講義パート、【古典・中古】入門四限目。担当教員、日本文化研究学部国文学科浅野天福教授
◆登場人物
担当教諭: 浅野天福教授
日本文化研究学部国文学科の教授。
以下は浅野と表記する。
ディスカッサント:能因草子
浅野ゼミ非公式ゼミ生。文学に対して多くの知識を有する公立高校一年生。
以下は能因と表記する。
ディスカッサント:白崎華代
草子と同じ公立高校に通う一年生。成績は草子に次ぐ二位だが、文学に対する知識は人並み。
以下は白崎と表記する。
ディスカッサント:ロゼッタ・フューリタン
乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』の悪役令嬢に転生した転生者。前世は草子達の地球とは異なるパラレルワールドの県立大学に通う歴史文化学科に所属の学生、薗部美華。
以下はロゼッタと表記する。
ディスカッサント: 湊屋千佳
草子達の地球とは異なるパラレルワールドの県立大学に通う国語国文学科所属の学生。薗部美華の親友。
以下は湊屋と表記する。
※講義パートは本編とは直接関係はありませんので、読み飛ばして頂いても構いません。本編では絡まない登場人物の絡みと、本作の肝となっている文学に対して理解を深めて頂けたら幸いです。
ちなみに、本講義――【古典・中古】入門を履修した皆様には二単位を差し上げます……冗談ですよ。レポートの提出も期末試験に向けた勉強も必要ありませんから、気軽にお読み頂けたら幸いです。
浅野「随分、久しぶりだな。草子君、白崎さん、元気にしていたか?」
能因「まあ、色々ありましたがそれなりに元気ですね。……あの変態執事のパーティ加入で、もう限界という感じですが」
ロゼッタ「……本当に申し訳ございません」
能因「ロゼッタ様が謝ることではありませんよ」
浅野「さて、今回は新しくロゼッタさんと千佳さんにお越しいただいた。二人とも別の世界の地球の学生ということだったな」
ロゼッタ「はい……まあ、私は既に転生してしまったので、元学生ですが」
湊屋「本編では美華ちゃんの姿であったけど、ふむふむ、ロゼッタ姿の美華ちゃんも捨てがたいなぁ」
ロゼッタ「もう、千佳さんったら」
能因「もし、千佳さんが異世界カオスに転生していたら、もっと面白い展開になっていたかもしれませんね。……そういえば、初めまして、能因草子です。本編では絡みがありませんでしたが、こちらではよろしくお願いいたします」
湊屋「私も浅野教授さんと同じで回想とか夢じゃないと本編に絡めないキャラだからね。こっちではよろしく」
浅野「ロゼッタさん、千佳さん。時空が歪んでいるこの世界でしか再会できないだろう。この時間を楽しんでくれ。……まあ、この講義パートも章ごとに一コマと制限がかかってしまったが」
白崎「噂によると作者の逢魔時さんが本編を進めたいから、このコーナーの数を減らしたみたいですよ。……まあ、書きにくいものらしいですし」
能因「いつか、舞台裏だけを話すコーナーと分割されたりしそうだな」
浅野「さて、そろそろ講義に入ろうか? 今回の第四回で扱うのは『枕草子』だ」
白崎「……遂に来たわね」
浅野「作者の逢魔時氏は、能因本の能因と枕草子の草子を足して能因草子という名前を作り上げたそうだ。……ところで、ロゼッタさんが作中で聞き間違えた能因法師というのは原作者、清少納言の実子、橘則長に姉妹が嫁いでおり姻戚関係を有する橘永愷の法名だ。ところで話は少し脱線するが、千佳さん。能因法師の法名は初めなんだったか知っておるか?」
湊屋「確か……融因?」
浅野「正解だ。よく勉強しておるな。ちなみに、作中では草子君が上の句を読み、ロゼッタさんが下の句を読む場面があったな。『あらし吹く み室の山の もみぢばは 竜田の川の 錦なりけり』――あの和歌は小倉百人一首に収録されているものだが、『後拾遺和歌集 第九巻』に収録されている歌はどのようなものか、ロゼッタさん、諳んじられるか?」
ロゼッタ「『都をば 霞とともに 立ちしかど 秋風ぞ吹く 白河の関』――現代語訳は、『京を春霞と共に出発したが、白河の関に到着した頃には、秋風が吹いていたよ』という感じです」
浅野「完璧だな。……ところで、歴史でも『後拾遺和歌集』を詳しく扱ったりするのか?」
ロゼッタ「国文ほど詳しくは扱いません。気になって調べて、それで覚えていました」
浅野「草子君……ロゼッタさんは本当に博識だな」
能因「ええ……白崎さんといい、ロゼッタさんといい、湊屋さんといい……本当に賢い方ばかりで俺が足を引っ張ってしまいそうです」
白崎・ロゼッタ・湊屋「「「それはないと思います!」」」
浅野「……まあ、草子君は他の知識も豊富だからな」
能因「俺が有するのは“カルチュラル・スタディーズに対応できる程度の知識”ですよ」
白崎「浅野教授……この漠然とした知識量というのは具体的に表すとどれくらいのもの何ですか?」
浅野「そうだな……要約すると『俺は雑学では敵なしです!』って公言しているようなものだな」
白崎「……草子君、謙遜していなかったんだね」
浅野「さて、講義を続けよう。『枕草子』とは、平安時代中期に中宮定子に仕えた女房、清少納言により執筆されたと伝わる随筆だ。他の二つの随筆と共に三代随筆と呼ばれている。さて、ここで白崎さんに問題だ。残り二つの随筆と作者名を答え、できれば序文を諳んじてくれ」
白崎「……確か、一つが兼好法師の『徒然草』……つれづれなるままに、日くらし硯にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。もう一つが……何でしたっけ」
能因「確かにもう一つはなかなか出てこないからな。もう一つは鴨長明の『方丈記』……ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし……ここまででよろしいでしょうか?」
浅野「流石は草子君、完璧だったな。白崎さんもありがとう。さて、『枕草子』は「虫は」「木の花は」「すさまじきもの」「うつくしきもの」に代表される「ものづくし」の「類聚章段」をはじめ、日常生活や四季の自然を観察した「随想章段」、作者が出仕した中宮定子周辺の宮廷社会を振り返った「回想章段」など多彩な文章から成る。このような三種の分類は池田亀鑑によって提唱されたものだが、異論もいくつか存在している。平仮名を中心とした和文で綴られ、Tw●tterのつぶやきを思わせるような軽妙な筆致の短編も多いが中には中関白家の没落と清少納言の仕えた中宮定子の身にふりかかった不幸を反映して、時にかすかな感傷が交じった心情の吐露もある。知性的な「をかし」の美世界を現出した……さて、草子君。君なら簡単に答えられるだろうが、「をかし」とはどのようなものか?」
能因「景物を感覚的に捉え、主知的・客観的に表現する傾向を持ち、それゆえに鑑賞・批評の言葉として用いられる明るい知性的な美ですね。……まあ、景物を感覚的に捉え、主知的・客観的に表現する傾向を持ち、それゆえに鑑賞・批評の言葉として用いられるというのは『枕草子』固有ですが……」
浅野「その通りだ。丁寧な解説付きでどうもありがとう。この『枕草子』の内容だが、伝本によって相違しており、現在ではそれら伝本はおおよそ雑纂形態(三巻本・能因本)と類纂形態(堺本・前田本)の二つの系統に分けられている。……さて、本日の講義はこれで終了だ。――草子君、白崎さん、ロゼッタさん。異世界での冒険は辛いだろうが陰ながら応援しているぞ!」
湊屋「草子さん、美華ちゃんのことを――ロゼッタさんのことを、どうかよろしくお願いします」