PRがMPの要素を含むということではなくMPとPRはまるっきり別種のもののようだ。PRのままでは魔法もエルダーワンドも使えないのでMPとPRを切り替えて使うのがオーソドックスのようだ。
異世界生活五十日目 場所エリシェラ学園
――息を吸う。
普通の呼吸ではない。途方もなく長いと錯覚させるような摩訶不思議な深呼吸。
――息を吐く。
吸った時と同じくらいの長さで、肺にある全ての空気を押し出すのをイメージして。
不自然なロングブレスの中で、自らの魔力を洗練し、練り上げ、全く別種の力へと変貌させる。
錬氣の奥義とされる【調息】――かつてユェンが使った技術を数週間で寸分違わぬものにまで模倣した。
かなり時間が掛かった方だと思う。やっぱり難しいな。――というか、時間が掛かっても模倣されたらアウトじゃね! しかも【模倣】も【まねっこ】も持ってない奴に。
「伸びろ如意棒!」
しかし、エルダーワンドに変化は無かった。
(〝火球よ〟――〝ファイアボール〟)
魔法も発動しない……やっぱりか。
MPとPRは別種のものらしい。PRがMPの要素を含むのではなく、完全に別種のもののようだ。
MPとPRを切り替えて戦うのがオーソドックスかな? 特に異論はないし、それでいくか。
「草子さん、何をしているんですか?」
「おはよう、リーファさん。……なんというか、自主練? 異世界カオスの傾向とその対策を考えながら? どこの共通一次なのだろうか……まあ、そんな感じかな?」
「……確か、その技ってユェン大師父のスキルですよね? なんで、草子さんが使えるんですか?」
「何故って模倣したから? ちょっと頑張ったらできちゃったっぽい。もしかして、仙人になるのもそんなに難しいことじゃないかもしれないなぁ。別に不老不死とか興味ないけど」
「まあ、草子さんですからね。……ところで、今でも十分過ぎるくらい強い草子さんがどうして仙術スキルを身につけようと思ったんですか?」
リーファよ。俺はそんなに強くないぞ。
というか、そもそも【物理無効】とか【魔法無効】が前提条件の裏モードを攻略するのには、これらを攻略する術が必要なんだよ。魔法を極めたって無効にされたらそこで終わりなんだから。
「【物理無効】と【魔法無効】を持っている相手にいかにして勝利するか……多分これが今後の鍵になってくるんだよね。対結社を想定した迷宮の最深部で白骨化してた人……えっと、手記によるとMasato.Tさん? どう考えても日本人なその人が【物理無効】とか【魔法無効】を持たせた魔獣で対抗しようとしていたらしいんだけど、そもそもそのスキルの源泉がどこにあったのか? 勘だけど、毒をもって毒を制そうとしたんじゃないかな? だとしたら、これらのスキルを貫通する術が必要だということになる……まず、恐らくスキルそのものを防ぐ耐性スキルは今のところ存在しない。【接触吸魔】、【接触吸勢】、【プラズマブレス】、【纏雷】シリーズは多分有効だと思う。だけど、この辺りだけだと流石に厳しいからね。これ以外にもいくつか打てる手を用意しておきたいなって思って」
「なるほど……そういうことでしたか。草子さんの強さの根幹は、もしかしたら先の先まで予想して行動することなのかもしれませんね」
まあ、確かに俺は人に比べて用意周到かもしれないけど……半分は趣味だし、もう半分は弱いって自覚があるからだからな。
弱いから、自分の持っている力を十全に扱って、辛うじて選ばれし者達に食らいついているって感じか。だけど、いつまでもそんなことが続くとは思えないしな。白崎達が本当に強くなったら、俺くらい一殺だろうし。
ただのモブじゃないけど。序盤で強さを見せて主人公達を引っ張って、途中で離脱して主人公達の糧になるパ●ス的な? そんなにカッコいい末路にはならないと思うけど。所詮はモブだし。
「ユェンの戦い方では攻撃が物理判定になっていた。恐らく、【調息】を発動していても普通に格闘術を使っていたら効果がないんだと思う。だから、直接プラーナを流し込むという方法を試してみよっかなって思って。まあ、そんな簡単にできるとは思わないけど」
【調息】をやめ、魔法でオリハルコンの壁を生成した後、再び【調息】を発動する。
手にプラーナを集めるイメージをしてから、壁の内側に向かってプラーナを流し込んで爆発させるイメージで解き放つと、普通にできた。
おっ、新たに【浸透気術】というスキルを会得できたようだ。……【浸透勁】ではないようだ。
「なんかできちゃったっぽい。さてと……俺はこれからユェンの格闘術を模倣して習得できる限り習得する予定だけど、リーファさんはどうする?」
「そうですね。少し走り込みをしてこようと思います。セリスティアさんによれば、魔法使いも最後は体力勝負なようですし、細剣使いとして前線に出て戦うスタイルで強くなるためには、なおさら体力が重要ですから」
「魔法使いも最後は体力勝負」ってレジ●ナさんみたいなことを言うな。まあ、事実なんだけど。
というか、こういう異世界って魔法だけじゃやっていけないからね。何かの職業と魔法使いを併用するってのが一番オーソドックスなんじゃないかな?
さてと、リーファも行ったことだし、俺もやりますか。……まずは、【発勁】から――。
◆
【ロゼッタ視点】
全ての講義が終了し、今日は特に生徒会の活動もないということで、私は図書館に向かった。
特にやることがない時は図書館に入り浸っては、本を写して食べ続けるという奇行をしている草子君も、今日は図書館に来ていないようだ。
まあ、草子君にも予定があるだろうしね。地球への帰還の方法に繋がりそうなものを見つけて、追い求めているみたいだし。
まあ、私は転移じゃなくて転生でこの世界に来た訳だから、もう地球に帰ろうという気にはならないんだけどね。だけど、同じ地球出身の草子君には、いつか必ず元の世界に帰れる日が来て欲しいなと思っている。
今日もフィード様が来ているみたいだ。相も変らず分厚い歴史書を読んでいる。
多分、私以上に歴史が好きなんだと思う。……まあ、それは私の主観なんだけどね。ただ、フィード様が歴史好きだという言質は確かに取った。
「ロゼッタ様。本日も読書に?」
「ええ、いつも通りです。フィード様もいつも通りですね」
昔からずっと変わらない。隣に座って歴史書に読み耽る。
ほとんど会話がないけど、これが私とフィード様の関係なんだと思う。語らなくても、隣にいるだけでなんだか落ち着く。この気持ちにはフィード様といる時にしかならないのよね。何故かしら?
「ところで、ロゼッタ様。永劫回帰という言葉はご存知ですか?」
唐突に、フィード様がそんなことを聞いて来た。
その言葉を聞いた時の私はなんだか薄ら寒いものを感じた。
「永劫回帰……聞いたことがありませんわ」
だから、咄嗟に嘘をついてしまった。もしかしたら、この時の選択は間違っていたのかもしれない。この時に嘘など吐かずに本当のことを言っていたら何かを変えられたのかもしれない……ってIFを語っても仕方ないわね。私はその時に嘘を吐いた……この事実を覆すことはできないのだから。
「……そうですか」
「その、永劫回帰が一体どうしたのですか?」
「いえ、なんでもありません。忘れてください」
永劫回帰……フリードリヒ・ニーチェの思想で、経験が一回限り繰り返されるという世界観ではなく、超人的な意思によってある瞬間とまったく同じ瞬間を次々に、永劫的に繰り返すことを確立するというもの。
蓄積している知識や歴史が、近代化という不可逆な方向性を持っているのは社会科学的な事実であり、永劫回帰の思想は人類史的なスタンスから見れば誤りであるという『歴史の終わり』を書いたフランシス・フクヤマらの批判の通り、この考え方はあまりにも現実的ではない。
それ以上に、この考えは歴史という概念の根幹にある、人類の進歩という概念に真っ向から対立するものだというのが、引っかかった。
勿論、進歩することが全て良いことだとは思わない。発展には必ず光と影の両面が付きまとってくる。
なんで、歴史好きなフィード様はこんな思想の存在を知っているか尋ねたんだろう? なんで何かを言いかけてやめたんだろう?
もしかしたら、フィード様には私の知らない部分があるのかもしれない。まあ、どんなに親しくても、その人の全てを知るなんてことは不可能なんだけど。
◆
【プリムラ視点】
ジルフォンド様に救われたあの日から、貴族令嬢からイジメられることはかなり減った。
だけど、ゼロにはならなかった。
「ジルフォンド様が守ってくれるからっていい気になっているんじゃないわよ! 貴女が可哀想だからとか、そういう理由で構ってくれているだけだわ!」
「生徒会の皆様だってきっとそうよ!」
「【光魔法】を持っているからっていい気になるんじゃないわ! 貴女は所詮平民なのよ!!」
寧ろ数が減った分、その風当たりは一層厳しいものになっていると思う。
「もう、いい加減目障りなのよ! 決闘よ!! もし私達が勝ったなら、もう二度と学園の敷居は跨がないこと。いいですの!!」
人数は三対一……それに、私は【光魔法】のスキルは持っているけど、そこまで使いこなせているという訳ではない。
攻撃魔法も〝光剣〟しか使えないし、他に浮遊するマジックライトを生み出す〝光灯〟、幽霊を追い払う〝霊退散〟、初歩の初歩の【回復魔法】――〝治癒〟の三つしか使えない。
戦えば確実に負ける。……だけど、学園から追放されたら、もう私に帰る場所はない。
「貴女達、一体何をしているの!!」
突然、厳しい声が響いたかと思うと、そこにはロゼッタ様がいた。
「……これは、一体どういうことかしら? ……三対一で、決闘? 本当に貴女達、恥ずかしくないのかしら?」
いつもは陽だまりのように朗らかな笑顔を見せているロゼッタ様が、物凄い形相で令嬢達を睨みつけている。
貴族令嬢達はそれだけで震え上がった。……ロゼッタ様は公爵家令嬢にして、大公家長男のジルフォンド様の婚約者。そんな彼女に嫌われたらどうなるか分からないから、当然よね。
でも、なんで私のためなんかに怒ってくれるんだろう? 貴女の優しさを素直に受け入れることができなかった私に。
「……プリムラさんが特別ですって? そんな訳はないわ。生徒会に入れたのだって、プリムラさんが努力したからよ! この学園は【光魔法】のスキルを持っていたって優遇したりしないわ! どんな人にも等しく門戸を開く――それが、エリシェラ学園よ。プリムラさんは、誇るべきだわ。私達より遥かに恵まれていない環境から、テストで二位に入るまで上り詰めた、その努力を。私みたいな反則じゃない努力を」
そういうと、私を庇うようにロゼッタ様は前に立った。
「プリムラさんと決闘するというつもりなら、私がプリムラさんの助太刀に入っても問題はないわよね?」
令嬢達も啖呵を切ってしまった手前、引くに引けない状況になっていた。
ロゼッタ様を傷つけたら、きっと生徒会の皆様が許さないだろう。彼女は、それだけあの方達に愛されているのだから。
「〝真紅の炎よ、火球となって焼き尽くせ〟――〝劫火球〟」
貴族令嬢が火球を生成し、放とうとした瞬間――なんの脈略もなく火球が消滅した。
「非常勤でも一応教師という立場上、学園での私闘を見過ごす訳にはいかないんでね。悪いけど、介入させてもらったよ」
気配一つ感じさせずに、唐突に現れたようにそこにいた。
特にこれといって美形という訳でもない。地味だけど、何故か多くの仲間に慕われている……そんな第一印象を抱いたあの人が。
「こんにちは、ロゼッタ様。すみません、折角の見せ場をとってしまって。これって、悪役令嬢がカッコよく主人公キャラを守って、そのまま百合に発展していくパターンですよね。いや、個人的にはいいと思いますよ。人の好みは人それぞれですし。女性主人公の乙女ゲームで、男性しか攻略対象にならないというのでは、新しい需要も生まれませんから」
「……あの、草子君ってもしかして百合派なんですか?」
「いえいえ。別に俺はBLでもGLでもなんでもいいですよ。他所でやっていただければ。それを他人に強要しようとするから変態と呼ばれるということです。お前らは勝手に乙女の花園やってろ、俺は本を愛しているからって感じです。ホントこれ、リーファさんに言ってやらないといけないなぁ」
悪役令嬢? 攻略対象? 主人公? 草子先生とロゼッタ様は一体なんの話をしているんだろう?
「さてと、ここまでは非常勤講師草子として為すべき職務をしたので、そろそろ能因草子個人としての意見を述べさせていただいてもよろしいでしょうか? ……あのさ、いい加減お前ら目障りなんだわ」
その瞬間、猛烈な圧力がのし掛かった。対象になっていない私達ですら、気を抜いたらへたり込んでしまいそうなんだから、きっと対象にされている貴族令嬢達は恐ろしいことになっているんだと思う。……既に粗相をしてしまっているみたいだし。
「どうでもいいカミングアウトだと思うけど、俺って貴族ってのが大っ嫌いなんだわ。本当に何様って感じ。いや、本当に由緒正しい家ってのは凄いと思うよ。それを否定するつもりはない。で、さ。お前らは何かをしたの? その豪奢なドレスは、化粧道具は、豪華な食事は、全部お前らが作り出したお金で手に入れたものなの? 違うでしょ? お前らが裕福なのは、お金が潤沢にある高貴な家柄に生まれたから、ただそれだけじゃない? 勿論、生まれる場所ってのも重要だよ。星の反対側に生まれていたら、毎日生活を送ることすら困難な貧乏な生活を強いられるかもしれない。だけどそれが他人を差別する理由になるのか? 農民の家に生まれ、それでも必死に頑張っている人のことを差別していいという話になるのか? 貴族として生まれたから、たったそれだけの違いを振りかざして、本当に差別する権利がお前らにあると思うの? 俺はないと思うけど」
「……草子君の言う通りですわよ。本当に貴族っていうのは面倒な生き物です。爵位が形骸化して、発言権以外の価値を有さなくなってなお、その権力にしがみつこうとする。そんなに欲しいなら、公爵令嬢の看板なんてくれてやりますわ。一緒に破滅の運命というおまけもついてきますが」
「だ、そうですよ。……あの、ロゼッタ様。流石に公爵の看板をポイ捨てするのはちょっとやり過ぎだと思いますが。一応発言権は残っているみたいですし、貴女のような聡明な方が消えて、傲慢貴族ばっかりになったら、それこそこの国が崩壊しますよ」
「あらあら。草子君の機嫌をちょっと損ねただけで滅ぶようなこの国の存亡を憂うなんて無駄なことをしたくはありませんわ。元より破滅が迫ったから超帝国マハーシュバラへの亡命を検討していましたし、実際に書状も認めましたから」
……なんだろう。二人とも物凄い腹黒い話をしているんだけど。
というか、ロゼッタ様が破滅する? 超帝国マハーシュバラに亡命? 一体どういうことなの! だって、ロゼッタ様には婚約者が、ジルフォンド様がいる筈じゃ……。
「ふう、言いたいことを言ったらスッキリしたよ。やっぱり陰口じゃなくて面と向かって言わないとね。……おっ。あれは、マイアーレ様? ちょっと急用を思い出したので、俺はこれで失礼いたします。すみません、ロゼッタ様。後のことはよろしくお願いいたします」
「了解いたしましたわ」
その後、恐怖のあまり失神した三人の令嬢達を医務室に連れ込んで、後は校医の先生に任せた。
この事件を知った三人の令嬢の両親は大激怒し、草子先生に暗殺者を差し向けようとしたらしいけど、三人の令嬢が必死になって止めたことで、なんとか一触即発の事態は免れたようだ。
本当に良かったと思う。多分、仕掛けていたら草子先生に今頃一族郎党根絶やしにされていたと思うから。
あの令嬢達には確かに恨みはあるけど、死んで欲しいとまでは思わないから。
◆
あの日からロゼッタ様と私が一緒にいる機会が増えた。
それから数日後、決心した私はロゼッタ様に私の想いを打ち明けた。
今の関係が崩壊するかもしれないけど、それが怖くて秘密を打ち明けられないのなら、それはもう友達ではないから。
ロゼッタ様とライバル関係になることは覚悟していた。でも、ロゼッタ様なら正々堂々と戦ってくれると、そして最後どんな結末を迎えても笑えると……そう思っていたんだけど。
「やっぱりそういうことなのね。決めましたわ! 私、プリムラ様の恋を応援したいと思います」
……一体どういうことなんだろう? 何かの打算があるのかな? だって、婚約者をとられることになるのよ! ロゼッタ様は罠にかけて貶めようとするような方ではないし……一体どういうお考えなのだろう?
「そうね。不思議がるのは当然よね。側から見れば、大切な婚約者を奪われることになるのですから。……信じられないついでに一つ信じられないような話をお聞きください。信じられなくても、これは真実です」
そうして、ロゼッタ様が語ったのは本当に信じられない話だった。
ロゼッタ様が、この世界とは別の世界の記憶を引き継いで生まれた転生者だということ。
この世界には、その世界にあった乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』の要素がいくつか存在しているということ。
ロゼッタとは、そのゲームに登場する悪役令嬢で、プリムラ――つまり、私をイジメるのだけど、最終的にはそれが原因で婚約者のジルフォンド様や義弟のシャート様の怒りを買い、悲劇的な結末を迎えるということ。
悪役令嬢に転生したことを知ったロゼッタ様は、その破滅の運命をどうにかするために色々な手を打とうとしたけど、結局執事に邪魔されてほとんど何もできなかったのに、いつのまにか攻略対象と次から次へと知り合いになっていったということ。
「……私は打算的で最低な女ですわ。ジルフォンド様に婚約を破棄してもらいたいと幾度となく言ったのも、自分の身可愛さ故……本当は、私より適任がいれば、私は婚約破棄を正式に宣言しようと思っていたのです」
確かに、ロゼッタ様には打算があったかもしれない。だけど、それだけじゃあこんなに色々な方から慕われることは無いと思う。
ロゼッタ様は、破滅を回避しようと必死に努力をなされてきた。多分、その間に色々な方を変えてきたんだと思う。
ロゼッタ様は、悪役なんかじゃない。
ロゼッタ様は、自分が思っている以上に優しい人だ。誰かのためを思って行動できる人だ。結局最後まで自分のことしか考えて来なかった私とは大違いだ。
こんな優しい人を、絶対に悪役なんかにしない。していい訳がない!
「ロゼッタ様、私と友達になってくださいませんか。そして、恋のライバルにも」
「友達なのは元からですわよ……って私が勝手に思っていただけかもしれませんが。……でも、恋のライバル?」
「ロゼッタ様とは真剣に戦いたいです。私が私の力で貴女に向いているジルフォンド様の視線を奪わなければ意味がありません。……どんな結果になったにせよ、きっと清々しい気分になれると思います。……まあ、ロゼッタ様は公爵令嬢で、私は農民出……しかも婚約をしている相手に喧嘩を売るというのは図々しいことだということは承知の上ですが」
「……プリムラさんは、草子君のお話を聞いていませんでしたか? 公爵令嬢でも農民でも関係ありません。それに――私は、元平民です」