無表情なイメージの強い使徒天使の顔で天使のような満面の笑みを見せられると……両方天使には違いないんだけどちょっと調子狂うな。
【ロゼッタ視点】
いつも通りの朝。
昨日、フィード様と草子君が戦ったことで終結した事件が夢だったとすら思えてしまう。
「ロゼッタお嬢様、おはようございます」
「おはようございます、ラナメイド長」
寝巻きを脱ぎ、いつも通りドレスを着せてもらう。本当は一人で着替えたいところだけどドレスって難しいのよね。特にコルセットの締め付けとか。
「……ラナメイド長、聞いてくれるかしら?」
「なんでしょうか? お嬢様」
「今まで私はいつか来るであろう破滅に怯えながら生きてきた。だけど、それも昨日で終わった……本当に呆気無かったけど。多分、これからは破滅に怯えずに生きていけると思う。みんなと一緒に楽しい学園生活を送れると思う」
「良かったです。これで、ようやくお嬢様の肩の荷も降りたいということですね」
これからどんなことになるのかは分からない。きっと辛いことも悲しいこともある。だけど、きっと乙女ゲームのロゼッタのような破滅は来ない。
だけど……。
「ラナメイド長、私は学園を去ることに決めましたわ」
「……お嬢様、それは一体どういうことですか?」
ラナメイド長が驚くことも無理はない。だって私はせっかく手にした平穏を、幸せを手放そうとしているのだから。
「草子君の旅についていきたいと思うの。……まあ、断られちゃったら諦めるしかないけどね。理由は二つ。一つは今回の件で草子君には色々と助けてもらったから、その恩を返したいこと。そしてもう一つはこの世界をもっと見てみたくなった。私は首都ファルオンドという狭い世界の中ですらほとんど知らない。本で見るだけじゃ分からないことを、実際に歩き、その目で見ればきっといっぱい知ることができると思うの」
「左様にございますね。……お嬢様が決めたことであれば、メイドの私が何かを言う訳にはいきませんね。しかし、寂しくなります」
「……本当にごめんなさい、ラナ。最後まで自分勝手で……傲慢令嬢は卒業したつもりだったけど、結局傲慢令嬢はどこまでいっても傲慢令嬢よね」
「いえ……お嬢様は変わられましたよ」
……ん? どこが変わったのかな?
「ロゼッタお嬢様。そうと決まれば猶予はありません。草子様は本日の正午過ぎに、首都ファルオンドを後にするそうです。ロゼッタ様は、ご学友と学園長に挨拶をされたらいかがでしょうか? その間に私は屋敷に戻り、お嬢様の旅支度を済ませたいと思います」
「本当に最後まで苦労をかけるわね。……お父様やお母様にも話をしないといけないわ。これは、忙しくなるわね」
お父様とお母様には私の前世のことを話さなければならない。
学友達にはお別れを言わなければならない。
これまで助けてくれたみんなにはお礼を言わないといけない。
全員には言えないかもしれないけど、伝えられる人には伝えなきゃ。
私の決めた道を、これからどうなりたいかを。
◆
異世界生活五十六日目 場所首都ファルオンド
今回は宿の部屋合戦が起きることは無かった。……まあ、白崎達は最初から泊まっていたからね。
とりあえず、昨日できなかった武器分配祭りだ! 装備できないものは一応俺が預かっておくことにする……どんどん増えるな、アイテム。まあ、四次元だから関係ないけど。
「それから……はい、これは聖さんへ」
『何? このお人形さん。草子君の趣味なの? 趣味の押し付けなの?』
「……違うよ。ほら、聖さんって身体が欲しいなっていってたでしょ? そのホムンクルスには中身がないんだって。だから、聖さんが入れば動くんじゃないかって?」
「……あの、草子さん? それって、機動要塞の中で襲ってきた天使にそっくりなんですが」
「リーファさん、正解。これも遺跡ジグラートからの掘り出し物だ。うん、掘り出し物がいっぱいだったな。蚤の市なのだろうか? マンモスな感じのフリーマーケットなのだろうか?」
【その通りだよ♪ グループは違うけど、間違いなくマルドゥーク文明のもので間違いないよ♪ でも、動かないなんてプスク……プツン】
エレシが五月蠅いのでスマホの電源を落とした。……たく、本当に削除してやろうか。
『……本当に、草子君の趣味じゃないんだよね?』
「疑うのならやらないよ。ぶっ壊しちゃおっかな」
『わっ、分かったわ。壊すなんて勿体無いし、あたしが使ってあげるわ』
「ツンデレはNo Thank You!! だ!」
『……ごめんなさい。久しぶりにやってみたかっただけだわ。草子君の好意、ありがたく受け取るよ』
「一ヶ月も張り込みさせたから、これくらいのお礼はしないとな。……あんぱんと牛乳無しで」
『幽霊には、あんぱんも牛乳も必要ないわよ』
ホムンクルスの中にずっと溶け込むように入った。
……おっ、動いた。
「おっ、久しぶりの身体だ。……ちょっと重いな」
なんだろう? 無表情なイメージの強い使徒天使の顔で天使のような満面の笑みを見せられると……いや、両方天使には違いないんだけど、ちょっと調子狂うな。まあ、どうでもいいけど。
さてと、【看破】使うか。
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NAME:高野聖(使徒エレレート憑依) AGE:13歳
LEVEL:120 NEXT:15000EXP
HP:4100/4100
MP:4000/4000
STR:4000
DEX:3700
INT:3590
CON:3600
APP:1300
POW:3600
LUCK:210
JOB:爆弾職人、魔法師、冒険者、ホムンクルス、天使剣士、双剣士、治癒師
TITLE:【迷宮踏破者】、【爆発物取扱上級者】、【無音の追跡者】、【造られた使徒】、【天使の剣士】
SKILL
【二刀流理】LEVEL:1
→二刀流の真髄を極めるよ! 【二刀流】の上位互換だよ!
【神聖剣 極】LEVEL:1
→神聖剣の極致だよ! 【神聖剣】の上位互換だよ!
【翼理】LEVEL:1
→翼使いの真髄を極めるよ! 【翼術】の上位互換だよ!
【飛行】LEVEL:1
→飛行が上手くなるよ!
【空歩】LEVEL:1
→空中を歩くのが上手くなるよ!
【驚かせる】LEVEL:85
→驚かせるのが上手くなるよ!
【全属性魔法】LEVEL:1
→全属性の魔法を使えるようになるよ!
【回復魔法】LEVEL:1
→回復魔法を使えるようになるよ!
【結界魔法】LEVEL:1
→結界魔法を使えるようになるよ!
【複数魔法同時発動】LEVEL:1
→複数の魔法を同時に発動できるよ!
【複合魔法】LEVEL:1
→複数の属性の魔法を融合できるよ!
【全属性耐性】LEVEL:1
→全属性に対する耐性を得るよ!
【状態異常耐性】LEVEL:1
→状態異常に対する耐性を得るよ!
【駿身】LEVEL:1
→駿速の領域まで速度を上げるよ! 【瞬速】の上位互換だよ!
【マルドゥーク語】LEVEL:1
→マルドゥーク語を習得するよ!
【クライヴァルト語】LEVEL:45
→クライヴァルト語を習得するよ!
【マハーシュバラ語】LEVEL:1
→マハーシュバラ語を習得するよ!
【エルフ語】LEVEL:18
→エルフ語を習得するよ!
【演劇】LEVEL:5
→演技が上手くなるよ!
【窯焼】LEVEL:1
→窯焼きが上手くなるよ!
【焼物作り】LEVEL:1
→焼き物を作るのが上手くなるよ!
【爆弾作成】LEVEL:120
→爆弾を作るのが上手くなるよ! 簡単な爆弾なら材料無しでも作れるよ!
【暗躍】LEVEL:90
→暗躍が得意になるよ!
【潜伏】LEVEL:90
→潜伏が上手くなるよ!
【隠形】LEVEL:90
→隠形が上手くなるよ!
【忍び歩き】LEVEL:90
→忍び歩きが上手くなるよ!
【変声】LEVEL:20
→声色を上手く変えられるようになるよ!
【暗視】LEVEL:90
→暗闇の中でも目が効くようになるよ!
【索敵】LEVEL:90
→敵の発見が上手くなるよ!
【望遠】LEVEL:90
→遠くが見えるようになるよ!
【気配察知】LEVEL:1
→気配察知が上手くなるよ!
【魔力察知】LEVEL:1
→魔力察知が上手くなるよ!
【熱源察知】LEVEL:1
→熱源察知が上手くなるよ!
【振動察知】LEVEL:1
→振動察知が上手くなるよ!
【魔力吸収】LEVEL:1
→魔力を吸収できるようになるよ! 【魔力回復】の上位互換だよ!
【再生】LEVEL:1
→失った部位を再生できるようになるよ! 【体力回復】の上位互換だよ!
【自己治癒】LEVEL:1
→自己治癒できるようになるよ!
【恐慌】LEVEL:1
→恐慌を起こせるようになるよ! 【恐怖】の上位互換だよ!
【掣肘】LEVEL:1
→掣肘が上手くなるよ! 【威圧】の上位互換だよ!
【覇潰】LEVEL:1
→覇潰が上手くなるよ! 【覇気】の上位互換だよ!
【神速縮地】LEVEL:1
→神速の領域に至った速度で相手と距離を詰めるよ! 【迅雷縮地】の上位互換だよ!
【重縮地】LEVEL:1
→【縮地】を連続で行えるよ!
【幽体離脱】LEVEL:1
→幽体離脱が上手くなるよ!
【ポルターガイスト】LEVEL:130
→ポルターガイスト現象を起こせるようになるよ!
【鬼火】LEVEL:130
→鬼火を生み出すことができるようになるよ!
ITEM
・神聖双剣アーティキュルス
→神聖なる加護が宿った双剣だよ!
・天女の戦装束
→純白の天使を彷彿とさせる戦装束だよ! 胸当てとワンピースが一体化しているよ!
・時限爆弾×4
→手製の時限爆弾だよ!
・ルービック・ボックス
→ルービックキューブ型の保存アイテムだよ! 【時空間魔法】により五十四個の時空間にアイテムを保管することができるよ! 時空間に入れられるものの数は一ボックスにつき一つで、空間に入っている間は時間が停止するよ!
・念話玉
→念話機能がついた金属玉だよ! 【程式魔法】で念話機能が付与されているよ!
NOTICE
・通知一件
→未使用のポイントが後307000あります。
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……弱体化してるなぁ。まあ、十全に使いこなせるとは思ってなかったけど。
装備や一部の情報は引き継いでいるみたいだ。まあ、全体的に強化されたということでいいか。多くは望むまい。
「まあ、それだと目立って仕方ないだろうし、服を買ってきたら?」
「そうだね。お言葉に甘えさせてもらうよ。そうだ! 草子君も一緒に――」
「んじゃ、俺は行くところがあるんで。正午にこの宿で昼食を取ったら出発ってことでお願いします。後はよしなに〜」
「――草子君が逃げた!」
もう、女子の買い物に付き合うのはごめん被る!!
◆
首都を歩き回って適当な魔法書や古書を買い漁り、売り切ったので薬草や魔法薬を買い直し、気づいたら昼になったので戻って久々のみんなで昼食。
その後、首都ファルオンドを出ようとしたんだけど……あれ? お見送りですか?
「わざわざお見送りありがとうございます。そこまでしていただかなくてもいいですよ」
「いえ、そういう訳ではありません」
そう言いだしたのは変態執事イセルガ……コイツにはいい思い出がない。
「私を草子様の旅に同行させていただきたいのですが……」
「……………はぁ?」
ヤバイ。ついつい本音が……えっ? いつものことだって?
「私は世界中の可愛い女の子を愛でたいのです。そのために、いつかはこの首都ファルオンドを離れようと思っておりました。この機会を渡りに船と思い、同行させていただきたいと思ったのです。私には【物質透過】と【透明化】があります。こと、潜入に関しては他の追随を許しません」
……どうだろう? 幽体離脱した聖の方が上?
まあ、イセルガ自体はかなり強いから連れて行くのは吝かではないんだけど……連れて行くと被害が拡大する気がする。――世界中の女子達が危険だ!?
「勿論、草子様のハーレム要因には手を出しません。私の好みではありませんので」
「……ハーレム要因って誰のこと?」
「……草子君、突っ込むところ、そこじゃないと思う」
いや、そこだと思いますよ、白崎さん!! 他にどこを突っ込めと。
「私の好みではありませんってところだよ!」
「……あ〜、そこね。確かに傷つくよね。色んな意味で。俺個人としてはどうでもいいけど……」
「別に皆様の容姿を貶している訳ではありませんよ。特に白崎様は絶世に限りなく近い美しい容姿です。ですから、私の好みではないのです。私は可愛い女の子が好きなので、美しい系には興味がありません」
「……なんだか、複雑」
乙女心は難しいようだ。……絶対にイセルガの性癖にクリティカルしない方がいいと思うけど。
「ちなみに、置いていくと言われても勝手にスニーキングするのでご心配には及びません」
「……結局ついてくるじゃん。しかも、途中で逸れたらそれはそれで騒ぎを大きくするんだろ? つまり、被害を出させないためには俺達に同行させて、犯罪を徹底的に止めなければならない、と」
「……止めなくてもいいのですよ?」
「今すぐにお前の息の根を止めてあげてもいいのだよ? イセルガ君?」
「そのようなお手間を取らせる訳には参りません」
「……はあ、言葉が通じねえな。この執事。もう、完全にお荷物決定だけど、しゃあねえ。よろしくな、イセルガ。迷惑掛けたら殺す!」
「よろしくお願い致します、草子様」
うわ、最悪な奴がパーティに加入したよ。いや、男がパーティに入るのが嫌とかじゃなくて、コイツのせいで無駄な魔法撃ちをしまくらなければいけない未来が見えるってこと。
「お巡りさんー」を特殊召喚!! ヘルプミー!! この変態犯罪者予備軍を捕まえて、留置所にぶち込んで!! って、よく考えたら入れた側から出てくるじゃん、コイツ。
「……草子君、私も旅に同行させていただけませんか?」
そして、もう一人……まさかのロゼッタ様!?
「……どういうおつもりですか? 折角手にした幸せを捨てるなんて」
「草子君のおかげで最悪の結末は回避することができました。その恩を返したいというのが一つ目の理由です」
……要は白崎達と同じってことか。別にそこまで律儀にしてくれなくてもいいと思うんだけど。
「もう一つはこの世界をもっと見てみたくなったからです。私は首都ファルオンドという狭い世界の中ですらほとんど知らない。本で見るだけじゃ分からないことを、実際に歩き、その目で見ればきっといっぱい知ることができると思います。……草子君や皆様にはご迷惑をかけると思いますが」
「それを聞いて安心しました。義務感じゃなくて、目的があって旅をするということであれば、是非協力させてください。……しかし、その、本当にいいのですか?」
「シャートが必ずフューリタン公爵家を守ってくださいますし、皆様にもご挨拶は済ませました」
「……今生の別れにはならないけどね。〝移動門〟を使えばいつでも戻ってこられますし」
本当に〝移動門〟って便利だなってつくづく思う。まあ、攻撃力は皆無だけど……使い方によっては戦力にもなり得るのか?
「草子先生、僕の婚約者のことをよろしくお願い致します。傷物にしたら許しませんよ!」
あの、傷物ってどっちの意味ですか? ジルフォンド様! 戦闘をする以上傷は負いますよ。……えっ? そっちじゃない方? 俺とロゼッタの間に何かが起きるとでも?
「お義姉様、フューリタン公爵家のことは任せて、安心して旅を楽しんできてください。……でも、たまには帰ってきてくださいね。……お義姉様に甘えたいですから」
ロゼッタ様、本当にシャート様に好かれていますよね。
「ロゼッタ。たまには顔を見せてくれ。近々演奏会も行う予定だからな。……お前にも聞いてほしい」
どうやら、ロゼッタ争奪戦はまだ終わっていないようだ。寧ろ、やっと始まったって感じかな?
あの秘密兵器で差をつけるつもりですね、ヴァングレイ様。
「……こんな俺とでも、もう一度友達になってくれるなら、また一緒に歴史の話をしたい。ロゼッタ様の隣にいると落ち着くから」
ロゼッタ様の顔が真っ赤っか。……まさか、本命は? はい、ただの野次馬に成り果てております♪
「ロゼッタ様、またロマンス小説について語り合いましょう。そうだ! 白崎さんや皆様も一緒にどうですか?」
ついに勧誘を始めよった。俺のパーティをこれ以上カオスにする気か! ノエリア様。
「ロゼッタ嬢、まだ私は貴女を諦めた訳ではない。魔法省にもどこにも譲るつもりはない。本学の教師になりたいと、必ずそう思ってもらうと、そう決めた。……ロゼッタ嬢から受け取った退学届だが、残念ながらどこかに行ってしまった。貴女はまだ本学の生徒だ。だから、いつでも戻って来なさい」
「ありがとうございます。皆様」
……うん。途中、腹黒いのが混じっていたけど、まあいっか。
「それでは、旅を再開するか。次の目的地はアルドヴァンデ共和国――まずは、その国境に位置するジェルバルト山を目指す。国を跨ぐぞ!!」
……まだまだ長い旅になりそうだな。しかし、随分賑やかになったもんだ。