目星をつけておいた土地の所有権はエリファス大公家に(圧力を掛けて)頼み込んだら認めてもらえたから、問題ないだろうし。


 最後は地球に還るから定住するつもりは当然ない訳だけど、やはりこっちに居る間の生活は良いものにしたい。

 定住するつもり満々に見える施設建設だけど、定住するつもりは断じてないのだ! ……分かってくれる?


 食事を終えてからガイウの町を出発する。買い物は事前に済ませてもらったので問題ないだろう……また女子達が自分達の買い物に俺を巻き込もうとしていたのだが、アイツらは一体何を考えているのだろうか? ……全く分からん。

 そもそも異世界で半ば野生化している女子達に正常な乙女心を求めても仕方ないのだろう。既に野生化しちゃっているのだから乙女心も野生化しちゃった? ……つまり、稲作系女子から狩猟採集系女子になったと!? そもそも白崎達、元の世界で稲作していないから……産業情報系女子から狩猟採集系女子の方が正しい? 情報化社会の申し子達は異世界に行ったら野生化する(ワイルドになる)ようだ。


 ガイウの町を出てアヴァルス大平原を進む。出現する魔獣も冴え渡る聖の剣技、【究極挙動】によって最適化された白崎の魔法、八房の対物アンチマテリアルライフルなどなど女子達の力だけで撃破されていく……本当に俺、要らないんじゃね!!


 ちなみに、イセルガも大活躍だ。【透明化】を利用して上手く魔獣達を撃破している……マジで俺、要らないんじゃね!!


 あっ、なんか一体こっちに来やがった。たく、こっちは今気が立ってんだよ!!


「――aplatir(アプラティール)


 エルダーワンドを木槌(ハンマー)に変形させ、磨り潰すように押し潰す。

 3分クッキングも3分間ショッキングも霞むほどの速度でゴブリナのペーストが完成……要らねえよ!!

 どうやら醜悪なゴブリンも可愛らしいゴブリナもペーストになればみんな等しく気持ち悪くなるようだ。


 ちなみにミナ●検視官も死●君も召喚されないようだ。……まあ、再現されても嬉しくない光景だから別に来なくていいんだけど。


 そういえば、【鎚術】のスキルを獲得したようだ。なんで槌じゃなくて鎚なの! って突っ込みたいところだが突っ込んでも誰も答えてくれないのでそのまま流すことにした。

 まあ、こういうのは異世界カオスではよくあることだし、いちいち気にしても仕方ないだろう。……ある意味遊●王よりもヤバイかもしれない、この世界。


 しかし、団体様がいるわいるわ、うじゃうじゃいるわ。

 結構距離離れてるし、久々にやっちゃうか。やっちゃってもいいよね。じゃあ、殺りましょ! そうしましょ!


「〝数多の星よ! 箒星の加護が宿りし数多の星を、今こそ天より降らせ給え! この世界を焦土へと変え給え〟――〝流星嵐(メテオロス・ストーム)〟――からの、〝星の重力を増幅せよ〟――〝超重力(スーペル・グラヴィタ)〟」


 降り注ぐ流星一つ一つに重量魔法を発動して、落下速度を第二次宇宙速度にまで引き上げる。

 落下地点の魔獣は跡形もなく消し飛ばされ、近くにいた魔獣も衝撃波で吹き飛ばされ、とんでもない数のクレーターをアヴァルス大平原に作り出す。

 ……もう、これ大平原って呼べないな。アヴァルス大クレーター帯とでも呼ぼう。しっかし、こんなに隕石が落ちても滅ばないなんて、やるな異世界カオス。まあ、隕石が簡単? に落とせる世界が隕石一発で沈むとなったら、流石に笑い話(ラフテル)だけど。まさに大草原(wwwwwwww)だ。そのまま草生えたりしないかな? まあ、その前にマメ科とかの肥料木とかが生えるか。


「なっ、何事! まさか、草子君がやったの!?」


 ロゼッタが驚愕というか困惑というか絶望というか……まあ、色々混ざった表情でこっちに駆け寄ってくる。

 ちなみに、白崎達は全く動じてない。流石は勇者一行だな。


「いつもの隕石落とす魔法よね。でも、なんか少しだけ魔法の詠唱が違ったような」


「そりゃ、変えたからね。〝流星嵐(メテオロス・ストーム)〟は隕石を降らせる系の魔法で最高ランクの魔法――まあ、見かけはそんなに変わらないと思うけど」


 ぶっちゃけそんなに変わったようには思えないんだよね。destructionデストラクションはどこまで行ってもdestructionデストラクションだってことだな。


「……しかし、こんだけ地形を変えると地図書き直すのが大変そうだな」


「他人事みたいに言ってるけど、それやったの草子君よ」


 柴田達がジト目を向けてくる……いや、魔獣殲滅するの面倒だし、一発で済むならそれで良くね?



 ソプラノ村に到着した。まだ昼前だが、ここからジェルバルト山中で最も近いヴァルペト村まではかなり距離がある。


 少しでも疲れが溜まっていたら、それが登山に響く可能性が十分にあり得る。この村で休むのが得策だろう。

 とりあえず、宿屋にチェックインする。今回の宿屋は青い薔薇という名前のようだ……まあ、宿名は宿の価値を示す指標じゃないし、別になんでもいいんだけど。


 ちなみに、今回俺は宿に泊まらない。今夜は、エリファス大公家からお墨付きを頂いたあの施設の改良を進めるつもりだ。

 信用ならないイセルガを一人置いていくことになるが、アイツには〝ルール・オブ・アブソリュート〟を掛けてあるから下手のことをすれば勝手に自滅するだろう。……放っておいてもいいよな。


「それじゃあ、ここからは各自自由行動ということで。……と、そうだった。白崎さん、特にご予定が無ければ少々お時間頂けませんか?」


 俺の言葉に過剰反応する女子達……別にお前達の思っているような展開にはならないよ。

 というか、白崎相手にそんな展開になる訳無いだろ!! 相手は高嶺も高嶺すぎて、エベレストの山頂並みの高度に咲いているような手の届かない存在だぞ! 手折れるかよ、そんなの、常識的に考えて!!


「別に私は用事ないけど……なんなの! 私だけ幸せを享受してもいいの!!」


 どうやら白崎も勘違いしているようだ! “天使様”、いい加減目を覚ましてください!? 貴女は高嶺の花、なのですよぉ〜!!


「いや、別に幸せとかないから。ただ、白崎さんにそろそろ名実共に勇者(ブレイヴ)になってもらおうと思ってね」


 ……何故だろう。白崎とリーファの表情が少し陰った気がする……なんで、リーファまで?

 他の女子達は残念そうな表情をしていた。――まさか、本気で俺と白崎がくっつくと思った? んなわけ無いだろ? こんだけ身分差が開いているのもなかなか無いぞ!?



 白崎と共にアヴァルス大平原に出る。

 ソプラノ村に被害が出ると色々と面倒そうなので、少し離れた地点に向かった。

 周りに敵影はなし。これなら、説明している余裕もあるだろう。……魔獣をボコしながら話すのって大変だからね。別にできるけど。


「……草子君。勇者(ブレイヴ)にするっていってたけど、本当になれるの?」


「さあ? どうなんだろうね? まずは試してみないと。まあ、失敗したら別の方法を考えるってことで」


 〝勇者ノ義〟の方法はミンティス教国の国家機密だ。

 つまり、勇者(ブレイヴ)になりたければミント正教会に関わらなければならないのである。

 だが、ミント正教会は明らかにファンタジーの悪役を務める立ち位置――下手な関わり方をすれば、そのことを利用され、したくも無い魔王退治を任されることになるだろう……悪手としか言いようがない。


 だが、確実性がないとはいえ勇者(ブレイヴ)になる方法はある。

 俺は皮の袋から一冊の本を取り出した。


「これは、エリシェラ学園の図書館で見つけた『勇者伝説』の写本だ。別の勇者(ブレイヴ)について書かれた本が何冊があったが、面倒なので一冊を写してきた。……レージェ紙を使った指感触の滑らかで、口に含んだら溶けそうな一品だ」


「……草子君は相変わらずだね」


 どうやら俺の変態性にも耐性ができているようだ。

 ずっといると感覚が麻痺ってくる的な? まあ、驚かれたり気持ち悪がられるよりは断然いいんだけど。


「この一節には勇者(ブレイヴ)になる儀式の呪文が書かれている。他のものも共通していたからもしかしたらと思って。……まあ、儀式の全容が分かんないから別の本の一節を引用して、それをまた引用して、と最初に作られた『こんな感じじゃないかな?』ってイメージが伝わっている可能性もあるんだけど」


 実しやかに語られたものが時代を経る中で本物だと認識されるようになることはよくあることだ。

 都市伝説がそのいい例だ。……まあ、中には小さなことに尾鰭がついて都市伝説になってしまうこともあるので、完全にデマとは言い切れないが。


「どうやら資料によれば〝勇者ノ義〟の正体は決められた呪文を唱えることらしい。――我が手にありし剣よ。魔を滅する聖剣よ。我は魔を祓うことを今ここに誓う。その誓いを聞き届けたのならば、我にその聖なる力を貸し与え給え! ……まあ厨二臭くて言うの恥ずかしいと思うけど、そもそも勇者(ブレイヴ)自体が厨二の権化みたいなものだから諦めるしかないと思う。『名実共に勇者(ブレイヴ)になってもらおうと思ってね』とは言ったけど俺が強制するような話でもないし、方法は教えるから後は自分でどうするか選んでくれ」


「…………勇者(ブレイヴ)になれば、強くなれるんだよね?」


「白崎さんってそんなに強さを求めるタイプだったっけ? まあ、実力の底上げは間違いなくできるよ。ただ、この世界は完璧になれるほど甘くはない。勇者(ブレイヴ)になったからそれで終わりって訳じゃないんだ。それだけは肝に銘じておいてくれ」


 『勇者伝説』の写本を開き、目当てのページを開く。

 そこには、相も変わらず厨二臭い(イタい)台詞が書かれていた。


「……草子君。私、やってみるよ」


 写本を受け取った白崎は一瞬顔を赤らめたが、覚悟を決めたのか凛々しい表情を浮かべると、ルービック・ボックスから聖剣エドゥラホーンを取り出した。


「我が手にありし剣よ。魔を滅する聖剣よ。我は魔を祓うことを今ここに誓う。その誓いを聞き届けたのならば、我にその聖なる力を貸し与え給え!」


 イタい台詞も美少女が言えば絵になるんだなぁ、と他人事で見ていると聖剣エドゥラホーンが青い光を放ち始めた。

 聖剣に認められた者が聖剣を持てば、青い輝きを放つ――どこかの異世界モノの設定と瓜二つの現象を確認し、俺は白崎が名実共に勇者(ブレイヴ)になったことを確認した。

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